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それを奇跡と呼ばず何と呼ぼう6




「座敷わらしって言うから女の子だと思ってたんですけど」

「ごめんごめん。ていうか初日から会えるなんてラッキーだったね!」

「私あの人と仲良くなれる自信がないです……」

雑巾で床を水拭きしていたら突然瀬川君が立ち上がって、何も言わずにすたすたと店の奥へ行ってしまった。「?」を浮かべながらも重苦しい空気から解放される!と喜んでいたら国見さんと花宮さんが出勤してきて、さっそく彼について愚痴をこぼしていたというわけだ。

「俺なんてあの子の存在に気づいたのバイト始めて二週間後だったぜ?」

「それは盛りすぎ。それかあんたが鈍すぎ。でもまぁあたしでも二、三日後かなあ、初めて顔合わせたの」

「表の自転車誰のなんだろうなぁとは思ってたんだけどな」

「そうそう、店長も紹介とかしないし」

「つうか黙ってる店長も悪いよな」

「こんな子もいるって一言くらい言っててくれても良かったのに」

国見さん達の会話を聞いていると、どうやら私にだけでなく他の人にもああいう態度らしい。初対面から嫌われてしまったわけではないのだと知ってホッとしたが、これではますます瀬川君と仲良くなれる気がしない。

「そういえば、国見さん達より瀬川君の方が仕事始めるの早かったんですか?」

「ああうんそうだね。だいぶ長いらしいよ」

「あんまり話さねーから詳しくは知らないけどな」

「ちなみにあたしが一年九ヶ月、で健太が一年一ヶ月……だっけ?」

「おう」

こんな立ち話をしているうちに店長が帰ってきた。引き戸のガラガラという音に振り返ると、片手にビニール袋を提げた店長が立っていた。そのビニール袋に国見さん達がさっそく食いつく。

「店長それ何?」

「食い物スか?」

「隣のおばちゃんに貰ったの」

店長が手渡すよりも早く袋を引ったくった国見さんは、中身のシュークリームに目を輝かせていた。それを花宮さんが横から更に引ったくる。店長はそんなことは気にも留めていないらしく、不思議そうな顔で店内をキョロキョロと見ていた。

「何か店綺麗になってない?」

「え?」

「あ、ホントだ」

シュークリームを奪い合っていた二人も、店長の一言に店の中を見回す。立ち話の最中も私の手にはずっと雑巾があり足元には水の入ったバケツが置いてあったのだが、どうやら先輩二人は今気づいたらしい。

「何をしたらいいかわからなかったんでとりあえず掃除をしておきました」

「マジか。こんなやる気ある子久しぶり」

いったい今までの従業員はどんな態度だったのか。国見さんは「すごい!この子は賢い!」と言いながら私の髪の毛をわしゃわしゃしている。

「そういえば、お客さんがいない時って何しとけばいいんですか?」

乱れた髪の毛を手櫛で直しながら店長に尋ねる。店長は「うー……ん」と一瞬考えるそぶりを見せたが、

「すること無いし何もしなくていいんじゃない?」

と笑顔で答えた。今度こそため息が出た。





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