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独白6 ボスの事情3

 ダンジョンのボスと聴くと、いかにも最後の部屋で襲撃者を待ち構えているだけの楽な仕事に聞こえるかもしれないが、実際には大変な仕事だ。

 

 まず、第1に仕事の量が多い。ダンジョンに済む魔物の今後を定める方針を立てることはもちろん、魔物たちが一致団結してダンジョンを盛り立てていけるようにルールを作らなくてはいけない。これが何気に大変で疎かにするとダンジョンは内側から崩れる。ファングウルフ達のような、完全に獣と同じ思考をした魔物達ならば逆に複雑なルールは要らないのだろうが、下手に知恵が働くゴブリンはキチンとルールを決めないと大変なことになる。

 次に常に強敵と戦わなくてはいけないという苦労が有る。ボスはダンジョン内で自然に生まれる魔物の中では最強の個体で有るため、まだ戦力が整う前はどうしても強い敵に対して私が出て対処する必要が有るのだ。正直死線を潜ったのは1度や2度では無い。実際に1度死んでアンデッドになっているわけで、コレは精神的にも肉体的にもかなりの疲労になるのだ。

 とは言え、やはりやり甲斐は有る。実際に私の采配の下、このダンジョンは日に日に強くなっている。その実感が持てるからこそ、今もこうして配下のゴブリンから報告を受け、今後のダンジョンの運営方法を検討している。


「ギギギィ」


「ふむ。キノコや苔の栽培は予想以上に順調か。しかし、消費量も予想以上だな」


「ギギィギィ」


「いや別にお前を責めてはいない。お前たちは皆良くやってくれているさ。コレばっかりは仕方がない」


「ギギィ?」


「ああ。こうも速くダンジョンのランクが上がるとは予想できなかったかからな」


 度重なるファングウルフの襲撃は多くの同胞の命を奪ったが、同時に多くの恵みをこのダンジョンにもたらした。


 1つは魔石。ファングウルフの魔石が大量に手に入ったことで多くの者が、ファットゴブリンやファットマッドゴブリンに進化できた。更に1体、マッドゴブリン・ペイトリアルクに進化した個体まで居る。最初にファングウルフの牙と骨を加工しだした彼だ。


 2つ目の恵みは毛皮や牙等の素材である。ファングウルフは捨てる所が見つからない魔物だ。牙や爪、骨は加工して武器にできる。毛皮は衣類にできる。そして肉は栄養科の高い、最高の食料だ。


 3つ目の恵みはファングウルフ達の命である。襲撃者を返り討ちにし、ダンジョン内でその命を奪うことで、ダンジョンはその命を吸い取り、自らの糧としてランクを上げる。こんなに早くランク2になったのもファングウルフのおかげである。


 このようにファングウルフの襲撃は我らにとって脅威であると同時に恵みでも有る。しかし、ランクが上がったことで、思わぬ問題も発生していた。それは…


「キキキッ」


 ゴブリンよりも高い声でなく小柄な魔物が目の前を飛んでいく。そう、インプ達である。ダンジョンがランク2になり、新たに生まれるようになった魔物がインプだったのだ。

 ゴブリンとは違い、薄い焦げ茶色の肌をしているインプはその背中にコウモリのような羽を生やしており、自由に宙を舞う。大きさはゴブリンよりも1周り小さく、力も弱い。特徴と言えばその体液がありとあらゆる生物を発情させる効果が有るということくらいだ。

 力が弱いとは言え、新たな仲間が増えたのは嬉しい。しかも飛行できる魔物だ。何かと活躍する場面も有るだろう。しかし困った事も有る。それは彼等がゴブリンよりも繁殖力が高いと言うことだ。その繁殖力は留まることを知らず、既にインプの個体数はゴブリンの個体数を上回りつつ有る。


「何か対策を講じなければ、近々食料は底を尽きる」


 気持ちは焦るが、何か有効な対策案が有るわけではない。


「ギ、ギギギィィ」


「ん?」


 考え事をしている私のもとに大慌てでゴブリンが駆け寄ってくる。この様子はただ事ではない。よほど強力な襲撃者が来たのだろう。


「ギ、ギギィ」


「大きな赤いファングウルフだと?」


「ギギ」


 ゴブリンから伝えられたのは今までに見たことも聞いたこともない侵入者だった。


「てっきり、あの人間かと思ったが」


 とりあえず、敵は今も暴れているのだ。速く向かわなくてはいけない。


「こ、コレは!」


 広くなったダンジョン内を走って入り口付近に到着すると、私は思わず絶句してしまう。其処には数える気になれない程の仲間の死体が散乱していた。ゴブリンやマッドゴブリン、インプはもちろん。ファットゴブリンやファットマッドゴブリンの死体も有る。

 死体が地面を埋め尽くしており、岩が見えない。


「ボス。お下がり下さい。コレは危険です」


 声を掛けてきたのはマッドゴブリン・ペイトリアルクだ。このダンジョンでは、ボスである私以外に、唯一喋れる魔物だ。


「逃げても意味はない。アレは危険すぎる。此処で討伐する。手伝え」


「しかし」


「此処で逃げてもどうせアイツは奥に進んでくるだろう。そうなれば遅いか速いかの違いでしか無い」


「承知しました」


「ん」


 彼の返事を聴くと同時に、頷きながら私は駆け出す。まず喰らわせるのは


「はっ」


 裂帛の気合と共に、紫の剣で|赤い、大型ファングウルフ《後で分かったが、ブラッドファングウルフと言うらしい》に切りかかり、その身に傷を付ける。当然この時に『ポイズンクリエイト』で毒を精製しておくことも忘れない。


「ワオォォォン」


「ぐわぁ」


「ボス」


 毒に苦しんで身を攀じるブラッドファングウルフを見て、スキだと感じ、すぐさま追撃に掛かろうとするが、逆に『咆哮』で吹き飛ばされる。


「グゥゥ」


 あまりにもの衝撃にすぐに起き上がることも出来ず、地を這いながら呻いてしまうが、ブラッドファングウルフからの追撃はない。


「どういう事だ?」


「ボス。ご無事で?」


 駆け寄ってきたマッドゴブリン・ペイトリアルクに肩を貸してもらいながら起き上がると、どうやらブラッドファングウルフは何かに苦しんでいるように頭を振っている。


「どういう事だ?」


「多くのマッドゴブリンやファットマッドゴブリンが奴に食い殺されましたし、多くのマッドゴブリンやファットマッドゴブリンの血を奴は浴びましたので、相当毒が回っていると思います」


 なるほど。コレまでに殺られた者達も無駄死にでは無かったと言うことか。


「時間が立つに連れて奴はどんどん毒で弱っていきます。とりあえず、時間を稼ぎましょう」


「分かった」


 マッドゴブリン・ペイトリアルクの意見を是として、戦闘を再開したが、正直時間が経つのがとても遅く感じる。敵の1撃1撃は重く、1発でも当たれば終わりだ。そのプレッシャーが肉体的にだけでなく精神的にもダメージを与えてくる。


「耐えなければならない。耐えきれば」


 真横で戦ってきたファットゴブリンが『咆哮』で吹き飛ばされて、グッタリと倒れ込む。辺りを飛び回りながら小さな槍でブラッドファングウルフを突いていたインプが上半身を食いちぎられる。ゴブリンやマッドゴブリンが踏み潰され、ファットマッドゴブリンでさえ、その爪と牙の前では赤子に等しい。


 同胞たちが死に絶えていく絶望的な戦況。しかし、私は見逃さなかった。毒が体中に回ってきたブラッドファングウルフがクラリとよろけるのを。


「貰った」


 私は全力で駆ける。速く、一刻でも速く、敵に接近する。同胞たちの命に変えて作ったチャンスを無駄にはしまい。


「でりゃぁ」


「ギャウン」


 深々とブラッドファングウルフの喉に剣が突き刺さり、ブラッドワングウルフは弱々しい声を上げてたおれこむ。


「クック〜ン」


 1度苦しそうに鳴いた後、体を痙攣させて動かなくなるブラッドワングウルフ。


「勝った?」


「やりましたボス」


「やった。勝ったぞー」


 思わず歓声を上げてしまうほど嬉しい。私達は生まれて初めてブラッドワングウルフを退けた。


「さてと。魔石の配分だが」


 どうしようかと考える。今回敵は1頭なので、当然魔石は1個だが、仲間から受け継ぐ大量の魔石は分配できる。


「功績が有った者から順に」


「全てボスがお使い下さい」


「何?」


 マッドゴブリン・ペイトリアルクのまさかの提案に言葉を失う。


「それは出来ない。功績によって分ける」


「何故ですか?とどめを刺した者が総取りでしょう。とどめを刺したのはボスです」


「しかし、他にも功績の有った者が」


「ボス。こんな状況だからこそ、ボスが圧倒的に強いことに意味が有るのです」


 マッドゴブリン・ペイトリアルクに促されて、私は全ての魔石を私の取り分とする。


 まずはブラッドワングウルフの喰らう。すると、頭の中に声が響く。


“アカシックレコードより通達.一定の条件を満たしたグールの個体に銘『フリッツ』を与える。これにより個体に銘『フリッツ』の種族がダンピュールに進化通達終了”


 更に同胞たちの魔石を魔具に与えて強化する。


“アカシックレコードより通達.一定以上の魔素を吸収した魔具に銘『ヒュードーラ』を与える通達終了”


“アカシックレコードより通達.一定以上の魔素を吸収した魔具に銘『ダーク』を与える通達終了”


“紫の剣の性能”


  銘:ヒュードーラ


所有者:フリッツ


 ランク    :特殊級<ユニーク>


 ウェポンスキル:飛刃(強)       コスト3

         自動修復(中)     コスト2

         身体強化(強)     コスト3

        (空きキャパシティー5.5)


 ウェポンスペル:ポイズンクリエイト(中)コスト6

         ポイズンルール     コルト5

        (空きキャパシティー2.5)


 バフ     :身体強化(強)     コスト3

         加速(弱)       コスト1

         毒耐性(弱)      コスト1

         サモン         コスト1

        (空きキャパシティー7.5)


 マナ充填率  :100%


“黒い剣の性能”


  銘:ダーク


所有者:フリッツ


 ランク    :特殊級<ユニーク>


 ウェポンスキル:飛刃(強)       コスト3

         自動修復(中)     コスト2

         身体硬化(中)     コスト2

        (空きキャパシティー6.5)

        

 ウェポンスペル:身体強化(強)コスト3

         黒炎剣 コスト10

        (空きキャパシティー0.5)


 バフ     :斬撃強化(強)コスト3

         超回復    コスト3

         擬態     コスト5

         サモン    コスト1 

        (空きキャパシティー1.5)


 マナ充填率  :100%


 思わず口元が緩む。ネームドになり、種族まで進化した。これだけでも相当力は増したが、更に魔具までネームドになり、ランクまで上がった。


 次は負けない。あの人間が来ようとも必ず返り討ちにする。新たに得た力でこのダンジョンを守り抜けると確信を持ち、私は決意を新たにした。

 



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