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どうしてなんですか




「おはようございまーす……」

そう言いながら店に入るが、店内には誰もいなかった。引き戸の前に瀬川君の自転車があることを確認する。瀬川君がまだ自分の部屋にこもっているという事は、店長はついさっき出かけたのだろう。ひとまず荷物を置きに店裏の自室へと向かう。

今日は一月六日。本日で冬休みも終わり、明日からまた学校が始まる。そんな日でも、私は相変わらずバイトに来ていた。時刻は十時三十分前。これは休日に私がいつも仕事に来る時間だ。

自分の部屋に荷物を置いて、エプロンを腰に巻きながら店に戻る。カウンターに座って、家から持ってきた自分のファイルを広げた。

「よし、やるか……」

カウンターに広げられた数々のプリント。それはもちろん、冬休みの課題だった。

「まだ半分しか終わってないよぉ」

思わず泣き声を溢しながらシャーペンを走らせる。なんとかして今日中に終わらせないと成績がピンチだ。私は去年の八月三十一日を思い出した。夜通し依頼任の宿題を片付けたあの依頼だ。あの時は大変だった。

「…………」

私は手を止めて来客用のソファーを振り返った。その一番大きなソファーに、相変わらず店長はいなくて、それはいつもの事なのに何か違和感があった。

「轟木蛾針さん……かぁ」

何者なんだろう。彼女の依頼で店長がこそこそ動いているのは確かだ。しかし彼女は、店長が隠すにしてはあまりにも普通すぎた。

身長体重、普通。学校のテスト、成績、全国模試、普通。運動神経、普通。趣味、特技、普通。交友関係、近所の住人への態度、普通。

ちなみにアルバイトも普通に家の近くのコンビニに週三日程度だ。友達とも普通に遊び、「今月も金欠~」と悩む普通の女子高生。

「う~~ん、何者なんだろう」

私は完全に手が止まっていることに気がついた。やばいやばい、課題は片付けないと。

「…………」

カリカリカリ、とシャーペンの芯が紙を引っかく音だけが店内に充満する。が、それも五分と保たなかった。

「あ゛~~っ、やっぱ気になるー!」

私はシャーペンを投げ捨ててエプロンのポケットからスマホを取り出した。インターネットで最新のニュースを確認する。

「あ、」

私はすぐにその記事のタイトルをクリックた。

【復活した切り裂きジャック、五回目の犯行】

店長が隠してるなら、おそらく切り裂きジャックの事ではと感じていた。確信も自信も無いから、瀬川君には言ってないけれど。

証拠と呼ぶには弱すぎるが、一つ気になる出来事ならある。先日、店長が切り裂きジャックのニュースを見ていた。店長はいつもニュースを見ているようで見ていない。テレビに映る映像をただ眺めているだけというか。興味がないから流してるのだろうけれど。それがこの間は、切り裂きジャックの記事の時のみしっかりと見てた。それが少し引っかかって、何か関係があるのではと踏んでいるのだ。

「まさかこの私並に普通の女の子が切り裂きジャックなわけないしね……」

だとしたらやはりジェラートさんだろうか。だがジェラートさんにはあの日アリバイがあった。私の考えすぎで、結局切り裂きジャックは関係ないのか……。

何度考えてもわからない。だいたい、瀬川君が二ヶ月以上かけて情報収集してるのに、何もわかってないのだ。瀬川君がわからない事を私がわかるわけがない。私は夕方の天気だけ確認してスマホを閉じた。

「はぁ……」

とりあえず、課題やるか。私はぎゅっとシャーペンを握り直すと、白紙の面積が多いレポート用紙に向き直った。




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