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第9話 ファングウルフ

 狼を隠している洞窟に着くと浅野は狼の背中から足の先までの大きさを測り始める。


「なあ蓮。ニュースでは猛獣の体高は2mって言ってたよな?」


「ああ。そういえば、そうだったな。ん?」


 浅野に言われて気づいた。おかしい。コイツの体高は3m有る。


「妖精ちゃん。魔物は1日で体高が1m近く成長するのかい?」


「種類や成長の方法によるから、魔物全体では無いとは言わないけど、そいつ、ブラッド・ファングウルフではありえないよ」


「つまり、ニュースで言ってたのは、コイツじゃないってことかね」


 言われてみればゴブリンはアレだけ居たのだ。ゴブリンほどの繁殖力はないとはいえブラッド・ファングウルフが1体だけとは限らない。


「他にもこんなのが居るのか。ゾッとするな」


「多分こいつらが出てきたダンジョンがどっかに有るはずよ。そこを潰さないと何時まで経っても終わらないわ」


 アホ妖精が俺の顔をチラチラ見ながら出てきたダンジョンを潰すべきと宣う。


「まあ、とりあえず一旦オレの家に戻ろうぜ。そのうち蓮のおばさんも来るだろうし」


「もう1体を見つけないと母さんの車が襲われない保証はないけどな」


 洞窟を出て歩き出す。浅野の家に戻るにしろ、もう1体を見つけるにしろ、まず市内に戻らくてはいけない。

 洞窟を出てすぐの壁を浅野が登れずに、襟首をひっつかんでジャンプしたり、道中浅野が俺の歩く速度にも追いて来れずにバテたりと、色々あったが順調に進んでいた。しかし、そろそろ山道が終わるという辺りでソイツは現れた。


「ちょっと蓮」


 アホ妖精の慌てた声に釣られて右側を見ると白い体毛の狼が1匹、大きさ自体は動物園などで見た狼より1回り大きい程度だが、以上に鋭くギラついている牙と爪が目立っている。


「とりあえず俺達に危害を加えるつもりは有るよな」


 こちらに牙を向けて唸る狼に接近し、スキルとバフ全振りで強化した脚力で頭を踏みつける。


「うわぁ」


「あんた躊躇なくなってきたわねぇ」


 狼の頭が潰れ、中から血や色々なものが飛び出たのをみて浅野とアホ妖精が何か言っているが気にしない。躊躇などしていては生き残れないのだ。


「で、コイツは何だアホ妖精?」


「アホ言うな。そいつはファングウルフ。普通のファングウルフよ」


 なるほど。弱いわけだ。しかし、こんなのが何匹も出てきている可能性が有るわけか。


「なあ妖精ちゃん」


 俺がファングウルフを確認していると浅野が声を上げる。


「何よ?」


「アレもファングウルフか?」


「え? ウゲェ」


 浅野が見ている方向から、20頭ものファングウルフが姿を現す。


「団体さんの登場だな」


「何でちょっと嬉しそうなんだ?浅野」


「いや、アレぐらいなら蓮、勝てるんだろ?」


「まあ勝てるけどさ」


「ちょっと試したいことがあってな」


 浅野が思わせぶりなことを口走る。


 詳しく聞きたいが、まずはファングウルフだ。


「ぶっちゃけ余裕だよな」


 余裕と言いつつも『ハザン』の刃をさり気なく10枚程撒いておく。


 俺はファングウルフ達に無造作に近づいた。


「ちょっと!」


「あぶねぇ」


 アホ妖精と浅野が叫ぶのとほぼ同時に、ファングウルフ達は俺に飛びかかる。


「よっと」


 ファングウルフ達が俺に到達するタイミングを見計らって空中に飛ぶ。


「「グルゥ?」」


「反応が遅い」


 予想外の出来事に一瞬固まるファングウルフ達。


 俺は空中で『ハザン』を振り、5頭の首を刎ねた後、着地のついでに2頭の頭を踏み潰す。


「グルルルゥゥゥ?」


 困惑した雰囲気になるファングウルフ達。おそらく獲物だと思っていた相手が予想以上の力を持っていた現状に対処しきれていないのだろう。


 慌てて俺から距離を取ろうとする。しかし、俺はそれを許さない。


「遅いって」


 目の前に居たファングウルフを蹴り飛ばす。大分飛んだな。


「キャオオオン」


 更にその隣の2頭の頭を『ハザン』で割る。


「これで半分」


 更に、先程撒いておいた刃を巨大化させて、操作する。


「「ガゥ?」」


 突然何もなかったはずの真下に現れた巨大な刃にファングウルフ達は為すすべなく胴を断たれる。


「ラスト」


 更に先程蹴飛ばした奴に近づき、頭を踏み潰す。


「すげえな。瞬殺じゃねえか」


「結構時間食ったと思うけど?」


「いや、1分掛かってねえよ」


 どんなことであれ褒められると嬉しいものだ。浅野の言葉に気を良くしつつ俺は魔石を回収する。


「さてと、これでいいか?所で、何か試したいんじゃなかったのか?浅野」


 先程、浅野がぼそっと言っていたことを思い出して、聞いてみる。


「ああ、その魔石使えば俺が持ってる物も魔具に出来るかなって?」


「出来るだろ?なあ、アホ妖精?」


「アホ言うな。多分無理だと思うよ」


 アホ妖精の言葉に俺は首を傾げる。


「数が少ないからか?」


「そういう事。普通のファングウルフの魔石は4級の極小〜小。特に今回のは全部極小。4級の極小魔石を砕いた物が魔具になる確率は2%。20個程度じゃならない可能性のほうが高いよ」


「じゃあ無理か。スマフォを魔具にしたかったんだが」


 浅野が残念そうに呟く。


「何でスマフォなんだ?武器に為りそうにないが?」


「お、蓮。戦闘に思考が偏ってるぞ」


「どういう意味だ?」


 心外である。俺は平穏に生きたいのだ。断じて戦闘方面に思考が偏っていたりはしない。


「カッターだと刃が折れても折れても出てくる自動修復のスキルが出たり、傘だと水系のスペルが出たりと、道具本来の性能や用途に由来した能力が出る場合が多い様に思う」


 もちろん、お前のカッターは強くなりすぎてるから、本来の性能とは関係ない竜巻を出すスペルなんかも取得してるが、と浅野は付け加える。


「つまりスマフォみたいな元々便利な道具が魔具になれば、便利な能力が手に入りそうだと思ったんだ」


「確かに一理有るな」


「蓮。拙いかも」


 浅野と話しているとアホ妖精が青い顔で肩に乗ってくる。


「どうしっ…ああ、なるほど」


 どうしたと聞こうとしたが、俺はアホ妖精が青くなっている原因が判ってしまった。


「新手のファングウルフか?相当居るな」


 茂みなどに隠れているが近づいてくるファングウルフは相当多い。100じゃきかないだろう。


 更に、その中には体高2m程の赤い個体も居た。


「ブラッド・ファングウルフまで、どうして?」


 アホ妖精は青ざめたまま絶望の声を出すが、浅野は平然としている…様に見えて足が震えていた。


「いや、あんだけ血を撒き散らしたんだから、血の匂いによってきたんじゃねえのか?」


 浅野の意見も最もである。こんな所で魔石を抜くために解体すれば、血の匂いは遠くまで届くことであろう。


「まあ、ヤるしか無いな」


 俺は『ハザン』を構え直した。


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