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独白4 強者達2(白猫編)

 吾輩は猫である。名前はまだ無い。はずだったが知らん間に付いていた。


 知り合った人間の小娘から「シロちゃん」などと呼ばれるようになった。


 シロちゃん。シロ。白。


 知っての通り、白とは人間がワシの毛と同じ色を言い表す時に用いる呼称じゃ。


 毛が白いからシロちゃん。何とも安直な名ではあるが、不思議としっくり来る気がしてワシは気に入っている。


 思えばあの人間たちに会ったのは大きな収穫じゃった。ファングウルフ共から逃げ隠れする時に偶々見た情報で50個もの魔石が手に入り、安直じゃがしっくり来る名も得た。


「グルルルルル」


「物思いにふけっておったと言うのに、無粋なやつじゃの」


 歩いていると目の前にファングウルフが現れる。1頭だけということは、大方小規模な群れの偵察じゃろう。


 正直いざ戦おうと言う気分にはならないが、魔石が欲しいのは事実じゃし、何より相手が涎を垂らして飛びかかってくる。


「無粋な上に下品な奴じゃな」


 ワシは新たに得たスキル『巨大化(中)』を発動し、一瞬で体の大きさを10倍にする。


「グルゥ?」


 飛びかかった姿勢のまま固まるファングウルフ。まあ、獲物がいきなり自分よりも大きくなったのだ。驚くのも無理はない。まあ、だからと言って手加減してやる気はないが。


 この『巨大化』のスキルはただ対称を10倍まで大きくするだけである。「大したこと無いじゃニャイカー」と思うかもしれないが侮ってはいけない。大きさが10倍と言うことは当然その分筋肉も増え力が増すということだ。


 元々猫というのは人間のペットになるくらい愛らしいがその運動能力はかなり高い。百獣の王であるライオンがネコ科であると言えば、その身体能力の高さが窺い知れるだろう。


 因みに一般的な猫の体高は成猫で25cm〜30cmである。10倍すればブラッドファングウルフに近いサイズになる。


「いね」


 ワシは大きくなった右前足で、ファングウルフの頭部を思いっ切り叩く。


「ギャウン」


 情けない声を出しながらファングウルフは脇の塀にぶつかる。


 いねと言っておきながらそこまで飛ばせなんだ。コレは恥ずかしい。


 しかしコレはチャンスである。吹っ飛んだ奴はこちらに無防備な腹部を晒している。体勢を立て直す前に追撃すべきじゃろう。


「フニャー」


 ワシは気合を入れて唸り、奴の無防備な腹に喰らいつく。


 気合を入れすぎて久しぶりに猫みたいな声が出た。


 人間どもが打ち倒したファングウルフの躯をあさり、魔石を食して魔獣となって以来こんな声を出したのは始めてじゃ。


 魔獣となって得た1つめの能力、『言語理解』。ワシに様々な言語を理解し、話す知識を与えた能力。この能力のおかげでワシは人間並みに頭が廻り、人間のように喋ることが出来るようになった。しかしこの能力、確かに便利だが戦闘には使えない。そのため魔獣になったと言うのに普通の猫同様逃げ隠れするしか無かった。


 しかし、今は違う。情報の対価に人間どもから得た魔石を食らって手に入れた能力『巨大化(弱)』。


 この能力で体を10倍まで大きく出来るようになり、ワシはファングウルフを倒せるようになったのじゃ。一遍に5頭以上は無理じゃし、ブラッドファングウルフなど当然無理じゃが。


「フー」


「ギャンギャン」


 必死に泣き叫んで四肢を振り回すファングウルフじゃが、この体勢ではワシに対した影響はない。更に力を入れて腹を食い破り、臓腑を引きずり出して喰らう。


「ガゥガゥ。ギャァガ」


 暫く必死に抵抗していたファングウルフじゃが、鳴くのが止んだかと思うと四肢がダラリとタレ、抵抗しなくなる。どうやら力尽きたらしい。


 今までも『巨大化』の力を使ってファングウルフを何頭か狩っており、その成果として『巨大化(弱)』が『巨大化(中)』に成った。(弱)の頃は自身を10倍まで大きくするだけじゃったが、(中)に成ったことで1時間以内に触れたものにも効果を及ぼせるように成った。


 このファングウルフの魔石を食うことで(強)に成ってはくれないじゃろうか?


「ふむ、変化なしか。やはり更に強くなるにはもっと魔石が居るの」


 残念ながら魔石を食っても能力に変化は起きず、諦めて臓物を食う作業を再開させる。始めてファングウルフを倒した時に気づいたんじゃが、こやつらの肉は普通の動物と変わらないらしく、臓物は中々に美味である。


「さて、早くブラッドファングウルフに対抗できる力が欲しいのじゃが、効率よく魔石を集める方法はないかの?」


 やはり、またあの人間たちの所に有力な情報を持っていって魔石と交換するのが1番じゃろうか?


「しかし、情報と言っても、前回のように喜ばれる情報があるじゃろうか?」


 とりあえず知己の魔獣の所に顔を出してみようか?獣並みの知能しかない奴らの所は論外だが、何体か話を聴いてくれたり、耳寄りな情報を知っていそうな奴らが居る。


「犬は自分の主を守ることにしか興味がないし、亀は気難しいの。しかし、蛇やインコ、モグラは話せそうだな」


 辺りを見回すと以前モグラと出会った場所に近い。


「ふむ。まずはモグラに会いに行ってみるかの」


 あやつもワシと同じで戦闘系の能力を持っていなかった。まだ生きて居れば良いが。


「とりあえず、もう少し魔石を狩っておくかの?」


 何の手土産も無しで会いに行くというのも気が引ける。とりあえず2、3個魔石を狩って、土産にしようと考え、獲物を探し出す。


「む、何じゃアレは?」


 群れや集団からはぐれたファングウルフを探して移動していると緑色の生物の集団に出くわす。30匹は居るであろうか?


「人間の子ども?いやそんな訳がないな」


 二足歩行で歩き、手先は人間と同じ形をしており器用そうである。背丈も人間の子ども位だ。しかし、人間の子どもとは顔の作りや肌の色が明らかに違う。


「ギ?」


「ギギャア」


「「「「「ギィギィギャア」」」」」


「うむ。明らかに意思疎通の出来る生物ではないな」


 此方を発見した瞬間、奇声を発し、涎を垂らしながら殺到してくる。その様はまるで飢えた獣であり、会話できる知能があるとはとても思えない。


「どれ、どの程度の強さかの?」


「ギィ?」


「ギギャア?」


 ワシは巨大化すると、何時でも反撃できるように構えを取る。一方奴らの方は巨大化したワシに面食らった様で、動きを止めた。


「ふむ。そこまで強く無さそうじゃな。シャァ」


「ギギャアア」


 ワシは先頭に居た個体を前足で弾き飛ばし、呆然と成っている2匹目を押さえつけて、胸の辺りから体を引き裂く。


「ギャガァァァァ」


 悲鳴を上げるそ奴の体から魔石が落ちる。


「ファングウルフの物よりも質は低そうじゃが、魔石であることに変わりはない」


 良い土産ができそうだ。しかもこの魔物、弱い。30匹居て、ワシが今倒したのは2匹だけ、つまり28匹程にワシは囲まれて攻撃されておるが、こ奴らが棍棒で叩いてくる力はたかが知れていて巨大化したワシには大したダメージにならない。


「肉の味はどうじゃろ?」


 試しに1匹食ってみるが、殆どの部分は不味かった。しかし、心の蔵は中々いける。


「ふむ。弱いし、魔石もあるし、食える部分もある。獲物には最適じゃの」


 ワシはこ奴らを狩ることに決めて攻撃を再開。数分で全滅させた。


「コレは当たりな獲物じゃの。よし、匂いも覚えた」


 体内に魔石が有ったから魔物じゃろうが、ファングウルフの他にもこのような奴らが居るとは知らなんだわ。


「モグラに会いに行く前にもう少し狩っておくか?」


 ワシは匂いを辿って緑の魔物を見つけ出しては狩っていく。そして、暫く進むと山道の中に大きな穴が開いている場所にたどり着く。下に降りてみると、岩壁の中に穴が居ている場所があり、その奥には大量の緑の魔物が居る臭がする。


「うむ。入らぬ方が良いじゃろうな」


 中には相当な数が居そうな臭がする。その上、上位個体が居るかもしれない。


「好奇心は猫をも殺すと言うし、無理は禁物じゃな」


 ワシは穴から飛び出すと、もと来た道を戻り、モグラの住処に向かって歩を進めた。


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