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敵か味方かはたまた友か




四月二日、水曜日。夕方。

「あ、雅美ちゃん」

やることがなくて店内の掃除をしていた私に、店の裏からやってきた店長が声を掛けた。おそらくずっと二階にいたのだろう。まぁフラフラ外に出ないだけマシだが、ちゃんと店のことも見ていてほしいところである。

「なんですか?」

「今日白虎店が来るから」

「へ?」

私は思わず間抜けな声を出した。

"何でも屋"は実はこの一つではない。ここの他にあと三つ何でも屋はあり、県内に合計四つあるらしい。らしい、というのは、私は実際にその建物を見たことがなくて、過去この店にいた先輩達に話を聞いただけなのだ。場所くらい調べればわかるとは思うが、行って何をするんだという感じたし、そこまで他店舗が気になるわけではない。結果、私が他店舗について知っていることは、その存在だけなのである。

うちの情報収集担当の瀬川君は、四つじゃなくて合計五つと言っているが、何を根拠にそう言っているのかは教えてくれない。まぁ、瀬川君とは仲良く雑談をするほどの間柄ではないので、詳しく話してくれないのも仕方がない。二人しかいないバイト仲間なのに、それはどうかとは思うのだが。

とりあえず、何でも屋の、その四つか五つかの内の一つの"白虎店"が今日、うち"朱雀店"に来るらしい。

私は店長の一言を聞いて、明らかに表情を暗くした。

「白虎店が来るって……一体何しに来るんですか?」

「さぁ。何かしに来るんじゃない?」

駄目だこいつ。店長はテキトーな返事をすると来客用のソファーに座ってテレビをつけた。私はホウキを握りしめたままため息をつく。

別に私は白虎店が嫌いなわけじゃない。というか、そもそも滅多に会うことは無いし、力を合わせて依頼を解決するなんて事はさらに無い。つまり、どうでもいい存在なのだ。他店舗なんて気にかけなくても今まで仕事をしてこれた。私にとって他店舗とは、わざわざあれこれ考えるような存在ではないのだ。

しかし、私には白虎店と関わりたくない理由が一つだけある。この店に「白虎店が来る」ということは、「鳥山麗雷が来る」ということなのだ。その子はひとつ年下のアルバイトなのだが、まぁわかりやすい一言で表すと、私はその子が苦手なのだ。鳥山さんの顔を思い浮かべて、私はもう一度ため息をついた。私の二度目のため息に店長がチラリとこちらを見る。

白虎店が他の店に顔を出すとき、なぜか鳥山さんを使う場合が多い。確かに鳥山さんはかわいいし華があるから、そういうのには向いてるのかもしれないけれど。彼女の気の強さも、相手の店と話をつけるのに心強いような気がする。

ちなみに朱雀店が他店舗に行くときは、主に瀬川君、たまに店長が行く。私が行ったことは一度もない。一人で見知らぬ場所に行くなんて不安なので、行きたいとも思わないんだけどね。ただ他店舗がどんなものなのか見てみたい気はする。この店みたいにボロボロの木造なのか、はたまたきれいなコンクリート製なのか。後者だったら思いっきり恨んでやりたい。

「雅美ちゃん、麗雷ちゃんが来ても喧嘩しちゃダメだよ?」

「私から喧嘩売ったことなんて一度もありませんよ!というか、買った覚えもないです!」

そうなのだ。私はいたって普通の態度で接しているはずなのだが、鳥山さんはいつも私にばかり突っ掛かってくるのだ。彼女は思ったことを遠慮なしにズカズカ言ってくるタイプなので、私は終始押されっぱなしだ。私の方が年上だという考えは彼女にはないらしい。私もたまに自分の方が年下なのではないかと錯覚してしまう。

「わかってるって。この前白虎店の店長に、麗雷ちゃんがうちの雅美ちゃんをいじめるってクレームつけといたから」

「それで鳥山さんの態度が改善されると良いんですが……」

白虎店の店長がどんな人なのかは知らないが、店長に注意されたくらいで態度を改める鳥山麗雷じゃあないだろう。彼女は気が強い上、頑固なのだ。はぁ、気が重い。三度ため息が出た。

「店長、なんか買い出しとか無いですか。出来れば往復するのに丸一日かかるくらい遠くの街まで」

「残念、何もないね。リッ君は今日も自分の部屋にいるだろうから、麗雷ちゃんの相手お願いね」

「はぁ~~……い」

「大丈夫、僕もいるから」

店長は相変わらず緩い調子で言ったが、本当にあてになるのだろうか。ほとんど信じていない目で店長を見て、私は渋々承諾した。

せめて何時頃に来るのかわかっていれば心構えのしようもあるのだが、いつ来るかがわからないから更に憂鬱だ。いつでも構えていなければならない。

私はこれで最後だと心に決めて、もう一度だけため息をつくと、再びホウキを動かし始めた。





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