第31話 狼王襲来
魔具を4つ装備し、結構厨2的なスタイルになったが、戦力は跳ね上がった。
「愛理と浅野はどうだった?」
自分の魔具を確認したので浅野と愛理に魔具の性能を尋ねる。
「すっごい事になったよ」
俺の問いかけに愛理は瞳を輝かせながら返事をし、浅野はニヒルな笑みを浮かべる。訂正、浮かべようとする。出来てないし、似合ってない。格好を付けようとしても出来ていない。やはり3枚目は何処まで行っても3枚目である。
それはともかく確認した2人の魔具の性能。まず愛理のはコレだ。
“出刃包丁の性能”
銘:紅姫
所有者:大神 愛理
ランク :特殊級<ユニーク>
ウェポンスキル:飛刃(強) コスト3
血の演舞 コスト6→1(ボーナスコスト-5)
自動修復(中) コスト2
自己治癒阻害(中) コスト4→1(ボーナスコスト-3)
(空きキャパシティー6.5)
ウェポンスペル:痛覚増大(極) コスト6→1(ボーナスコスト-5)
チェンジサイズ コスト1
カースボール コスト3→1(ボーナスコスト-2)
アダマンエンチェント コスト10
(空きキャパシティー0.5)
バフ :斬撃強化(極)コスト5
身体強化(中)コスト2
狂化(弱) コスト2
(空きキャパシティー4.5)
マナ充填率 :100%
形に特に変化は無かったが、性能は大幅に上昇していた。
相変わらず効果範囲の広い大技はないがサシでの戦闘能力がかなり強化されている。特に『アダマンエンチェント』が面白い。掛けた対称の金属にアダマンタイトの硬度と粘性を与える魔術。一度掛けると効果は24時間続くらしい。『トルネード』と同等のコストだけは有る。
後、何気に怖いのが多い。特に『カースボール』。コレは闇属性の『ダークボール』を撃ち出す魔術らしいが、普通の『ダークボール』と違い、バッドステータスを『ダークボール』に乗せることが出来る。
「どうおにぃ?すごいでしょ」
うん。確かにすごい。強くなった。でもね愛理。紅姫の能力、全体的に怖いのが多いよ。狂化は俺も自分自身のスキルに有るから何とも言えないけど、『自己治癒阻害』とか『痛覚増大』とかバイオレンスすぎるよ。
そして何より恐ろしいのが、そういった物に適性が有るらしく、バイオレンスな物には必ずボーナスコストが付いている。
「どうしたの?」
笑顔を向けてくる義妹に薄ら寒いものを感じてしまった。
「あ、ああ、凄いな。1人でも十分戦えそうだし」
「そうでしょ。お父さんとお母さんみたいな人をもう出さないように頑張るんだ」
さてお次に浅野だが、浅野の魔具の性能はコレだ。
“スマフォの性能”
銘:ピュータス
所有者:浅野 健介
ランク :特殊級<ユニーク>
ウェポンスキル:音波(強) コスト5
自動修復(弱) コスト1
蓄電(小) コスト2
(空きキャパシティー5.5)
ウェポンスペル:叡智(中) コスト5
サンダーボール コスト1
(空きキャパシティー7.5)
バフ :天眼(大) コスト5
サモン コスト1
身体強化(弱) コスト1
(空きキャパシティー6.5)
マナ充填率 :100%
うん。あんまり強くなってない。まあこんなもんだろうな。とりあえず電気の魔術が使えるようになったのと、『身体強化』が入ったから戦闘も多少は可能だろう。まあ、形もスマフォのままだし、戦闘向けじゃ無いよな。
「まあ、戦力はアップしてるよな。ん?」
とりあえずこんな所かと納得し、話を進めようとした時、白猫が慌てた様子で此方へ走ってきた。
「おい人間ども。拙いぞ」
「一体何が?」
「おにぃ。アレ」
「なっ」
愛理が指差す方を見ると、銀色の何かが遠方から此方へ近づいてきている。物凄い速度。アレは。
「銀王狼か?」
「そうじゃろうな」
「大神君。此処に居たか」
大隅警視正がこちらにやって来る。
「銀王狼と思われる個体が向かってきている。物凄い速度で」
「アレと戦闘ってなると無事じゃすみませんよね」
「剣客警官隊にもすぐに招集を掛ける。他の警官たちも戦闘準備に入った。とりあえず市民を逃がすための時間を稼いでくれ」
大隅警視正の言葉に俺は眉根を寄せる。
「時間を稼ぐ?つまり此処は?」
「放棄する」
大隅警視正は力強く宣言する。
ヤッパリか。確かにそれしか手はない。だが、此処で逃げたとして新しい避難先が無い。他の場所も受け入れるだけの余地があるか微妙だ。
「機動隊や剣客警官隊が戦うのは良いですけど、別にソイツらが殺られそうでも助けませんよ」
足を引っ張られるにだけは勘弁だから先に言っておく。なんせ剣客警官隊の魔具はまだスペシャルそこまで戦えると思わない。機動隊など言わずもがなだ。
「ああ、分かっている。さっきも言ったが市民が逃げる為の時間を稼いでくれるならそれで良い。自分の命を優先して戦ってくれ」
「ああ、そうさせてもらう。警官たちを助けることより、銀王狼を倒すことを優先する」
「なっ、それは」
「どうせ此処を放棄しても避難場所に宛はない」
俺は上空へ飛び上がり、ひたすら上へ走っていく。『風操』と『気体制御』で自身の廻りの空気を確保し、気温を安定させる。そして成層圏ギリギリへ。
「まだ避難所からは遠いな。今ならやれる。開幕の一発だ。刃の隕石を喰らっとけ」
以前作ったものと同じ、大気圏外に飛び出させた『ハザン』の刃で作った隕石。以前と違うのは『重力操作』により、威力と速度が増していること。更に『時読み』も使う。回避できないタイミングで落とす。
「耐えれるもんなら耐えてみせろよ銀王狼」
声を上げると同時に、勢いのまま刃の隕石を放つ。猛スピードで落下するのを確認すると、俺はすぐに2発目を作り始める。
「ワォォォォン」
まだ距離は大分あるが、俺の強化された聴力は狼の鳴き声を確かに聞き取る。その後、凄まじい爆風と衝撃、上空に大量の土が舞い上がり、きのこ雲が形成される。
俺はスマフォを取り出して浅野に電話を掛ける。
「もしもし。浅野」
「おう蓮。今の爆発お前か?」
流石に1度見ているだけ有って浅野はすぐに状況を理解したらしい。
「避難所の状況は?」
「いきなりあんな爆発が起きたんだ。パニックになってる。一応大隅警視正にはお前から銀王狼への攻撃だろうと言っておいたが、核ミサイルかと思ったって言ってたぞ」
核ミサイル。確かにきのこ雲ってそれを連想するよな。まあ、放射能は出ていない。そこは安心だ。断言できる。
「皆を落ち着かせるのは普通の警官にまかせて戦力を連れて爆心地まで来てくれ。此処で銀王狼を迎え撃つ」
「アレ喰らっても無事なのかよ?」
「今回も直撃はさせれなかったからな」
強化された俺の目は粉塵の中でヨタヨタしながら立ち上がり、首を振る銀王狼の姿を捉えていた。無傷では無さそうだが、死ぬようなダメージは入っていない。
「もう1発撃つ。その後は接近戦だ。大隅警視正にも伝えといてくれ」
「おいちょっと」
伝えるべきことだけ言ってさっさと電話を切ると、俺は銀王狼に視線を戻す。
位置取りは完璧。
「『トルネード』」
「ガゥ?」
銀王狼を中心にトルネードが発生する。もう逃げ場は無い。爆心地を中心に散らばった刃のカケラには、まだ『刃操』が効いている。つまり『ハザン』の1部。それらから『トルネード』を発生させられるのは当然。更に『風操』と『気体制御』で『トルネード』自体も強化。すぐに突き破られるのを防ぐ。
「コレで躱せ無いだろう。当たって貰うぞ」
『ハザン』を振って2発めを発射する。今度はさっきの『重力操作』に加えて『熱変動』で超高温にする。更に大気圏突入後、『気体制御』で進路を1時的に真空にし、空気抵抗による速度の減少を防ぐ。
「次はさっきの以上だ。耐えれるもんなら耐えてみやがれ」
さっき以上の爆発と衝撃。絶対に耐えられない。
「どうだ?」
爆心地を見てみると、銀王狼の姿は見えない。
「やったか?」
あの威力だ。原型を留めていなくても不思議はない。
俺は空中を蹴り、爆心地へと向かった。
「やったか?」からの「なにぃ!」はお約束ですよね