独白2 銀の決意
熱い。全身に追った傷から燃えるような熱と何とも言えない不快感を感じる。おそらくコレが痛みと呼ばれる物だろう。
生まれついての上位種である我は今まで怪我等負った事もなく、痛みと呼ばれるものを経験したことがなかった。
しかし、今時分は全身に無数の傷を負い、走ることもままならない状況だ。こんな所を他種族に見つかれば大変な事になる。
そもそもどうしてこんな事になったのか?食べ盛りな我が子と自身の飢えを満たすため、獲物を狩りに巣穴から出て来た。
最初に感じたのは違和感である。今までそこら中に居た毛の少ない猿の姿が見えない。実際には少し行った所に集まってはいるが、あの集団は動く鉄の塊や空飛ぶ不思議な物体を持っていて狩るのが面倒くさい。できれば他のそこらを歩いているのを探したかった。
しかしいくら探しても見当たらない。アレは狩りやすく味も良かったので残念極まりないが、居ないというのであれば仕方ない。
いい加減腹が空いてきた。それにあまり長い時間を掛けていると今日中に我が子に獲物を届けられない。
仕方なく他の獲物を探そうと周囲を探る。猫やカラスなどを幾らか狩るが、コレではとても腹は膨れない。
そう思った我は川を渡ることにした。泳ぎはあまり得意ではないが川程度を泳ぐだけなら出来なくはない。獲物を求めて川を泳ぐ。
そして暫く泳いだ所で我は同胞の血の匂いを感じた。「敵が居るのか?」と身構えるが、何のことはない猿が2匹居るだけだった。しかも探し求めていた毛の少ない猿だ。
我は喜び勇んで獲物のもとへ泳ぐが、獲物からは次々に攻撃が飛んでくる。
我はこの事態に面食らった。今まで逃げる獲物は居ても反撃してくる獲物は極わずか、あの鉄の塊で武装している猿どもだけだった。
しかし、この獲物はあの猿どものような武装は無いが、明らかにあの猿どもよりも強力な攻撃を放ってくる。当たると我と言えどもただでは済まないようなものも多い。
なんとか全ての攻撃に対処し、我は獲物の前に立つ。相手は逃げない。流石に至近距離で我と対峙すれば闘志も折れたであろう。今までの愚か者共もそうだった。その上で逃げないということは、最早生き残ることを諦めているのであろう。
早速食ってやろうとしたが、何か嫌な予感がする。確証はないただの感だが、こういう予感は無視しない方が良い。
我はすぐに食らいつくような愚を侵さず、距離を取って慎重に様子をうかがう。そして、予感が当たっていたことは直ぐに証明された。
その猿は、斬撃を飛ばして我に攻撃を仕掛けてきた。此処まで我に接近されてまだ闘志は衰えていない。食いつかなくて正解だ。相手に食いつくと、体勢的に相手に反撃され放題に成ってしまう。さて、まずはこの飛ぶ斬撃だ。ダメージは無いが続けられると鬱陶しい。
我の方も相手を攻撃し、相手が体勢を崩した所で追撃を掛ける。そうして本格的な戦いが始まった。
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正直衝撃を受けている。今までコレほど抵抗してきた相手は居なかった。この猿はかなり強い。既に狩りは1方的な狩りではなく戦いの様相を見せていた。状況は終始我が有利に進んでいるが、油断は出来ない。何か僅かなきっかけで覆されかねない。
とりあえず攻撃を続ける。
相手に息を着く間も与え無い様に攻撃を繰り返すことで、反撃のスキを与えないようにする。しかし、またも予想外のことが起こる。
その猿はなんと空中をを走って、遥か上空に逃げたのだ。
正直コレは拙い。相手は空を飛び、上空から我を狙う事が出来る。相手は圧倒的なアドバンテージを得たことになる。
我の番は空を駆ける技を身に着けているが我は無理だ。仕方がないので、地上から衝撃波を放ち、撃ち落とそうと試みる。しかし、何度やっても当たらない。そうこうしている間に敵はとんでもないものを出してきた。
それは空から降る燃える塊だった。
「アレを食らったら死ぬ」1瞬でそう感じた。
咆哮で塊に衝撃を放ち、少しでも速度を遅くする。そして、あの敵からでは我を見えない角度に成った時に回避する。
「コレで危機は去った」そう思ったのも束の間。地面に燃える塊が落ちる衝撃と同時に我の体に無数の破片や熱風が襲いかかり、大ダメージを追う。
それでも勝てる算段はあったのだ。しかし、もう1人の猿が出した不快な音と、何とも言えない強烈な匂いによって我の集中力は遮られる。
本来、狩りにおいて強い獲物を狙うのはあまり良いことではない。下手をすると自分が獲物になるし、勝ったとしても、満身創痍に成れば他の者に漁夫の利を得られる。
我は踵を返してその場を去った事実上の逃走である。
上位種に生まれた自分がその場を逃走するプライドが大きく削られた。
本来狩りは弱い獲物を襲うべきだ。勝てるかどうか分からない相手に挑んで怪我をするのは合理的ではない。
しかし我は次こそはあの猿に屈辱を晴らすと心に誓った。合理的かどうかよりも心情を優先したのだ。
次こそは必ず狩ってやろう。我はそう心に決め、あの敵の匂いを追い始めた。