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第25話 動物の安全管理?

 俺は目の前の白猫をしげしげと眺める。首輪は無いが野良猫だろうか?


「やっとこっちを見たの」


 猫が口を開いて人間の言葉を発する。俺は即座に『ハザン』を振りかぶる。


「ま、待て。何をする気じゃ」


 驚いて後ずさる白猫。


「喋る猫が居てたまるか。お前魔物か魔獣だろ?」


「確かにワシはお主らの言う魔獣に分類されるかもしれんが、だからって即座に敵と判断することあるまい。全ての魔物や魔獣が人間を襲うと決まった訳でもあるまいし」


 確かにアホ妖精は分類的には魔物だが人を襲うわけではない。まあ、弱いから襲えないんだろうが。


「お前も人は襲わないと?」


「そうじゃ、ワシの目的はそこなカラスと同じじゃ」


「じゃあヤッパリ敵じゃねえか?」


「違う。そこなカラスも獣の知性しか無かったゆえお主らに襲いかかったが本当の目的は別じゃ」


「じゃあ本当の目的ってなんだ?」


 一応『ハザン』を下げて聞く体勢をつくる。


「ワシの目的は魔石じゃ。御こぼれが欲しくての」


「魔石を奪いに来たってことか?」


「違うわ。今までお主ら人間は魔物を倒した後、魔石を捨て置いて行っていたのでの。お主らが魔物と戦った後に行くと簡単に魔石にありつけたのじゃ」


 言いながら後ろ足で耳の裏を掻く白猫


「何のために魔石を欲しがってんだよ?」


「他の者のことは知らぬが、ワシは強くなるためじゃ」


 猫のくせに肩をすくめながらため息をつくような仕草をする白猫。芸が細かい。


「お主ら人間は、こういった非常時には自分たちの安全は守っても、ワシら野生動物の安全は考えんじゃろ?それ故自分の身を自分で守るため、力が必要なのじゃ」


 なるほど言っていることは解る。ファングウルフ達は何も人間だけ襲う訳じゃない。おそらく猫や他の動物たちも襲われているのだろう。だから魔石を食って魔獣化して身を守ろうとしている。


 理屈は解るんだけど…


「人を襲わない保証がないんだよな」


「それを言うならお主も同じじゃろ?それだけの力が有って力のない人間にその力の矛先を向けぬと何故言い切れる?」


 それを言われると辛い。たしかに此処でコイツを人を襲うかもしれないからと言う理由で始末すれば、あのアホな警官たちと同じになってしまう。


「後、心配せんでもワシに人を襲う力は無い。ワシが魔石を食って得たのはこの喋る力だけじゃ」


「ひょっとして『言語理解』か?アホ妖精」


「アホって言うな。そうだよ。『鑑定』したけど、その猫ちゃんが持ってるのは『言語理解』だけ。

 言語を理解する為の副産物として知能もその言語を話すために必要なレベル、人間レベルまで高まったんだろうね」


 『狂化』の精神耐性みたいなものか?結構副産物のほうが便利な場合は多いもんな。


「つまりコイツには人を襲う力は無いと?」


「そりゃあ引っ掻いたりは出来るだろうけど、戦闘能力は普通の野良猫に毛が生えた程度だよ」


 アホ妖精の言葉に白猫が全身を使って頷く。


「その通りじゃ。それ故ファングウルフなどに襲われたらひとたまりもない。新たなスキルが必要なのじゃ。魔石を分けてくれんか?新たなスキルを得ても決して人を襲うためには使わん。神に誓う」


 猫にも信じる神や宗教が有るのだろうか?ちょっと疑問に思ったが、一々揚げ足を取っていたらきりがない。気にせず、して話を続けよう。


「そうは言ってもな。口約束だけじゃ力を得たお前が人を襲わないと言いきれない。

 それ以前に、俺達もファングウルフと戦っていて余裕がない。魔石は1つでも多く確保して魔具の強化に使いたい」


「では情報の対価として貰えんか?」


「情報?」


 白猫がまた全身を使ってコクリと頷く。


「そうじゃ。ワシは既にいくつものブラッド・ファングウルフのねぐらやファングウルフの巣を知っておる。ワシでは寝首を掻くことも出来ず、宝の持ち腐れじゃった」


 ファングウルフの巣か。考えたこともなかったな。確かにあいつらも生物である以上眠ることが有ったって不思議じゃ無いもんな。


「お主らなら巣やねぐらが解れば寝首を掻くこともできよう?」


「他の人達と相談してみるな」


「おお、一考してくれるか?ありがたい」


 俺は魔石の回収をすることにして、愛理に大隅警視正と小山一佐を呼んできてもらう。


 辺りに散らばる魔石を回収して『シャドーボックス』に入れていると、愛理に連れられて大隅警視正と小山一佐が姿を見せる。何か後ろにおっさんもついて来ている。


「蓮君。大体の事情は愛理君から聴いたが?」


「はい。この猫に魔石をやるかどうかです」


 大隅警視正が白猫を見る。


「ファングウルフ達の巣の情報を頂けるとか?」


「そうじゃ。ワシが知っておるのは50箇所」


「おいおいそんなに在るのかよ?」


 おっさんが思わずと言った様子で声を上げる。


「うむ。ファングウルフの巣が40箇所とブラッド・ファングウルフのねぐら10箇所じゃ」


「どこに在るか教えて頂けると?」


「場所もそうじゃが大体どのくらいの数が居るかも解っておる。どうじゃ?」


「ふむ」


 大隅警視正はしばらく考え込んだ後俺の方に向き直る。


「蓮君。君の保有する魔石を50個売ってくれんか?1個10000円で購入しよう」


 悪い話じゃないな。魔石の値段とかはもっと慎重に決めたいが、今はとりあえずこれで良いだろう。


「分かった」


 『シャドーボックス』からゴブリンの魔石を50個取り出し、大隅警視正に手渡す。


「ありがとう」


 大隅警視正は礼を言った後おっさんの方を向く。


「近藤警部補。本部の金庫から現金で50万円持ってきて彼に渡してくれたまえ」


「了解です」


 おっさんが本部へ走っていくのを確認した後大隅警視正は白猫の前に魔石を置く。


「では、情報を話して貰いましょうか」


「そうじゃな」


 白猫は耳の裏を描きながら困った様な表情を作る。本当に芸が細かい猫だな。


「儂らの場所の認識とお主ら人間の認識が同じとは思えん。何かあたりの地形を描いた絵など無いのか?」


「これならどうだ?」


 白猫の問を聴き、浅野が地図アプリを立ち上げる。


「おお、十分じゃ」


 地図アプリを見た白猫は前足で一箇所の場所を指す。


「東公園か?」


「お主らはそう呼んでおるのか?ココに30匹程のファングウルフが巣を作っておる」


 白猫の言葉を聴き、大隅警視正と小山一佐は手帳に書き込んでいく。


「次に〜」


 こうして白猫は次々に地図でファングウルフの巣を指し示していき、俺達はファングウルフ巣40箇所と、ブラッドファングウルフのねぐら10箇所の情報を手に入れた。


「この地区にある巣とねぐらの場所はこれで全部じゃ」


「東区のファングウルフは1500匹位か?」


「巣に居る奴らの数はそうじゃが、2、3匹や4、5匹程度の数で巣を定めずに徘徊しているファングウルフも結構多いのでな。もっとおるじゃろ」


 そんな奴らも居るのか。同じファングウルフでも群れの作り方が違うのだろうか?


「とりあえず巣の場所は解った。特別危険地帯の開放と一緒に巣の排除も進める」


「少しいですか?」


「何ですか?」


 大隅警視正に今後の方針を伝えていると、小山一佐が話に入ってくる。


「できれば、特別危険地帯やファングウルフの巣の排除よりもブラッドファングウルフの駆除を優先して頂きたいのですが?」


「ブラッドファングウルフを先に?」


「ええ。君は単独でブラッドファングウルフと呼称している大型個体を討伐可能でしょう?」


「まあ、出来ますけど」


「通常個体、ファングウルフは自衛隊や機動隊で駆除可能です。なのでブラッドファングウルフを優先して貰いたいのです」


 確かに小山一佐の言は尤もである。他人より高い戦闘能力を持っている俺がブラッドファングウルフに集中するほうが効率的かもしれない。


「大隅警視正はそれで良いですか?」


「ああ、その方針で問題ない。後は途中になっていた魔具の購入の件だが?」


 魔具の売買に付いての話を大隅警視正がしようとすると2人の人物が近づいてきた。


「一定の性能はあり、購入するに値するかと」


「三条警部。栗原巡査」


「それ、俺が作った魔具か?」


 栗原巡査は手に俺が作った魔具を持っている。刀身は真っ赤になり、自身も返り血で汚れているが、怪我はないようだ。


「ちょうどいい機会と思い、魔具を使ってファングウルフと実際に戦闘をしてみました」


 栗原巡査は勝手に借りた。と言って、魔具を俺に返してくる。


「我々からの承認なしに…」


「ファングウルフが大挙して来ており、一刻を争いました。そして机の上には魔具が置かれたままだった」


「実際に市民を救うことが出来ました。一定の評価はすべきかと。魔具を使用した戦闘映像も撮れましたし」


 三条警部も栗原巡査に同意し、大隅警視正にスマフォの映像を見せる。


「ううむ」


 唸る大隅警視正に対して小山一佐が提案する。


「まあ、まずは部屋に戻って購入の話し合いでしょう。その映像も参考になります」


「………。そうですな」


 渋々ではあったが大隅警視正も納得し、全員で再び魔具購入に向けた話し合いを再開させる流れになる。


 しかし、俺の方はそうもいかない。


「悪いんっすけど、昼まで待ってもらって良いっすか?」


「どうしたんだね?」


「さっき判明したブラッドファングウルフのねぐらを1つ潰してきます」


 大隅警視正は俺の発言を聴き、小山一佐に視線を送る。


「ん?ああ。私は構いませんよ。ブラッドファングウルフを減らして貰えるなら願ってもない話だ。またお昼、12:30頃に伺いましょう」


「そういうことならよろしく頼む」


 小山一佐に快く受け入れてもらい、俺は1つめのブラッドファングウルフのねぐらへ向かった。



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