第30話 魔導の鍛冶師
「改めまして。お初にお目にかかります。ワテは魔獣やっとるモグラです。そこの猫さんの顔馴染みですわ。特技は鍛冶です。どうぞよろしゅう」
ネイティブか怪しい関西弁で再び挨拶してくるモグラ。大隅警視正や三条警部は驚いた顔で固まっているが、俺は白けた目でモグラを見る。
「あれ?なんや反応薄いですな?」
「いや、何でモグラが関西弁?どんなキャラ目指してんだよ?」
「いやいや関西弁なのはワテの魂がそうさせとるんです。ワテには、なにわの熱い血が流れとるんです」
いきなり意味不明なこと言い出したな、このモグラ。と言うか。
「なあアホ妖精」
「何?もう面倒くさいから訂正しないよ」
もはやアホであることを否定せず、俺の方に顔を向ける妖精。
「魔獣って喋れるのがデフォなのか?」
まあ、最初に戦ったカラスは喋らなかったし、白猫の話からして紫光院邸を守ってる犬も喋れないみたいだが。
「そんなことは無いよ。このモグラも『言語理解』を持ってるんじゃないの?」
案の定、アホ妖精は否定してスキルによる物ではないかという。
「そうですな。『言語理解』のおかげです。でもワテのスキルやありません。猫さんのです」
「猫のスキル?『言語理解』は他者に掛けることが出来るのか?」
「他者に掛けることが出来るスキルはあるけど『言語理解』は無理なはずだよ?」
アホ妖精は首を傾げて否定する。
「魔法を他の物体に宿す『エンチェント』のスペルが有るように、スキルを他者に掛ける為のスキルで『付与』があります。猫さんが今しとる首輪は魔具で、付与のウェポンスキルが有るんです」
白猫は自慢げに首輪を見せてくる。
「なるほど」
『付与』ね。そんな便利なスキルが有るのか。と言うか今、気になることを聴いたぞ。
「『エンチェント』で魔法を宿せる?」
「そうです。好きな物に1つ魔法を込めれます。例えば、『ファイヤーボール』のスペルと『エンチェント』のスペル持っとったら、そこら辺の石に『ファイヤーボール』を宿らせる事が出来ます」
そう言えば『エンチェント』のスペルは手に入ったが、なんだかんだでアホ妖精に効果を訊いていなかった。
「そうなのか?アホ妖精?」
「うん。そのモグラさんの言う通りだよ。蓮だと『トルネード』を石に宿らせたり出来るね。魔法が宿った物をマジックアイテムって言うの。マジックアイテムにマナが流れ込んだり、マジックアイテムが壊れたりすると、中に宿ってる魔法が発動するの。ちょっと高価なやつになると、宿ってる魔法が発動する条件を別で指定してる場合も有るね」
コレは、まあ訊かなかった俺も悪いな。
「戦力増強のために重要な情報だな」
大隅警視正の呟きに三条警部も頷く。
「とりあえず、お前が喋れる理由は解った。本題に戻したい。お前魔具の強化が出来るのか?」
話が脇道に反れそうだったので、本題について切り出す。
「そうですな。出来ると言えば出来ますし、できんと言えば出来ません」
「どういう意味だ?」
そういう曖昧な言い方をしないで欲しいんだが?
「ワテが持ってるスキルは1つ『魔導鍛冶(低)』だけです。コレは汎用性の高いスキルで色々出来るんですが、魔具に対して出来ることは2つだけ」
モグラはそこで一旦言葉を切る。全員の視線がモグラに集中する。もったいぶらずにさっさと話せ。
「それで、出来ることってなんなの?」
愛理が真剣な表情でモグラに尋ねる。
「1つ目は魔具に此方が望むウェポンスキルやウェポンスペルを追加したり、既存のウェポンスキルやウェポンスペルを強化すること。ただし使用条件があります。好き勝手追加や強化は出来ません」
合いの手が欲しかったのだろう。モグラは嬉しそうに頷いて話を再開させる。
何かコイツも白猫と同じで注目を集めたいタイプのようだ。
「2つめは魔具を1段階上の段階に引き上げることです。コモンをスペシャルに、スペシャルをユニークにと言うふうに、ただしコレにも条件があります。好き勝手に強化できるわけではありません」
「さっき曖昧な言い方した理由はそれか?」
「そうです。魔具を強化する条件が満たせるか分からんちゅう事です」
モグラは我が意を得たりとばかりに頷く。
「魔具の格を上げる条件は?」
とりあえず効きたいことから聴いてしまおう。
「魔具の格を上げたかったら魔具を強化するための素材が必要です」
「素材?どんなものが良いんだ?」
「その魔具と同格の魔素が宿った者です。魔物の牙や爪でも構いませんし、同格の魔具でも構いません」
ちょっといい方が曖昧だな。
「例えば」
俺は剣客警官隊に配られている。『ハザン』の破片から作った量産型魔具をモグラの前に置く。
「この魔具をユニークにしようと思ったら何が必要だ?」
「そうですな」
モグラはまじまじと剣を見た後、こちらに視線を戻す。
「見た所、スペシャルの魔具みたいなんで、素材として使ったてもええスペシャルの魔具がありましたらユニークには出来ます。スキルやスペルは整えんでええんでしょ?」
「スキルやスペルを整える?」
「ええ、さっき言わしてもろうた望むスキルやスペルの追加言う話です。そっちも同時進行で出来ますけど時間は掛かりますし、スキルやスペルによっては追加の素材も複数必要ですので直ぐには無理です」
「ユニークにするだけならどのくらい掛かる?」
モグラは少し考える素振りを見せて口を開く。
「そうでんな〜。まあ、スペシャルやし、10分言うところでっしゃろか」
10分か。随分速いな。
俺は大隅警視正に目配せすると、頷きで返してくる。
「解った。やってみてくれ」
俺はもう1本量産型をモグラの前に置く。
「おんなじ魔具が幾つも?ああ、なるほどもっと強い魔具のカケラですか?」
流石魔導鍛冶師。一瞬驚いたようだが直ぐにこの剣がもっと強い魔具のカケラと見抜いた。
「ほいなら、始めましょか」
「こ、これは?」
モグラの掛け声と同時に石の竈や金槌のようなものが出現し、大隅警視正達は驚きの声を上げる。
「でわ」
モグラは窯の中に剣を2本とも入れると1本を取り出して金槌で叩き出す。
「普通に鍛冶だな」
暫く叩くと窯に戻し、もう1本を取り出して叩く。その後幾つか何やら作業をした後、既に銀の流体になった元魔具の液体にもう1本の魔具を漬け込み、纏めて窯に入れる。
その後も窯からだし、叩いては窯に入れる作業を繰り返すことおよそ10分、日本刀のような形に変わった魔具を窯から取り出して眺めると、モグラは満足げに頷いて此方を向く。
「出来ましたで、強化したユニーククラスの魔具や」
そう言ってモグラが差し出してきたのは美しい刃紋を持つ、紛うことなき日本刀。
「日本刀か?」
「ええ。鋼で作ったカッターより鋼で作った日本刀の方が切れ味が良え様に、同じ階級の魔具でも形によって切れ味は変わります。此方の形のほうが良えと思うて、作り直しました」
確かにモグラの言う通りだ。なら俺のカッターも日本刀に形を変えてもらった方が良いだろうか?
「大本の魔具、俺の魔具も日本刀に出来るか?」
「出来ますけど、したらあかん思いますよ」
「何でだ?」
「日本刀にしたら確かに切れ味は良くなりますけど、刃を切り離して操ったり、大量の下級の魔具作ったりできんなりますよ」
なるほど。言われるとその通りだ。日本刀には日本刀の良さが有るようにカッターにはカッターの良さが有る。切れ味に拘って、今の機能を殺してしまうことはない。
「なるほど解った。ところで、アホ妖精この魔具の性能はどうだ?」
「ん?こんな感じかな?」
“日本刀の性能”
銘:
所有者:
ランク :特殊級<ユニーク>
ウェポンスキル:(空きキャパシティー9)
ウェポンスペル:(空きキャパシティー9)
バフ :身体強化(中)コスト2
腕力強化(中)コスト2
斬撃強化(中)コスト2
(空きキャパシティー3)
マナ充填率 :100%
アホ妖精が見せた表を見るとバフが1階級上がっていてユニークになっただけでスキルやスペルは無いまま変化はない。
「コレなら今まで以上に戦力になるな」
三条警部が満足そうに頷く。しかし、大隅警視正は『ふむ』と考え込む。
「コレをもう1つ作って、それらを合わせてレアにすることは出来ないのですか?」
「ああ、そりゃ無理です」
大隅警視正の質問にモグラは首を振る。
「魔具の強化は1つの魔具につき1回しか出来ません。強化した魔具を素材に使うことは出来ますけど少なくとも1個は強化する前からユニークの魔具がないとレアは作れません」
「そうですか」
モグラの言葉を効き、落胆する大隅警視正。しかし、浅野は一瞬安堵の表情を見せた。
何だ?
「剣客警官隊が今持っている魔具を全てユニークにした方が良いですな。大神君、追加で10本魔具を売って下さい」
「ああ、解った」
三条警部の要精に応じて、その場で量産型を更に10本作り出す。
「ちょっと待って下さいな。ワテは無料で奉仕しませんで。ちゃんと鍛冶の代金貰わんと」
三条警部が話を進めようとすると、モグラが声を上げる。
「ああ、確かにそうですね。幾ら程で引き受けてくれるので?」
「ワテ等は魔獣です。金は使えませんからいりません。欲しいのは魔石です。魔具の格や量に応じた分の魔石が欲しいです。ああ、魔石ごとに質もちゃいますさかい、魔石の個数やのうて魔素量で取引して下さい」
「なるほど」
三条警部とモグラが取引について話し合っている間に俺は浅野に近づき、小声で話しかける。
「何か気になってることが有るのか?」
「ん?ああ、量産型が強化されれば蓮を奴らが排除しようとする可能性も出てくる。レアに出来ないなら互角になることはないが、ユニークが大量に配備されるのも怖いな」
なるほど。確かに俺を撃とうとしたアホな警官みたいなやつが他にも居れば、そんな奴らがユニークの魔具を持ったら、一気に俺達は窮地に立たされる。
「それを防ぐためには」
俺は大量の魔石と、死蔵していた傘とチャッカマンを取り出すと、それらで取り出した魔石を全て砕く。
“アカシックレコードより通達.一定以上の魔素を吸収した魔具に銘『雨舞』を与える通達終了”
“アカシックレコードより通達.一定以上の魔素を吸収した魔具に銘『ボルカ』を与える通達終了”
よっし。ネームドになった。
性能は?
“傘の性能”
銘:雨舞
所有者:大神 蓮
ランク :特別級<スペシャル>
ウェポンスキル:自動修復(中) コスト2
over■水操(弱)コスト3■
(空きキャパシティー-0.5)
ウェポンスペル:アクアボール コスト1
アクアショット コスト3
(空きキャパシティー0.5)
バフ :ダメージ軽減(中) コスト2
サモン コスト1
over■寒冷体勢(弱) コスト1■
(空きキャパシティー-0.5)
マナ充填率 :100%
“チャッカマンの性能”
銘:ボルカ
所有者:大神 蓮
ランク :特別級<スペシャル>
ウェポンスキル:熱変動(中) コスト3
(空きキャパシティー1.5)
ウェポンスペル:ファイヤーガン コスト1
ファイヤーバレット コスト3
(空きキャパシティー0.5)
バフ :熱変動耐性(中) コスト3
サモン コスト1
over■炎熱体勢(弱)コスト1■
(空きキャパシティー-0.5)
マナ充填率 :100%
中々良くなったな。少なくともコモンの時よりはマシだ。
「蓮。何を?」
「ユニーク持ちが増えても俺の持ってる魔具が4つともユニーク以上になれば、何人来ても圧倒できるだろう?」
確証はないがおそらく圧倒できる。そもそも俺は魔具無しの素の状態でも常人より身体能力が高くて、スキルも3つ有るほどだし。
俺は話し合っている三条警部とモグラの下へ近づく。
「三条警部。話してる所済まないが先にモグラに頼みたいことが有る」
「ん?ああ、解った」
「何でっしゃろ?」
俺はモグラの前に『エア』『ボルカ』『雨舞』の3つと量産型5本を置く。
「この3つのネームドをユニークにして欲しい。それから」
俺は浅野と愛理を手招きする。
「ん?」
「何?おにぃ?」
「二人共。魔具をモグラに渡してくれ」
「なるほど」
「了解〜。おにぃ」
2人は俺の意図を察したのか、快くモグラに魔具を預ける。
「その2つも頼む。報酬はコレだ」
俺は『シャドーボックス』からファングウルフの魔石を50個取り出す。
「1つ10個ですか。上等です。1時間位で終わりますわ。ちょっと待ってて下さい」
待つこと1時間。宣言通り、モグラは5つの魔具を仕上げてきた。
「どうぞ。手にとって性能を確認して下さい」
言われる通り手に取ると、意識を集中させてその性能を探る。
隣を見ると、浅野と愛理も同じようにしていた。
“靴の性能”
銘:エア
所有者:大神 蓮
ランク :特殊級<ユニーク>
ウェポンスキル:加速(大) コスト3
重力操作(弱) コスト5
(空きキャパシティー5.5)
ウェポンスペル:エアーラン コスト1
ディメンション コスト9
エアーウォーク コスト3
(空きキャパシティー0.5)
バフ :脚力強化(強) コスト3
サモン コスト1
形状変化 コスト1
(空きキャパシティー8.5)
マナ充填率 :100%
ローラーブレードの様な形状になったが、車輪のレールの部分が前に大きく突き出しており、刃に成っている。蹴っただけで突き刺さったり、切れたりしそうだ。一応形状変化で普通の靴にも出来た。残念なのが『エアーラン』と『エアーウォーク』である。2つある必要がない。『エアーウォーク』だけで良い。統合できるが、すると『エアースタンド』に成ってキャパオーバーが起こるらしい。一方嬉しかったのが『ディメンション』である。入る量は魔具の格に依存するが、『ユニーク』なら100立方メートルは入る。しかも、入れた物の成分を分析したり、入れた物を分解して取り出すことも可能だ。
“傘の性能”
銘:雨舞
所有者:大神 蓮
ランク :特殊級<ユニーク>
ウェポンスキル:自動修復(強) コスト3
水操(中) コスト5
遠泳 コスト2
(空きキャパシティー3.5)
ウェポンスペル:水魔術1種(低) コスト10
内容:アクアボール
アクアショット
アクアジャベリン
ヒーリング・ウォーター
ディスペルレイン
(空きキャパシティー3.5)
バフ :ダメージ軽減(大)コスト3
サモン コスト1
寒冷体勢(中) コスト3
水中呼吸 コスト1
(空きキャパシティー5.5)
マナ充填率 :100%
コレが一番大きく変わった。能力が上昇したのはもちろん、形状が傘からレインコートに成った。手に持たなくても良いうえ、形状も撥水加工が有る普通のコートみたいなので常に身につけておける。
後は、水の魔術が統合されてスッキリしたり、水中で呼吸できるように成ったり、泳ぎが上手くなったりだ。
“チャッカマンの性能”
銘:ボルカ
所有者:大神 蓮
ランク :特殊級<ユニーク>
ウェポンスキル:熱変動(大) コスト5
炎熱操作(弱) コスト5
飛刃(弱) コスト1
(空きキャパシティー2.5)
ウェポンスペル:炎熱魔術2種(低) コスト10
内容:ファイヤーガン
ファイヤーバレット
ファイヤースピア
フレイムアーツ
バーニングロア
(空きキャパシティー3.5)
バフ :熱変動耐性(強) コスト5
サモン コスト1
炎熱体勢(中) コスト3
熱吸収(弱) コスト2
斬撃強化(弱) コスト1
(空きキャパシティー1.5)
マナ充填率 :100%
コレもかなり変わった。白いリボルバーの拳銃のようになり、銃身の部分にはナイフのような刃が付いている。かなり厨2心を擽るデザインだ。
「物凄い強化されたな」
コレなら銀王狼にリベンジ出来るかもしれない。
「うぉすげー」
「これ最高だよおにぃちゃん」
浅野と愛理からも喜びの声が上がる。どうやら無事に強化が出来たらしい。
「ヘトヘトでんがな」
流石に体力を使いすぎたようで地面にベターと突っ伏すモグラ。
ありがとう本当に良い仕事をしてくれた。この調子で、ユニークが増えていけば、紫皇狼も倒せるかもしれない。絶望的な戦況の中に光明が見えてきた。