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第21話 魔具『紅姫』

「なんだね?」


「私もおにぃと同じバイトをさせて欲しい」


「ちょっと愛理何を言い出すの?」


 母さんが悲鳴を上げる。

 確かに俺も困ってしまう。愛理は普通の女の子だ。戦えるはずがない。


「私も戦いたい。私にお父さんとお母さんの敵を討たせて」


「えっ?」


「なにを?」


 親父と母さんから驚きの声が上がる。


「君のご両親は健在だと思うが?」


「お義父さんは私の本当のお父さんの従兄弟なの」


「ええ。愛理は従兄弟の娘です。3年前に交通事故で従兄弟夫婦が無くなったので引き取ったんです」


 愛理の言葉を親父が補足する。


「事故じゃない。ファングウルフに殺されたんだ。そのことは警察に話しても信じて貰えなかった」


 親父の交通事故の言葉を聴いた愛理が、語気荒く否定する。


「ファングウルフに殺されただと?」


 確かに当時、愛理は家族が乗る車に白い狼が飛び掛かってきたと警察に話していた。その影響で車が木に激突したのだと。しかし警察は取り合わず、運転ミスによる交通事故となっていた。


「つまり、3年前からファングウルフは出てきていたと?」


 大隅警視正とおっさんは目を見開いている。


「そうだよ。そしてあなた達は私の話を子どもの言うことだと言って信じなかった」


 愛理は大隅警視正を睨み、吐き捨てるように言った後、俺に視線を戻す。


「お願い。魔具をちょうだいおにぃちゃん。私に敵を討たせて」


 かわいい義妹からのお願いに言葉が出ない。


「それは無理だろう。魔具は大神蓮しか使えない」


 代わりに言葉を発したのは大隅警視正だ。


「ネームドの魔具はね。おにぃちゃんの持ってるネームドの魔具は2つ。でも持ってる魔具はそれで全部?魔石を破壊した道具が1%の確率で最下級の魔具に変わるんなら、おにぃちゃんの性格から考えて後2〜3個は持ってそうだけど?」


 ああ、ヤッパリコイツは賢い。


「有るな。これで良ければ」


 俺は出刃包丁の魔具を取り出す。


「これなら無名、誰にでも使える」


「そんなものが有ったのか?」


 大隅警視正が驚きの声を上げる。


「ただし、最下級のコモンだ。性能は低いぞ。身体強化もない。能力はスキルが『飛刃』、スペルが『痛覚増大』、バフが『斬撃強化』どれも(弱)」


「でも、おにぃには大量の魔石が有るよね?」


 愛理が上目遣いで俺を見る。


「あるな。1000個も壊せばネームドになるだろう。欲しいのか?」


「うん」


「「なっ」」


 満面の笑みで頷く愛理、かわいいな〜。

 そして驚きの声を上げる。母さんと大隅警視正


「ほらよ」


 大人たちの反応を無視して魔石をシャドーボックスから出して愛理の前にばら撒く。

 母さんは反対だろうが、可愛い義妹からあんな話を聞かされたら駄目とはいえない。

 まあ、俺が隣について弱らせたファングウルフにとどめを刺させるとかでお茶を濁そう。

 最悪危険な目に遭ったら俺が守ればいい。


「ありがとうおにぃちゃん」


 お礼を言った後、愛理は出刃包丁を振りかぶり、体ごと振り下ろす。


「何だアレは?」


 愛理は手首をしならせて出刃包丁を奮うことで、『飛刃』を刃よりも後方に発生させ、1撃で大量の魔石砕いた。


「アホ妖精。アレは?」


「わかんない」


「浅野?」


「ああ、『叡智』で調べたぜ。能力と言うよりは使い手のテクニックみたいな技らしい。後で詳しく話す」


 浅野の話を聞いてますます訳が解らなくなる。どうして愛理はそんなものを知っていたんだ?それともまさか感覚で出来たのだろうか?


 考えている間も愛理は次々に魔石を破壊していく。


 途中大隅警視正は何か言おうとしていたが、愛理の鬼気迫る表情に口を噤んだ。


 そしてついにあの通達が流れた。


“アカシックレコードより通達.一定以上の魔素を吸収した魔具に銘『紅姫』を与える通達終了”


 出刃包丁の刃が透明感の有る赤色に染まる。


「ふふ、よろしくね『紅姫』


「蓮」


 アホ妖精が俺のソデを引っ張る。


「何だ?」


「アレの性能書き出したいから紙頂戴」


 すぐに紙とペンを部屋の端の電話の横から持ってくる。


 アホ妖精はペンを抱えて書き始めた。


“出刃包丁の性能”


  銘:紅姫


所有者:大神 愛理


 ランク    :特別級<スペシャル>


 ウェポンスキル:飛刃(中) コスト2 血の演舞 コスト6→1(ボーナスコスト-5)

         自動修復(弱) コスト1 


 ウェポンスペル:痛覚増大(極) コスト6→1(ボーナスコスト-5) チェンジサイズ コスト1 


 バフ     :斬撃強化(強)コスト3 身体強化(弱)コスト1


 マナ充填率  :100%


「なあアホ妖精、なんか特別級<スペシャル>にしては強くないか?後、このボーナスコストって何だ?」


「ボーナスコストはネームドの魔具に極稀に出るもので、その能力と所有者の性格や体質があっていれば出るわ。どの程度あっているかによるけど、性格のほうがマッチしているかで最大5、体質の方がマッチしているかでも最大5までコストが減るわ。ただしコストが0になることはないけれど」


 つまり『痛覚増大』とか『血の演舞』とかに愛理は適正が有るのだろうか?


「どうしたのおにぃちゃん」


 うん、やはりかわいい義妹だ。決して俺は恐怖など感じていない。そう、決して……


「後、血の演舞はかなり強力なスキルよ。進化系のスキルだし」


「進化系?」


「そ。血を吸えば吸うほど魔具の強度や切れ味は上がるし、貯めた血を消費することで他の能力を強化することも出来るわ。大量の血を貯めておいて、一気に消費する必要は有るけど、『飛刃』や『斬撃強化』、『身体強化』なんかを1つ上の性能で使えるわ」


 なるほど。説明を聞くと便利なスキルだ。他の能力を強化する性質上後々強い能力を得た後でも役に立つだろう。だが?


「それ、進化か?どっちかといえば補助系だろ?」


「確かに今の説明だけなら補助系なんだけど。ああ補助系って括りも有るわよ。で、今の説明だけなら補助系だけど、進化系にはもう1つ特徴が有るの」


「もう1つの特徴?」


 アホ妖精がもったいぶった調子で言う。


「そう、それはスキルと魔具が進化すること」


「スキルと魔具の進化?」


「そうみたい」


 ここで愛理が大きく頷いて話に入ってくる。


「この子血を吸えば吸うほど強くなるし、完全に染み渡るまで血を吸ったら『血の演舞』が強い別のスキルに変わるみたい。その時に魔具も1段階上がるらしいよ」


「つまりダンジョンコアを壊さずに進化できると?」


「そうよ。それが7つしか無い進化系スキルの超恐ろしい所。本来ダンジョンコアを破壊すると言う危険を侵さないといけない進化をダンジョンコアを壊さずに行えて、しかも2回しか無い進化を1回追加で行えるんだもの」


 なるほど、中々有効なスキルらしい。そしてコイツはまた気になることを言った。


「2回までしか進化しない?」


「そうだよ。ダンジョンコアを壊すたびに進化したらそのうち創世記級〈ジェネレーション〉がそこら中に存在することになる。普通に魔具がダンジョンコアを壊して進化するのは2回だけ、3回め以降は壊しても進化しない」


「じゃあ『ハザン』の進化は後1回か?」


「ううん。ハザンは後2回。ネームドになると1回分回数が増えるの。称号が付けば更に2回分増えるよ」


「称号?」


 また新しい情報だ。ポンポン小出しにするんじゃなくて最初から教えておいて欲しい。 


「そ、私も詳しく知らないけど、幾つか条件をクリアすると称号が手に入るの。ただ、向こうでも称号の有る魔具って3つ位しか無いから、まあ『ハザン』をそこに至らせるのは無理だと思うよ」


 なるほど、常に魔物と戦ってきた向こうでも3つしか無いのならただ魔物を倒していても称号は手に入らないのだろう。


「ステキ」


 横で訊いていた愛理が声を上げる。


「私の紅姫は必ず称号を得てみせるわ。ひとまずはユニーク〈特殊級〉にしないと」


 なんか戦闘狂っぽく聞こえるが、可愛い義妹に限ってそれはないよな。


「んんっ、良いだろうか」


 今まで話を訊いていた大隅警視正が咳払いをする。


「愛理のバイトの件ですか?」


「ああ、もう1つ有るがまずはそれだ」


「お給料の話?おにぃより弱いだろうから同じ額は払えないとかそう云うこと?」


 愛理が首を傾げる。


「それ以前の問題だ。いくら魔具があろうと君が戦力になる保証はない」


「分かった。じゃあ外のファングウルフを何匹か倒してくる。それでいいでしょ?」


「やめなさい愛理。危ないことをしないで」


 母さんも話に入ってくる。


「もう1度言うね。私は敵を討ちたいの。何としても」


 強い意志を感じさせる瞳で愛理が宣言した。


「愛理」


 母さんが咎めるような声を出すが愛理の決意は揺るがない。


「はあ、解った。この話はひとまず置いておこう。大神君。君は他にもネームドでない魔具を持っているのかね?」


「2つだけですけど」


「譲っては貰えないだろうか?」


 ヤッパリそう云う話になったか。どうしたもんかな。

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