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独白10 強者達5(新城 紅葉編2)

 震えながら平身低頭して報告する男の話を聴きながら私はため息をついた。


「紅葉様?」


「出来ませんでした。と言う報告なら馬鹿でも出来ます。次に成功させるための具体的なプランは?」


「それは、その…」


 男は口ごもり目を泳がせる。情けない。


「水の補給は死活問題です。貴方達で不可能と言うのなら、次は私が集団を率いましょう」


 川で水を汲んで運ぶだけならば、誰にでも出来る。問題は道中に現れる狼共を中心とした化物達。ならば、私が化物共を倒すために同行し、周囲の安全を確保している間に他の者達が水を運べばいい。


「そ、そうして頂けると、ひ、非常に有難く」


 自分の案や意見を言わず、頭を下げ続ける男に嘆息しながら私は言葉を続ける。


「水汲みは全員で行います。そう周知しなさい」


「は!?全員でですか?」


 男は明らかに嫌そうな顔をする。この場所から外へ出たく無いのだろう。


「ええ。全員です。手は多いほうが良いでしょう」


「で、ですが、守る対象が多いと紅葉様のご負担が増えるのでは?」


 上手い言い訳ね。こういう時だけ頭が働くのね。


「確かにそうだけど、狼共も常に私達を見張ってる訳じゃ無いわ。人数を増やして迅速に事を運んだ方が良いと言う判断よ」


「お、お言葉返すようですが、作業の遅い者も居ますし、ある程度選別した方が…ひっ!」


 室内に「ガリガリッ」という耳障りな音が響き、男は悲鳴を上げる。私の電ノコ、魔具『切姫』が床を削り取ったのだ。


「それで、選別の過程で自分はメンバーから外れようと言うのかしら?」


「め、滅相もございません!!」


 男は「ガタガタ」と歯を鳴らしながら平身低頭する。


「直ぐに全体に周知しなさい」


「か、畏まりました!!」 


 男が走り去ったドアを見て、ため息をつく。アレで大人か。


「やっぱり、キチンと階級を分けたほうが責任と自覚が出て良いのかな」


 私は内部の人々に序列を作ることを決めて部屋を出る。


 集会を行うために用意した広場にはもう多くの人々が集まっていた。


「紅葉様」


「紅葉様だ」


「紅葉様」


 私の姿を見て、集まった人全員が跪く。


「既に周知しているだろうけど、この場でもう1度言うわ。水が足りないの。だから、全員で近くの川へ汲みに行く。全員でよ」


「紅葉様」


「何?」


 1人の若い男性が声を上げる。


「老人や幼い子供も居ます。全員というのは些か、以前死者も出ていますし…」


 彼が言っているのは父の上司だったと言うあの愚か者とその取り巻きの事だろう。


 右耳を削いだ後、彼等で水汲みに行かせたのだ。


 強情に抵抗し、最後には許してくれとまるで駄々を捏ねる子供の様に泣き叫んだが、オッサンが泣いても気持ち悪いだけだ。

 気にせず外に放り出し、水を汲んでくるまで入れないと宣言してやった。


 結局戻ってこず、次の日に出た第ニ陣が狼に食いちぎられた死体を発見したのだ。


 其の第二陣も狼達に追われて水を汲むどころではなく、逃げ帰って来たので、現在も水不足は深刻なのだが。


「年齢、性別、身体の虚弱に持病。その他いかなる理由でも特別扱いしないわ。全員と言ったら全員よ」


「そ、それはあんまりでは!人道的ではない」


 人道的ねぇ?人権、道徳確かに大切だろう。だが、そのために全体を犠牲にして良いだろうか?それが人道的か?


「子供も、老人も、全員水は飲むの。行かない者が居るということはその分行く人間の負担が増え、リスクが上がると言うことよ。それとも、貴方が彼等の分も余分に往復するのかしら?」


 だとすれば立派な心がけだ。少し考えてやっても良い。


「そ、それは…」


 言葉に詰まる男性。こういうのを口先だけと言うのだろう。


 男性が黙り込んだのを見て、もう話は終わりと思ったら、今度は杖をつく老人が声を上げる。


「紅葉さま。わしゃあこの通り、膝が弱くて走ることはおろか、杖が無ければ満足に歩けん。それでも外に行けと仰るか!」


「貴方達が水を飲まないのなら行かなくて良いわよ。でも飲むんでしょ」


「儂らに死ねと仰るか!!」


「そうね。別に死んで欲しい訳では無いけど、貴方達が狼共に食われれば水の消費量が減るのは事実よ」


「なっ!」


 私の発言を聴き、老人は真っ赤になって唾を飛ばしながら吠える。


「アンタは鬼か!老人を敬えと教わらんかったか!!」


「教わったけど、動けない者の為に動く者に負担をしいていたら今の状態じゃ全滅よ。逆に聞くけど他の者達が水を汲みに行く間、此処で安全に過ごして、皆が汲んできた水を横取りして、それで、貴方達はこの状況で皆のために何が出来るの?」


 非道な事を言っている自覚は有る。でも、此処まで非常事態だと、全体のためにある程度は切り捨てるしか無い。


「あ、アンタは鬼じゃ!」


「鬼でも何でも良いけど、私の質問に答えて、貴方は何が出来るの?」


「うぐぅ」


 老人はプルプルと震えながら言葉に詰まるが、自分を鼓舞するように杖で床を叩いて口を開く。


「鬼!悪魔!人でなし!地も涙も無い悪鬼めぇ!」


 その後も思いつく限りの罵詈雑言を叫ぶ老人を私は冷たく見下ろす。


「はぁはぁはぁ」


 叫びすぎて疲れたのだろう。荒く息をしながら呼吸を整える老人。


 やっぱりこの人も愚かな大人の1人だ。結局自分だけ特別扱いして欲しいと言っているだけ。


「私の質問にも答えられないの?自分が集団にどう貢献できるかも言わず、出てくるのは楽がしたいという欲望と聞くに耐えない低能の言葉のみ。愚かで無能ね!」


「な、なにぉ!おおぉ!」


 私の言葉に再び顔を真っ赤にさせた老人がそのままそのまま大きく口を開け、視線を彷徨わせて仰向けに倒れる。


「「「キャァァァ」」」


 見ていた集団から悲鳴が上がるが、おそらく唯、頭に血が登りすぎて卒倒しただけだろう。


「静まれ!」


「「「………」」」


 かつては出せなかったよく響く大きな声、今では自然に出すことが出来る。


「時間は有限だ。この愚か者のせいでそれを無駄にした」


 私は倒れた老人を蹴り飛ばして壁に叩きつける。


「「「………」」」


 最早抗議の声は無い。


「では、水汲みについて説明す…」


「お待ちくだされ」


「ん?」


 再び先ほどとは別の老人が声を上げる。


「紅葉様。早く話を進めたいでしょうが、後少しだけ爺の世迷い言に付き合ってくださいませんか」


「何?何と言おうと水汲みの免除は無しよ」


「なるほど。自分で飲む分を自分で手に入れろ。ごもっともですな。しかし、儂らのように足が悪い者は川まで行くのも厳しく、道中狼共に襲われれば、守る紅葉様にご迷惑をおかけすることも事実ですじゃ」


「何が言いたいのよ?」


「先ほど、紅葉様は水汲みを免除されたくば、他の方法で何か皆に報いよとおっしゃいましたな」


「ええ。そうだけど?」


 落ち着いて話す老人の調子に、私も毒気を抜かれて聞く体勢になる。


「川まで行くのが肝ではなく、肝は水を確保することかと」


「ええ。確かにそうだけど?」


「では川から汲む以外の方法を幾つか存じ上げております」


「どうするの?」


 老人の言葉に私は身を乗り出す。


「ほほ、幸い此処はホームセンター。道具は揃っとります。まずは青草を大量に集めて透明なビニールの袋に入れます。この周りにも雑草は生えとりますし、野菜を育てとる鉢植えにも雑草は生えとるから可能でしょう。

 晴れた日にこの袋を日光に当たる場所で放置しておくと草から水が出て袋の中に溜まります。コレがまず1つですの」


「そんな方法で?」


「ええ。集まりますとも。もっとも時間は掛かりますが」


 そう言って老人は「ホホ」と笑う。


「もう1つですが、コレも時間が掛かりますな。まずは日光がよく当たる地面に穴を掘ります。その真ん中に水を入れるための器を入れ、上にビニールシートを被せます。4つ角を固定した後、真ん中も少しだけ重しを置いて凹ませます。すると夜にシートの上が冷えて、下は相変わらず暖かいので、シートを伝って水が溜まります。両方共晴れた日でなくては出来ませんが、雨なら雨水を貯めれますし、曇りなら湿気が多いでしょうから、ガラスの器を火で炙って温めのラップで蓋をして冷ませば水滴は得られるかと?」


 老人の言葉を私は真剣な顔で聞いていたと思う。ニコニコする老人に私は頷いて、指示を出す。


「小さな子どもと歩くことが困難な者達には貴方が指示を出して、この中で出来る作業を行わせて水を得なさい」


「はい。しかと心得ました」


「他の者は水を汲みに行くけど、その前に1つ伝えておくわ」


「「「……」」」


 全員が此方に注目していることを確認して私は口を開く。


「集団の中に階級を作るわ。まず3〜5人で1つの班を作り、それを活動するうえでの最小単位とする。班のまとめ役がチーフよ」


 私の説明に皆が無言で頷く。


「4〜6班で1グループ。チーフの中の1人がまとめ役でリーダーよ。更に3〜4グループでチームを作って貰うわ。チームのまとめ役がリーダーの中から1人出してキャプテンよ」


 皆の表情を確認して説明を続ける。


「役職の任命は貢献点によって行うわ」


「貢献点?」


「その者がどれがけ集団に貢献したかの点数よ。これからの働き次第で私が付けるわ。ひとまず貴方は貢献点を与えるから残留チームのキャプテンを任せるわ」


 さっきの老人にキャプテンになるように頼む。


「承知致しました」


 老人は好々爺然とした笑みで頷く。


「後、ルールを破った者は厳罰。小さな違反は減点。大きな違反は耳削ぎと所属する班のチーフを監督不行届で減点するわ。2回大きな違反をしたら追放よ」


 そう言って笑みを浮かべると、何名かが青い顔をする。


「ひとまず今回の水汲みでどれだけ貢献点を稼げるかね。では行きましょう」


 有無を言わさぬ私の言葉に皆が動き出す。今度こそ水を確保するのだ。 


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