表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
202/378

それを奇跡と呼ばず何と呼ぼう3




店長のいい加減な面接が終わった後は、店の裏を案内してもらった。台所の場所、トイレの場所、清掃用具が置いてある場所、カウンターのお姉さんに順番に教えてもらう。店の二階は店長の住居らしく、絶対に立入禁止らしい。二階が住居というあたり、やはり自営業なのかなと思う。

店の裏は二階への階段を正面にして、左手の長く延びた廊下にたくさんの部屋があり、右手の短い廊下の先には裏口があった。この裏口は従業員は普段使わないらしく、出勤時も表の引き戸から入るのが普通とのことだ。

次に左手に並ぶ部屋の説明をしてもらう。このたくさんの部屋は従業員の個室らしい。と言っても荷物を置いたりする程度で使うことはあまりないそうだ。従業員の数自体少ないので空き部屋もたくさんあり、私みたいに個室を持たない従業員は、着替えたり荷物を置いたりする際はその空き部屋を使えばいいらしい。

「雅美ちゃんも半年たったら部屋もらえるからね。まぁ見ての通り空き部屋だらけだから勝手に個室にしても店長は怒らないだろうけど」

カウンターのお姉さんは国見莉緒(くにみりお)さんというらしく、現在大学四年生だそうだ。明るい茶色に染めた髪にバッチリ決めたメイクは派手な印象を与え少し怖い感じもしたが、喋ってみるといい人だということがすぐにわかった。仕事でも頼りにできそうだ。

彼女は良く通る声でハキハキと物を言う人で、いつも自信なさげにモゴモゴ口篭ってしまう私は羨ましいと感じた。身長はスラリと高く、バイトだから手を抜いているのか、シンプルなゆるめのトップスに細身のデニムというシンプルな格好をしている。太ももはいわゆる細身と呼ばれる女性よりは少し逞しいように見えるが、何かスポーツをしているのかもしれない。

「私とさっきの……花宮っていうんだけど、大学生だからたぶん雅美ちゃんより出勤遅いんだよね。だから明日誰にも聞かなくていいように今日しっかり覚えて帰ってね」

「はい。あの、店長さんは明日いないんですか?」

「んー、いるかもしれないけど、いる方が稀だから。それとあともうひとり高校生のバイトがいるんだけど……」

国見さんの言葉で、私は花宮さんが停めた自転車の隣に、もう一台自転車があったことを思い出した。ショッキングピンクの原付きも並んでいたが、こちらは国見さんのでもう一台の自転車がその高校生バイトの物だろう。

「座敷わらしみたいな子だから。ちなみに部屋はあそこだから間違えて開けちゃダメだよ」

国見さんが指差したドアの向こう側に耳を澄ますと、かすかにキーボードを叩く音が聞こえた。国見さんや花宮さんとは四つも年が離れているし、同じ高校生同士ならできればその子とも仲良くなりたいと思った。しかしこうして部屋の近くで喋っていても顔を出しもしないということは、こちらに興味がないのかもしれない。いったいどんな女の子なんだろう。

一通りの説明が終わって、とりあえず今日は帰ることになった。ポケットのついているエプロンがあると便利だとか、高校生ならたぶん九時くらいに上がらせてもらえるだろうとか、国見さんは親切にいろいろ教えてくれた。

国見さんと彼女の代わりにカウンターに座っていた花宮さんに「ありがとうございました。明日からよろしくお願いします」と挨拶して店を出る。二人とも笑顔で手を振り返してくれた。

少し特殊な職場だが、従業員さん達も気さくな人ばかりだし、きっとすぐに慣れるだろう。明日からの仕事が楽しくなりそうだ。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ