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どうしてなんですか2




翌日、学校が終わって、私は真っ直ぐバイトへやって来た。

「おはようございまーす」

やる気のないあいさつとともに、慣れた調子で引き戸を開ける。すると、来客用のソファーに座っていた店長から挨拶が返ってきた。

「あ、店長今日はいるんですね」

「まぁねー」

店長は相変わらずダラダラとした様子でテレビを見ている。昨日は、私の退勤時間までには帰って来なかった。私もなるべく店長に顔を見せてから帰ろうと思い、普段より少し遅くまで残っていたけれど、いつまで経っても帰ってこないので瀬川君に挨拶だけして帰路についたのだ。

「あ、そうだ。昨日陸男にバウムクーヘン貰ったんだ。梅ヶ沢の。リッ君いないし食べよう」

「なんで梅ヶ沢なんかがあるんですか?」

あと瀬川君がいないから、って。まさか彼は甘い物には見境ナシに手を延ばすスーパー甘党モンスターなのだろうか。いや、店長は自分の取り分が減るのが嫌なだけかもしれない。

「誕生日だったから。なんでみんな僕の誕生日にお菓子を贈りたがるんだろうね」

まぁケーキならハズレないだろうからね。付き合いの長いさすがの陸男さんでも、店長の欲しい物がわからなかったのだろうか。

「雅美ちゃんも今食べるなら持ってくるよ」

「いいですよ私ついでに持ってくるんで」

腰を浮かしかけた店長を静止して、バウムクーヘンの在り処を聞き出す。梅ヶ沢のバウムクーヘンなら私も食べたい。お高い物なので貰い物でくらいしか食べる機会がないのだ。

私は一度自分の部屋に荷物を置きに行ってから、台所に寄ってバウムクーヘンとお茶を持って戻った。

「そういえば瀬川君はどこ行ったんですか?」

ソファーの定位置に座ってお茶を一口飲む。店長はさっそくバウムクーヘンにフォークを入れた。

「ん?何か今日休むって。珍しいよね。何か怪しー」

今のところ怪しいのは瀬川君じゃなくて店長なのだが、と思い、つい無言で返してしまった。そんなことをそのまま言えるわけもなく、私は沈黙を誤魔化すようにもう一度お茶に口をつけた。

瀬川君は轟木さんの事を調べているのだろうか。今日から学校が始まるのは高校生も同じだ。例えば学校から轟木さんの後をつけて、何か不審なことをしていないか調べる、とか。

「そういえば雅美ちゃん課題終わったの?」

何故この人は私が課題を終わらせていなかった事を知っているのだろうか。

「今日提出の分は……なんとか終わらせました」

「ふーん。頑張って」

手伝ってくれる気はゼロか!なら手伝ってくれそうな雰囲気を出しながら聞くな!こんなに暇そうにしてるのだから、課題の一つや二つササッと終わらせてくれてもいいものを。

私は脳内で残りの課題を計算した。いくら芸大生といえども、通常の勉学の課題だってあるのだ。それを肩代わりしてくれるだけでどんなに楽になることか。

私は左右に小さく頭を振った。いや、そもそも自分に課せられた課題なのだから人にやってもらおうなんて考えがおかしい。みんな自分でやってるのだから。それに店長に期待しても損するだけだ。

ひとまず明日提出の分は何がなんでも終わらせなければならない。まぁ、今日もお客さんなんて来ないだろうし、ゆっくりやろう。私は悠長にバウムクーヘンを口に放り込んだ。








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