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独白7 ボスの事情4

 私がフリッツの名を得て、進化したことで、このダンジョンにも影響が有った。

 私の進化に合わせてランクが3になり、新たに吸魔吸血蝙蝠(ドレインバッド)が出現するようになったのだ。 

 この魔物は姿形は普通の蝙蝠よりも1周り大きい程度で、それ以外に取り立てて特徴も無いが、血とマナを吸い取ると合って、群れで襲って来られると強者でも中々に鬱陶しい魔物である。

 アレから度々起こるブラッドファングウルフとの戦いでも役に立ってくれる。2頭一遍に来たときなど、私が1頭倒している間に、マッドゴブリン・ペイトリアルクが魔具を使って抑え、そのスキに吸魔吸血蝙蝠(ドレインバッド)が血とマナを吸うという連携攻撃でもう1頭を倒した事もあった程だ。正面からの戦闘には向かない種族だが、この魔物のおかげで戦力は大幅に増強した。


 さて、他にも増加した戦力が有る。それはゴブリンやインプの上位種の誕生だ。両種族とも繁殖力が旺盛な事もあり、ものすごい勢いで増えるので、必然的に低確率で生まれる上位種の数も多くなる。


 まずはゴブリン達だが、ゴブリンやファットゴブリンの番の間にホブゴブリンやゴブリナが生まれた。

 以前は私もホブゴブリンだったが、ダンピュールとなった今、彼等の戦闘能力はあまり高くないと思ってしまう。ゴブリナもメスのホブゴブリンの事なので同様だ。それでも彼等はダンジョンの事を真剣に考えてくれているし、彼等にしか出来ない仕事も有るので大変ありがたい存在だ。


 次にマッドゴブリンやファットマッドゴブリンの番の間にも変異種であるホブゴブリンバーサークやポイズンゴブリナが生まれた。彼等は普通のホブゴブリンやゴブリナよりも戦闘能力が高く、毒まで持っているのでとても心強い者達だ。


 最後にインプやインプの進化個体であるラストインプや最終進化個体であるレッサーインキュバスとレッサーサキュバスの番の間にも上位種が生まれた。インキュバスとサキュバスである。直接の戦闘能力は人間に毛が生えた程度だが、夢と幻を操る彼等はまた違った厄介さが有る。

 インキュバスとサキュバスは人間と性○渉することで、相手の生命力を吸い取ることもできるが、今の状況では人間側に騙されるだけの余裕は無いだろう。


 このようにダンジョンは順調に戦力を増し強くなっている。しかし、全てが順調とはいかない。少し困った事もある。1つは正面から敵と戦える戦闘能力が高い種族が居ないこと。ドレインバッドやインキュバス、サキュバスは後方支援や撹乱要因であって前線の戦闘要員ではない。ホブゴブリンバーサークは高い戦闘能力を持っているが、1対1ではブラッドファングウルフに簡単に蹴散らされてしまう。

 だが、この問題はいずれ解決するはずだ。此処がオーガ系のダンジョンである以上、いずれはオーガが現れるようになるからだ。

 だが、今もう1つの問題に直面している。それは…


「ギギギィ」


「ギギィギギギィ」


「何と言っている?」


「はい。キノコの生産は順調。ファングウルフの干し肉も十分に蓄えが有るとのことです」


「そうか。ご苦労だった。ねぎらいの言葉を伝えて下がらせてくれ」


「は。ギギギィ」


「「ギギィ」」


 部屋から出ていくゴブリン達を見送った後、横に控えたホブゴブリンに愚痴る。


「まいったな。まさかゴブリン族の言葉が解らなくなるとは」


「種族が変わってしまったのですから仕方ありますまい。幸いホブゴブリンやゴブリナ、それにマッドゴブリン・ペイトリアルクは人語を解するので通訳は可能です」


「そうだな。余計な手間を取らせる。すまない」


「お気になさらないで下さい」


 そう、困ったことに私は同族達の言葉が分からなくなってしまっていたのだ。この事に気がついたのは進化が終わったすぐ後の事、ゴブリン達命じてみるも彼等は首を傾げるばかりで此方の意図は伝わらず、また、彼等の言葉も「ギギギィ」と言う鳴き声にしか聞こえなくなっていたのだ。

 最初こそ戸惑ったが、今では理由が分かっている。私が完全にゴブリン族では無くなったからだ。

 今までの私はグールとは言え、ホブゴブリンの死体から成ったグールだった。つまり、まだゴブリン族だったのだ。しかし、ダンピュールになってしまった事で、完全にゴブリン族ではなくなった。そのためゴブリンの言葉が理解できなくなってしまったのだ。


「あ!また落ち込んでるんですか?一々気にしなきゃ良いのに」


「五月蝿いのが来たな」


「五月蝿いのって!酷くありません」


 このサキュバスは何かと絡んでくるのだ。今もボスの間に断りもなく勝手に入ってきた。私のダンジョンでそんな非常識なことをするのはこの女だけなのですぐに誰が来たか解った。


「許しもなく勝手に入ってくるなと何時も言っているだろう」


 まあ、こう言いながら罰しない私にも非はあるか。どうにもコイツと居ると毒気が抜かれるので罰する気に成れないのだ。


「何の用で来た?」


「マッドゴブリン・ペイトリアルクが呼んできて欲しいって」


「何?」


「本来こっちから出向くのが筋だけど、1刻を争うし、襲撃が有れば入口付近で食い止めたいからって言ってた」


 彼女の言葉に先程まで緩んでいた空気が引き締まる。マッドゴブリン・ペイトリアルクは目の前に居る破天荒な女とは違い、礼儀を重んじる。それが私の下に報告に来るのではなく、私を呼ぶというのだからよほどの事態だ。


 私はすぐにボス部屋を飛び出して出入り口付近に向かった。


「フリッツ様。お呼びだてして申し訳ありません」


「構わん。何があった?」


 マッドゴブリン・ペイトリアルクの顔色は青く、何か良く無いことが起きているのは明らかだ。


「偵察隊の第8班がこの付近で黒王狼を目撃したそうです。頻りに周囲を探って獲物を探している様だったと」


「黒王狼だと!」


 黒王狼。その名は偵察隊から聞いている。巨大な鉄の車や空飛ぶ鉄の塊など、驚愕の兵器を装備した人間の軍団がまるで刃が立たなかった個体だ。


「はい。まだ、此処に来ると決まった訳ではありませんが、奴らは鼻が効きますので」


 頻繁に外に出る偵察部隊の臭いを辿られたらアウトだ。此処に黒王狼が来ることはほぼ確定だろう。


「魔具を持った10体を中心に、上位個体を全て出入り口付近に集めろ。それ以外の個体もボス部屋の防衛と最低限の作業をする個体だけを残し、全て出入り口付近に集めてこい」


「はっ!」


 私の指示を聞いたホブゴブリンが駆けていってすぐに大量の個体が集まってくる。

 今ダンジョンに居る全ての種族の魔物達、総数200万。数だけは立派だ。


「これだけ居ても黒王狼を退けることが出来ない可能性が高いな」


「弱気になられるな。黒王狼も所詮我らと同じ魔物、倒せる相手です」


「分かっている」


 マッドゴブリン・ペイトリアルクの励ましの言葉を聞いて、気力を振り絞り、戦闘準備を終えた時、ついにそれはやって来た。


「こっ黒王狼だっギャァァァァ」


 見張りをしていたホブゴブリンの悲鳴が響き渡る。


「来たか?」


 私はすぐに魔具を持っている者達を引き連れて向かう。そして出会った。黒王狼に。


「こっコイツが黒王狼!」


「何と言う威圧感だ」


「ありえない。魔物としての格が違う」


 皆が怯える中果敢に黒王狼に飛びかかる者達が居た。


「ギギィィィィィ」


「「「ギギャァァァ」」」


 ホブゴブリンバーサークとマッドゴブリンの一段が黒王狼に襲いかかる。


「グルゥ。ガゥ」


「「「ギギャァァァァ」」」


「グガァ」


 その前足のひと振りだけでホブゴブリンバーサークは上半身だけ吹き飛ばされ、マッドゴブリン達は潰される。

 駄目だ。勝てるわけがない。


 しかし、マッドゴブリンやホブゴブリンバーサークは諦めずに次から次へと群がり、殺されていく。


「ワオォォォォン」


「グワァ」


「「「ギギャァァァ」」」


 いい加減鬱陶しくなってきたのか、咆哮で群がるマッドゴブリンを肉片にして吹き飛ばす。


「「「ギギィ」」」


 それでも諦めずに次から次へと群がり、ドレインバッドも血を吸おうと群がる。


「部下達だけ死なせる訳にはいかん。私も戦うとしよう」


「待って」


 覚悟を決めた時、あの五月蝿いサキュバスが私の行動を静止する。


「何の真似だ?」


「今行っても無駄死にだよ」


「解っている。だが、万が1の可能性にかけて挑むしか無い」


 私の覚悟に対して彼女は眉を釣り上げる。


「状況よく見ろバカ。マッドゴブリン達の細菌に黒王狼が侵されてから戦った方が良いでしょ」


 言われて気づく。黒王狼は彼等の血を浴び、彼等を食いちぎっている。それは病原菌を浴び、病原菌を喰らっているのと同じだ。


「チャンスが来る?」


 それからしばらくして、マッドゴブリン達が残り少なくなると同時に、私達上位種は黒王狼に攻撃を仕掛ける。


「「「ハァァァァ!!」」」


「ワオォォォォン」


「「ギャァァァ」」


 咆哮で砕かれ、前足で踏み潰され、牙で喰いちぎられ、それでも私達は諦めなかった。なぜなら黒王狼の動きが最初に比べて明らかに鈍っていたためだ。


「畳み掛けろ」


「「「おおおおおぉぉぉぉ」」」


 私の掛け声で皆が一斉に攻撃し、黒王狼に大きなスキができる。


「此処だ!!」


 私は1瞬のスキを逃さず、黒王狼の皮膚を『黒炎剣』で焼き切ると、『ポイズンクリエイト』で作れる最もキツイ毒を生成した『ヒュードーラ』をその傷口に突き立てる。


「ギャウン」


 痛みに悲鳴を上げる黒王狼。でもまだ終わらない。


「体内で暴れまわれ」


「ワゥ?グルゥ!!ワオォォォォン」


『ポイズンルール』を発動して体内で毒を暴れ回らせ、体内中を毒に侵させ破壊する。


「クゥン」


 毒の効果に耐えられなかったのだろう。黒王狼はその場で倒れ込み目を見開く。


「やったか?」


 確認するために恐る恐る近づいたホブゴブリンが確かに死んでいる事を確認してこちらに近づいてくる。


「勝ったのか?」


「ええ」


 そう勝ったのか。私は安堵で力が抜けその場に座り込む。


「やったじゃん」


 五月蝿い奴が近づいてくるがそれさえも今は心地よく感じる。


「これ」


 サキュバスは魔石を渡してくる。強力な魔石だ。黒王狼の魔石なだけはある。


「勝者の証だな」


 私はそれを早速口に入れる。


「コレは!!」


 種族が進化しただけなのでアカシックレコードからの通達はない。しかし、私は自分がヴァンパイアに進化したと確信した。


「この力が有れば、あの人間にも」


「ギギィ」


 大きな力に喜んでいるとマッドゴブリンが慌ててやって来る。


「どうした?」


「ギギギィ」


「何と?」


「は、どうやらボス部屋で新たな魔物が生まれる兆候が有ると。新たなボスの誕生です」


「何?」


 それはめでたい。これで私も晴れてエリアボスに格下げだ。


 私は急いでボスの間に戻ると、既にそれは始まっていた。部屋の中心に強大な魔素が集まり、それが形を取っていく。ダンジョンのランクが4に上がり、レベルは一気に5まで上がる。


 新たな魔物としてレッサーオーガもダンジョンに現れる様になる。そしてついにその瞬間が訪れる。魔素が弾け、其処に新たなボスが生まれた。


「立派なオーガだ」


「ええ」


「この方が新しい我らのボスだ」


 新たなボスが生まれ、このダンジョンはより強く進化した。




 


 


 

 

一応節分なんでオーガ誕生回をやりました。


むしろ逆。


 2回続けて本編じゃなくてスイマセン

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