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第13話 白銀の狼王

 さて、ダンジョンの話だ。


「浅野。ダンジョンの場所は解ってるんだろ?」


「ああ。『叡智』で調べたからな。西区の工場跡地だ」


「西区?山の中じゃ無いのか?」


 浅野の言葉に驚く。てっきり奴らの本拠地は山中だと思っていた。


「ほら、なんか流通路の関係とかなんとかで移転した工場の跡地が有るだろ?彼処だよ」


「なるほど。教えてもらって良かった。山の中を探し回るところだった」


 しかし疑問が有る。


「でも実際にあいつらは山に居たぞ。西区からこっちの山に来ようと思ったら街中でもっと大量に発見されてそうだがな」


「それは俺も疑問だったが、地図を見て納得した」


 浅野がスマフォで周辺の地図出して見せてくる。


「西区の工場跡地から真っ直ぐ北に行くと郊外のあんまり開発されてない地域で、そっから更に北に行くと川だろ」


 浅野は話しながら指で地図をなぞっていく。


「川を渡って西区から東区の山へ?アイツら泳げるのか?」


「そう思っといたほうが良いだろうな。少なくともこのルートならそう矛盾もない」


 川を渡れるなら一気に近隣に広がる恐れが有る。


「とにかくダンジョンに言ってみよう」


「了解。案内する」


 俺と浅野は家を出る。


「一応先に川を見ておくか?」


「そうだな。実際に近くにファングウルフが居るかどうか。それによってこれからの予定が変わってくる」


 浅野の提案に従い、山道に入って川を目指して走る。


 此処で気づいたが、浅野はオドの量は変化してないし、『ピュータス』にも身体強化系のバフが無いから身体能力は常人のままだ。


「仕方ない。舌噛まないように歯を食いしばっておけよ」


「へ?ておい」


 言うが速いか、俺は浅野を荷物のように抱えて全速力で走る。


 浅野は言った通り必死の形相で歯を食いしばっていた。大体のアニメなどではこういう時「ギャァァァ」とか言っているが、実際にはそんな余裕は無さそうだ。

 まあ、声を出そうと口を空けたら舌を噛む危険性が有るし、賢い選択だろう。


「着いたな」


 5分程で川辺に到着する。


「ハアハア。死ぬかと思った」


 浅野は青い顔で座り込む。


「情けないな」


「あんな速度で移動されたら誰でもこうなるわ」


「ねえ蓮。あれ」


 浅野と話しているとアホ妖精が俺の袖を引いて川下の方を指差す。


「ん?ファングウルフか?」


 見ると30頭程のファングウルフが犬かきで流れに逆らって泳いできていた。


「うわぁ、予想通りか」


「でも、これなら」


 陸地でさえ『刃操』を躱せない連中が、川で泳ぎながら躱せるはずがない。


「でも魔石が勿体無いか?よし」


 俺は『ハザン』の刃を1枚川の中に沈ませると、その上に奴らが泳いでくるのを待った。


「よし、今だ」


 刃を沈めた真上にファングウルフの1団が来た所で、『トルネード』を広範囲で発動する。


「「「ギャォォォォン」」」


 悲鳴の様な鳴き声を出してファングウルフ達が水と一緒に空中へ放り出される。


「喰らえ『刃操』」


 空中でファングウルフ達を切り刻み、魔石を刃で受け止めて回収する。


 魔石を失ったファングウルフ達の躯が川にドサドサと落ち、水を紅く染めて川下に流されていく。


「とりあえず、浅野の言った通りだったな」


「そうだろ」


 話しながら川辺を後にしようとすると、もう1頭泳いでくるのが見える。


「蓮。あれ」


「ああ。もう1頭だな」


 対処しようと『ハザン』を構えると浅野が焦った調子で声を出す。


「いや、おかしい。遠いから分かり辛いけど、あれは相当でかいぞ。ファングウルフはあんなサイズじゃ無かった。それにあの毛並みの色、白って言うより銀だ」


 銀色の毛並みの狼型魔物?


「アホ妖精、知ってるか?」


 アホ妖精に訊くと顔を真っ青にしている。


「嘘。銀王狼」


「銀王狼?何だそれ?」


「ファングウルフの番の間に100万分の1の確率で生まれる上位個体で、ファングウルフの上位個体の中で2番めに強い魔物よ」


 なるほど、イマイチ凄さが判らない。


「ブラッドファングウルフは何番目なんだ?」


「5番目よ」


 うん。ヤバさが解った。なら万全の状態じゃない今、川を泳いでる内に始末するべきだろう。


「喰らえ」


 俺は『ハザン』の刃を大量に向かわせる。陸上でならブラッドファングウルフも避けたが、水中で陸上と同じ動きは出来まい。そして俺は自分の甘さを思い知らされる。


「ワオォォォォン」


「嘘だろ?」


 銀王狼が泳ぎながら発した咆哮で、『ハザン』の刃が全て吹き飛ばされる。


「蓮」


 青ざめた顔のままアホ妖精が寄ってくる。


「ブラッドファングウルフと銀王狼は別格だよ」


 ああ、言われなくてもそれを今まざまざと見せつけられた。ブラッドファングウルフの咆哮ではビクともしなかった巨大化した『ハザン』の刃をアイツは1発の咆哮で全て蹴散らした。

 つまり、今の俺達にアイツの咆哮を防ぐ手段が無いということだ。


「ならコレはどうだ。『トルネード』」


 今までとは違い『トルネード』を刃先から放つ。これに巻き込まれて体勢を崩したら次こそ『刃操』の餌食にしてやる。


「グル?ウガォォン」


「何だ?」


 また咆哮を放つがさっきのとは少し違う。分かりづらい表現になるが、1度飲み込もうとしてから衝撃波を吐いたような感じだ。


 放たれた衝撃波が大気を歪めるので目視できるが、まるで衝撃波が球形になった様に見えた。

 その球形衝撃波は『トルネード』とぶつかり凄まじい音が辺りに響き渡る。


「キャァァァ」


「うるせっ」


「鼓膜が破れる」


 3人で耳を抑え、成り行きを見守る。


「嘘だろ」


 そして『トルネード』が消えた後には絶望の光景が待っていた。


「アレ受けて平気なのかよ?」


 俺達の目には先程と同じく平然と川を泳ぐ銀王狼が写っていた。


「畜生」


 こうなればヤケだ。上空に100以上の刃を限界まで巨大化して浮かせ、それらから『飛刃』を撃ちまくる。


「おい蓮、効いてないぞ?」


 浅野の言う通りコレはブラッドファングウルフにも効かなかった。銀王狼、あの怪物に効果が有るはずがない。

 実際に奴は『飛刃』の雨に晒されても平然と進んできている。しかし、顔に当たった時にうっとおしそうに頭を振っているのを俺は見逃さなかった。


「効かなくても目くらましになれば十分だ。『トルネード』」


 10枚の刃から『トルネード』を10発同時に放つ。流石にマナの残量がヤバイが気にしている余裕はない


「いけー」


 10発の『トルネード』が奴に到達しようと言う時、奴は新たな行動に出た。


「ウワオォォォォォォォォン」


 長い長い咆哮、その衝撃波は広範囲に及び、10発の『トルネード』の軌道を僅かに逸らす。


「ありえないだろ」


 軌道が逸らされたことによって出来た僅かな安全地帯。銀王狼は丁度そこに居た。


「腹くくるか」


 俺は魔石でマナを満タンまで充填する。


 もう、すぐそこまで泳いできている。今更止められない。


 俺達は陸上であの化物と対峙するしか無い。


「おい蓮。どうする?」


「無理よ。あんな奴」


 浅野とアホ妖精の言葉を聞きながら戦闘の準備をする。


「お前ら下がってろ。」


「わ、私はアンタの肩に居るわよ」


 震えながらアホ妖精が叫ぶ。


「巻き込みそうで邪魔だ」


 少しキツイ言い方なってしまったが事実だ。俺の肩に居るほうが危ない。


「浅野」


「何だ?」


 浅野はどもらなかったが、顔面蒼白だし、足が震えている。


「後ろから音波でサポートしてくれ」


「出来る限りやってみる」


 最後に『ハザン』の刃を周囲に仕込む。


 よし、出来る限りの準備はした。


 俺が覚悟を決めるのとほぼ同時に銀王狼は岸へと辿り着いた。


次から月曜更新にします

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