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錆びついた耳鳴りが叫んでいる3




「ぎゃああああ!後ろ後ろ後ろ後ろ気付けよアンソニー!」

「雅美ちゃんうるさい」

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬアンソニー死ぬ!」 

「雅美ちゃん黙って」

「ああああリンダああぁっ!アンソニーは何やってんだよリンダめっちゃ血出てるじゃん!」

「これがアンソニーの限界だよ」

「ちょ、リンダやばい!リンダ死ぬ!何リンダ見捨てて逃げてんだよアンソニーこの野郎ぉおお!」

「……」

「角角角!その角にいるから!ああああアンソニーぃいい!」

「なんか終わったっぽいね」

「つかこれ主人公もヒロインも死んでるんですけど何なの!?」

「陸男はバッドエンドが好きだから。きっとアイツの人生もバッドエンドだよ」

陸男さん趣味大丈夫か!?私は陸男さんの将来を心配しつつ、DVDをケースの中に戻した。気がつけばもう二時間近く経過しいる。

「それにしてもよく二時間もそんなテンションで見れるね。疲れない?」

「めちゃくちゃ疲れてますよ!」

「じゃあ次の見ようか」

「見ませんよ!?」

私は店長が取り出した「Murder you」をその手から奪い取った。なんだこのまんまなタイトル!

店長はわざとらしく痛がりながら手をプラプラと振って文句を言う。

「じゃあ何すんの?ずっと店でダラダラしてるなんて暇過ぎて死ぬじゃん」

「だからと言って外にも行きませんからね!」

今外に出るなんて自殺行為だ。ここで大人しくしているのが一番いい。アンソニーとリンダだって一般人のくせに殺人鬼なんて追おうとしたからあんな目にあったんだよ。

「ふーん、雅美ちゃんは僕が死んでもいいって言うんだ」

「そんなこと言ってないじゃないですか」

「大丈夫、冴ちゃん全然強くないしそんなに警戒しなくても死なないよ」

「あっ」

店長は私の手からDVDを取り上げた。私はそれをまた奪い取る。

「そうじゃなくて、どこから現れるかわかんないから怖いんです!だからむやみに出歩くのは止めましょう!」

「でもそれ見るのも嫌なんでしょ?だったら何して暇潰せって言うのさ」

店長は再び私の手からDVDを取り返す。私は性懲りもなくまたDVDを取り上げようとした。しかし今度は店長が手を離さない。大の大人がDVDを取り合っているという、マヌケな絵面が完成した。

「だったらDVD以外の何かにしましょうよ!無理にこのDVDじゃなくてもいいじゃないですか!」

「じゃあ何?雅美ちゃんが漫才でも披露してくれるの?」

「しませんっ!普通にテレビを見ましょう!バラエティー番組!」

「別に僕だってこんなDVD見たくも何ともないけど雅美ちゃんがそんなに必死だと絶対見せてやろうって気になる」

「この最低クソ野郎!」

私がそう叫んだところで、店の引き戸がガラガラと開いた。DVDを引っ張り合ったまま引き戸の方を振り向く。

「あら、お取り込み中でした?」

そこに立っていたのは、相変わらずピシッとした服と髪型の鈴鹿さんだった。

「す、鈴鹿さん、どうしたんですか?」

と言う私はDVDを引く手に力を入れたままだ。

「わざわざ来たの?電話でもいいのに」

そう言いながら店長は手を離した。DVDを引っ張り続けていた私は、もちろん後ろにひっくり返る。私はソファーに見事な尻餅をついた。

「何で離すんですか!」

「雅美ちゃんがひっくり返るかと思って」

近づいてきた鈴鹿さんが私に手を差し出した。何て優しいんだろう。私は有り難く鈴鹿さんの手を掴むことにした。受け身なんてする余裕はなかったが、ふかふかのソファーは私に傷一つつけることはなかった。

「細かい説明になるでしょうし、荒木さんにもちゃんと聞いてほしかったから……。どうせちゃんと説明していないんでしょう?」

立ち上がった私は鈴鹿さんにお茶を淹れるべく台所に向かった。「ちゃんと説明してないんでしょう」って、店長やっぱり説明してくれてなかったのか。まぁ、あの報告書を読んだから私だけ知らないってことは無い……と思うけど。

人数分のお茶を淹れて店に戻ると、普段瀬川君が座る場所に鈴鹿さんは座っていた。普段と言っても瀬川君が店まで出てくることは滅多にないんだけどね。

私は二人の前にカップを置き、いつも通りの店長から見て左側のソファーに座った。鈴鹿さんが鞄から取り出した資料を広げる。

「だいたいは報告書の通りなんですけど、細かいところも話しておこうと思いまして」

「金ちゃんのシワの少ない脳みそでそんな昔のこと覚えてたの?」

「一応父親なんですから……」

テーブルに並べられた資料は、文字だけのものの他に、いくつか写真が印刷されたものがある。鈴鹿さんは白紙に走り書きしたような紙を見て話しはじめた。




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