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第36話 再戦

 血の臭いが鼻につく。辺りには無数の魔物の死体が転がっている。


「アホ妖精。何種類ぐらい居る?」


「え〜と!ゴブリンにマッドゴブリン。インプに吸魔吸血蝙蝠(ドレインバッド)これが基本でこの上位種のホブゴブリンやインキュバスにサキュバス。後、レッサーオーガも居るわね!凄い戦力よ!!此処まで成長していただなんて!!」


 アホ妖精は言葉を失って死体の山を眺める。どうやらこのダンジョンはよっぽど衝撃的な成長速度らしい。


「これと戦って剣客警官隊のメンバーやヒヨッコ揃いの抜刀隊が生き残れるかは疑問」


 栗原巡査部長も量産型魔具の日本刀を手に、肩で息をしながら、サラッとキツイことを言う。


「大隅警視正の判断は正しかったな。此処に剣客警官隊を入れたんだから、早々に全滅してても不思議はない」


 思わず眉を顰めてしまう。大隅警視正の案で最初から対処していれば無駄な犠牲は出なかっただろう。


「大神蓮!進むべき」


「ああ。そうだな」


「気持ちは分かる。でも今は過去を悔いるよりも、生存者の発見が優先」


「解ってるさ」


 苛立ちが出てしまい、ついつい突き放すような口調になってしまったが、栗原巡査部長は気にした様子もなく、淡々と歩き始める。この冷静さは年長者故だろうか?17才と19才で其処まで差が有るとは思いたくないが。


 歩きながらもついつい3日前の事を思い出してしまう。


 俺達は、一度避難所に引き返して、大隅警視正にこのダンジョンが復活したことを報告したのだが、司令部の意見は真っ二つに別れてしまった。


 大隅警視正はどのような戦力が有るか未知数なため、俺が偵察して、可能なら攻略して欲しいと言ってきた。

 その意見に反対したのが三条警部と小山一佐、民間人の俺を酷使しすぎているので、俺を休ませて、剣客警官隊や陸上自衛隊の中に新設された抜刀隊を突入させるべきだと主張したのだ。お優しいことである。

 まあ、2人の腹の中としては、警察や自衛隊の中に攻略者を出したいから、自分たちで攻略したかったんだろう。大隅警視正と2人の激しい議論の結果、増員された剣客警官隊30名の中から志願した20名と抜刀隊100名が突入した。

 で、目出度く全員MIAに成ったので、俺が偵察に来たというわけだ。同行者はアホ妖精と 栗原巡査部長(出世した)である。


 この偵察の目的は先に突入した部隊の生き残りが居ないか探して、居たら保護して連れ帰ること。最優先である。

 次にダンジョンの戦力を探り、可能なら攻略することだ。


「………」


「………」


 暫く無言でダンジョンを進む。何だろう。この会話のない空間は!?いや!確かに大変な任務の最中だし、楽しくおしゃべりしながら出来ないのは分かるよ!分かるけどさ〜!少しぐらい何か会話が有っても良いよね?終始無言とか気まずすぎである!!


「……ぅぅ!!」


 アホ妖精も俺と同じ気持ちなのか?さっきから此方をチラチラ見ては会話の取っ掛かりを作って欲しそうな顔で見てくる。でもぶっちゃけ何話せば良いよ?

 そんな風に悩んでいると、「ハザン」のスキルで操っていた風が、敵の接近を捉える。


「来るぞ!!」


「んっ!!」


 俺の声を聞いた栗原巡査部長が敵えて刀を構えた時、道の反対側から魔物の集団が姿を表す。


「おいおい!大量だな!」


 現れたのはファットマッドゴブリン10体、ファットゴブリン100体、ホブゴブリンバーサーク200体、ポイズンゴブリナ200体、ホブゴブリン1500体、ゴブリナ1500体、吸魔吸血蝙蝠(ドレインバッド)の上位種である魔導吸血蝙蝠(ブラッド・バッド)2000匹、インキュバス100体、サキュバス100体、レッサーオーガ5体。総勢5715匹の魔物の軍勢である。


「私が殺る!」


 栗原巡査部長は前に出るが、いや、流石にこの数の相手は厳しいよ!


「1人で出来るか!!一緒に殺るぞ!」


 俺も『ハザン』を抜き、2人で魔物の軍勢に突入する。


「はぁぁ!」


「よっと!」


 向かってくるファットマッドゴブリンを縦に両断し、横合いから仕掛けてきた魔導吸血蝙蝠(ブラッド・バッド)を先に頭突きを喰らわせる。


「大したこと無いな!あっちは?」


 栗原巡査部長を見てみると、あちらは俺ほど楽勝と言う感じではなかったが、それでも助けが要る程では無い様で、一匹一匹の攻撃を躱しながら、敵の首や心臓など、急所に刀を突き刺していく。


「大丈夫そうだな」


 手助けしなくて良いのは有難い限りだ。この状況で大丈夫って事は、栗原巡査部長は剣客警官隊ではかなり強いよね?


「一気に片づけたいんだけどな〜」


 此処が洞窟の中でなければ纏めてサイクロンやトルネードでふっ飛ばして終わりだが、生き埋めになる可能性がある以上それも出来ない。


「地道に片付けるしか無いか!!」


 手近に居たレッサーオーガの首を飛ばし、迫りくる魔物達を次々に切り伏せる。


「どんどん行くぜ!!」


 俺自身のスキルである『狂化』の効果も手伝ってか?敵を切れば切る程、返り血を浴びれば浴びるほどテンションが上がる。


 此処に居るどの魔物にも負けないという絶対的な自身が生まれていた。


「楽勝!!」


「グギャァァァァ!!」


 向かってくるホブゴブリンバーサークの首を刎ねて声を上げる。


「ギィギィ!?」


「ギィギィギィ??」


 楽々と戦い続ける俺。そんな俺の様子に、ゴブリン達は首を傾げだす。


「何だ!?」


 恐怖して逃げ出すなら解る。だが、不思議そうに此方を見る理由が分からなかった。


「うぐぅ!!」


「何!?」


 突然後ろから苦しげな声が聞こえて振り返ると、栗原巡査部長が胸元を抑えながら苦しそうに蹲る。


「なっ!!」


 攻撃を受けた形跡はない。突然の体調不良?この状況で!?なんて間の悪い!!


「グギギィィ!!」


「がはっ!!」


 当然戦っているファットゴブリンが体調不良を考慮してくれるはずは無く、栗原巡査部長は棍棒の一撃で吹き飛ばされる。


「やべぇ!!」


「うぐぅ!」


 咄嗟に壁と栗原巡査部長の間に入って彼女を受け止める。


「大丈夫か?」


「ううぅ!!」


 まともな返事が帰ってこない。抱き抱えているだけで体が熱いのが解る。物凄い高熱だ。


「一気に難易度が上がったな!!」


 魔物に囲まれている状態で高熱で意識が朦朧としている栗原巡査部長を抱えて戦う。字面だけ見ると物凄い不利だ。


「まあ、問題ねえけど!!」


 切り離した「ハザン」の刃を周囲に大量に浮かべる。実は栗原巡査部長と共に戦っている間は巻き込みそうでこれを使えなかった。そういう意味では今の方が殺りやすい。


「ギギャァ!?」


 宙に浮かぶ刃を魔物達は不思議そうに眺める。


「悪いが急ぐ必要がある。さっさと消えろ!!」


「「「「「ギギャァァァ!!!」」」」」


 数多の刃が洞窟内を縦横無尽に飛び回り、魔物達を蹂躙していく。


「やっぱりコレが速いな!!」


 暫くすると、周囲には魔物の切り刻まれた骸だけが折り重なっていた。


「運が良かったな。俺が見つけた時に既にこのレベルだったなら俺は死んでいた。なあそう思うだろ?ボスさんよ?」


 目の前で殺気をむき出しにして此方を睨んでいる男に問いかける。肌の色などは変わってしまっているが不思議と確信できた。コイツがあのホブゴブリンだ!


「生き返ったんだな?今度は確実に仕留めてやるよ!」


「既に新たなボスが生まれている。私は変えの利く戦力の一つでしか無い」


 新たなボス!?なるほど!ダンジョンの成長の過程でそういう事が起きたか!


「しかし、仲間を好き放題に殺した貴様を許すことは出来ない。此処で私が打ち取る」


 元ボスは2本の剣(恐らく魔具)で切りかかってくるが、俺は宙を舞う「ハザン」の刃でそれらを受け止める。


「ぐぅぅ!!動かん!」


 更に他の刃を回転させながら動かして奴を切りつけようとするが、奴は咄嗟に躱してみせる。


「やるな!!」


 更に刃を向かわせたり、上空から「飛刃」を振らせたりして、攻撃を続けるが、奴は自分の魔具から出る黒炎や「飛刃」を駆使して何とか致命傷を回避する。


「ハァハァハァ!!」


 荒い息を吐きながら奴はこちらに向けて構えを取る。


「魔具がネームドに成り、私自身もネームドモンスターに成って、あの時とは段違いの強さに成った筈だが、まだまだそちらが上手か!?」


 悔しそうに奴は此方を見る。


「悪いが栗原巡査部長の治療もしたい。とっとと終わらせるぞ!」


「できれば時間を稼ぎたいところだな!時間が経てば経つ程貴様は不利になる」


「どういう意味だ!?」


 時間が経てば俺が不利になる?何で!?


「マッドゴブリンとその上位種は体の中に細菌と毒を持っている。死ぬ時に辺りにそれらが血などと一緒に撒き散らされ、相手の体調を悪化させる。まあ、置土産みたいなものさ!」


「なっ!!」


 奴の言葉に俺は愕然とした。だから栗原巡査部長が突然倒れたのだ!全て納得がいった!!


「あれ!?」


 俺の方が栗原巡査部長より明らかに倒した敵の数が多いぞ?当然マッドゴブリンも。血などで周囲に広がるなら俺の方が先に倒れるのが自然だ!


「俺には効かない!?」


「たぶん、「超人化」の効果だよ!」


 方に座ったアホ妖精が話し掛けてくる。


「「超人化」は毒とかへの耐性と免疫力も上がるから!」


 なるほど!それで大丈夫なのか!少し安心した。


「なら心置きなく殺るか!!」


 俺は俺は刃を的に向かって降らせる。


「今度こそ倒す!!」


 奴も魔具を構えて俺に向かってくる。


「はぁ!!」


「このぉ!!」


「グァァァ!!」


「おのれ!まだまだ!!」


 さっきから奴は宙を飛び回る刃に何とか対処しようとしているが、完全に防げては居らず、そこら中に切り傷が出来、限界が近そうだ。


「ゼハァー!ゼハァー!」


 荒い息をしている元ボス。限界は目前だろう。


「ちょっと奮発するか!!」


「なっ!なにぃぃぃ!!!」


 さっきまで使ってた刃の倍以上の数を新たに空中に浮かべると、元ボスは絶望的な表情になる。


「コレで終わりだ!!」


「くそぉぉぉ!!!」


 避けられないと悟ったのか?怒りの形相で迫りくる刃を見ながら絶叫する元ボス。


「終わり!ん?」


 刃が元ボスに当たる時、不思議なことが起きる。辺り一帯がいきなり桃色の空間になり、元ボスや魔物の躯も何処かへ消えた。


「何だ!?コレは!!」


 慌てて辺りを見回すが、此処が何処かも分からない。


「蓮!」


「栗原巡査部長!気がついたのか!」


「れん!」


 甘えた声で俺の首に腕を回して抱きついてくる栗原巡査部長。ヤバイ!!何か甘い匂いするし!小ぶりだが、確かな柔らかさを感じる物が胸板に当たってる!


「れん!!」


 更に頬を擦りつけてくる栗原巡査部長。おかしい!一瞬動揺したが、冷静になるとおかしい。栗原巡査部長は俺と2才しか歳が違わない19才とは思えない程しっかりしているし、更に言えば、言動は機械のように冷たい。こんな行動を取るはずがない。


「何かされたな!」


 この状態が拙い物だと感じた俺は栗原巡査部長を極力意識しないようにしながらそこらじゅうに攻撃をバラ撒くことにする。


「サンダーバレット」


 自分を取り囲んだ刃から雷の弾丸をそこら中にバラ撒く。強い攻撃にしなかったのは周りがどういう状況か解らないからだ。


「痛った〜」


 耳慣れない女性の声が聞こえると同時に、桃色の空間は元の洞窟に戻っている。


「何だお前!?」


 目の前には大怪我をして、苦しそうに呻く元ボスを抱えている女性の姿が有った。


 しかしコイツ凄い格好をしている。まだ下着の方が卑猥では無いだろう。背中には蝙蝠のような翼が生え、先っぽが、スペードのマークの様な形に成っている尻尾も付いている。頭部には羊の角だ!


「私はサキュバス」


 サキュバス!!道理で!


「驚いちゃった!私の作った「淫欲の幻影」をこんな無茶苦茶な方法で攻略するなんて!!」


 サキュバスは常に余裕がある態度を崩さない。直接の戦闘はそこまででも無さそうだが、さっきのみたいなのをやられると、スキを突かれる可能性があるな!


「逃げさせて貰うね!」


 会話の最中に徐々に薄くなっていた彼女と元ボスは、霧のようにその場から姿を消した。


「逃げられたか!まあ良い」


 あいつが今のボスじゃないなら倒す必要は無い。


 俺は栗原巡査部長を抱えたまま進み。ボスの間にたどり着く。


「グォォォ!!」


「オーガか!」


「グギャァァ!!」


 「ハザン」で一刀の下に切り捨てる。


「弱いな!まあ良い」


 そのままの勢いでボスの後ろに有ったダンジョンコアも砕く。


「コレで、秘宝級(ミソロジー)だ!」


「さてと!」


 魔具の強化も出来たし、此処まで進んできたが、剣客警官隊や抜刀隊の生き残りは居なかった。とすれば、今やるべきは…


「栗原巡査部長の治療が先だな!」


 更に強力成った魔具を手に俺は急ぎ避難所へ凱旋した。


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