第33話 銀の最後と称号
本編です。
目の前に立ちはだかる銀王狼・シルベルのプレッシャーに足がすくむ、こんな化物勝てるわけがない。
「死ね」
「うわぁ」
物凄い勢いで飛びかかってきたシルベルを躱して、更に上空へ駆ける。
「物凄いジャンプ力だな。くそっ」
結構な高さの場所に居たはずだが、そこまで登ってこれるとは予想外だ。
「ゥワオオオォォォォン」
「げっ、まじかよ」
銀王狼からの衝撃波をなんとか身を翻して躱す。
「ヤバイな」
咆哮による衝撃波は、範囲が広がった上に速度まで上がっている。さっきはなんとか躱せたが次は分からない。
「チョコマカと。何処までも癪に障る奴だ」
吐き捨てるように呟くと、再び此方を見据える。
「喋れるように成ったかと思えば、随分と口が悪いなっ」
「ふん」
空中から『飛刃』を放つが、尾のひと振りでかき消されてしまう。
「おいおい」
本当にどうしようこの化物。勝てる気がしない。ちょっと泣きそうになりながら『刃操』で刃をぶつける。
「ゥワオオオォォォォン」
「くそっ」
衝撃波で刃を全て破壊され、更に俺自信にも余波が及ぶ。
「どうしようもねえな」
全ての攻撃が効かない。もしかしたら刃の隕石を命中させることができれば可能性は有るが、現状ではそれもできそうにない。
「手を貸すぜ蓮」
なんとか打開策は無いかと考えていると浅野が大声を出して走ってくる。
「待て浅野。来るな」
いくら何でも無謀だ。浅野がシルベルとの戦闘で戦力になるはずがない。
「愚かな」
シルベルは浅野に気づくと、衝撃波を放とうと構える。
「待て」
慌てて止めに入ろうとする俺に浅野はニヤリと笑った。
「慌てんな蓮。ちゃんと考えが有る」
「死ね」
シルベルが今まさに衝撃波を放とうとするタイミングで浅野はスマフォ・『ピュータス』を突き出す。
「喰らいやがれ超音波」
浅野の言葉と同時にスマフォが少し振動する。変化はそれだけ。特に何かど派手な攻撃が出たわけでもない。しかし、その効果は絶大だった。
「ぐぅ」
シルベルは苦しむように唸りながら頭を振って後ずさる。衝撃波を撃つことも叶わなかった様だ。
「ネームドに成ってスペックが上がってるって事は耳も良くなったって事だ。超音波は以前にも増してよく訊くな」
そう言えば前回戦った時も浅野の超音波は役に立ったな。
「おのれ」
忌々しげに浅野を見るシルベル。しかし、更に別方向からシルベルへ攻撃が襲いかかる。
「『カースボール』」
愛理の声と共に放たれた赤紫色の球体がシルベルに直撃する。
「おのれクズが」
「なんとでも言え駄犬」
愛理、口が悪いぞ。義兄としてちょっと心配になってくるが、そんなことお構いなしに愛理は『カースボール』を連発する。
「所詮この程度か?虫ケラ」
数十発の『カースボール』を受けるもシルベルには全く効果が無い様で平然としている。
「まだまだ行くよ」
それでも愛理はお構いなしに『カースボール』を撃ち続ける。
「効かんと言うのがまだ分からんか?目障りだ」
流石にウザくなってきたのか?シルベルはアイリに向けて衝撃波を放とうとするが、その動作は鈍く、愛理は難なく回避する。
「何?」
「どうなってるんだ?」
愛理に苦もなく避けられたことにシルベルが驚愕し、俺も驚く。
「浅野」
「了解」
愛理の呼びかけに応じて、浅野が再び超音波を放つ。
「グゥ」
シルベルが唸りながら顔を逸した瞬間に、浅野は『サンダーボール』をぶつける。
「クズどもが」
ダメージは殆ど無くとも癪に障った様で、シルベルは浅野に衝撃波を放つが、愛理の時と同様にその動作は鈍いので浅野は難なく躱してしまう。
「おにぃ大丈夫?」
浅野がシルベルを引きつけている間に愛理が俺の下へ駆け寄ってくる。
「ああ。大丈夫だ」
「良かった」
愛理は俺に大きなダメージは無いと聞いて安堵の表情を見せる。かわいい。
「暫く浅野くんと私で惹きつけておくから、おにぃは勝つ準備をしよう」
「愛理と浅野で惹きつける?」
浅野とシルベルの方を見るとまだ戦いは続いている。浅野の攻撃はまるで効いていないが、シルベルの動きがものすごく鈍いので、攻撃を回避することには成功していた。
「どういう事だ?どうしてあんなに鈍く?」
さっきまでのシルベルの動きとは明らかに違いすぎる。
「ふふん」
俺の呟きを聞き、愛理が自慢気に胸を張る。
「『カースボール』のバッドステータス。幾つか有るけど、その1つで、当たった相手の動きを少し遅くできるの」
なるほど。確かにシルベルは何十発と『カースボール』を受けていた。ダメージは無さそうだったが、バッドステータスの影響はちゃんと受けていたわけか。
「どう?凄いでしょ?」
「ああ、本当に凄いな。助かったぞ愛理」
嬉しくなって愛理の頭を撫でると、愛理も可愛らしく微笑む。ああ、本当にかわいい。
「無駄な事に時間を掛ける余裕はないはず。すぐに作業に入るべき」
愛理の頭を撫でていると、いきなり冷たい声がかかる。
「栗原巡査」
声の主は栗原巡査だった。右手に刀剣型の魔具を持ち、左手には…
「タスケテー。嫌や。こんな危ない所きとうない。ワイはまだ死にとうないんや」
左手は暴れるモグラを鷲掴みにしていた。
「わがまま言わない」
「ワガママや無い。自分の命守ろうとするんは生物の当然の権利や」
「どうせ此処で大神蓮が銀王狼に負ければ、貴方だって後で喰われるだけ」
栗原巡査はモグラの訴えを取り合わずに、俺の下へ近づいてくる。
「『ハザン』をモグラに渡して。超希少級<ハイレア>にする」
「は?どういう事だ?」
簡潔な栗原巡査の言葉の意味が理解できずに聞き返す。
「私の魔具『白雷』はレアの魔具。これを素材にしてハザンを強化すればハイレアになる」
「なっ?レアの魔具?そんなものどうやって?」
「説明は後」
栗原巡査の勢いに押されて『ハザン』をモグラに渡す。
「後で代金頂きまっせ」
「解ったから速く作業に入って」
栗原巡査はモグラの訴えを聞き流す。
「どれくらいで出来る?」
「30分は貰いませんと」
「10分でやって」
「そない殺生な!」
悲鳴を上げて抗議するモグラを栗原巡査は冷たく睨む。
「出来なきゃ此処で全員死ぬ。当然貴方も」
「ああもう。やけや」
栗原巡査の態度に何を言っても無駄だと悟ったのか、モグラは作業を始める。
「作業が終わるまで、私達で時間を稼ぐ」
栗原巡査は腰に挿していたもう1本の刀を抜く。
「剣客警官隊の生き残りは私を含めて4人。そこに大神愛理と浅野健介を入れた6名で時間を稼ぐ」
そう1言言うと、栗原巡査はシルベルに向かって飛び出していく。
「うわ、行っちゃった。私もいかなきゃ。じゃあおにぃ、時間稼ぎしておくね」
愛理も『紅姫』を構えて、シルベルに向かって駆け出す。
「時間稼ぎか」
『ハザン』は強化中だが、俺には他にも3つユニークの魔具が有る。
「俺も加わるべきだな」
俺は『ボルカ』を右手に持ち替えてシルベルとの戦闘に加わる。
「蓮?」
「おにぃ魔具の強化が終わるまで待っとけば?」
浅野と愛理が驚いた顔で此方を見る。
「『ハザン』が無くても他の魔具が有る。お前らよりは強い」
俺は『ボルカ』をシルベルに向けて、魔術を放つ。
「喰らえ」
「何?」
放たれたのは小さな火の玉。それほど殺傷能力が高そうでもない。その外見に疑問を感じたのか、シルベルも驚きの声を上げる。
しかし、その恐ろしさはすぐに全員が理解することになる。
「グァァァァ」
シルベルに火の玉が当たった瞬間凄まじい爆炎が生じ、シルベルの体を覆う。
「すげえな。これが『バーニングロア』」
『ボルカ』が進化したことで得た炎熱魔術。その中で一番威力が高い『バーニングロア』を放ったわけだが此処までとは思っていなかった。一応『熱変動』によって爆炎の温度も可能な限り上昇させていたので中々のダメージになっただろう。
「凄いよおにぃ。こんな能力も有ったんだ」
「行くぞ」
『ハザン』無しでも高威力の攻撃が出来る事実に愛理以外も驚きを顕にする。全員にさっきまで有った悲壮感が消えている。この雰囲気なら行けそうだ。
「10分時間を稼げば俺が仕留められる。それまでの辛抱だ」
「「「おお〜」」」
俺の言葉に全員が声を上げて答え、シルベルに向かっていく。
「倒そうと思うな。自分が殺られないようにしながら時間を稼げ」
全員でヒットアンドアウェイを繰り返して時間を稼ぐ。どうせ訊く攻撃のほうが少ないのだ。仕方ない。
「『カースボール』」
愛理も『カースボール』を更にぶつけてシルベルを鈍くしていく。バッドステータスは一定の時間で切れるので、当て続けないと、最初の方に当てたやつが切れて、速度が徐々に戻ってしまうそうだ。
「どんどん行け」
「「「おお〜」」」
皆で勢いを出して戦闘を続ける。しかし
「ハァハァ」
「畜生。キツイな」
徐々に此方側のメンバーの体力に限界が見えてきた。いくら相手が鈍いとは言え、1発でも喰らったら即死する威力の攻撃を避け続けるのは恐ろしく神経を使う。
「後どれだけだ?」
そろそろ拙いかと思い始めた時、モグラが後方から大声で知らせてくる。
「蓮はん。出来ましたで。完成や」
モグラの言葉に思わず笑みが浮かぶ。
「よし、『サモン』。来い『ハザン』」
『サモン』の効果によって俺の手元に見慣れたカッターが現れる。更に力を増して。
“カッターの性能”
銘:ハザン
所有者:大神 蓮
ランク :超希少級<ハイレア>
ウェポンスキル:自動修復(極) コスト5
刃操 コスト3
自動魔力回復(大) コスト6
飛刃(強) コスト3
風操(中) コスト6
気体制御(中) コスト10
天候操作 コスト20〈New〉
(空きキャパシティー68.5)
ウェポンスペル:身体強化(極) コスト5
チェンジサイズ コスト1
エンチェント コスト2
風魔術1種(強) コスト40〈New〉
『内容:ウインドボール
ウインドショット
ウインドジャベリン
アクセルウインド
ウインドカッター
ウインドハンマー
ウインドウォール
インビィジブルショット
ウインドスキン
エンチェントアクセルウイン
トルネード
トルネードジャベリン
トルネードキャッスル
クイックアクセル
ウインドロード』
サンダーバレット コスト3 〈New〉
オリハルコンエンチェント コスト20 〈New〉
(空きキャパシティー50.5)
バフ :身体強化(極) コスト5
腕力強化(極) コスト5
サモン コスト1
超人化(大) コスト9
斬撃強化(大) コスト3
硬化(大) コスト6
超回復 コスト3
(空きキャパシティー89.5)
マナ充填率 :100%
うん。よし。落ち着け俺。まだ慌てる時じゃない。
「どうしたのおにぃ?いきなり固まって」
かわいい愛理が心配そうに此方を見ているがそれどころじゃない。俺は今何をしていた?よく思い出せ。そうだ。確かモグラに『ハザン』をランクアップさせて貰ったから、その確認をしていたんだ。
肝心の『ハザン』の性能はどうだったか?もう1度確認してみよう。
“カッターの性能”
銘:ハザン
所有者:大神 蓮
ランク :超希少級<ハイレア>
ウェポンスキル:自動修復(極) コスト5
刃操 コスト3
自動魔力回復(大) コスト6
飛刃(強) コスト3
風操(中) コスト6
気体制御(中) コスト10
天候操作 コスト20
(空きキャパシティー68.5)
ウェポンスペル:身体強化(極) コスト5
チェンジサイズ コスト1
エンチェント コスト2
風魔術1種(強) コスト40
サンダーバレット コスト3
オリハルコンエンチェント コスト20
(空きキャパシティー50.5)
バフ :身体強化(極) コスト5
腕力強化(極) コスト5
サモン コスト1
超人化(大) コスト9
斬撃強化(大) コスト3
硬化(大) コスト6
超回復 コスト3
(空きキャパシティー89.5)
マナ充填率 :100%
うんおかしい。レアとハイレアの差は1つのはずだ。なのにこのスペックの差は何だろうか?
「どうしたのおにぃちゃん?」
愛理が心配そうに此方の顔を覗き込む。
「ああ、悪い」
俺はなんとか落ち着こうと大きく深呼吸する。
「あんまりにも強くなりすぎてて驚いただけだ」
「「「おお〜」」」
俺の言葉を聴いた剣客警官隊から歓声が漏れる。
俺はシルベルの見やる。
「あの程度か?」
先程までの威圧感が嘘のように感じない。
「『クイックアクセル』」
新たに得た風魔法。今まで以上の凄まじい速度を与えてくれるその力により、シルベルに高速で接近すると『チェンジサイズ』で『ハザン』を巨大化させ、シルベルを真っ二つにする。
「な! 」
「馬鹿な?」
シルベルの胴体ごと、魔石すら切り裂き、『ハザン』は元のサイズに戻る。アレだけ苦労した割にはあっけない幕切れだ。
「終わりか」
「凄いよおにぃ」
「うわっ」
強化された『ハザン』の凄まじい力に何処か現実感がなく、ぼーっとしていると愛理がいきなり抱きついてきて現実に引き戻される。
「凄いよ。一撃なんて。さっきまで苦労してたのが嘘みたい」
愛理は満面の笑みで興奮気味に声を上げる。まあ興奮するのも無理はない。それほどの力だった。もう1度、手の中の『ハザン』に視線を向けると、淡く輝いているのが解った。
「ん?」
「どうしたの?おにぃ」
俺の声に以上を察した愛理が体を離す。
「いや、かすかに『ハザン』が光ってるんだ」
俺は『ハザン』を愛理に見せようとすると、頭の中に聞き慣れた声が響き渡る。
“アカシックレコードより通達.条件を満たした魔具『ハザン』に、『獣克刃』の称号を与える通達終了”
声が聞こえなくなると同時に『ハザン』の光が消える。
「おにぃ、今の?」
「ああ、まさか!」
俺は慌てて『ハザン』の性能を確認した。すると、とんでもないことが分かった。
“カッターの性能”
銘:獣克刃・ハザン
所有者:大神 蓮
特性:獣克(霊長類と哺乳類、またはそれらに酷似した形状の魔物や生態を持つ魔物に対して
ウェポンスキル・ウェポンスペル・バフの効果を3倍にする)
ランク :伝説級<レジェンダリー>
ウェポンスキル:自動修復(極) コスト5
刃操 コスト3
自動魔力回復(極) コスト8
飛刃(極) コスト5
風操(大) コスト9
気体制御(大) コスト15
天候操作 コスト20
電気操作(大) コスト9〈New〉
(空きキャパシティー376)
ウェポンスペル:身体強化(極) コスト5
チェンジサイズ コスト1
エンチェント コスト2
風魔術1種(極) コスト100
『内容:ウインドボール
ウインドショット
ウインドジャベリン
アクセルウインド
ウインドカッター
ウインドハンマー
ウインドウォール
インビィジブルショット
ウインドスキン
エンチェントアクセルウイン
トルネード
トルネードジャベリン
トルネードキャッスル
クイックアクセル
ウインドロード
テンペスト
テンペストアクセル
クイックトルネード
サイクロン
サイクロンボール』
サンダーバレット コスト3
サンダーフィールド コスト10〈New〉
アダマンエンチェント コスト10〈New〉
オリハルコンエンチェント コスト20
アイアンメイク コスト50〈New〉
(空きキャパシティー249)
バフ :身体強化(極) コスト5
腕力強化(極) コスト5
サモン コスト1
超人化(極) コスト15
斬撃強化(極) コスト5
硬化(極) コスト10
超回復 コスト3
再生 コスト30〈New〉
空立 コスト10〈New〉
大気操作(大) コスト15〈New〉
(空きキャパシティー351)
マナ充填率 :100%
「レジェンダリーに上がってる」
おそらく称号を得たから上がったのだろう。三大陸の側にも3つしか無い称号付きの魔具。銀王狼を倒すことによって俺はその絶大な戦力を手に入れた。
先程真っ二つにした銀王狼の躯を見てふと思う。紫皇狼はどれほど強いのだろうか。この力が有れば紫皇狼に対抗できるだろうか?
こうして俺達はひとまず最大の危機を脱したのだった。