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運命ってそんなもの3




噂をすれば何とやら、とはよく言うが、今日は珍しいお客さんが来た。

「や、やあ荒木。久しぶりだな」

「……北野さん?えっ?一体何の用で?」

「い、いや、近くまで来たものだからな」

「そ、そうなんだ……」

近くまで来たからといってわざわざ寄るようなキャラでもないと思っていたのだが、今日の北野さんは一体どうしたんだろう。私はつい先程店長と北野さんの話をしていたばかりなので、訳も無くドキドキしていた。

「とりあえず座る?お茶淹れるよ」

「あ、ああ……。い、いや、茶はよい!すぐ帰るからな」

「そ、そう?」

店の奥の台所へお茶を淹れに行こうとした私を、一度座ろうとした腰を浮かせて制止する北野さん。彼女があまりにも慌てて止めるので、私は素直にソファーに座った。

「それで、今日はどうしたの?わざわざ寄ってくれるなんて」

「うむ、そうだな……。えー、最近調子はどうだ?」

「えっと……、まぁ普通かな。北野さんは?」

「私に調子の悪い時などない」

「そ、そうだったね、ごめんごめん」

そして訪れる静寂。私が必死で何か話題を探していると、驚くべきことに先に口を開いたのはまたしても北野さんだった。

「仕事は捗っているか?」

「うん、まあ……。お客さんは相変わらず少ないけど」

「そうか、うむ、その調子で職務に励めよ」

「うん、ありがとう。北野さんは研究所はどう?」

「まぁまぁだな。変わり者が多くて手を焼いている」

「そういえば私スフレちゃんにピアノ教えてるんだけど、確か北野さんってスフレちゃんと仲いいんだよね。何か言ってた?」

「ああ、そういえばスフレが世話になっていたんだったな。西村と三人でやっているんだったか?研究所にはピアノは置いていないからたまにピアニカを吹いているな。まるで小学生みたいだぞ」

「でもだいぶ上手くなったよね。最近和音を教えてるんだけど、やっぱり左手がつくと全然違うよね」

「本人は滞りなく弾けなくて不満なようだがな」

「でもスフレちゃん案外手先が器用だから、すぐ上手くなるよ。そしたら北野さんもまた聴きに来てよ。にっしーの家でやってるからさ」

「ああそうだな。それもいいかもな。確か西村の家も野洲に……む、」

と、ここで北野さんのスマートフォンが鳴った。北野さんは慣れた手つきでそれを操作する。どうやらメッセージが来たようだ。

メッセージの文面を確認するや否や、北野さんは立ち上がった。

「済まぬな、急用ができた」

「あ、そうなんだ」

「帰ることにする。突然来て悪かったな」

「ううん。またいつでも寄って」

挨拶もそこそこに北野さんは店を出て行った。本当に何をしに来たんだろう。定位置であるカウンターに戻ろうと立ち上がると、ちょうど店の奥から店長が出て来た。私は店長が手に持っている物を見て尋ねる。

「何なんです?それ」

「なんか大量に貰っちゃってさ。雅美ちゃん少し持って帰れない?」

「まぁ、くれると言うなら貰いますけど」

そう言って店長から受け取ったのは、ティッシュペーパーだ。五箱一セットになっている、よくスーパーなどで売っているやつだ。しかも、それが三つも。

「でも持って帰れるかな。私自転車ですよ?」

「送ってあげるから」

「ラッキー」

人にあげる程のティッシュをどこで手に入れたのかは知らないが、持って帰ったらお母さんが喜ぶだろう。それに帰り車で送ってもらえるなんて楽チンだ。そんなに遠くはないといっても、やはり自転車を漕ぐのは疲れるものだ。

「そういえばもう二時ですけど、今日のお昼は何ですか?」

「決めてないけど、何がいい?」

店長がそう答えるのとほぼ同時くらいに私はテレビをつけていた。確か料理番組は六チャンネルだったはず。




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