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第19話 栗原 美琴

「どうゆうつもりだ?」


「市民を襲っていた赤い大型個体を2頭も討伐してくれたあなたと戦う理由がわからない」


 理由を訊いて俺は素で大口を開けたマヌケ面をしてしまった。なら最初っから銃を向けてくる理由がない。


「更に本音を言えば、1頭で戦車を大破させるような怪物を2頭同時に相手にして勝つあなたに生身で挑むなんて自殺行為」


「じゃあなんで…」


「なにやってんだぁ」


 いきなりの大声に会話を遮られる。

 声のした方を見ると、おっさんが血相を変えて走って来ていた。


「近藤警部補お疲れ様です」


 そいつはマイペースにおっさんに対して敬礼する。


「おお、全くだ栗原巡査。で、何が在った?」


「狼どもの侵入と警察官の大量負傷です。今現在は私が彼に殺されかかっているので降伏をしている最中です」


「意味が判らんのだが?順番に正確に話せ」


 「栗原巡査」とおっさんに呼ばれた警官はファングウルフをの侵入から今に至るまでの経緯を順を追っておっさんに話した。


 おっさんは相槌を打ちながら時々俺の方をチラチラ見てきたが、俺からは特に何も言わなかった。

 栗原巡査の説明が本当に事実を淡々と伝えているだけであり、訂正や補足の必要な箇所が無かったからだ。


「なるほど。坊主は?何か言いたいこと有るか?」


「いや、そいつの言った通りだ」


「判った。まあ、まずはありがとう。そしてすまなかった」


 おっさんは俺に向かって深々と頭を下げた。


「謝ってくれるのは良いけど、この落とし所はどうするんだ?」


「そうだな〜正確なことは俺からは言えないが…」


「では、ココからは私が話そう」


 おっさんの言葉にかぶせるように知った声が聞こえる。


「お、大隅警視正。」


 おっさんは緊張した顔で敬礼する。栗原巡査も敬礼している。

 どうでも良いことだが、両者とも緊張して敬礼しているはずなのに、警部補のおっさんより栗原巡査の敬礼のほうがビシっとしていて綺麗である。それで良いのか警部補?


「到着してそうそう大きな問題が起こっているようだな?栗原巡査、私にも事の経緯を報告してくれたまえ」


「はっ」


 栗原巡査の報告が一通り終わった後、大隅警視正は目を閉じてゆっくりと頷くと、俺に向かって深々と頭を下げた。


「私からも謝罪する。申し訳なかった」


「いや、もうおっさ、じゃない。近藤警部補にも謝罪してもらいましたし、何もそこまで」


 こうゆう覇気のすごい人に頭を下げられるとこっちが恐縮してしまう。


 それに謝ってもらってもただ許して有耶無耶に終わらせるわけにはいかないのだ。今回のような暴走が1度限りの保証がない。


「そうゆうわけにはいかない。何せ此処に居る警察官は全員私の部下だ。彼らが暴走したのなら私が責任を負わなくてはならない」


「そうは言っても……「今は非常時だから辞職してもらう訳にも行きませんしね。」っ。浅野?」


 ファングウルフの襲撃で浅野の存在を忘れていた。


「とりあえず蓮の家族と俺達友人をきっちりと保護してもらうことが大事でしょう。蓮だって傷はもう塞がってるみたいだが、着替えは必要だし、少し落ち着かないといけないだろう。しばらく休憩してから話し合いましょう」


「確かに、近藤警部補」


「はっ」


「大神君のご家族を応接室にご案内してくれ」


「蓮は更衣室で着替えてくると良いぜ。一応また喧嘩をふっかけられないように俺もついてくわ」


 先程の警察との戦闘を《喧嘩》と表現した浅野の言い方に笑ってしまう。


「判った。でも着替えは不要です。大隅警視正。案内も此処は俺達の通っている学校だ。場所ぐらい解るから俺が連れていきます」


「しかし…」


「家族や友人が人質に取られると面倒なので警察の案内は不要です」


「なっ」


「おい蓮」


「坊主、流石にそれは言いすぎだろ」


 俺の言葉に大隅警視正は絶句し、浅野とおっさんは批難する。


「おかしいか?いきなり連中に背後から撃たれたんだ。警戒してしすぎることはない。罠の可能性も考慮する」


「はあ、そこまで言うなら仕方ねえな。応接室に行こうぜ。おじさんとおばさん、それに愛理ちゃんも」


 浅野が両親に水を向けると若干青ざめた表情で親父が口を開く。


「蓮、浅野君、一体何が起こっているんだ?蓮のさっきのは一体?」


 説明を求められると長くなりそうだ。


「え〜と」


「提案が有る」


 俺がどうやって親父達に説明しようか考えていると、栗原巡査が手を上げた。


「なんだね?」


 大隅警視正が、少し疲れた調子で発言するように促す。


「はい、浅野少年が休憩が欲しいと言った意図は、大隅警視正との話し合いの前に仲間内で今後の方針を確認しておきたいためだと推察する。また、蓮少年の家族にこれまでのことを説明するにはかなりの時間が必要なはず。」


 ここで一旦栗原巡査は言葉を切って浅野の方を見る。


「まあ、大体その通りだ」


「ならば、先程の警官たちの暴走とファングウルフの件などは私からご家族に説明する。その間に隣の校長室であなた達は打ち合わせを行ってから、ご家族も交えて大隅警視正との話し合いに望めばどうですか?」


「それは無理だ。警察が信用できないんだから当然あんたも信用できない」


 俺の言葉に栗原巡査は大きく頷く。


「解決法は考えてある」


「解決法?」


「そう。まず私が銃と警棒を外して机に置く。これで私に武器はない。信じてもらうために、あなた本人にボディーチェックもしてもらう」


「はあ、何言ってんだ?」


 コイツは何を言っているんだろう?


「お前女だよな?」


 相対した時は割と距離が在ったうえに帽子を深く被っていて判らなかったが、近くで顔を見てみると女であり、しかもかなり整った容姿をしている。

 ボディーチェックとは同性が行うのが普通ではないだろうか?


「此方が一度やらかしてしまっている以上あなたの信用を得るためには細かいことは気にしている余裕はない。ああ、ボディーチェックが終わったら両手を手錠で拘束してもらって構わない。その状態なら万が1私があなたの家族を人質にしようと考えても実行は不可能」


「おい蓮、ラッキーだな」


 浅野がニヤニヤしながら俺の顔を覗き込む。下品な奴め。


「アホか、他の人に頼む」


 確かに武器を持ってないか確認はしたいが俺が直接する必要はない。


「え、でも信用できるやつがしないといけないだろ?嘘つかれたら困るし。蓮の味方で信用できる人材となると…」


 わざとらしく言葉を伸ばし、いやらしい顔で言葉を続ける浅野。というかコイツのせいでシリアスな雰囲気が台無しに成ってしまった。まあ、殺伐としすぎるのも問題だから狙ってそうしたのかもしれないが。


「仕方ない。俺「おにぃ。あたしがやろうか?」かあぁ」


 浅野が言い終わる前に愛理が言葉をかぶせてきた。


「愛理?」


 先程まで青ざめており、いまも顔がこわばっているが、まっすぐに俺を見つめるその瞳からは意思の強さが感じられる。


「あたしがチェックするよ。自分たちの身の安全に関わることなのに人任せになんか出来ない。それに、流石に男の人にさせるなんてその人が可愛そうだよ」


「本当に任せていのか?愛理」


「うん。ただ、ちゃんと出来たらお願いが有るんだけど?」


 確認すると力強く頷いてくる。お願いの内容は気になるが。


「おい蓮、ちょっと」


 浅野が耳元に来て囁く。さっきとは一転して真面目な声音だ。


 おっさんとの掛け合いのときも思ったけど真面目な時とおちゃらけてる時の落差激しいなコイツ。


「愛理ちゃんには悪いが無理だ。いくら華奢に見えてもあの女は警察官。鍛えてるはずだ。愛理ちゃんなら素手でも負ける」


 確かに浅野が言うことも最もだ。愛理も駄目となると。


 悩んでいると栗原巡査が俺の前に来て手錠を渡してきた。


「妹さんがボディーチェックをすると言うなら私は自分の両手を予め手錠で拘束しておいたほうが良い。手錠を掛けるのはあなたにお願いする」


 なるほど、それなら何か在っても最悪逃げられるだろう。


「後、ボディーチェックには母親にも同行してもらう。応接室で行って扉の外にはあなた達に待機してもらう。この方法なら2人のうちどちらかが声を上げればあなたは異常を察知できる」


 なるほど、確かにこれなら大丈夫だ。


 話が決まったので早速応接室に移動し、ボディーチェックを行ってもらい、俺達は部屋の外で待機する。


「なあ、でもさあ。ボディーチェックするのにお前の家族とあの人が部屋に居る状態になるんなら意味なくねえか?」


 浅野が首を傾げる。


「そうかもしれないけど、強いて言えばお前と話し合ってる時にずっと横の部屋に意識を集中しておくのは無理だし、母さんたちも説明されてる時に常に襲われないか気を張っておくのは厳しい。ボディーチェックが終われば安全だって解るから俺も向こうも話に集中できる」


「なるほどなあ」


 浅野と会話をしながらも意識は中の物音に集中する。


「暇だな?」


 そんなふざけたことを浅野が言った時


「キャーナニコレ」


 室内から愛理の悲鳴が聞こえてきた。


「どうした?」


「あっ、おにぃ来ちゃ駄目」


「なっ」


 考えるより先に体が動き、室内へと入るが、俺の目に飛び込んできたのは危機に陥っている母さんと愛理ではなく、慌てた様子の2人と、相変わらずの無表情のままで下着ときめ細やかな白い肌の大部分を晒している栗原巡査だった。


 ちなみに余談だが、栗原巡査は手錠のせいで上手く服が脱げないためか、服が大いにはだけた脱ぎかけと呼べるような実に卑猥な格好になっていた。


「おにぃは見ちゃ駄目。」


 ものすごい勢いで近づいてきた愛理に後ろを向かされる。


「いや、一瞬見とれたけどさっきの大声何だったんだよ?」


 呆然としていたが我に返る。そもそも俺は大声を聞いて駆けつけたのだ。まずさっきの大声が何なのか訊かなくてはいけない。言う必要のないことまで口走ってしまった気がするが。


「うわあぁ。ヤッパリじっくり見たんだ」


 表情は確認出来ないがはっきりと軽蔑の表情をしていることが解る声音で愛理が批難する。


「見ようとしたわけじゃない。お前が大声出すからだろ。もう1回聞くけど何だったんだよ」


「ああ、さっきの?」


「大声出すから何か有ったかと思ったんだ」


「いやあさぁ、美琴さん肌メッチャ白くて綺麗なんだよね。あと腰はメッチャクチャ細い。美人だし。警察じゃなくてモデルさんになったほうが良いと思う」


「警察官は安定している。モデルは売れるかどうかが博打」


「大声の原因はそれか」


 慌てていただけに呆れてしまう。


「だってありえない細さ。同じ女としての自身が」


 なんかいきなり落ち込みだした。


「お前目的忘れてないか?終わったのかよ?」


「ああ、ボディーチェック?終わったところだよ」


 終わっていたのか。何気にちゃんとやっていたらしい。


「終わったんならその人には服着て待っててもらえ。母さんと愛理で親父呼んでこいよ」


 とりあえず浅野との打ち合わせ。それが終わったら大隅警視正との交渉だ。


「待って」


「ん?」


 栗原巡査が声を上げる。


「二人が出た後あなたの宙に浮く巨大な刃で応接室の廊下側の入り口を塞いで校長室からしか入れないようにするべき」


「ああ、忘れるところだった」


 確かに、廊下側から入れる状態は拙い。


「『ハザン』」


 『刃操』と『チェンジサイズ』により巨大な刃で廊下側の出入り口を塞ぐ。


 さて。今度こそ打ち合わせだ。


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