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オセロニア

作者: 芝田 弦也

俺は、リバーシ王になる!!

と、某漫画の主人公見たく大声で叫んでみたものの、部員が自分一人しかいない裏寂れた部室で言った所で、聞かせる相手がいないのだから、宣言は有ってないようなものになってしまった。

さぁーて、どこからはじめっかなぁー。

話し相手が居ないから独り言を延々と垂れ流して、一人頷いている。

目線はもちろん、白黒つけるだけのシンプルで奥深い世界のリバーシ。

しかし一人で打つしかないから、読み合いなど無くて単調なバトルしかできない退屈な時間がすぎていくだけだった。


オレオが沢山並べられているみたいな盤を眺めていたら、突然部室のドアがぶち破られ、青い恐竜が突っ込んできた。

『我が名はユルルング。さっきの話、聞かせてもらった。よかろう……万物を凍てつかせる我の力、お主に貸してやる。我には囁きの数だけ強くなるチート級の威力がある』

俺は、突然現れてきた来訪者に驚いて、泡を食っていた。

恐竜だなんていう時代錯誤も甚だしい存在がいてたまるかと思ってたら、ユルルングは俺の頬っぺたをペチペチと獣くさい涎まみれの舌で叩いてきた。

ちょ、おま!? もしかしてぼ、お、俺のことを食う気!?

腰が引けて、床に倒れて頭を抱えていたら、ユルルングは僕の姿をみて笑い出した。


はははは小僧。我がお主を食そうだなんてする訳がなかろう。

リバーシの勝ち方を教えてやろうというのだ。さぁ、立ち上がるのだ。

言われるがままに、ぼく、俺は立ち上がった。まるで、授業の挨拶をするみたいに起立しているかのよう。

お主は我を侮辱しているのか? ユルルングの目の色が変わり、辺り一帯を冷たい空気で満たされていく。

いやいや違います。ぼく、あまりのことに動転していたんです。ほら、だからさっきから一人称がおかしくなってるでしょ!?と言い訳して、椅子に座り直して盤面に向き合うことにした。その横にユルルングが立ち、盤面を凝視している。

『竜が沢山すぎるほどいるじゃないか。後は我を置くだけで勝てるぞ』

ん????何を言っているんだこのおっさんみたいな声を出す恐竜は。

どこをどう見ても、白と黒の石しかない普通のボードにしか見えないんですが一体。

何をどうすればいいのか答えに詰まっていたら、隣のユルルングが口から物凄く冷たい息吹を吐き出し始めた。

『小僧!! あまりにも時間を掛けすぎたから、勝手に駒を置かれたじゃないか!!』

さっきと何もかわらないんですがそれは。

僕は臆してしまい、内面で思っていることを口に出せずにいた。

僕の事などおかいまなく、ユルルングは怒り狂って産毛が立ってしまうほどの冷気を壁に向かって吐き出した。


そしたら、かなり際どい格好をした女性が冷気の粒に当てられて姿を露わにした。

よく見破ったねぇー。さすがユル兄さんねぇーと言って、目のやり場に困る剥き出しに晒された肌を見せびらかすように床に倒れ伏した。あまりにも扇情的な姿に僕は目のやり場に困ってしまった。

刺激的なその姿をちらちらと覗き見る度に、僕のあそこは短時間で成長する菌糸類みたく、にょきにょきと力を蓄えていく。膨らんでしまったパンツが気になってしまい、僕はつい前かがみの姿勢を取ることにするしかなかった。

お主、何をしている? 次の試合が始まるぞ。ユルルングは僕の気持ちも知らずに、また変な事を言い出したから首をかくかくと動かして相槌を打って返答した。

一体何が起きているのか分からないけど、すごく良い物を見せてもらってるから得した気になれる。

そんな傍らで次の相手は誰だーとぼやくユルルング。

すると、弓矢を携えて中世からやって来たみたい格好をした男性が目の前に佇んでいた。

男性は吐息を漏らすように、か細い声で何かを言い始める。

『森とともに生き、森とともに死ぬ』

何を言い出し始めたの? この人は。

『なら、森ごと散れ』

ユルルングは発言に触発されたのか、冷気を吐き出しながら息巻いているじゃないか。

『俺の森で狼藉を働けるとは思うなよ!!』

中世風の男性も闘志を剥き出しにして言い返している。

もう訳が分からないけど、ユルルングは臨戦態勢に入ったのか雄叫びをあげて吠えているから、身を任せればいいか。


『お主。そこになおれ』

ユルルングに言われるがままに僕は席について、ボードを挟んで中世風の男性と向き合う。

いつの間にかにさっきまで進行していた筈の盤面が初期状態に戻っていた事に驚いたけど、この現状の方が到底ありえない事だから、こんな事は些細な事に過ぎないんだと言い聞かせて、盤面と向き合うことに決めた。

「進行はどっちから始めますか? じゃんけんで決め」

僕の言葉を掻き消すように中世風の男性は、さっきのか細い声とは似ても似つかない大声で叫び出した。

『決死のぉぉぉぉぉ覚悟ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』

先行後攻決めてないのに、黒の石を盤面に叩きつけるように置く。

その衝撃で盤面に置かれていた初期配置の石が空中を飛び交い、宙の中を楽しむように踊りながら床に落ちていった。

僕はまともにリバーシがしたいだけなのに、なんの茶番なのこれは。

『だはははは。アーチャー、お主はAIか。我の勝ちだな。小僧、そこにある石を置け』

僕はそれよりも先に、飛び散った石を戻す為に手短にあった石を手に取りそっちに置くことにしたのだ。

『小僧!! なぜ!バフ駒を捨てた!!』

「え!? 元に戻しただけですよ!?」

僕の発言なんかに聞く耳を持たないのか、ユルルングは怒りに震えていた。

『竜は即、相手を仕留めることに長けているのだ。その事を忘れるなよ小僧』

「は、はぃぃ!」

今にも噛み付かれてしまうんじゃないかと思わせる程の迫力だった為に、よく分からない侭に返事をする僕。

『好機ッ!!決死のぉぉぉぉ覚悟ぉぉぉぉぉぉぉ!!』

自分の世界に浸っているのか、それとも壊れた音楽プレーヤーになったのか同じ言い回しをして黒石を打つ男性。

『お前!! 枚数制限を無視しているとはチートか!!』

「あのぉ。ユルルングさんも自分の事チート級とか言ってませんでした?」

恐る恐る伺うように訊ねてみた。

『我の力は公認のチート級の威力だから構わないのだ。早く、あの土手っ腹に一発かましてやるのだ』

話が噛み合っているようで噛み合ってない。もーなるようになれだ!

僕は仕方なく、さっき指示出された駒を手に取り盤面に放った。

ユルルングの口から先ほどと同じように冷気の塊が吐き出されて、男性に向かっていくもそれを塞ぐように両手で顔を覆っている。

『ふん。こんなもんか』

不敵に笑みをこぼして勝ち誇った顔をしている。

『どういうことだ!?』

さっきまでの威勢の良さが何処に行ったのかと思うほど狼狽えているユルルング。

「どうしたんですか!?」

『ば、ばかな! ナーフだと!?』

「ナーフ? 何が下方修正されたんですか?」

『我らの囁きだよ……』

僕とユルルングのやりとりなど気にもせず、男性は更に大きくなった声で言い放ってきた。

『決死の覚悟ぉぉぉぉぉぉぉぉ』

僕の目の前で青い恐竜が断末魔をあげながら、倒れ込んでしまった。


うん。決めた!! 

リバーシクラブは今日をもって解散にしよう! うん、そうしよう!

「あの! 僕帰るんで、戸締りあとよろしくお願いしますね!」

床には青い恐竜と際どい恰好をした女性が倒れ込んだままで、中世の格好をした男性がポエムの様な物を言い続けている。そんな非日常な光景とおさらばするように、僕は部室から飛び出した。

自由ってなんて開放的なんだろー!

さっきまでの出来事がまるで嘘のように感じる程の開放感が心地よくて、鼻歌を歌っていたら声をかけられた。

『お前。笑いながら泣きそうな顔をしているな。こうみえても俺は困っている奴がほっとけないんだ。話してみな。俺が力になってやる』

あー。なんかさっきと似たような空気を感じてしまうのが怖い。

もしかしたら、もしかするのか?

『わりぃ。挨拶がまだだったな。俺の名はデネブ。よろしくな』

差し出された手を、条件反射でつい握り返してしまった。もう野となれ山となれだ!!

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