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色合界からの脱出‼︎ 自分の信じる道を勇ましく進め‼︎ (完結)

 色合界(しきごうかい)・ガークスボッデンの天を覆う不吉を呼び込む暗雲が、朱色(しゅいろ)の光によって円状に開かれた。漏れ出す光が色合界の各地を照らす。


 朱色(しゅいろ)の光が空中で待機(たいき)している城族(じょうぞく)守兵団(しゅへいだん)を照らす。

 朱色の光が様々な景色(けしき)が並ぶ色合界の各地を照らす。

 朱色の光が金色(こんじき)(から)に守られる勇卵(ゆうらん)の城を照らす。





 勇卵の城に居た九人の子供達がその光を眺めていた。

「暗雲が()けたな」

 背の高いダイグランが呟く。

()れたが……なんだ? あの(あか)い光は」

 白を(かぶ)せた紫髪(むらさきがみ)のレールが呟く。

「でもキレイ」

 黒髪に黄色のリボンを付けたミハニーツが呟く。

「オーロラってやつかなぁ、始めて見た」

 夜中のように深い青髪(あおがみ)のヨルヤが呟く。

「夕焼けってやつじゃないか、時間的にもさぁ」

 黄緑(きみどり)の髪のサシャープが呟く。

「……色合界の滅びの(きざ)しか?」

 オレンジ(がみ)のカイザルが呟く。

「まさか、魔王とガリョウ先生が(あば)れまくったから?」

 茶髪(ちゃぱつ)のファンタが呟く。

「えぇ? ここ無くなっちゃうじゃん。ヤダ」

 桃色(ももいろ)の髪のクラッカが呟く。

「先生、あの朱い光は一体……」

 銀髪のムドウが呟く。


「……………………」


 ただ黙って朱色の光を見るヴィンセントの顔には暗雲の魔王との戦いでは浮かべなかった緊張(きんちょう)の色がある。彼はムドウの声を聞き逃す程に朱色の光を警戒(けいかい)していた。





 岩山(いわやま)地帯に居たロードとガリョウも暗雲に穴を()けた朱色(しゅいろ)の光に目を向けていた。


「先生……今度は、何が起きて……」


「…………………………」


 ガリョウはロードの質問(しつもん)には答えなかったが、それは彼自身も何が起きているのかわからないからだ。(きび)しい表情を浮かべて朱色の光を観察(かんさつ)する。

 少しして、その竜のような目を細める、何かを(ひとみ)に捉えた。

 天を覆う暗雲に開いた大きな穴、その中心部(ちゅうしんぶ)に小さな小さな人影が見える。




 十歳程の少女が浮いていた。

 (きら)めく長い金髪(きんぱつ)が少し乱れながら足まで伸び、前髪が顔に優しく()り掛かり、一部の左前髪が上に()ねているが、それでいて気品を感じさせる。

 全身を覆う朱色(しゅいろ)(ころも)が少女の華奢(きゃしゃ)な身体を隠し、風に、はためく。(えり)(ほどこ)された金色(こんじき)羽毛(うもう)が首元を覆い隠す。

 少女の顔は(みやび)の一言に、目蓋(まぶた)(べに)が塗られ、その表情からは感情が読みづらい。そして、


 その目は決して人の目と呼べるようなものではない(おぞ)ましさを持って、瞳に不吉が満ち溢れていた。





「…………魔王か」


 ガリョウが確信(かくしん)を持って、赤い剣を身構(みがま)えながらロードにも聞こえるように呟いた。


「――っ⁉︎――」


 それを聞いたロードは、朱色の光の中に居る魔王と呼ばれる者の姿を(さが)す。しかし遥か上空にある魔王の姿は、ロードに発見出来る距離(きょり)ではない。



 一方(いっぽう)、朱色の(ころも)を着た魔王の少女は、眼下(がんか)にある色合界(しきごうかい)のあちこちに目を移し、そこがどこでどういう場所か確認(かくにん)していた。すると、岩山地帯の方向から、


「――ッ⁉︎」


 ――ズオン‼︎ 魔王の少女に豪快(ごうかい)な斬撃が飛んで来て直撃し、爆発が起きた。



 斬撃を放ったのは無論(むろん)、岩山地帯に居たガリョウだった。


「……………………」


 遥か上空の爆煙(ばくえん)をガリョウは厳しい表情を崩さずに無言で(にら)む。


 暗雲に開いた大きな穴の中心たる爆煙がやがて晴れていく。


 魔王の少女が無傷(むきず)(よご)れ一つ無く健在(けんざい)していた。


「……無傷か……」


 厳しい表情を崩さずにガリョウは上空を見上げて呟いた。距離がありすぎて威力(いりょく)が下がったとは言え、魔王の少女には確実に斬撃を直撃させ爆発まで食らわせたにも(かか)わらず、無傷の結果に終わった。これには流石(さすが)のガリョウも赤い剣を(にぎ)る手に力が入る。


 上空に健在する魔王の少女は斬撃の飛んできた方向、岩山(いわやま)地帯(ちたい)に目を向けて、二つの影を見つけた。一つは赤い剣を持った大きな男、そしてもう一つ、

 魔王の少女が()()()認識(にんしき)した瞬間(しゅんかん)途轍(とてつ)も無いスピードで降下(こうか)‼︎ 迷わずロードとガリョウの元へ直進(ちょくしん)する。


(――速い⁉︎)


 上空から迫り来る魔王の少女を見たガリョウが赤い剣を(かま)(なお)して迎撃態勢(げいげきたいせい)を取る。


 ――そのとき‼︎ 途轍(とてつ)も無いスピードで降下(こうか)する魔王の少女の真横(まよこ)から、正確には勇卵の城を守る金色の(から)から大きな光線が放たれて、


 ――シャボーン‼︎ 悪しきを討つ聖法(せいほう)の閃光が魔王の少女に直撃し爆発を引き起こした。


「――ガリョウ! ロード連れて早く戻るんだ!――そいつはラジルバフアと違って正体(しょうたい)がわからない! 無闇(むやみ)に戦うな!――今はこの世界からの脱出(だっしゅつ)優先(ゆうせん)するんだ!――」


 聖法(せいほう)による通話(つうわ)によってヴィンセントの緊迫(きんぱく)(あせ)りを乗せた声が色合界(しきごうかい)に響き渡る。



 その声を岩山地帯に居た二人が聞いた。


「わぁ⁉︎」

「ロード行くぞ!」


 ガリョウは口で赤い剣を(くわ)えると(かたわ)らに居たロードを左腕で(かか)え込んで、一刻も早くその場から走り去る。


 上空、光線(こうせん)が起こした爆発は(けむり)となって立ち込めて広がり、

 ――ブワッ‼︎ その爆煙(ばくえん)が中からの風圧(ふうあつ)によって振り払われた。風圧の原因(げんいん)一目瞭然(いちもくりょうぜん)、魔王の少女が細い腕を振るって起こしたのだ。聖法の光線が直撃し爆発したにも(かか)わらず、彼女は無傷、おまけに汚れ一つ見当たらない。

 魔王の少女がロードを連れて去るガリョウを見て向かおうとしたところ、


「――⁉︎」


 目の前を、空中で待機(たいき)していた何千体もの城族(じょうぞく)守兵団(しゅへいだん)が立ちはだかる。

 が、魔王の少女は右腕を水平(すいへい)に上げると朱色(しゅいろ)(ころも)袖口(そでぐち)から、剣にも見える細く(するど)尾羽(おばね)が飛び出して五○メートル程にまで伸びると、少女は(おど)るように右腕の剣を身体ごと城族(じょうぞく)守兵団(しゅへいだん)を真横から斬るように振り、何百体か倒し、更に一回り踊る中、朱色の衣に隠された左手に力を()め、その袖口(そでぐち)から朱色の光線を城族(じょうぞく)守兵団(しゅへいだん)に向けて放つ。すると、爆発を引き起こしほぼ全ての守兵団を倒した。

 (のこ)城族(じょうぞく)守兵団(しゅへいだん)を魔王の少女は尾羽(おばね)の剣で始末(しまつ)する。


(足止めにもならないか)


 勇卵の城でヴィンセントが次なる手を考えていると、

 その背後(はいご)魔討訓練(まとうくんれん)の終了を(しら)せる為に用意された卵型(たまごがた)時計(とけい)が発動した。

 卵の頂点から放たれた光が上空で大きな鳥になって、美しく鳴き色合界に響き渡る。


「………………」


 魔王の少女が大きな光の鳥を見て、勇卵(ゆうらん)の城に気付くと、左手から朱色の光線を(はな)ち攻撃する。それは勇卵の城を守る金色の(から)直撃(ちょくげき)すると、

 ――バリーン‼︎ 金色の殻をぶち(やぶ)り、大きな光の鳥を消し去った。


(暗雲で弱まったとはいえ、こうも簡単(かんたん)に破られるなんて)


 ヴィンセントが錫杖(しゃくじょう)(にぎ)る手に力を込める。


 魔王の少女は最後の守兵を斬り伏せて、左手から朱色の光線を放つ。今度(こんど)(ねら)いは勇卵の城の上層(じょうそう)にある塔の()れ。そこに朱色の光線は直撃すると爆発を引き起こし勇卵の城の塔を(くず)して行く。


 勇卵の城の中層(ちゅうそう)に居たヴィンセントと九人の子供達の真上から、上層にあった塔と瓦礫(がれき)が崩れ落ちて行く。子供達に()げる(ひま)はなく、ただ武器を構えるか、悲鳴(ひめい)を上げるくらいの行動しか(ゆる)されなかった。

 しかし、ヴィンセントが錫杖(しゃくじょう)を上に(かか)げると、光の壁が彼らを(つつ)み込むように出現し、崩れ落ちる塔と瓦礫(がれき)退(しりぞ)け、子供達を守りきった。しかし、


「皆、この世界から脱出するよ」


 ヴィンセントが子供達に()げた。


「――待って先生! まだ!」


 ムドウが反射的に声を(はっ)した。


「――まだロードが! ガリョウ先生も来ていません!」


 ミハニーツが必死になって言う。


「大丈夫だ彼にはガリョウが付いている…………それに、もう待つことは許されないみたいだ」


 ヴィンセントが錫杖(しゃくじょう)を突き立てると足元に(じん)展開(てんかい)され、自分と子供達を別世界に転移(てんい)させる為の聖法(せいほう)を発動させる。そして彼が魔王の少女を見ると子供達もその方向に目を向けた。

 魔王の少女は両手を上に(かか)げて、自分の身体の数倍はある朱色の光弾を作り出し、勇卵の城に向けて放った。


「――聖法(せいほう)――別天地(べつてんち)――」


 ヴィンセントが言葉を発した一秒後、

 朱色の光弾が勇卵の城に直撃し大爆発を生み出した。



 色合界(しきごうかい)・ガークスボッデン・毒泉(どくいずみ)地帯から勇卵の城が爆発したのを見た二人が居た。


「うわぁぁぁぁぁ‼︎ 皆あぁぁ‼︎」

「落ち着けぇ‼︎ ロードォ‼︎」


 ガリョウが(どく)(いずみ)水面(すいめん)()け抜けながら、左腕に抱えたロードを正気(しょうき)(もど)す為に叫ぶ。そこに、


「――‼︎――」


 毒の泉の上を駆け抜けるガリョウの眼前(がんぜん)に、魔王の少女が立ちはだかるように降りてくる。が、ガリョウは魔王の少女に向かって真っ直ぐ進み、頭を()らせ、少女の頭に頭突(ずつ)きを打ち込んでぶっ飛ばした。

 その後、毒の泉を抜けたガリョウは勇卵(ゆうらん)の城がある方向ではなく、別の方向を進み始め、ある地帯に入る。そこはクモの巣のようにあちこちに糸を引かせた景色が広がっていたが、それら全ては(しも)によって固められたものだった。ガリョウは足で霜の糸を()(くだ)きながらその上を進んで行く。


「先生‼︎ 城から遠くなってる‼︎ 早く戻らないと‼︎ 皆が‼︎ 爆発が‼︎」

「アイツらは、もう城には居ない」


「えっ⁉︎」

「安心しろ、死んだ(わけ)じゃない。向こうにはヴィンセントが居た。爆発の直前(ちょくぜん)にこの世界から脱出(だっしゅつ)した(はず)だ」


「……………………」


 ロードが名残(なごり)惜しそうに城を見た。もうあの勇卵の城には戻れない。友人達も居ない。少し(さび)しくなる。


「先生、さっきの魔王と戦うの?……」

「そうだ……人の形をしていても魔王は魔王だ。だが、戦うにはオマエが邪魔(じゃま)だ、またどこか別の場所に隠れて……」


 色合界・ガークスボッデン・油山(あぶらやま)地帯、ガリョウが油の山を滑ってロードの隠れられそうなところを探して行く。


「先生、あの魔王はオレを狙ってるの?」

「何? どうしてそう思う」

「一つ目の魔物と一つ目の魔王がオレを見て、見つけたって言ってた」

「…………そういうことか……あのスモルパフア、ただ迷い込んだ訳じゃなかったのか。なら、オマエに隠れてもらうのは無しだ」

「どういうこと先生」

「アイツらはオマエを殺しには来たんだ」

「えっ、オレを? どうして?」

「オマエの生命の力を手に入れる為だ」

「――⁉︎――オレのこの力を手に入れる? ど、どうやって」

「ロード良く聞け、オマエの力は宝玉(オーブ)というものだ」

「オーブ?」

「その力はオマエが死ぬ事で奴らの手に渡る。だから殺しに来たんだ。奴らがオマエを狙っている以上、その辺りに置いておくのは危険(きけん)だ」

「先生、オレはどうすれば」


「ロード覚悟(かくご)を決めろ……こことは(こと)なる世界に行く覚悟を」


 ガリョウが(あぶら)の山を(すべ)()りて行く途中(とちゅう)、反り返ったところを滑ると勢いよく空中に飛び出して、数百メートル先にあった別の地に滑り込むように着地(ちゃくち)した。


 色合界(しきごうかい)・ガークスボッデン・歪空(わいくう)地帯。

 そこは広々とした空間が数キロ先まで続く黒光(くろびか)りした結晶(けっしょう)の大地、空間の周囲(しゅうい)は、(ねじ)れたり(よじ)れたりしている黒光りした結晶の塔が取り囲んでいた。そして、その地は全体的にとても重い空気と押さえられるような圧迫感(あっぱくかん)があった。


「先生、ここって確か」

「そうだ、ここは立ち入りを禁じていた歪空(わいくう)地帯、異空間に放り出される恐れもあって、色合界では最も危険な場所だ……だから事故を防ぐ為にオマエ達には決して近くなと言って来たが、今はここが必要だ。ここを利用して異なる世界への道を開く」


「せ、先生、異なる世界って皆の居るところ?」


「違う……アイツらがどこへ行ったかもわからんし、わかっていたとしてもそこへは行けないだろう……もう二度と会えんかもしれんが、誰一人、奴らには触れさせん。十人の勇者の卵は一つも割らせはしない……このオレの手で守り通す」


 ガリョウが自分に残された左手を見て力を込める。左手を振る為に構えると腕が赤く変色し、熱気を発して竜の爪のような形になる。ガリョウはその赤い竜の爪を、前に、歪空(わいくう)地帯の空間を切り裂くように左から右に振る。すると、

 歪空(わいくう)地帯に異空間への道が開いた。

 まるで空間そのものに傷が出来たように広がった穴の奥には、景色と景色が渦巻(うずま)いて荒波(あらなみ)(うごめ)く。


「これを持て、ロード」


 そう言ってガリョウは背負(せお)っていた赤い剣を(さや)ごとロードに(ほお)る。


「⁉︎」


 ロードは赤い剣を受け取ったが、ガリョウがいつも肌身離(はだみはな)さず背負っていたその剣を持たされたことに意外(いがい)そうな顔をした。


「この先はあらゆる異世界が波打つように(せめ)ぎ合い、ぶつかり合っている。人が何の準備(じゅんび)もせず中に入れば、世界に引き裂かれるか、(つぶ)されるか、どんな事故が起きるかはわからん……だが、その剣を持っていれば、この中に入っても生き残ることが出来る」


 ガリョウが真剣(しんけん)眼差(まなざ)しで異空間の穴を見つめて言う。


「だから、その剣を絶対(ぜったい)手離(てばな)すな……どこかに辿(たど)り着くまで、何があろうとその剣を絶対に手離すな……それがオマエの命綱(いのちづな)だ」

「…………じゃあ、先生は? 先生はどうやってここから脱出(だっしゅつ)を……」


 異空間の穴の中を見て、ロードが聞く。


「オレの心配はいらん。剣の必要もないくらい身体は頑丈だ」


 ガリョウが言うと異空間から背を向けて離れて行く。


「先生は一緒に来ないの」


 その背にロードが問いかける。


「オレは異空間への道を開けても、()じる事は出来ん。オマエが飛び込んだ後、世界が空間を自然修復(しぜんしゅうふく)するまで魔王の足を止める……だからオマエは一人で行くんだ」


 ある程度の距離まで離れたガリョウが背中越しに答えた。


「……ま、待って先生、オレ一人じゃどうすればいいのかわからないよ。別の世界に行ったって何をすればいいかわからないよ。一人じゃきっと生きて行けない」


「ロード、オマエはさっき何がしたいと言った」


 ガリョウは近いて来るロードを、振り返り目を合わせることで動きを止めた。


「…………オレは、」

「――発声(はっせい)‼︎」


 ガリョウの大きな声が重苦(おもくる)しい歪空(わいくう)地帯の空気を(ふる)わす。


「オレは沢山(たくさん)の人を助けたい‼︎」


 負けずロードがはっきりと大きな声で答えた。


「ならば(まよ)うな! オマエの後ろにあるその荒波(あらなみ)の向こうでは、(いま)だ人々が、魔王達の力によって(おびや)されている」


 ガリョウは厳しい口調でロードを突き離す。


「自分の進むべき道があるのなら勇ましく突き進め‼︎ それを忘れなければ(たと)えどんな道を歩んでもオマエは必ず勇者になれる‼︎」

「はい‼︎」


 ロードがはっきりとした声で返事をした。


 そのとき、魔王の少女が歪空(わいくう)地帯に飛んできてガリョウとロードを発見し、一直線(いっちょくせん)降下(こうか)する。

 それに対するようにガリョウは地面を()り、その場の空気の重さを感じさせない程、(いきお)い良く飛ぶと、魔王の少女に接近(せっきん)‼︎ 左腕を右から左に振って黒光りする結晶の塔の()れに向けて(たた)き落した。

 ガリョウが地面に着地(ちゃくち)すると、ロードの方に向かって身体を返し走って戻る。

 叩き落とされた魔王の少女は黒光りする結晶の塔を破壊しながら真っ直ぐロードに向かって行く。その前にガリョウが立ちはだかり魔王の少女を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた魔王の少女が宙で体勢(たいせい)(ととの)えて、右腕をガリョウに向けて、朱色の衣の袖口(そでぐち)から細く(するど)い剣のような尾羽(おばね)を数本、勢い良く飛び出させガリョウを(つらぬ)こうとするが、


「ふん!」


 ガリョウが迫り来る尾羽(おばね)を左手で全て(つか)み取り、振り回すと、


「――⁉︎――」


 尾羽に(つな)がれた魔王の少女もそれに引かれて円を(えが)くように振り回され、黒光りする結晶の塔に激突させられた。


「ロード行け、行ってオレにオマエの歩む道を見せてみろ」

「はい‼︎」


 目の前で起きた激しい戦いに驚いて、尻餅をついたロードが起き上がる。


「ロード最後に教えておく、オマエ達が勇者になる本当の目的は魔王達を世に蔓延(はびこ)らせた真の敵を倒すことだ」

「えっ先生、それって?」


 ロードが異空間に向かおうとしたときだった、突然、今までに聞いたこともないことがガリョウの口から出た。


「オマエならいつか()()()()に辿り着ける」

「魔の元凶?」


 始めて聞いた言葉をロードは記憶した。


「今はそれだけ(おぼ)えていればいい、行け‼︎」

「はい‼︎」


 ロードは走って、異空間の穴の前に着くとガリョウに振り返って、


「先生お世話になりました」


 言い忘れそうになったことを早口気味に言った。


「……ああ」


 素っ気なくガリョウは返した。


 ロードはしっかりと赤い剣を両手で抱え込んで、深く深呼吸、覚悟を決めて、異空間(いくうかん)の穴に飛び込み、歪空(わいくう)地帯の重い空気から解放(かいほう)されたロードの身体が浮き上がり、ゆっくりと穴の奥へと引き寄せられる。


「ロード‼︎」


 異空間に入り込んだ途端(とたん)、ガリョウが声を掛ける。


「――先生‼︎」


 ロードが声のした方に振り返るが、もう戻ることは出来ない。異空間に身体を(とら)えられてしまった為に自力で色合界には戻れない。


「……いい発声(はっせい)だった‼︎」


 背中(せなか)()しにその大男が()めた。その言葉には多くの意味が()まっていただろう。別れの言葉でもあったのだろう。


「っ⁉︎」


 ロードは驚いた。始めてその大男に褒められたのだから。その目にガリョウの後ろ姿を焼き付けていると異空間の奥へと一気に引き寄せられ、ガリョウの背中が遠くなり見えなくなって、異空間に開いた色合界の地も見えなくなって、下に落ちる。

 ロードが渦巻(うずま)く異空間の中に深く深く落ちて行く。

 ロードが色合界(しきごうかい)・ガークスボッデンから脱出(だっしゅつ)した。



「行ったか……」


 背後(はいご)の異空間の穴を見ずにガリョウが(つぶや)いた。

 すると、黒光りする五メートル程の結晶がガリョウに向かって飛んで来るが、彼は左腕を振って破壊‼︎ そして眼前に浮いた結晶を飛ばして来た魔王の少女を(にら)み付けた。

 魔王の少女もガリョウを(にら)み付けている。少女の身体はやはり無傷(むきず)で汚れ一つない。少女が両手の袖口(そでぐち)から細い剣を突き出している。


「……アイツにはもう会えんぞ」


 ガリョウが魔王の少女に言い放った瞬間、

 魔王の少女が殺意を持って、目の前の邪魔者を始末する為に勢い良く飛び出した。

 ガリョウは魔王の少女を迎え撃つ為に構える。





 あらゆる世界から来る現象(げんしょう)が波打つ、異空間(いくうかん)の中をロードが深く深く物凄い速さで落ちて行く。


「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」


 異空間の中では、ロードの絶叫(ぜっきょう)が歪んで聞こえる。


「うぁぁっ⁉︎ がっ⁉︎ ごほっ⁉︎」


 熱い何かがロードを(おそ)う。(かた)い何かがロードを襲う。流れる何かがロードを襲う。しかし、これくらいならばロードは耐えられないこともない。

 しかし、真横からの振動(しんどう)が風のように(あお)がれて、ロードの身体が飛ばされる。


「あっ⁉︎」


 今の衝撃(しょうげき)で、ロードは抱えていた赤い剣を手離してしまった。

 その瞬間(しゅんかん)


「う、うぶっ⁉︎」


 (はげ)しい()い、いわゆる異空間(いくうかん)酔いを引き起こした。


 更に異空間がさっきよりも激しくロードを(おそ)う。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」


 身体全体から悲鳴が上がる。


(あぁぁ、あ、頭が千切(ちぎ)れ、く、口から肺が、飛び出そう)


 目が(くら)む中、手離してしまった赤い剣を視界(しかい)に捉えるも、異空間が激しくロードを襲う。


(ダ、ダメだ、死んじゃ、こんな所で死んじゃダメだ、人を助けるんだ、苦しむ人を沢山(たくさん)沢山(たくさん)助けるんだ、これから道に進むんだ)


 がむしゃらに前へ、異空間に(おぼ)れながらも、ひたすら赤い剣の方へ、苦しみと痛みで(もが)きながらも、手を伸ばす。


「勇者とは!」


 ロードが叫ぶ、それを口にするだけで自分にありったけの力が、勇気が、生命力が()いて来る。必死になって赤い剣に手を伸ばす。手を伸ばす。手を伸ばす。


「どんな恐ろしい魔物を前にしても、道を切り開く勇ましき者!」


 ロードの手が、赤い剣に、


「とどい――」



 ――――ゴン‼︎ ロードの頭に物凄い硬い何かがぶつかった。その勢いで身体は()れて赤い剣を(つか)(そこ)ねた。更に異空間は容赦(ようしゃ)なくロードに襲い掛かる。



「うぅっ⁉︎」


 ロードの頭から血が吹き出していた。スモルパフアとの戦いの最中に頭をぶつけたときよりも更に強く打っていた。手で頭を押さえ付けながらもう片方の手が再び赤い剣に伸びて行く。



(……皆)


 そのとき、何故だかわからないがロードの脳裏(のうり)に九人の友達の姿が(よぎ)った。その姿が次第に(うす)くなるように消えて行く。

 構わず赤い剣に手を伸ばす。


(……先生)


 そのとき、何故だかわからないがロードの脳裏(のうり)に二人の大人の姿が過った。その姿が次第に遠く薄くなるように消えて行く。

 構わず赤い剣に手を伸ばす。


 薄れゆく意識(いしき)の中、(くら)視界(しかい)の中、それでもロードは手を伸ばし、


 ――パシッ! 赤い剣に手が(とど)いた。


「……取った」


 ロードが再び赤い剣を両手で抱え込む。もう何があっても離すことがないようにしっかりと。そうすると身体に掛かっていた異空間(いくうかん)の影響が軽くなる。


「…………………………」


 しかし、頭を強く打った為に意識が朦朧(もうろう)としていたロードは、


「……あれ?……なんだここ……」


 何かを失った。


「あれ?……オレは……誰だっけ……」



 色合界(しきごうかい)・ガークスボッデンに、もう勇者の卵たる子供達は居ない。しかし、まだ残っていたガリョウと魔王の少女はその地で戦っていた。

 あれから何時間、あるいは何日か経ったのだろう。(すで)に二人の雌雄(しゆう)は決していたようで、各地に戦いの傷跡や黒煙(こくえん)が立ち込めて、静寂(せいじゃく)が支配している。

 魔王の少女が(ちゅう)()いて、風に髪と衣をはためかせる。何時間、何日も戦っていた(はず)なのに、彼女は無傷を貫いて、やはり汚れ一つない、加えて息切れさえしていない。

 そんな(おそ)ろしい彼女が、眼下(がんか)にある歪空(わいくう)地帯の一点を見下ろしている。歪空地帯は戦いの所為(せい)地盤(じばん)が割れ、黒光りする結晶の塔が倒れている。

 少女の見る一点に大男のガリョウが仰向(あおむ)けで(たお)れて気絶(きぜつ)している。瀕死(ひんし)重傷(じゅうしょう)だが(かろ)うじて息はある。

 魔王の少女が左手をガリョウに向けると、その袖口(そでぐち)から朱色の光が()れ出して、光線となって(はな)たれた。

 (とど)めの一撃(いちげき)

 朱色の光線が確実(かくじつ)にガリョウに向かって、その命を狙う。

 ガリョウは気絶したままその一撃を知るよしもなく、向かって来る朱色の光線の輝きに身体が照らされて、


 そして、ガリョウの命は、





 真っ暗な景色だった。

 自分の周りが暗いからじゃない目蓋(まぶた)が重くて閉じられていた所為(せい)だからだ。


(ここは……誰か……オレは……どこか……)


 まだ意識がはっきりとしない。自分でも今、何を考えているのかわからない


 ロード‼︎ 


 誰かわからないが聞き覚えのあるような大きな声がそう言うと、自分が誰かを思い出した。


(そうだ……オレは……ロード……ロードだ

 …………何か……しないと……確か……何だっけ)


 辿り着け‼︎


(そうだ……オレは辿(たど)り着かなくちゃ……いけない……そう言われて…………けど……何を……誰に……わからない……何も……思い出せない)


 朦朧とした意識の中、身体を動かそうとしたが力が入らない。


「おい、だいじょぶチュウ?」

「だ、誰かー、来てチュウ来てチュウ」


 そのとき、耳に小さな声が聞こえてきて、身体に小さな何かが(のぼ)って来る感覚(かんかく)があった。


「だ、れ?」


 重い目蓋(まぶた)()っすらと(ひら)いて見ると(まぶ)しい光が差し込んで来て、視界がはっきりしない。


「どうした⁉︎」

「こいつ、怪我してるチュウ」


「――⁉︎――これはいけないぞ‼︎ 重傷だ!」「直ぐに手当てしないと」


 小さな何かが身体にいくつか乗っかって、二人の男が(さわ)いでる姿が、ぼやけて見えて、また目が閉じた。


(誰か、わからないけど……教えてくれ……)


 声にならない。力が出ない。目が開かない。


「オ、レは、何すれば、いいん、だっけ……」


 それだけ言って意識(いしき)途切(とぎ)れた。



「キミ! しっかり!」

「死んだチュウ⁉︎」

「待ってろ! 今、医者を呼んで来るから!」

「早くチュウ早くチュウ」


 怪我をした少年を前に、誰かと小さな何かが(さわ)ぐ。




 色合界から脱出したロードだったが異空間の道を行く中で、一時的に赤い剣を手離した為に、頭に強いショックを受けたことで、名前以外の(ほとん)どの記憶を失ってしまった。勇者の使命も、自分に秘められた力も、辿り着かなくてはならないものも、過ごしてきた世界と共に暮らした人達も、そして、


 自分の進みたかった人を助けて行く道も。


 それでもきっと、彼はいつの日か動き出す。


 無限大に広がる世界に歩み出て、無限大に存在する人々を助けて、彼は伝説となり輝かしい王道を歩んだ勇ましき者となるだろう。


 いつの日か必ず。彼は羽ばたく。

お付き合いくださった方がいたのなら感謝します。

面白くなかったのなら、お時間取らせてしまってすみません。

小説は書き始めたばかりなので読みにくかったかもしれません。

まだ二カ月の初心者です。


完結までは無理です。

とてつもなく長いので、

それでも、またいつか書けることを夢みてます。


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