独白9 強者達(進藤 翔馬編2)
「いやぁぁぁ」
手足を拘束された雌が悲鳴を上げるが、気にせず行為を続ける。この雌は以前餌にした雄と付き合っていた屑で奴隷階級である。内面は最悪で低俗だが、見た目はソコソコ整っている方なので性欲を満たすのに使っている。
「黙れ!」
「ギャァァァ!」
より乱暴に行為を行い、行為が済むと、適当にベッドに投げる。
「うっううっ」
嗚咽を漏らす声でさえ不快感を感じる。
「うるさい!」
「アガッ!」
感情のままに腹を蹴り飛ばすと、その雌は壁にぶつかって冷たい床に放り出される。
「変態、デブ男、レ◯プ魔、犯罪者!」
僕に向かって無い頭を絞って思いついたであろう罵詈雑言を浴びせてくる雌。
そんなに痛めつけて欲しいのだろうか?
「随分とうるさいな!少し躾けるか」
指先に火を灯して、背中に押し当てる。
「ギャァァァ!!」
ジュゥという肉の焼ける音と雌の悲鳴だけが室内に響き渡る。
「うるさい!」
開いている手で顔を叩いて大人しくさせようとする。無論背中を焼くのは止めない。
「ぅぅぅうう。うおぇ」
背中の痛みが他にも影響を与えたのか胃液を吐き出す雌。
「汚い!屑が!」
「あがぁ」
頭を踏みつけて雌の顔をソイツの吐瀉物の中に落下させる。
「やっ止め、止めて!」
漸く懇願の言葉が出たが、口の聞き方がなってない。
「まだまだ躾が必要だな」
背中を焼く指の数を増やそうとした所で、扉がノックされる。
「翔馬様火急の要件です。よろしいでしょうか?」
「何だ?」
「ファングウルフがまた現れたのですが、1頭見慣れぬ個体がありまして」
「何?」
躾を邪魔されて腹が立ったが、ファングウルフが来ているのなら一大事だ。しかもそのうち1頭は見慣れぬ個体だという。
「直ぐに行く」
雌を残して部屋から外に出る。バリケードまで行くと、既に何人もの下僕共が集まってちょっとした騒ぎになっていた。
「静まれ!愚か者共!」
「しょ、翔馬様!!」
「翔馬様」
「翔馬様」
僕が一喝すると騒いでいた下僕共は大人しくなって道を開ける。
人垣が割れた先では2人の人物が僕を待っていた。
「お休みの所、申し訳ありません翔馬様」
「翔馬遅い!強姦してる暇があるなら敵と戦うべき」
「おい、貴様、翔馬様にその口の聞き方は何だ!」
「事実を言っただけ」
「貴様と言う奴は!」
「良い」
「はっ!」
何時通り、口喧嘩を始めた2人を僕は止める。因みに、僕を様付で呼んだ男は僕の中学校時代のクラスメートで医者志望の秀才。名前を大島 祐介と言う。
もう1人の僕に向かって生意気な口を訊いた小柄な少女は中学3年生。目鼻立ちが整っており、十人中十人振り返るであろう美少女だ。名前を国枝 魅亜と言う。
2人は下僕ではない。下僕の上に設けた「側近」の地位に居る。現在側近はこの2人だけだ。
「不細工でモテないから女の子を襲いたくなるんだろうけど、まずは安全管理を第1に考えるべき」
祐介との言い合いから間を置かずして、再び魅亜が毒を吐く。
魅亜は元々下僕だったが、僕に生意気な口を訊くので奴隷に落としたのだ。それでも反抗的な態度は収まらず、奴隷の勤めも果たせないので、その後餌にした。しかし、餌としてファングウルフの前に投げられた際に、機転を効かせて、ファングウルフを1頭屠り、魔石を砕いて、運良く魔具を手に入れたので、側近に格上げした。
最初の内は、コイツと話す度に腹が立って仕方無く、また奴隷や餌に落としてやろうかと思っていたが、「使える奴だから」と思い、グッと我慢していたら、最近はなんとも思わなくなった。
「お前こそ。無駄口を叩いている時間はないだろう。持ち場に付け」
軽く言葉を返した後、ファングウルフを見る。6頭は普通だ。しかし、1頭は体毛が赤く、体高は3m程もある。
「変異種か?」
「不明だけど強そう」
まずはとりあえず餌だな。何時もと同じだ。
「餌を放り投げろ。注意を引く」
「は!」
僕の命令に従って下僕達が餌を引きずってくる。
「や、止めてくれ!」
「助けてくれ!」
下僕達が餌を放り投げようとした瞬間、それは起こった。
「ワオォォォォン!」
「何?」
「馬鹿な!」
「クッ」
「「「「「ギャァァァ」」」」」
赤い大きなファングウルフの咆哮は衝撃波となってバリケードを砕き、人間を軽々吹き飛ばす。
俺と側近の2人は上手く着地するが、下僕達は地面に打ち付けられて悶ている。
「おかしいだろ。あの強さ」
ただ大きいだけじゃ無い。普通のファングウルフとは別次元の強さだ。
「魅亜!」
「呼び捨てにしないで、不快」
此方の意図は伝わった様で、悪態をつきながらも僕と僕の魔具に強化を掛ける。
「『覚醒』」
魅亜が持つ魔具のウェポンスペル『覚醒』は、一定時間の間だけ掛けた物の格を1つ上に上げるというもの。重複はできない上、消費するマナの量が非常に多いが、それでも役に立つ能力だ。
「今までと同じというわけには行かないな」
僕が持つサバイバルナイフの魔具『怨讐』は 特別級だが、『覚醒』によって一時的に 特殊級に上がっている。
僕自身も『覚醒』により、身体能力やスキルが強化されている。
「全力で相手をしてやろう」
「え!!うわぁ!」
さっきのどさくさで、地面に倒れている餌を片手で持ち上げる。
「待ってくれ!止めてくれ!」
餌が騒ぐが気にしない。
「喰らえ」
「うわぁ!!」
「ガルゥ!」
「ギャァァァ!!」
投げられた餌を赤いファングウルフは空中でキャッチし、噛み砕く。
掛った!とほくそ笑む。
「戦闘中にお食事とは余裕だな!」
僕はサバイバルナイフを振り抜く事で、斬撃を飛ばす。『呪飛刃』と呼ばれるスキルだ。通常の『飛刃』よりも威力は低いが、当たるとバッドステータスが掛かる。
「グルゥ!?ギャウン!!」
赤いファングウルフは避けようとするが、速度が足らず、『呪飛刃』を受ける。
「上手く行った様だな」
さっきの餌には『怨讐』のウェポンスペル『呪刻』により、『鈍足』のバッドステータスを仕込んでいたので、噛んだ時点で、速度は遅くなる。そして今の『呪飛刃』には、力が抜ける『脱力』のバッドステータスを付けており、その上斬撃事態に『呪刻』で『鈍足』を乗せていた。
「コレで攻撃が当たる度に此方が有利になるな」
さっき撃った『呪飛刃』事態がダメージを与えている様子はないが、『鈍足』と『脱力』を当て続ければ、どんな強者でも崩れる。
僕は勝利を確信し、思わず笑みを溢した。
しかし、それが甘い認識だったとすぐに思い知らされる。
「ガルゥ」
赤いファングウルフは此方を睨みつけると、歯を剥き出しにして疾走ってくる。
「正面から突っ込んできた?玉砕覚悟と言えば聞こえは良いが、唯の無謀だぞ。駄犬」
あまりにも愚かな正面突破に、僕は嗤いながら『呪飛刃』を連発で放って迎撃する。
「グルゥ。ウッワオォォォォン」
「何!!」
赤いファングウルフが一度息を飲み込むようにして吐き出した衝撃波は球形の塊になった僕へと迫る。
「馬鹿な!こんな!」
僕が放っていた『呪飛刃』は全て球形衝撃波に打ち消されてしまう。
「クソッ!」
それでも相殺できなかった球形衝撃波が僕に迫り、僕は慌てて横に飛んで回避する。
「何なんだあいつは!こんな事まで出来るなんて!えっ!?」
悪態をつきながら赤いファングウルフを見ると、既に目の前まで迫ってきていた。
「しまった!クソッ!」
顔を切り裂いてやろうと自分のスペルで出した炎を魔具に纏わせて、斬りつける。
「ギャァァァ!」
しかし、逆に魔具を持った右腕を噛まれてしまう。
「アアァァァ!!!」
痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛いぃぃ!!!
「グルゥ」
右腕の激痛に悲鳴を上げてしまうが、そんな事はお構いなしとばかりに赤いファングウルフは僕を振り回して何度も地面に叩きつける。
「ぐぁ!!」
「ぐあぁぁ!!」
「も、もう、や、やめてくれぇぇ」
打ち付けられた地面は既に陥没しており、激痛で意識が朦朧としてくる。
「だ、だれかぁ…た、たすけてぇ…」
掠れた声で助けを求めながら下僕達を見るが、誰も動かず、建物の中で此方の様子を伺っている。
「ゆ、ゆう…すけぇ…」
常に自分を補佐してくれていた側近の方を見るが、彼は背を向けて全速力で建物の中へ逃げ帰っていく最中だった。此方を見る事さえしない。
「そ、そん…な!な、なん…でぇ…」
目を疑った。激痛でおかしくなったのかと思った。今まで常に僕に忠実で、僕にあれだけ敬意を払っていた側近が僕を見捨てるなんて!
「ゆ、ゆう…すけぇ、たすけ…」
「グルゥ」
祐介に向かって手を伸ばそうとした僕に、赤いファングウルフの牙が僕の眼前に迫る。
「ひっ!」
喉を食い破るつもりだとすぐに解った。でも逃げようにも体に力が入らない。
「いやだぁ…」
牙が僕に届く寸前、泥の様な物が振ってきて僕と赤いファングウルフの顔にぶつかる。
「うぷぅ!」
凄まじい悪臭に息が詰まる。しかし、僕以上にファングウルフにとってこの臭いは致命的だったらしい。
「ギャウン!!」
弾かれた様に飛び上がった赤いファングウルフは、頭を振って、鼻先に付着した泥の様な物を何とか取ろうとするが、それは大きなスキになる。
「はぁぁぁ!!」
飛び出した人影は赤いファングウルフの目を突き刺す。
「ギャウゥゥゥン!!」
片目を潰され、激痛に悶絶する赤いファングウルフ。
「み、み…あ?」
「気持ち悪いから名前で呼ばないで」
飛び出した人影はもう1人の側近、国枝 魅亜だと漸く気づく。
「それ食べれば少しは回復するでしょ」
魅亜は6個の魔石を僕に投げて寄越す。どうやら普通のファングウルフは魅亜が倒したようだ。
「魅亜、お前、怪我?」
よく見ると魅亜は全身に切り傷や噛まれた痕があり、体のいたる所から血が出ている。服もズタズタで、ボロ布を体に巻きつけていると言った方が正しい。特に左腕の状態は酷く、肉が抉れているのが解る。
「無駄口叩いてる暇はない。状況を考えろ愚図」
相変わらず毒舌はキレッキレだが、声に覇気がなく、立っているだけで精一杯なのが伝わって来る。
「解った。ぅぐっ!」
僕は魔石6個を纏めて口に入れて、無理やり飲み込む。
弱った体に大量の異物を飲み込む感覚は相当キツイが、魔石が胃に達するとその効果が現れ、幾分か、体が楽になり、痛みも和らぐ。
「ハァハァ、はぁぁ!」
「ギャウン!」
僕は立ち上がりながら、まだ悶ている赤いファングウルフに『呪飛刃』を打ち込む。さっきの『脱力』の影響で体の強度も多少落ちていたのか?今度は浅く切り傷が出来る。
「何とかなるのか?」
希望が見えた気がした。そして、僕の体にも変化が訪れる。
「え!?」
「何!?それ!?」
隣に居た魅亜が目を丸くしている。
「一体何が?」
違和感を感じて自分の手を見ると、硬そうな爪が生えた大きくて毛むくじゃらな手がある。
「はぁ!?」
一瞬驚いてしまうが、僕は本能的に、自分の体がどうなっているのか理解した。
「魅亜」
「だから、気持ち悪いから名前で呼ばないでってば!」
「どうやら僕は唯の魔人から、上位魔人であるウェアウルフに進化したらしい」
「ウェアウルフ?狼男ってこと?」
「ああ。そういうことだ」
このウェアウルフ。「月を見ないと変身できない」とか言う制約も無いらしい。何時でも好きな時に人狼に成れるし、好きな時に人型に戻れる。
実は月を見ながら人狼化した方がより強力になるんだが、そうすると替わりに理性が無くなるらしい。
「狼の魔石を食い続けたから狼男になったのかな?それとも偶々か?」
どちらかは分からないが、とりあえず強くなれたのは事実。しかも、進化と同時に傷も塞がっている。
「偶然だろうが助かった」
コレなら赤いファングウルフとも戦えそうだ。
「魅亜!」
「気持ち悪いから呼び捨てにするなって何度も言ってるのに!」
「そんな状態のお前に頼んで悪いが、もう一度『覚醒』を僕に掛けてくれ!」
最初に掛けてもらった『覚醒』は既に効果が切れている。
「『覚醒』」
「ッッ!!」
僕と僕の魔具に『覚醒』が掛かり、今までに無いくらい力が漲る。
「ガァァァァ!!」
「ギャウン!!」
まるで本物の狼の様に咆哮を上げると、その咆哮は衝撃波となって赤いファングウルフに激突し、その巨体を吹き飛ばす。
「これは!」
敵と同じ衝撃波。自分も撃てるようになっていたことに驚く。
「グルゥゥゥ。ワゥ!」
赤いファングウルフは暫く此方を恨めしそうに見た後で、踵を返して去っていく。
「逃げた!?」
「獣と同じだろうから、簡単に勝てる獲物じゃ無いと解って逃げたのかな?」
今追いかければ、あいつを倒して魔石を奪えるかもしれない。あいつの魔石はきっと強いだろう。でも、その前に…
「ちょっと!!」
僕は人型に戻ると、僕は隣に居る魅亜を抱き上げる。俗に言うお姫様だっこと言う奴だ。
人形に成って解った事だが、人型の状態も、元の僕とは大きく変わっている。元の僕は身長は平均的で、小太りだった。でも、今は身長が2m位ある。元の姿よりもゴツイが、それは筋肉でガッチリしているからだ。外人のプロレスラーとかを想像してもらえれば、分かりやすい。
唯の魔人だった時も、人間だった頃より力は強くなっていたが、進化して更に膂力は増大した。筋肉量が増えたのもそうだが、恐らく筋肉の仕事量も増大しているのだろう。抱き抱えている魅亜の重さを感じないほどだ。
「気持ち悪いから離して!排泄物を被った強姦魔に触られたくない」
あの泥みたいなの排泄物だったのか!?道理で臭かった訳だ。
うん。まあ、排泄物を被った相手と密着するのは僕も嫌だ。でも今は仕方ないから我慢して貰おう。
相変わらずの毒舌だが、相当体がキツイのだろう。離れようとする素振りさえ無い。力が入らないようだ。
「まずはお前の治療をしないとな」
赤いファングウルフを追うよりも、まずはそれだ。
「まずは治療。それが終わったら…」
忠義者面してた裏切り者の始末だ!
僕は魅亜を抱き抱えて建物の中に戻った。
最近忙しく、話もストックが切れたのでこれから不定期になります。もし読んでくれてる人が居たら申し訳ありません。
何とか完結までは頑張るつもりなので、読んでもらえると幸いです。