第6話 希少級<レア>
「ほお。思わぬ客人だな」
「喋った!」
ボスの間には緑色の人間が居た。そうゴブリンには見えない。肌は緑だが、身長は180cm程あり、筋肉質、男性の様な外見をして手に剣を持っている。
「ホブゴブリンね。一応気をつけて。人間並みに賢いし、身体能力も見かけ通りだから」
緊張感の無い口調で忠告してくるアホ妖精。
「緊張感無いな」
「ファットゴブリンより弱いしね。よっぽど油断しなきゃスペシャルの魔具有って負けないよ」
「なのにボスなのか?」
途中で出てくる魔物より弱いボスとはこれいかに?弱ければボスとは呼べないのではないだろうか?
「ダンジョンではボスより強い魔物は発生しない。あくまで発生しないだけで、有性生殖で生まれた2世代目以降の希少種や、成長すればボス以上に成るやつもごく稀に居るの」
「そう云うもんなのか?なんかボスの立場がないぞ?」
「言ってくれるな人間にフェアリー風情が」
激昂して襲い掛かってくるホブゴブリン。だが、その速度はお世辞にも速いとは言えない。
「おせえよ」
「ぐはっ」
カウンターの容量で近づいてきた奴の腹を蹴り飛ばすと壁際まで吹っ飛んでいく。
「弱いな」
「言ったでしょ、弱いって。それよりあの穴の方を気を付けて」
「穴?」
アホ妖精が示す方向を見ると、確かに壁に穴が空き通路のように成っている箇所が有った。
「大本のダンジョンと繋がってる穴だよ。無いと思うけど向こうの魔物が来るかも」
「向こうの魔物は強いのか?」
「ピンキリだけど、真ん中より上なら今のあんたじゃ掠り傷すら付けれずに嬲り殺しになる」
「ならまずはあっちからだな」
『加速』を使った全力の速度で部屋の奥へ移動する。先程からチカチカ光が見えていたのだ。
「アホ妖精。これがダンジョンコアか?」
「そうだよ」
部屋の奥には虹色に輝く水晶玉の様なものが鎮座していた。
「やめろ。それに手を出すな」
腹部を抑えて蹲ったままホブゴブリンが悲鳴を上げる。
「コレを壊せばとりあえず安心だな」
ダンジョンコアを壊せば大本のダンジョンとの物質的な繋がりが切れる。
俺はハザンを振りかぶって勢い良くダンジョンコアに振り下ろそうとした。
「やらせん」
ホブゴブリンは蹲ったままなんとかといった様子で剣を振るう。俺とヤツの位置は遠く、剣など絶対に届かない距離だったが、やつの剣の軌道は刃となって俺に飛んできた。
「危ねえ」
とっさに上空に逃れる。身体強化を使っていて良かった。普通の人間のスペックなら当たっていた。
「おのれ。躱したか」
「その剣魔具かよ。めんどくせえな。これでも喰らえ」
俺はハザンの刃を一枚折、『チェンジサイズ』で巨大化させると、上空からホブゴブリンに全力で投げつける。
「なっ、ぐあぁ」
剣でなんとか受けようとするが、その威力に吹っ飛ぶホブゴブリン。
咄嗟の判断で行った攻撃だったが予想以上の効き目だ。
「今度こそ、行け」
落下の勢いを利用し、再度ハザンを振りかぶって勢い良くダンジョンコアに振り下ろす。
「ああぁぁ」
「ナイス」
コアが砕ける『バリーン』と言う音とアホ妖精の歓声、そしてホブゴブリンの悲鳴が部屋全体に木霊す。体が軽くなり力が漲ってくる。おそらく破壊者特典でオドが増えたのだろう。
「おのれ。おのれ」
右手と右足が変な方向に曲がり、剣を杖代わりにしながら呪詛を吐くホブゴブリン。一方アホ妖精はニコニコしながら俺の近くに飛んでくる。
「やったじゃん。スキルは残念だったけどハザンは凄い事に成ってるよ」
「スキルは残念?」
「うん。あんたが得た新しいスキルは身体強化(弱)よ」
「は?」
一瞬何を言われたか判らなかった。未来予知とかそう云う便利なのを期待していたのに、また『身体強化』?どんだけ被るんだよ。
アホ妖精が『スキルとスペルとバフは別物扱いで重複可能だから。」とか『スキルだと制御次第でバフやウェポンスペル以上に使い勝手が良いから。』とか、『狂化は(強)に成ったし。』とか言って慰めようとしているが、正直何の慰めにもならない。『身体強化』や『狂化』など物騒な使用方法しか思いつかない。今後使う予定もない。有っても仕方ないのだ。
「おのれ、おのれ許さんぞ。ギギャァァァー」
俺が落ち込んでいるとホブゴブリンが呪詛を吐きながら耳障りな声を出す。
「うるせぇ」
「これはっ」
俺が顔をしかめ、アホ妖精が驚いていると、部屋に夥しい数のゴブリンが入ってくる。一部ふた回りほど大きい個体や、ファットゴブリンも見える。
「ゴブリン族が仲間を呼ぶ時の鳴き声だぁ」
「見りゃ解るけど、なんでコイツさっきまで使わなかったんだ?」
「ダンジョンで生まれた魔物にとって、そのダンジョンのコアの有る部屋は聖域なの。自分が生まれたダンジョンのコアの有る部屋にはボスかネームドしか入れないのよ」
なるほど。つまりコアを壊したからこいつらは入ってきたわけだ。
「さっきの洞窟エリア、道の両脇の壁の裏側にゴブリン達の住処と出入り用の抜け穴が有ったんでしょうね。ファットゴブリンもいきなり横から出てきたし」
「3000を超えるゴブリンの軍勢だ。しかも500匹のロートルゴブリンと20匹のファットゴブリンが居る。勝ち目はないぞ人間。このダンジョンの心臓とも言えるコア、破壊した罪を悔いて死ね」
大量の仲間を呼び寄せ、憤怒の形相で吠えるホブゴブリンだが、残念ながら俺は恐怖しないどころか衝撃すら受けない。
破壊者特典で一気に強くなった実感が有る。負ける気がしない。加えてハザンもエライことに成っていた。
これだ。
銘:ハザン
所有者:大神 蓮
ランク :希少級<レア>
ウェポンスキル:自動修復(強)コスト3 刃操 コスト3 自動魔力回復(中) コスト4
ウェポンスペル:身体強化(強)コスト3 チェンジサイズ コスト1 トルネード コスト10
バフ :身体強化(強)コスト3 腕力強化(強)コスト3 サモン コスト1
超人化(弱) コスト3
マナ充填率 :100%
負ける気がしない理由ご理解いただけただろうか?腕力強化は2階級特進したし、超人化等と言う身体強化の上位互換もある。しかもトルネードなどと言う魔法まで追加されている。
この魔法は名前通り竜巻を発生させて相手を蹴散らすものらしい。
正直雑魚がどれだけ居ても問題ない。特別級<スペシャル>の上である特殊級<ユニーク>の更に上希少級<レア>、正直魔具が2階級一遍に上がったので強くなりすぎな感じがする。
「試してみるか」
まず『刃操』と『自動修復』でハザンの刃を切り離して修復を繰り返し、空中に100の刃を回転させながら浮かばせ、チェンジサイズで巨大化させる。
「な、馬鹿な!」
「ヒュー。ヤるー」
驚愕するホブゴブリンの声と楽しげな妖精の声を聞きながら、回転する巨大な刃をゴブリン軍団の中に駆け巡らせる。
その威力は絶大であった。手足を切り落とされ、首が飛び、胴が切り裂かれ、3000を超えるゴブリン軍団が為すすべもなく壊滅していく。
「勿体無いな」
立っているゴブリンが居なくなった事を確認し、ゴブリンの軍勢だったミンチと瀕死ゴブリンの中に突っ込む。
靴の脚力強化に加えて、身体強化のスキルのエネルギーが全身から足に集中する様にイメージし、強化した脚力で倒れているゴブリン達と元ゴブリンのひき肉を高速で踏みまくる。
「なにやってんの?」
「靴もネームドに出来ないか実験中。こうなったらバフでも何でも良いから普段でも使える能力が欲しい」
「ああ、確かにこの数の魔石全部砕けばワンチャン有るかも?」
とりあえず踏みまくる。物凄い異臭が充満するが狂化の副産物使用の影響で気にならない。
「や、やめろっ、なっ仲間たちの、亡骸に」
剣を杖に体を引きずりながら近づいてきたホブゴブリンが憤怒の形相でなんとか剣を振り上げる。
気持ちは解る。俺だって仲間の死体が踏みまくられたら怒るだろう。だが、容赦はしない。
「無駄だ」
「ぐあっ」
踏む作業を続けながら奴の剣に巨大化したカッターを叩きつけると剣が折れ、ホブゴブリンは体勢を崩す。
「え、魔具が切れた?」
「ああ。魔具は硬いけど、2つ以上階級に差が有ったら壊せるわよ」
アホ妖精が今更な情報をくれる。マジか、強い魔具で弱い魔具壊せるんだ。
「ちなみに、壊した時に相手が自分に無い能力を持っててキャパに余裕があればその能力習得できる事もあるわよ。運が良ければだけど。確認してみたら」
言われてカッターの能力を確認する。もちろん踏む作業はやめない。
“カッターの性能”
銘:ハザン
所有者:大神 蓮
ランク :希少級<レア>
ウェポンスキル:自動修復(強)コスト3 刃操 コスト3 自動魔力回復(中) コスト4
飛刃(弱) コスト1
ウェポンスペル:身体強化(強)コスト3 チェンジサイズ コスト1 トルネード コスト10
バフ :身体強化(強)コスト3 腕力強化(強)コスト3 サモン コスト1
超人化(弱) コスト3 斬撃強化(弱)コスト1
マナ充填率 :100%
確かに増えていた。そして出刃包丁の存在意義が無くなった。
いや、だってねえ、能力ほぼ一緒じゃん。痛覚増大とかそんなドSな力使う予定無いし。
「そっそんな、わっ私の魔具が!」
武器を壊され、 茫然自失のホブゴブリンを蹴り倒す。
「お前が怒る気持ちは解る。でも、俺が先にお前らに手を出したんじゃない。お前らが先に俺を襲ったんだ」
「ふざけっ」
「あばよ」
「ぐぎゃあぁ」
怒りのままに起き上がろうとするホブゴブリンを再び蹴り倒し、胸の部分を踏み潰す。
「ボスも討伐完了」
「やったね」
“アカシックレコードより通達。一定以上の魔素を吸収した魔具に銘『エア』を与える通達終了”
待っていた物が来た。早速靴の状態を確認する。
“靴の性能”
銘:エア
所有者:大神 蓮
ランク :特別級<スペシャル>
ウェポンスキル:加速(中) コスト2
ウェポンスペル:エアーラン コスト1 シャドーボックス コスト3
バフ :脚力強化(中)コスト2 サモン コスト1
マナ充填率 :100%
強化はされたが案外しょっぱかった。シャドーボックスに期待か?
「ん、シャドーボックス?収納系の能力の最下位よ。自分の影の中に1㎥の体積まで物を収納出来るだけ。生きてる動物や魔物は駄目よ」
コスト3もするのにこちらもしょっぱかった。強化した意味がない。仕方ないので残りの魔石は収集して早速シャドーボクスに放り込む。
「しゃあない。帰るか」
「帰ろー」
アホ妖精と共にボスの間を後にした。