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第27話 新たな脅威

「つまりファングウルフ以外の魔物も現れると?」


「そういうことだ。今の魔素濃度なら、ファングウルフより強い魔物が出ることはほぼ無いらしいが、ゾンビやスケルトンは生前の武器を持ってる場合があるから厄介らしい。加えて上位種になればファングウルフを超える個体は出てくるだろう」


「なるほどファングウルフや魔獣の餌になる上に上位種まで現れる可能性が有るか。厄介の種だな」


 大隅警視正はこめかみを抑える。


「それにダンジョンで何が起こったのかも問題だ。あの自衛隊員目を覚ましたのか?」


「いいや、まだだ。他の手段でも情報を探っているが、何処も混乱していて有力な情報がまるで無い」


「何処も混乱?この街以外の場所にもダンジョンが出現しているのか?」


 俺は大隅警視正の言い方に引っかかりを覚えた。ダンジョン騒ぎが起きているのがこの街だけならば日本の中枢が混乱するのはおかしい。


「実際にダンジョンが出現したのは九州のとある街と此処の2箇所だけだ。だが犠牲が大きすぎる。どう対応して良いか検討も付かず、官僚の方々は大童だ」


「九州にも出たのか?そっちにも戦力を振り分けなきゃいけないんなら苦しいな」


「それだけではないさ。自衛隊の本来の業務も無論こなす必要があるし、2箇所出たんだからうちにも出るかも知れないと、各地の自治体が自衛隊の派遣を要請している。誰しも我が身が大事だからな。」


 大隅警視正は皮肉っぽく笑った。


「まじかよ。ただでさえ戦力が足りないのに」


「此方からも情報収集には務める。何かしら情報が入ったら教えよう」


「だったら俺自身で情報を集める。西区のダンジョンに行ってみようと思う」


 黒王狼が動いたのならダンジョン自体の守りは弱くなったはずだ。


「馬鹿な。どのような状態かも分からない。危険すぎる」


「それはそうだが、今この状況で安全が保証された状態なんて無いだろ」


「危険度の問題だ。情報収集に何かしらの進展が有るか、あの自衛隊員の意識が戻るのを待って話を聴く。行動はそれからだ」


「解った。暫くは大人しくしておく。とりあえず残っているブラッドファングウルフのねぐらを3つ駆除することを優先させてもらう」


「ああ、そうしてくれ。よろしく頼む」


「それでは」


 俺と愛理は連れ立って本部を出た。


「おにぃちゃん?」


「ああ、大隅警視正の言うことも解る。でも待ってたら後手後手に回る可能性もある」


「なあ、俺からも1言良いか?」


「浅野?」


「何でそんなに驚くんだよ。居ただろ普通に、さっきから」


「スマン、真面目な話をしてたから」


「俺が真面目な話にそぐわないみたいに言うな」


 浅野が大げさに声を上げると、騒ぎを聞きつけてアホ妖精も飛んでくる。


「確かに浅野はお笑い担当。真面目な話には向かないね。あたしみたいに知的じゃないと」


「お前も知的ではないだろアホ妖精」


 なんか意味不明なことを言うアホ妖精についつい突っ込んでしまう。


「むっかー。あたしみたいに知的で可憐な存在は他に居ないのに」


 このアホ妖精のどこに知的な要素があるのだろうか?


「話を戻していいか?」


 アホ妖精とついつい馬鹿話をしてしまっていると、浅野が割って入る。


「ああ、悪い。何だ?」


「ダンジョンで何が起こったのかは俺も調べてみた」


「調べたどうやって?」


「魔具の能力だよ」


 驚く俺と愛理に浅野がスマフォを見せる。そう浅野のスマフォ、魔具『ピュータス』だ。


「ああ。その手があったか」


「何で忘れてんだよ」


「いや、浅野が役に立つって状況がどうにも慣れなくて」


「ひでえ言い草だな。おい」


 実際に浅野は三枚目キャラである。つるんでいて面白いやつでは有るが、肝心な所で役に立ちそうにない。


「で、何が起きてるんだ?」


 何時までも馬鹿話をしている訳にもいかないので、表情を引き締め、話を戻す。


「うお、いきなり真面目な感じになるな」


「時間の無駄だからな。で、どうだ?」


 まあ良いかと呟いて浅野が話し始める。


「結論から言うと、陸自の部隊は壊滅してる」


「嘘!」


「ヤッパリか」


 愛理は目を見開いて驚くが、俺は予想が合ったたと言う気持ちのほうが強い。元々ゾンビが元陸自の自衛官だと解った時点で嫌な予感はしていた。


「原因は?」


「魔物に殺られた。でもやった魔物の事は種族しか解らねえ」


 魔物に殺られたか。


「口ぶりからしてやった魔物の数は1頭か?」


「2頭だ。まあ、実際に戦ったのは1頭だけらしいがな。陸自を殺ったのは紫皇狼って魔物だ。もう1頭は黒王狼。2頭は現在西区の中を移動中だ。解ってんのはそれだけだな」


 紫皇狼か。初めて聴くな。黒王狼は前からダンジョンを守っていると言われていたが、ソイツが動き出したということは?


「嘘!紫皇狼?ありえない」


 俺の思考はアホ妖精の悲鳴によって中断される。


「いきなりどうした?アホ妖精」


 アホ妖精は真っ青になって此方を見る。


「紫皇狼は黒王狼と銀王狼の番の間にものすごく稀に生まれる希少種よ。そして、ファングウルフ系統の中で最強の魔物」


 最強ね。銀王狼が2番で黒王狼が3番だった。やっとトップが出てきたか。


「仮に此処に来たら勝てると思うか?」


「無理ね。剣客警官隊や愛理じゃ時間稼ぎにも成らない。蓮でようやく命と引き換えに時間が少し稼げる程度じゃないかな?」


「そんなにヤバイのかよ」


 浅野は驚くが、確かに2番めに強い銀王狼にも俺は勝てなかった。1番強い種類となると結果は見えている。


「西区を動き回ってるんならこっちにも来る可能性が有るな。大隅警視正に相談したほうが良いか」


 今まで浅野が持つ魔具、『ピュータス』の能力に付いては大隅警視正に伏せてきた。しかしそうも言ってられない。


「浅野」


「ん?」


「大隅警視正に話していいか?」


 浅野の能力は物理戦闘ではなく、情報戦でこそ真価を発揮する。そして物理的な戦闘能力は低い。つまり、能力が知られれば、今後浅野は厄介事に巻き込まれるリスクを常に負う事になる。


「まあ、できれば知られたくなかった。ってのが本音だ」


 そこで一旦言葉を切った後浅野は続ける。


「でも、それを気にしすぎて狼の餌になったら本末転倒だ。しゃあねえよ。大隅警視正に報告に行こうぜ」


「悪い。ありがとな」


 俺と浅野、愛理の3人とアホ妖精は再び本部のテントへ引き返す。


「大隅警視正。ダンジョンの件で追加の情報が有る」


「何だと?」


 テントの外から声を掛けると、大隅警視正がすごい勢いで出てくる。


「追加の情報などどうやって手に入れた?」


「浅野の魔具で調べた」


「浅野君の魔具?」


 大隅警視正は驚いたように浅野をまじまじと見つめ、浅野はバツが悪そうに頭を掻きながらスマフォを取り出す。


「まあ、何ていうか…、黙ってたんですけど、俺も持ってたんですよ。ネームドの魔具」


「なるほど。どうして今まで黙っていたのかは敢えて訊かないが、その能力はどのようなものだね?」


 俺達は大隅警視正に浅野の魔具の効果について説明し、納得してもらう。納得してもらうための能力実演で、おっさんが涙目になったが、事は一刻を争う。少々の犠牲は止む終えない。


「いや、全然必要な犠牲じゃねえよ。他にも調べること有っただろ?何で選りによって俺が月に何回SMクラブに行ったかなんて調べる必要が有るんだよ?え?」


 「上司と部下達の前で」とおっさんは泣き崩れる。必要な犠牲だった。ありがとうおっさん。アンタの痴態は暫く忘れられそうにない。


「ごほん。まあ、なんだ。まず確認だが、彼等の言った情報は正しいかね?近藤警部補?」


「は、はい。その、正しいです」


 おっさんの返事に大隅警視正は気まずそうに視線を逸らす。


「そうか。まあ、とにかく、そのスマートフォン型の魔具、『ピュータス』の能力については解った。その能力でダンジョンの現状を調べてくれたわけだね?」


「そうです。率直に言いますけど、陸自は壊滅してます。陸自を殺った化物は蓮でも勝てません」


「な!」


「馬鹿な」


「嘘だろ」


 上から順に大隅警視正、三条警部、おっさんである。皆言葉を失った訳だ。まあ、気持ちは解るが。


「敵は紫皇狼と呼ばれる魔物です。ファングウルフの最上位種。現状こちらにその化物に勝つ手段がありません」


 浅野にきっぱりと言われ、大隅警視正達は息を呑む。


「直接の戦闘で勝つことは無理でも、何か勝つための搦手などは無いのかね?」


「無いっすね。シュールストレミングやモスキート音も少しは嫌がるかもしれませんが、その程度でアレと蓮のちからの差は埋まらない」


「無策のまま襲われるのを待てと?」


「1つだけ希望があります」


「おお、どのような?」


 大隅警視正と浅野の会話を青い顔で聴いていた三条警部が、わずかに見えた希望に縋り付くように身を乗り出して訊いてくる。


「黒王狼がダンジョンの前に陣取っていたのは、ダンジョンを守るためではなく、自分たちの巣穴と子どもである紫皇狼を守るためでした。紫皇狼が成獣に成って出て来た今、黒王狼も守備を止めて餌を探しに移動中。つまり、今ならダンジョンに入って攻略できる」


「以前ゴブリンのダンジョンコアを破壊した時もそうだったけど、ダンジョンコアを破壊したら魔具の格が上がって強くなる。そうすれば倒せる可能性は上がるな」


 今ならダンジョンの守りは手薄、外で暴れている怪物を一旦無視してダンジョンコアを狙う方法が有る。


「不確定要素が多すぎるな」


 しかし、大隅警視正は否定的な態度を見せた。


「まず第1に、ダンジョン攻略は本当に可能なのかね?ダンジョンの内部についての情報を得ることは出来たのかな?」


「いや、それは『叡智(中)』では分からなかった」


「つまり、それだけあのダンジョンが強力である事は確かだな?」


 情報を得られなかった理由がダンジョンの強大さの為、という可能性は十分にありえる。と言うか多分それだ。


「加えて言えば、蓮君が攻略中に我々の方が化物達に殺られる可能性は十分にある。第2に、魔具が強くなっても勝てる保証がない」


「なら何もしないつもりか?」


 不測の事態が幾らでも起こる可能性が有る行きあたりばったりな方法なことは確かだが、だからといって否定しているだけでは問題は解決しない。


「何もしないつもりはない。君と剣客警官隊でファングウルフやブラッドファングウルフを倒しながら血路を開いて、市民を遠くへ逃がす手が有る。一番現実的な手だ」


 確かにそうかもしれないが、間に合わない可能性も十分にある。どうしたものか?


「失礼します。こちらに大神蓮は居るでしょうか?」


「ん?」


 悩んでいるとテントの外から栗原巡査がやって来た。


「緊急の要件かね?」


「そうではありませんがあまり待たせてはおけません。それに、現状を打破できる情報が手に入るかもしれません」


「どういうことだね?」


 現状の打破と聞いて大隅警視正が若干の期待を持って訊く。


「大神蓮に客が来ています」


「客?」


 栗原巡査の言葉に首を傾げると足元から声が聞こえる。


「想像力が足らんの。ワシのことじゃ」


 足元を見るとそこにはいつぞやの白猫が立っていた。


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