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第28話 点在する力

「お前はいつぞやの猫」


「あ、シロちゃんまた来たんだ」


 声を掛けてきた白猫を愛理が抱き上げる。よほど気に入っているようだ。


「で、何か用が有ったのか?」


「うむ、幾つか耳寄りな情報を持ってきてな」


「西区のダンジョンについて何か知っているか?」


「スマンのソレは知らん」


 白猫は首を振る。


 耳寄りな情報と聞いて西区のダンジョンのことかと思ったがどうやら違うらしい。


「西区はファングウルフや上位種で溢れかえっておる。流石に危なくて近づけん。わしが持ってきた情報は3つじゃ。その内1つは他の避難所の情報じゃの」


「他の避難所?」


「そうじゃ。西区の3箇所については早期に北区か南区に移動しておるので機能していないが、南区の2箇所と北区の3箇所の現状は、今お主ら知らぬじゃろ?」


 確かに考えたこともなかった。此処の防衛と東区の魔物駆除だけで精一杯と言う理由もあったが。


「情報料じゃが、魔石50個でどうじゃ?」


「多いな」


「重要な情報じゃと思うがの。なんせ人の命が掛かっておる」


 この口ぶりからしてその避難所は壊滅状態か?


「解った。ほれ」


 シャドーボックスから魔石を取り出し、白猫に投げる。


「うむ、確かに」


 白猫は空中でキャッチすると、早速魔石を食べ始める。


「で、重要な情報は?」


「おお、そうじゃった」


 白猫は思い出したように魔石を食うのを止めてこちらに顔を向ける。て言うか、情報を渡す前に報酬に手を付けんなよ。


「まず、北区の3箇所は全て壊滅しておる」


「ヤッパリか」


「うわぁ」


 愛理が横で口元を抑える。


「テントの中に来てくれ、大隅警視正にも話して欲しい」


「おお、願ってもない。此処は寒いからの」


 白猫を連れてテントへ入る。大隅警視正は白猫を見た瞬間に察したのか椅子に座り直し、白猫に視線を向ける。


「また情報を頂けるのですか?」


「その通りじゃ。代金は大神蓮からすでに貰っておる」


 白猫の言葉を聞いて大隅警視正は俺に視線を移す。


「魔石の代金はこちらから支払わせてもらう」


「俺も情報を聴きたかったし、今回は相談もなく勝手に渡した。気にしなくても良いですよ」


「ありがとう。さて、白猫殿。どのような情報を頂けるので?」


 大隅警視正からの質問に対して、白猫は直ぐには答えず、1度欠伸をした後、俺の手をすり抜けてテーブルの上に降りる。


「その前にミルクを一杯貰えんかの?腹が減っておるのじゃ」


 耳の後ろを掻いて、体を伸ばす白猫。完全にくつろいでいる。


「すぐにミルクを準備しろ」


「は」


 大隅警視正の指示を受けて、控えていた警官がテントを出る。


「声が堅い。余裕がないの。何か有ったか?」


「紫皇狼という魔物が現れました。私達では到底叶わない」


 大隅警視正の焦った声に対して、白猫は余裕を持って応じる。


「ああ、あの紫のか?確かにとんでもない化物じゃが、焦った所で現状は好転せん。逆にこれから情報を聴いた時に焦っていると判断を誤るかもしれんぞ?」


 落ち着いた口調で言った白猫は再び後ろ足で頭を掻き続ける。


 そんな白猫の様子を見て自分だけが焦っているのが馬鹿らしく感じたのか、大隅警視正は気持ちを落ち着けるように大きく深呼吸して白猫に向き直る。


「判りました。しかしあまり時間がないのも事実。速やかな情報の開示をお願いしたい」


「ふむ、そうじゃな。先程大神蓮にも話したが、ワシが持っている情報は3つ。まず一つ目は他の避難所の内、北区の3つは壊滅しておるということじゃ」


「なんですと」


 白猫の言葉に大隅警視正を始め、テント内の警官が凍りつく。


「ああ、壊滅と言っても皆殺しになった訳ではないぞ。ファングウルフの大群相手に防衛できなくなた避難所を捨てて、バラバラに逃げたと言うだけじゃ」


「ぜ、全滅ではないとは言え、被害は甚大なのでは?」


「まあ、そうじゃろうな。しかし、被害者を追悼するよりも生き残りを助けるほうが先じゃろう?」


 白猫の言葉に大隅警視正は青い顔のまま頷く。


「当然その通りですな。しかし…」


 徐々に歯切れが悪くなる大隅警視正。


「どうしたんですか?」


 北区の生き残りを助けに行くでは駄目なのだろうか?


「我々には現状課題が多すぎる。生き残った方々を助けに行く余裕は無い」


「もし、生き残り捜索のために人を派遣して、その人がファングウルフに食い殺されたら意味がない」


 栗原巡査が大隅警視正の言葉を補足する。


「俺が探しに行こうか?」


 俺ならファングウルフどころか、ブラッドファングウルフとかち合っても問題ない。


「黒王狼や銀王狼、何より紫皇狼と遭遇する危険性があるのに?この避難所で最強である貴方が未帰還になれば、此処も北区の3箇所と同じ運命をたどるしか無い」


「うぐっ、確かに」


 そいつらには俺も勝てない。そして遭遇する可能性はある。


「じゃあ、見捨てるのか?」


「それは…」


 俺からの問いかけに栗原巡査も黙り込む。大隅警視正も三条警部と視線を合わせては口を開いて、閉じてと繰り返す。

 結局、皆見捨てるしか無いと思っているのだ。だが、それを認めたくはない。


「随分悩んでいるようじゃが追加の情報じゃ」


「何だ?」


「逃げた者たちの内ある程度は何箇所かに固まってファングウルフの襲撃を防いでいる」


「防いでいるだと?どのように?」


 大隅警視正が驚きの声を上げる。


「此処と同じじゃよ。強い者が先頭に立って敵を防ぐ」


「強い者?まさか大神蓮の様な魔具使いが?」


「こ奴は別格じゃ。此処まで強いものは居らん。しかしスペシャルの魔具を持つものはチラホラ」


 なるほど。俺と関わりのない魔具使いも出始めてるのか。


「それで、その固まっている場所はどんな状況なのだ?」


「そう焦るでない。ちゃんと話す」


 焦りを含んだ声音で先を促す大隅警視正に対して、白猫は落ち着いた調子で耳の裏を掻きながら話を続ける。


「まず、ワシが確認できたのは6箇所。うむ地図を持ってきてくれんか?」


 白猫の求めに応じて三条警部が地図を広げる。


「まずは此処じゃ」


 白猫がある1点を指差す。


「ホームセンター?」


「お主らはそう呼んでおるのか?」


「ここに集まっていると?」


「ある程度な。大体1000人位じゃろう」


 1000人か。この街の人口は10万人を超えている。そう考えると大した数は居ないが。


「で?どんな状況になってるんだ?」


「最初に此処に逃げ込んだ少女が、即席の罠にはめて、動きを封じたファングウルフを電動ノコギリで切断したのが原因での」


 何かすごい猟奇的だ。カッターでゴブリン斬り殺した俺が言うことじゃないかもしれないけど、電動ノコギリって、また違った恐怖があるよね。


「魔具化した電動ノコギリを使ってファングウルフ達を撃退していき、ネームドとなった為にスペシャルに上がった。今はその少女が中心となり、建物の中に在った資材を使ってバリケードを作ってファングウルフを撃退している。食料も建物の中に非常食や菓子のようなものは在ったからの」


「リーダーはその少女?」


「一応の」


 何とも曖昧な言い方だ。


「実際に、集団を纏めておるのはその少女の親じゃ」


 まあそうだろう。何歳か知らないが少女というからには未成年。未成年に集団のリーダーを任せるのは難しい。力で不満を押し込めるなら別かもしれないが。


「食料もあるしファングウルフも撃退できてるんなら今すぐ救助に行く必要な無いか?」


「このまま運が良ければの」


「どういう意味だ?」


 意味深な白猫の言葉に眉根を寄せる。


「今までそこを襲ったのは普通のファングウルフだと言うことじゃ。アレではブラッドファングウルフには対抗できんよ」


「なるほどな」


 言われてみればその通りだ。スペシャル1個ではブラッドファングウルフに太刀打ちできない。


「此処のように偶々ダンジョンを攻略した事がある魔具使いが居るなんて言うことは、他には無いだろうしな」


 浅野も白猫の言葉に同意する。


「と言うか。此処は戦力がかなり豊富じゃぞ。大神蓮1人でも相当なもの。その上他にも10人以上魔具使いが居る」


 まあ、確かにそう言われると此処の戦力は大きい。それでも対抗できない魔物が居ることも事実なんだよな。


「次に此処じゃ」


 白猫が指した場所はスーパーマーケットだった。


「スーパーに立てこもってるのか?」


「そうじゃ」


「此処の魔具使いはどんな奴だ?」


 俺の問に白猫は首を振る。


「魔具使いではない。此処を支配しているのは魔人じゃ」


「なっ」


 魔人。暫く聴いてなかったから存在を忘れていた。


「魔人とは何ですかな?」


 大隅警視正は怪訝そうの顔をする。


 そうか、知らなかったな。


「魔人とは魔獣の人間版よ」


 アホ妖精がテーブルの上に飛んでいき、胸を張って説明する。人差し指を立てており、知識を披露できて嬉しいと言わんばかりだ。


「動物が魔石を食べ続けて体内に一定以上の魔素が溜まると魔獣に成るように、人間も体内に一定以上の魔素が溜まると魔人に成るの」


 オススメはしないけどね。とアホ妖精は付け加える。


「なるほど、それで此処はその魔人が守っていると?」


「まあそうじゃな。支配しとる」


 やけに支配という単語にこだわるな。


「どういう状況なんだ?」


「集まった人間たちをその魔人が力で押さえつけとる。一応秩序は保たれているが、まあ独裁状態じゃの」


 なるほど。支配ってそういうことか。


「どのような集団になっているか解るかね?」


「おお、解るぞ」


 大隅警視正が眉を顰めながら尋ねると、白猫は大仰に頷く。どうでも良いが猫の体で大仰に頷く仕草が出来るとは、相変わらず芸が細かい。


「まずトップはその魔人。名を進藤しんどう 翔馬しょうまと言う」


 進藤翔馬?聞き覚えがあるよな?確か?


「なあ蓮。アイツじゃねえのか?中学の時隣のクラスだった奴」


「隣のクラス?」


 浅野の言葉をヒントに少しずつ記憶を辿っていく。


「ああ。思い出した。不登校だった奴か」


 確か中学の時に隣のクラスでずっと休んでる奴が居て、そんな名前だった。


「原因はイジメだったらしいぜ。高校は北区の北谷工業高校に行ってたはずだけど」


 そうだったな。顔を見たことも数回だから覚えてなかった。


「そいつが魔人になってるって事か?」


「その通りじゃ。続けるが、そ奴がトップに立ち、他の人間は『下僕』『奴隷』『餌』の3つに分けられて支配されておるらしい」


 階級の名前が不穏すぎる。て言うか。


「『奴隷』も大概だが『餌』ってなんだよ?」


 それは最早身分じゃねえだろ?


「その魔人に逆らったものや過去にその魔人に何かやらかした者がなる階級での。ワシが見た時は襲ってくるファングウルフに餌の人間を投げて、その人間が喰われているすきに魔人が出した炎でファングウルフを遠距離から狙い撃ちにして倒しておった」


 『餌』て本当にそういうことかよ。胸糞悪いな。


「で、ソイツらはブラッドファングウルフに対抗できるのか?」


 感情は抑えて、訊くべきことだけ訊く。


「ワシが確認した範囲の戦力では無理じゃ。しかし、積極的に魔石を喰って力をつけているようじゃし、魔具が無い保証も無いので正確には分からん」


 そう言って白猫は肩をすくめ、首を振る。


「食料は十分に有るはずじゃ」


 それだけ付け加えると、白猫は話を止めて地図の新たな地点を指し示す。


 後4ヶ所か。こうして考えるとバラけてるだけで結構戦力は有るよな。


「次は此処じゃ」


 白猫が指したのは大型の店舗


「デパート?」


 ホームセンター、スーパーマーケットときてデパートか。食料品やら資材やらが有る所に集まってるんだな。


「此処を守っておるのは人間の男じゃ」


「魔具使いか?」


「いや、魔具のような物は無かったが、手から電撃を出しておった」


 魔具が無いのに手から電撃?どういう事だ?


「魔具を隠し持っているのではないか?」


 大隅警視正も訝しげに訊く。


「無いとは言わんが、隠す意味が有るのか?」


 確かに能力を大々的に使って魔具を隠す意味はない。


「じゃあ一体何なんだ?」


 アホ妖精を見てみると、アホ妖精は首を傾げながら口を開く。


「人間のまま魔具無しで電撃とかを出せるんなら、可能性としては魔術師だけど」


「だけど何だ?」


「アンタと初めて合った時に言ったわよね私。太古の時代、三大陸が此方に合った頃は人間も普通に魔法を使えてたって」


「ああ、言ってたな」


 あの荒唐無稽な話か。


「アンタ話半分に聴いてたみたいだけどアレは真実よ。そしてその時代の人間なら魔法や魔術を普通に使ってた。だから人間が魔法や魔術を使えること自体はおかしくない。でも、今のアンタ達は魔術の知識を失伝してしまっているでしょ?もし、魔術や魔法だとしてどうしてその人間が使えてるのか分からない」


 なるほど。魔術や魔法。要はスペルか、今使える人間は居ないはずだもんな。


「わからないことを悩んでも仕方がない。事実確認だけしよう。次に行ってくれ」


「うむ」


 大隅警視正の言葉に頷いて白猫が話を再開させる。


「四ヶ所目は此処じゃ」


「病院?」


「うむ。警官や自衛隊の生き残りが装備を持ったまま立て籠もって、銃火器でファングウルフを撃退している。内部には傷病人や女子供も匿われているらしい」


「真っ先に救援が必要なのは此処か?」


「そうじゃな。食料の備蓄もあまり無いし、いい状態とは言えぬ」


 大隅警視正はメモに病院の位置と状況を書き込む。


「次は?」


「うむ。お次は此処じゃ」


 白猫が指したのはとある工場。


「此処にも立て籠もっているのか?」


 正直、物資は少なそうで、立て篭もりに向いていない気がする。


「蓮。此処レトルト食品メーカーの工場だ」


「なるほど」


 浅野に言われて合点がいった。食料は十分に有るわけだ。誰か知ってた奴が逃げ込んだんだろう。


「此処を守っている者は?」


「一応魔具使いじゃ」


「一応?」


「此処は飛び抜けて強い奴が居るわけではない。工場に有った机などでバリケードを作って若い男達が協力して防衛しておる。戦闘の中で、幾つか魔具が出来たようで、4〜5人魔具使いを見たが、格別に強いものは居らん」


 なるほど。中々骨の有る連中が集まったんだな。


「案外いい状態かもしれんな。他と違い、1人の力に頼り切っていないから不測の事態にも対応しやすいだろう」


 確かにそれは有る。最初に聴いた3箇所はそこを守ってる強い奴が病気にでもなればアウトだ。


「最後に此処じゃ」


「此処は、一般住宅?」


「メチャクチャ広くないか?豪邸だろ?」


 白猫が指した場所は普通の住宅だった。ただものすごく面積が広い。


「ああ、紫光院さんのお宅でしょ?」


 地図を見ていた愛理が声を上げる。


「紫光院?」


「何で知らないのおにぃ?学校じゃ有名人でしょ?」


「ん?うちの高校に居るのか?」


「そうだよ。私の中学校にまでウワサ流れてきてるよ。大企業を経営する紫光院社長の1人娘だって」


 そんな人居ただろうか?その手の噂に興味なからな。と言うか?


「うちの高校はごく普通の高校だぞ?何でそんな人が居るんだよ?」


 そういう人って普通はもっと名門のお嬢様学校とかに行くもんじゃねえの?


「何でもピアノとヴァイオリンをやってて、どうしてもおにぃの高校の音楽の先生に習いたかったんだって」


「うちの音楽の先生そんなにすごい人なのかよ?」


「らしいよ」


 何でそんな人が普通の高校で音楽の先生を?


「ま、まあ、疑問は増えたが大体はわかった。で、そこに避難民が立て籠もっていると?」


「いや」


 白猫は首を振る。


「此処に居る人間はこの家の住人である小娘1人じゃ」


 大勢居るわけじゃねえのかよ。でもそれなら


「そのお嬢様がなんかすごい魔具を持ってんのか?」


 そうじゃないと生き残っていることに説明がつかない。


「魔具の有無は知らんが使ってはおらんの」


「じゃあどうやって生き残ってんだ?運が良いだけか?」


 俺の問いかけに白猫はニヤリと笑う。


「想像力が足らんの。此処は魔獣が守護しておる」


 白猫の口からとんでもない言葉が飛び出した。




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