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世界はとても窮屈だ8




その後は珍しく客が来た他は何事もなく時間が過ぎた。テレビを見ながらダラダラと先程の依頼の仕事をし、午後十時に店を出た。すっかり暗くなった空に北斗七星が浮かんでいる。

あと五日したら店長にならなければいけないのか。と言ってもまぁ、高校を卒業しないうちはたいして生活が変わることもないだろうな。学校が終わった放課後店に来て少しの仕事をするだけ。あと一年は今と変わらない生活が続くだろう。本番は高校を卒業してからだ。

夜道を歩きながら考える。高校を卒業して俺が一日中店にいるようになったら、一郎は黄龍に帰るだろう。もともと社長も兼任しているし、いつまでも本部の仕事を秘書に押し付けるつもりもないだろう。高校を卒業後、俺は朱雀店の二階に住むことが決まっているから、間違いなく一郎は黄龍へ引っ込む。

つま先にあたった小石が遠くの壁にぶつかって跳ね返った。だったら、と考える。一郎がいない朱雀店ならわりと快適なんじゃないか?朱雀店の従業員に口うるさい年寄りはいないし、客も少ない。他の忙しい店舗を任されるより全然いい条件だろう。一郎は俺達に説明していない仕事をいろいろとしているようだが、懸念点はそのボリュームがどれくらいあるのかだ。

それに一番大きいのは、この辺りに住む友人達と別れなくて済むことだ。もし仮に店長就任を拒んで県外に逃げたとしたら、友人と会う機会などほとんど訪れないだろう。俺が店長就任を受け入れた理由の一つはこれだった。

とにもかくにも、一年だけ我慢すればいいのだ。一郎が店長の今でも万年売上最下位の朱雀店だ、おそらく売上なんて伸ばさなくても何も言われやしない。まぁ伸ばした方が何も言われなくなるだろうが、わざわざそんな面倒臭いことをする俺ではない。

駅の明かりが見えてきた。乗る予定だった電車がホームを出発するのが見える。少しゆっくり歩きすぎたようだ。

どこまで走っても壁が見えないなら、走るだけ無駄だ。走った後壁を登る体力が残っている保証もない。壁を登ったあと疲弊しきった身体で身を守る手段もおそらくない。何をしても無駄な気がした。なら何もせずに流されるのが楽だと思った。

俺は今まで努力をしたことがなかったから、現状を打開する努力の仕方がわからなかった。




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