第29話 新たな仲間
「魔獣が守護してる?」
「そうじゃ」
意味が分からずにオウム返しに訊いてしまった俺に対して、白猫は得意げに頷く。
「この家で元々飼われていたゴールデンレトリバーが魔獣化しての、この家に避難しておる小娘を守っておる」
「魔獣が人間を守るということは有るのか?」
大隅警視正が不思議そうな顔でアホ妖精に尋ねる。
「そうねぇ」
珍しく、アホ妖精は難しい顔で思案しながら言葉を発する。
「動物が魔獣化したって元の記憶が無くなるわけじゃない。だから元々動物だった時にその人に大分なついてればそういうことも有るかも?向こうでも馬とかをワザと魔獣化させて強くしたりしてたし」
要は元になった動物次第って事か。
「で、その犬は強いのか?ゴールデンレトリバーってそこそこ大きいよな?」
「そうじゃの。魔獣化してふた回り大きくなっておるし、身体能力も高いから相当強い。ファングウルフ10頭相手にして勝っとるからの」
「すごいな。どんなスキル持ってんだ?」
犬が1頭で狼10頭に勝つってよっぽどだろ?しかし、白猫が放ったのは予想外の言葉だった。
「取り立てて珍しいスキルや強力なスキルを使う様子を見たことがない。全ての戦いで身体能力のみを武器として戦っておる。ひょっとしたらスキルは身体強化系かもしれんの」
身体能力だけでそれかよ。確かにスキルだろうな。
「その犬が守っている所はブラッドファングウルフの襲撃には耐えられるのか?」
「問題ないじゃろう。一騎打ちでブラッドファングウルフを倒す所を見たからの。それぐらいの強さは有るぞ」
ブラッドファングウルフを倒せるのか。相当だな。
「奴は言葉こそ話せんが知恵は回るのでな。最も、奴は飼い主である人間の小娘を守ることにしか興味がない。手を貸してもらうのは難しいじゃろうな」
「その犬の飼い主の少女に此方に来てもらうわけにはいかないのか?」
おお、大隅警視正ナイスアイデア。確かにその飼い主が此処に来れば、犬は全力で此処を守るもんな。
「来てくれるかは微妙じゃの。道中は狙われ放題になるしの」
白猫はやれやれと首を振る。
「何か、話聴いてると、大きなお屋敷でお姫様を守ってる守護獣ってRPGとかに居そうな設定だよね」
愛理無邪気だね。まあ確かに、使い古された設定にありそうだが。
「さて、此処までが北区の避難所と避難民の現状じゃ」
「南区は?」
北区の3箇所がそんな状態なら南もお察しだろうな。
「南区は2箇所の内1箇所が壊滅したが山の上に有った方に全員が避難することでなんとかなっておる」
「山の上の方は無事なのか?」
山の上だろうが下だろうがファングウルフは来ると思うが?
「山肌をわざと爆破して見晴らしを良くした上に、侵入経路も絞り込んだからの。唯一の道を魔具使いと警官隊が守っておる。ブラッドファングウルフには太刀打ちできんが、ファングウルフには落とせんよ」
「魔具使いはどんな奴だ?」
「二十代後半の若い男じゃ。魔具は腕時計」
腕時計。どんな能力なのか分からないがそこそこ強いのだろうか?
「さて、此処までが儂が持ってきた3つの情報のうちの1つじゃ」
俺が思案していると白猫が声を掛けてくる。
「ああ、助かった。感謝する。2つ目は何だ?」
「ふむ」
白猫はコクリと頷いて口を開く。
「2つ目は、交渉次第ではお主らに協力するかもしれない魔獣についてじゃ」
「仲間になってくれるかもしれない魔獣?」
「そうじゃ。お主ら戦える者の数が圧倒的に少ないのではないか?戦力を増やすに越したことはないじゃろう?」
確かに、俺は1人しか居ない。愛理や剣客警官隊も居るが、まだまだ戦力が少ないのは事実だ。
俺としては魔獣を仲間に引き入れることに吝かではないが、大隅警視正と三条警部は難しい顔をする。
「確かに戦力は欲しい。しかし、戦闘能力を持った魔獣を大量に避難所に抱えてしまって、暴れられたら事だ」
「大隅警視正。そうは言うがな、それは人間の魔具使いやスキル持ちでも同じではないか?全ての人間が、全体のことを考えて、集団を守るために動くわけではあるまい」
「そ、それは」
確かに白猫の言う通りだ。高い戦闘能力を持っていて暴れたら被害が大きくなるのは俺や愛理も同じ。特に俺は魔具使いでスキル持ちだしな。万が一の事を考えるなら俺は追い出されることになってしまう。 まあ、そうなったら全力で抵抗するが。
「それに心配せんでも、そんなに多くは知らん。ワシが紹介できる魔獣は3匹だけじゃ」
「魔獣ってまだあんまり居ないのか?」
まだまだ少ないのだろうか?そう思い問いかけるが、白猫は首を横に振る。
「いや。魔獣事態は居るが、その中で交渉できるほど知恵があるのは先程言った犬、他は亀と蛇、インコ、最後にモグラじゃ。その中で犬はさっきも言ったが飼い主である小娘を守ることしか考えて居らんから協力してくれんじゃろうし、亀は気難しいことこの上ない。なんとか話せそうなのが蛇とインコそしてモグラくらいじゃろ」
なるほど。仲間になってくれる目がある奴だけ紹介してくれるって事か。
「後ほど、蛇とインコの住処を教えよう」
「ん?モグラは?」
「モグラは後じゃ。最後の3つ目じゃが」
白猫はもったいぶったように首を振ってにやりと笑う。
俺と大隅警視正を始めとしたテントに居る者たちの視線が白猫に集中する。
「3つ目は魔具を強化できる可能性についてじゃ」
「魔具を強化だと?」
魔具の強化か。気になるな。でも。
「ダンジョンコアを破壊したら良いとか言い出さないよな?」
ダンジョンコアを破壊すれば進化するのは知っているが、知っていても意味がない。
「その方法も無論有るが、お主らも知っていよう?でなければそこまで強力な魔具を持っている説明がつかぬからの」
「じゃあどんな方法なんだ?」
「鍛冶屋に鍛えてもらえば良い」
「鍛冶屋?おいおい、普通の武器じゃねえんだぞ?」
鉄の刀や槍じゃねえんだ。鍛冶屋か鍛えてどうにか成るか?
「そうじゃ。当然知っておる。しかし、魔具の強化が出来る鍛冶のスキルが有ることも知っておる」
白猫は自信満々な様子で、魔具を強化できると断言する。此処まで言うなら何か有るのだろう。
「で、その鍛冶スキルを持ってるのは何処の誰なんだ?」
「ワシが知っている限りそんなスキルを持つ人間は居らん」
「おい、意味ねえだろ」
ボケてんのかこの猫は。
「人間では居らん。しかし、魔獣になら居る」
「魔獣に?」
なるほど。さっき言っていた交渉次第で仲間になるかもしれない魔獣の中に鍛冶スキル持ちが居るんだな。
「つまりそいつの居場所を教えてくれると?」
「いや、此処に呼んでおる」
「何処に居るんだ?」
白猫以外の魔獣の姿は見えないが?
「ふふ、何処に居るか分からんか?」
「分からんも何も、本当に居るのか?」
念の為に『風操』で廻りを探ってみたが透明な何かが居るということもない。もしかして…
「そうか。お主でも分からんか」
満足そうに呟いた後、白猫は声を上げる。
「出てきて良いぞ。モグラ」
「はいよ〜」
白猫の声に返事をするように、地中から間の抜けた声が響き、地面が盛り上がって、そこからモグラが顔を出す。
「いや〜。お初にお目にかかります。ワテはそこの猫さんの顔なじみのもんです。どうぞよろしゅう」
「も、モグラ?」
何か鍛冶師のイメージに合わない性格をしていそうだが、本当にモグラが地中から出てきた。しかも喋っている。喋る猫に続き喋るモグラである。
「ええ、しがないモグラです」
地面から顔を出した茶色いモグラは、エセ関西弁で明るく挨拶をした。