第3話 魔石と魔具
「やっと帰ってこれた」
自室のベットに倒れ込み『はぁ〜』と大きなため息を突く。
結局あの後、騒ぎが起きないようにゴブリンの死体を埋めて処理し、レスキューを待つ事数分、消防隊員が駆けつけ俺は無事救助された。
しかし大変なのはその後、怪我をしていないか検査のために病院に行ったり、警察の事情聴取を受けたりと忙しく、自宅に辿り着いた時にはすっかり空が紅く染まっていた。
「それで、ダンジョン攻略に行かないの?」
リュックからふわふわと出てきてふざけたことを言うアホ妖精。
「いくら未来予知とかが出来るようになるって言っても、死んだら元も子もないしな。大体どうしてお前そんなにダンジョン潰したいんだ?彼処で生まれたんだろ?」
「ブッブ〜ハズレでーす。あたしが生まれたのは別のダンジョン。
彼処にいたのは大本のダンジョンに魔晶石を取りに行った時に魔物に追いかけられて必死に逃げてたら偶々行っちゃっただけです。
そもそもフェアリーは弱すぎてダンジョンでは生きていけないので生まれるとすぐダンジョンを出て花畑なんかで生活しまーす。後ダンジョンを潰したい理由は封印が解けて世界が1つに戻ったら大変だからですー」
「お前、逃げてたらって、よく無事だったな。後、魔晶石って何だ?」
「魔具にマナを供給するものよ。エルフやドワーフが買ってくれるから私達フェアリーは定期的に取りに行ってるの」
「よく生きてるなお前、後ダンジョンに居た時に俺のカッターと傘が魔具に成ってるって言っていたが、俺も必要だったりするのかその魔晶石」
妖精はふわふわ飛び回りながら腕を組んで唸る。
「ん〜そうねえ〜、あの変な棒、傘って言ったっけ?あっちには要るちゃ要るけど、ナイフの方、確かカッターだっけ?そっちには今の所必要無いわ」
「なんでそんな微妙な言い方なんだ?後カッターには今の所要らないってどういう事だ?何時かは要るのか?」
「いっぺんに聞かないでよ。え〜と、魔石は覚えてる?」
「お前が取り出せって煩かったゴブリンの心臓付近に有った黄色い石か?覚えてるけど、ていうか忘れたくても忘れられねえよ」
そう、ダンジョン内で助けを待っている時、このアホ妖精は何をトチ狂ったのか、勿体無いからと俺にゴブリンの死体の胸部を切り開いて中の石を取り出せと言ってきたのだ。
当然拒否したのだが、理由を聞いて一応納得し、ゴブリンの死体を切り開いたわけだが、いやあ〜マジで吐き気を催した。その成果がピンポン玉サイズの黄色い石4つだ。
ゴブリンは6匹居たのだが2匹は戦闘中に既に魔石が砕けており(カッターや傘を突き刺した時に感じた硬い感触はこれだ)色が黄色から煤けた灰色の変わっていたのである。
妖精も要らないと言うので4つ持ってきたわけだ。なんだか呪われそうである。
「そそっ、ダンジョンでも説明したけどおさらいね。まず魔石には4つの使い道があるの。
1つは一番一般的な使い方で魔具にマナを充填すること。
持ってる魔具に魔石を押し付けて頭の中でマナを充填させたいって思えば充填できるわ。
充填したら魔石は中に溜まってるマナが無くなるから煤けた灰色に成って砂に成っちゃうけど。
2つ目は魔具を作るのに使う方法。
通常の魔具以外の無機物で魔石を破壊した場合一定の確率でその道具が魔具になる可能性があるわ。あんた傘とカッターは正にこの方法で魔具に成ったの。
ゴブリンの魔石は5級の極小だから破壊した道具が魔具になる確率は1%のはずなんだけど、2回やって2回成功だなんて随分と運が良いわね。
3つ目は魔具を強化する方法。やり方は2つ目と一緒で今度は魔具で魔石を破壊すれば良いの。魔具と魔石によるけど新しい能力が追加されたりするよ。
4つ目は生物を強化する方法。魔物が魔石を食べることで自分の魔石を大きく出来るし、動物が魔石を一定量食べたら魔獣になるわ。一応人間も魔石をある程度食べたら魔人になるけどオススメ出来ないわね。
ダンジョンでも話した通り魔石の使い方はこの4つ。で、魔晶石は1つ目の使い方の代用ができるの。さっき言ったマナの供給はそのこと。
後ついでに言っとくと私達フェアリーには透明化と気配遮断の魔法が有るから他の魔物に気づかれずにダンジョン内での採集が出来るの」
「なるほど。傘には要るけどカッターには要らないっていうのは?」
「傘では魔法が打てるけどカッターでは今の所打てないから」
「魔法が打てる?俺の傘が?」
「う〜んそうね、解りやすく説明するのにあんたの魔具の性能を書き出してあげるから羊皮紙と羽ペン貸して、あとこの世界の書物」
近くに来て両手を出してくる妖精。羽ペンや羊皮紙などこの部屋には存在しない。とりあえず書物はベッドの横に設置した本棚に有った漫画の雑誌を渡す。週刊誌ではなく分厚い月刊誌だ。
「ちょっ、重、うぎゃー」
当然ながら支えきれずに墜落するアホ妖精。ちょっと面白い。
「だずげで〜、みがでる」
流石にヤバそうな声で助けを求めてきたので起き上がって雑誌を拾い上げる。
「あんたあたしのこと殺す気」
「スマンスマン。書物はこれな。机の上に置く。書くものだが羊皮紙や羽ペンなんて無い。これ使ってくれ」
机の上に雑誌を広げ、横にシャーペンとルーズリーフのノートを置く。
「どれどれ」
机の上に降り立つとしばらく頷きながら雑誌を眺める妖精。
「何やってんだ?」
「あんた達の文字を覚えてるの」
「はあ、その雑誌で?」
驚きの回答である。流石はアホ妖精。確かに外国人で日本のアニメや漫画が好きで日本語を覚えた人は居るかもしれないが、たった1冊の雑誌だけでは不可能だろう。
「ちょっと何よそのアホを見るような目は、私達には種族全体に言語理解のスキルがあるのよ」
「言語理解?どういうスキルだそれ?」
「効果は2つ。1つは会話の時に自分の話す言語を相手の最も得意な言語にして伝えたり、相手の喋った言語を聞く時に自分の得意な言語に翻訳する効果。
私があんたと会話できてるのもこのおかげ。2つ目は文字をある程度読むとその言語で使われている文字を理解する能力よ」
メチャクチャ便利なスキルだった。確かに言われてみれば、ある意味異世界出身のこいつと会話が成り立つのはおかしいのだ。
「よし、理解完了。じゃあ書くわね」
シャーペンを抱えるように持ち、ルーズリーフに書き込んでいく妖精。
書いた内容はこんな感じである。
“カッターの性能”
銘:無銘
ランク :普通級<コモン>
ウェポンスキル:無し
ウェポンスペル:無し
バフ :身体強化(弱)コスト1
マナ充填率 :100%
“傘の性能”
銘:無銘
ランク :普通級<コモン>
ウェポンスキル:自動修復(弱)コスト1
ウェポンスペル:アクアボール コスト1
バフ :無し
マナ充填率 :100%
うん、意味が解らない。1つづつ聞いていこう。
「あ〜まずこの銘って何だ」
「武器の名前よ」
「今俺が名付けるれば良いのか?」
「ううん、そうじゃ無いの。魔具で魔石を壊し続けてるとアカシックレコードから名前が授けられるのそれが銘。銘を得た魔具は無銘の魔具より強いの」
「アカシックレコード?」
「あたしもよく知らないけどみんなそう呼んでる。ちなみに魔物も最初は名前は無いの。大量に魔石を食べることでアカシックレコードから名前を授かってネームドモンスターになるのよ」
胸を張って宣う妖精
「お前は名前あるのか?」
「うぐっ」
ちょっと気になって聞くと妖精は途端に苦虫を噛み潰したような顔をする。
「それは〜無いけど」
「無いのかよ」
まあそんな気はしていたがならば何故胸を張っていたのか。しかし呼び名が無いのも不便である。今度考えといてやろう。
「次にランクは何だ?」
「魔具の強さを示すランク。10ランク有るわよ。同ランクでも多少は差が有るけどね。コモンは最下位、魔石を壊して作った魔具は全部コモンよ」
「ウェポンスキルとかいうのは?」
「ウェポンスキル、ウェポンスペル、バフは魔具の能力よ。
違いとしてはウェポンスキルは破壊者特典のスキルの魔具番、所有者の身体エネルギーであるオドを消費して発動するからウェポンスキルを使うと体力を消耗するわ。
ウェポンスペルは魔具に宿ってる魔法魔具の中のマナを消費するの、マナ充填率はどれだけマナが残ってるかね。
バフは身につけているだけで常に所有者に掛かる補助よ。エネルギー源としては大気中の物質エネルギーを使ってるとかナントカ聞いたけどまあマナもオドも減らないからタダだと思っとけば良いわ」
バフの説明適当だな大丈夫か?それはともかくさっきの話からしてマナは魔石か魔晶石を使って充填しなくちゃいけないわけか。
「このコストって何だ?」
「魔具にはキャパシティーが有るのよ。コモンは1、一個上のスペシャルなら3みたいに。コストはそのキャパシティーをどれだけ食ってるかよ」
「ウェポンスキル、ウェポンスペル、バフがそれぞれ1づつか?」
「そうよ。ちなみに同じランクの魔具でも、キャパシティーに空きが無い方が強いし、充填できる魔力量も多いわ」
「バフとかが複数有る場合もあるってことか?」
「そうね。キャパシティーがいっぱいになるまでは追加できるから。
ちなみに追加する方法は魔具で魔石を砕くことだよ。魔石と魔具の格や量によって変わってくるけど。コモンならゴブリンの5級極小魔石でいけると思うけど」
「なるほど」
気怠げに返事をする。何となく聞いてみたが、どうでも良い。もうこの件に俺が関わることは無いだろう。
俺が落ちたあの穴だが、警察に聞いた話だと危険なので人が入らないように看板を設置するそうだ。洞窟は調査がされ、何か発見があれば洞窟の第一発見者としてマスコミが取材に来るかもと言っていたので、調査はされる。
調査して危険生物がいれば駆除に切り替えられるだろうから、俺が危険を侵さなくてもあのダンジョンの寿命は長くない。
ゴロリと寝返りをうって完全にリラックスモード夕飯まで惰眠を貪るのも悪くない。
「ちょっと寝ないでよ。ダンジョンに行こ。世界の封印が解けたら大変だって」
アホ妖精が耳元で何やらうるさいが無視する。
「父さんや母さんに聞こえたら拙いから静かにしろ」
ボソと言うとアホ妖精はハッとして口を噤んだ。よし、大人しくなったゆっくり寝よう。