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第7話 浅野 健介

 外に出ると時刻は午前0時。6時間もダンジョン内に居たことになる。これをダンジョンを攻略したにしては速いと考えるか、あんな小さなダンジョン攻略で時間かかり過ぎだと考えるか、悩むところである。


「浅野の家に行くか」


「浅野?電話してた人?」


「ああ、そうだ」


 浅野は一人暮らしだ。両親が仕事の都合でアメリカに居るが、浅野は英語が喋れないとアメリカ行きを頑なに拒否、両親に心配されながら一人暮らしをしている。金曜のこの時間ならゲームの真っ最中だろう。絶対に起きている。


 とりあえず電話する。


「はい。もしもし?」


 ワンコールで出た。


「出るの速いな」


「丁度ゲームの攻略ページ見ようと思ってスマフォイジってたから。ああ、お前の親からの電話には言われた通りに答えといたぜ。かかってきたの10時くらいかな?」


「助かる。で、今からお前ん家行くわ。用事が終わった」


「お、そうか。で、こんな時間まで何してたんだよ?」


「多分信じないと思う。まあ、強いて言うならちょっと規模の大きな喧嘩だな」


「何だそれ。メッチャ気になんだけど?」


「とりあえずそっちに行く。ああ。後、風呂とか入れると嬉しい。全身メッチャ臭い」


「ますます意味分かんねー。普通喧嘩で全身臭くなるか?ゴミ箱にでも突っ込まれたのか?まあ、風呂は溜めてねえケド、シャワーは自由に使ってくれていいぜ。あと洗濯機と乾燥機も一応有る」


「解った。家の前についたらチャイム鳴らすから」


「おう、了解」


 電話を切ってアホ妖精を見る。


「お前はリュックに入ってろ。絶対出るなよ」


「ラジャー」


 勢い良く返事をしてリュックに入るアホ妖精をため息をつきながら眺め、浅野の家に向かう。

 時刻が時刻だけに人通りがなく、全身緑の液体塗れで、悪臭を放つという一発で通報されそうな状態を見咎められることは無かった。


 まあ、能力全開で走ったので数秒で着いたという理由も有るのだが。

 先程のエア強化の際に身体強化(弱)のスキルが(中)に上がっていたので、そのエネルギーを足に集中、更に魔具の性能で身体強化や脚力強化、極めつけの加速までつけるとなんと俺は時速400km/hで走ることが出来た。新幹線とも勝負が出来る。やったネ。


「人間やめてる気がする」


 浅野の家の前で深いため息をつく。ココまで人外なスペックに成っても未来予知などの便利な能力が無いことに理不尽さを感じるが、落ち込んでても仕方ない。奴の家のチャイムを鳴らす。


「はいよ〜。今開けるぜ」


 ダルそうな声と共に扉が開いて浅野が顔を出す。


「こんばんわ浅野。早く入れてくれ、こんな格好を誰かに見られたら騒ぎになる」


「うわぁ、お前何やってきたんだよ?とりあえず入れ。風呂場は廊下の突き当りだ」


「すまん」


 浅野の厚意に甘え、風呂場でゴブリンの返り血を落とす。


「服は俺のジャージ使え」


「サンキュー」


 ジャージに着替え。コーヒー片手に奴の部屋で向かい合う。


「ちょっとは匂いも取れたな。で、何仕出かしたんだよ?」


「多分言っても信じないぞ」


「それでも話してくれよ。もしヤバイことに首突っ込んでるんなら、一緒に考えたほうが良い」


「もう終わったことだから、考える必要はな「もう限界!」おいっ!」


「え、何だコイツ?」


 リュックから飛び出すアホ妖精。


「ちゃんと中にいろよ」


「無理だって、朝のときと違っていっぱい荷物詰め込んでるから暑いんだもん。しかもゴブリンの血の匂いまで溜まってたから居心地最悪。後出るのが一歩遅かったら死んでたね。断言できる」


「えーと、何なんだこの娘?」


「はあ〜」


 大きなため息の後、もう隠すのは無理と考えてこれまでの事情を大まかに浅野に説明する。この時にカッターの性能も少し披露した。


「まあ、大体わかったし、さっきやったカッターの刃を巨大にして浮かすの見せられたら信じるしかねえけどさ、1個疑問が有るんだけど?」


「何だ?」


 浅野はアホ妖精に目をやりながら問う。


「その妖精ちゃんどうやって帰るんだ?」


「「へっ」」


 俺とアホ妖精は同時に間抜けな声を出して顔を見合わせる。


「さっきの話からするともう向こう側と繋がってるダンジョンは無くなってるんだろ?その妖精ちゃんが帰る方法無くねぇ?」


「まっ」


「ま?」


 アホ妖精は顔を青ざめさせて震えながら叫ぶ。


「全く考えてなかったー」


「お前アホかー」


「だって、仕方ないじゃん。ダンジョンを閉じなきゃって頭いっぱいだったの」


「そもそもどうしてその妖精ちゃんそんなにダンジョンを閉じたがってたんだ?話を聞いた限り今の地球と封印された三大陸が繋がって困るのは俺達で、元々向こう側の住人の妖精ちゃんはそこまで必死になることないだろ?」


 確かに浅野に言われるまで疑問に感じていなかったが元々魔物が蔓延る世界に居た、というか無害とはいえ魔物であるコイツにとっては封印が機能していても壊れても大差がないように感じる。


「それは、それは私達フェアリーにとってどんな魔物よりも人間が恐ろしいからよ」


 いつになく神妙にアホ妖精は続ける。


「封印の前、三大陸に人間が居たときは酷かったらしい。フェアリーは見世物や家畜だった。だから世界を繋げたくないんだよ」


「ワリイこと聞いちまったかな。で、その妖精ちゃんが帰る方法だけど、1個案が有るんだけど」


「何だ?その案って?」


「簡単だよ。もう1つダンジョンを見つけて今度は閉じる前に妖精ちゃんを返せばいい」


「なるほど。でももう一つのダンジョンか」


「ん?無いのか?」


「どうだろ?心当たりはないけど」


 俺はアホ妖精に目を向ける。


「ん?有ると思う。最近三大陸ではダンジョンの出現数と成長速度が増えすぎて処理が追いつかずに限界まで育っちゃうのが結構有ったから多分こっちにも幾つか開いてるか開きかけのはず」


「おい?何だそれマジか?」


「あれ言ってなかったけ?」


「聞いてねえ」


 そういう大事なことを忘れんじゃねえよアホ妖精。


「でも、よく考えたら私帰らないほうが良いかな?」


「はぁ?」


「ほら、よく考えたら此方に何個かダンジョンが近々出来るか、もう出来てるし、蓮を案内してダンジョンを潰していって貰ったほうが良いかなって?フェアリーの存在が知られていない此処なら蓮とあんたが黙ってればそこまで危険もないし」


「誰がやるか。もう二度とあんな危険なことしたくねえよ」


「え〜でも放っとくと世界の危機だよ」


「自衛隊と警察に任せる」


「なあ、もう1つ気になったこと良いか?」


「何よ?」


「此方に出来る支部のダンジョン壊したら本物に何かペナルティーって有るのか?無かったら潰しても本部が支部を作れる状態に有る以上すぐに次が出て振り出しだろ?」


 浅野は難しい顔で聞く。


「ああ、言ってなかったわね。支部を潰されると、大本のダンジョンもダメージを受けて、レベルが10、ランクが1下がるんだよ」


 また重要なことを話忘れていたアホ妖精。全くコイツは、


「レベルとランクが下がるならすぐに次が出来ることはないか。でもどんどん出現したら処理が追いつかないよな。まあ、限界まで成長したダンジョンを六大陸と太平洋・大西洋・インド洋の全部にあるって状態を阻止したら良いだけか?案外なんとか成るのか?」


「そうだよちなみに日本は太平洋に含まれるから」


「どっちにしろもう俺には関係ないな。そのうち海外でも発見されるだろうし、各国の軍隊がなんとかしてくれるさ」


 そう危険なことはコレで最後なのだ。


「え〜やる気出してよ」


「やる気などでん」


「ははっ」


 不毛な会話を繰り返す俺と妖精、その光景を苦笑しながら見る浅野


「まあ、とりあえずゲームの続きでもするかね。蓮お前もやるか?」


「そうだな。ん?」


「どうした」


 俺もゲームをしようと立ち上がりかけた時、奇妙な音が聞こえた。


「犬の遠吠えみたいなのが聞こえた」


「ん?ココら辺に犬飼ってる家はないし、野良犬か?最近は居ねーと思ってたけどな。つうか、オレには全く聞こえなかったぞ?」


「あたしにもなんにも聞こえなかったよ」


 浅野とアホ妖精は不思議そうな顔でオレを見たが、すぐにアホ妖精が『あっ』声を上げる。


「バフ切ってないでしょあんた。バフは意識して切らないと強化されたままだよ。だから聴力も上がってるんでしょ」


「なるほど」


 俺はバフを切る様に頭の中で念じる。すると一気に体が重くなった。いや、正確には力が抜けただけで重さは変わっていないし、元に戻っただけなのだが。


「こうゆことも早く言え」


 俺はため息をついてゲームを始めた。

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