色合界からの脱出‼︎ 自分の信じる道を勇ましく進め‼︎ (完結)
色合界・ガークスボッデンの天を覆う不吉を呼び込む暗雲が、朱色の光によって円状に開かれた。漏れ出す光が色合界の各地を照らす。
朱色の光が空中で待機している城族の守兵団を照らす。
朱色の光が様々な景色が並ぶ色合界の各地を照らす。
朱色の光が金色の殻に守られる勇卵の城を照らす。
勇卵の城に居た九人の子供達がその光を眺めていた。
「暗雲が裂けたな」
背の高いダイグランが呟く。
「晴れたが……なんだ? あの朱い光は」
白を被せた紫髪のレールが呟く。
「でもキレイ」
黒髪に黄色のリボンを付けたミハニーツが呟く。
「オーロラってやつかなぁ、始めて見た」
夜中のように深い青髪のヨルヤが呟く。
「夕焼けってやつじゃないか、時間的にもさぁ」
黄緑の髪のサシャープが呟く。
「……色合界の滅びの兆しか?」
オレンジ髪のカイザルが呟く。
「まさか、魔王とガリョウ先生が暴れまくったから?」
茶髪のファンタが呟く。
「えぇ? ここ無くなっちゃうじゃん。ヤダ」
桃色の髪のクラッカが呟く。
「先生、あの朱い光は一体……」
銀髪のムドウが呟く。
「……………………」
ただ黙って朱色の光を見るヴィンセントの顔には暗雲の魔王との戦いでは浮かべなかった緊張の色がある。彼はムドウの声を聞き逃す程に朱色の光を警戒していた。
岩山地帯に居たロードとガリョウも暗雲に穴を開けた朱色の光に目を向けていた。
「先生……今度は、何が起きて……」
「…………………………」
ガリョウはロードの質問には答えなかったが、それは彼自身も何が起きているのかわからないからだ。厳しい表情を浮かべて朱色の光を観察する。
少しして、その竜のような目を細める、何かを瞳に捉えた。
天を覆う暗雲に開いた大きな穴、その中心部に小さな小さな人影が見える。
十歳程の少女が浮いていた。
煌めく長い金髪が少し乱れながら足まで伸び、前髪が顔に優しく降り掛かり、一部の左前髪が上に跳ねているが、それでいて気品を感じさせる。
全身を覆う朱色の衣が少女の華奢な身体を隠し、風に、はためく。襟に施された金色の羽毛が首元を覆い隠す。
少女の顔は雅の一言に、目蓋に紅が塗られ、その表情からは感情が読みづらい。そして、
その目は決して人の目と呼べるようなものではない悍ましさを持って、瞳に不吉が満ち溢れていた。
「…………魔王か」
ガリョウが確信を持って、赤い剣を身構えながらロードにも聞こえるように呟いた。
「――っ⁉︎――」
それを聞いたロードは、朱色の光の中に居る魔王と呼ばれる者の姿を探す。しかし遥か上空にある魔王の姿は、ロードに発見出来る距離ではない。
一方、朱色の衣を着た魔王の少女は、眼下にある色合界のあちこちに目を移し、そこがどこでどういう場所か確認していた。すると、岩山地帯の方向から、
「――ッ⁉︎」
――ズオン‼︎ 魔王の少女に豪快な斬撃が飛んで来て直撃し、爆発が起きた。
斬撃を放ったのは無論、岩山地帯に居たガリョウだった。
「……………………」
遥か上空の爆煙をガリョウは厳しい表情を崩さずに無言で睨む。
暗雲に開いた大きな穴の中心たる爆煙がやがて晴れていく。
魔王の少女が無傷で汚れ一つ無く健在していた。
「……無傷か……」
厳しい表情を崩さずにガリョウは上空を見上げて呟いた。距離がありすぎて威力が下がったとは言え、魔王の少女には確実に斬撃を直撃させ爆発まで食らわせたにも拘わらず、無傷の結果に終わった。これには流石のガリョウも赤い剣を握る手に力が入る。
上空に健在する魔王の少女は斬撃の飛んできた方向、岩山地帯に目を向けて、二つの影を見つけた。一つは赤い剣を持った大きな男、そしてもう一つ、
魔王の少女がロードを認識した瞬間、途轍も無いスピードで降下‼︎ 迷わずロードとガリョウの元へ直進する。
(――速い⁉︎)
上空から迫り来る魔王の少女を見たガリョウが赤い剣を構え直して迎撃態勢を取る。
――そのとき‼︎ 途轍も無いスピードで降下する魔王の少女の真横から、正確には勇卵の城を守る金色の殻から大きな光線が放たれて、
――シャボーン‼︎ 悪しきを討つ聖法の閃光が魔王の少女に直撃し爆発を引き起こした。
「――ガリョウ! ロード連れて早く戻るんだ!――そいつはラジルバフアと違って正体がわからない! 無闇に戦うな!――今はこの世界からの脱出を優先するんだ!――」
聖法による通話によってヴィンセントの緊迫と焦りを乗せた声が色合界に響き渡る。
その声を岩山地帯に居た二人が聞いた。
「わぁ⁉︎」
「ロード行くぞ!」
ガリョウは口で赤い剣を咥えると傍らに居たロードを左腕で抱え込んで、一刻も早くその場から走り去る。
上空、光線が起こした爆発は煙となって立ち込めて広がり、
――ブワッ‼︎ その爆煙が中からの風圧によって振り払われた。風圧の原因は一目瞭然、魔王の少女が細い腕を振るって起こしたのだ。聖法の光線が直撃し爆発したにも拘わらず、彼女は無傷、おまけに汚れ一つ見当たらない。
魔王の少女がロードを連れて去るガリョウを見て向かおうとしたところ、
「――⁉︎」
目の前を、空中で待機していた何千体もの城族の守兵団が立ちはだかる。
が、魔王の少女は右腕を水平に上げると朱色の衣の袖口から、剣にも見える細く鋭い尾羽が飛び出して五○メートル程にまで伸びると、少女は踊るように右腕の剣を身体ごと城族の守兵団を真横から斬るように振り、何百体か倒し、更に一回り踊る中、朱色の衣に隠された左手に力を溜め、その袖口から朱色の光線を城族の守兵団に向けて放つ。すると、爆発を引き起こしほぼ全ての守兵団を倒した。
残る城族の守兵団を魔王の少女は尾羽の剣で始末する。
(足止めにもならないか)
勇卵の城でヴィンセントが次なる手を考えていると、
その背後、魔討訓練の終了を報せる為に用意された卵型の時計が発動した。
卵の頂点から放たれた光が上空で大きな鳥になって、美しく鳴き色合界に響き渡る。
「………………」
魔王の少女が大きな光の鳥を見て、勇卵の城に気付くと、左手から朱色の光線を放ち攻撃する。それは勇卵の城を守る金色の殻に直撃すると、
――バリーン‼︎ 金色の殻をぶち破り、大きな光の鳥を消し去った。
(暗雲で弱まったとはいえ、こうも簡単に破られるなんて)
ヴィンセントが錫杖を握る手に力を込める。
魔王の少女は最後の守兵を斬り伏せて、左手から朱色の光線を放つ。今度の狙いは勇卵の城の上層にある塔の群れ。そこに朱色の光線は直撃すると爆発を引き起こし勇卵の城の塔を崩して行く。
勇卵の城の中層に居たヴィンセントと九人の子供達の真上から、上層にあった塔と瓦礫が崩れ落ちて行く。子供達に逃げる暇はなく、ただ武器を構えるか、悲鳴を上げるくらいの行動しか許されなかった。
しかし、ヴィンセントが錫杖を上に掲げると、光の壁が彼らを包み込むように出現し、崩れ落ちる塔と瓦礫を退け、子供達を守りきった。しかし、
「皆、この世界から脱出するよ」
ヴィンセントが子供達に告げた。
「――待って先生! まだ!」
ムドウが反射的に声を発した。
「――まだロードが! ガリョウ先生も来ていません!」
ミハニーツが必死になって言う。
「大丈夫だ彼にはガリョウが付いている…………それに、もう待つことは許されないみたいだ」
ヴィンセントが錫杖を突き立てると足元に陣が展開され、自分と子供達を別世界に転移させる為の聖法を発動させる。そして彼が魔王の少女を見ると子供達もその方向に目を向けた。
魔王の少女は両手を上に掲げて、自分の身体の数倍はある朱色の光弾を作り出し、勇卵の城に向けて放った。
「――聖法――別天地――」
ヴィンセントが言葉を発した一秒後、
朱色の光弾が勇卵の城に直撃し大爆発を生み出した。
色合界・ガークスボッデン・毒泉地帯から勇卵の城が爆発したのを見た二人が居た。
「うわぁぁぁぁぁ‼︎ 皆あぁぁ‼︎」
「落ち着けぇ‼︎ ロードォ‼︎」
ガリョウが毒の泉の水面を駆け抜けながら、左腕に抱えたロードを正気に戻す為に叫ぶ。そこに、
「――‼︎――」
毒の泉の上を駆け抜けるガリョウの眼前に、魔王の少女が立ちはだかるように降りてくる。が、ガリョウは魔王の少女に向かって真っ直ぐ進み、頭を反らせ、少女の頭に頭突きを打ち込んでぶっ飛ばした。
その後、毒の泉を抜けたガリョウは勇卵の城がある方向ではなく、別の方向を進み始め、ある地帯に入る。そこはクモの巣のようにあちこちに糸を引かせた景色が広がっていたが、それら全ては霜によって固められたものだった。ガリョウは足で霜の糸を蹴り砕きながらその上を進んで行く。
「先生‼︎ 城から遠くなってる‼︎ 早く戻らないと‼︎ 皆が‼︎ 爆発が‼︎」
「アイツらは、もう城には居ない」
「えっ⁉︎」
「安心しろ、死んだ訳じゃない。向こうにはヴィンセントが居た。爆発の直前にこの世界から脱出した筈だ」
「……………………」
ロードが名残惜しそうに城を見た。もうあの勇卵の城には戻れない。友人達も居ない。少し寂しくなる。
「先生、さっきの魔王と戦うの?……」
「そうだ……人の形をしていても魔王は魔王だ。だが、戦うにはオマエが邪魔だ、またどこか別の場所に隠れて……」
色合界・ガークスボッデン・油山地帯、ガリョウが油の山を滑ってロードの隠れられそうなところを探して行く。
「先生、あの魔王はオレを狙ってるの?」
「何? どうしてそう思う」
「一つ目の魔物と一つ目の魔王がオレを見て、見つけたって言ってた」
「…………そういうことか……あのスモルパフア、ただ迷い込んだ訳じゃなかったのか。なら、オマエに隠れてもらうのは無しだ」
「どういうこと先生」
「アイツらはオマエを殺しには来たんだ」
「えっ、オレを? どうして?」
「オマエの生命の力を手に入れる為だ」
「――⁉︎――オレのこの力を手に入れる? ど、どうやって」
「ロード良く聞け、オマエの力は宝玉というものだ」
「オーブ?」
「その力はオマエが死ぬ事で奴らの手に渡る。だから殺しに来たんだ。奴らがオマエを狙っている以上、その辺りに置いておくのは危険だ」
「先生、オレはどうすれば」
「ロード覚悟を決めろ……こことは異なる世界に行く覚悟を」
ガリョウが油の山を滑り降りて行く途中、反り返ったところを滑ると勢いよく空中に飛び出して、数百メートル先にあった別の地に滑り込むように着地した。
色合界・ガークスボッデン・歪空地帯。
そこは広々とした空間が数キロ先まで続く黒光りした結晶の大地、空間の周囲は、捻れたり捩れたりしている黒光りした結晶の塔が取り囲んでいた。そして、その地は全体的にとても重い空気と押さえられるような圧迫感があった。
「先生、ここって確か」
「そうだ、ここは立ち入りを禁じていた歪空地帯、異空間に放り出される恐れもあって、色合界では最も危険な場所だ……だから事故を防ぐ為にオマエ達には決して近くなと言って来たが、今はここが必要だ。ここを利用して異なる世界への道を開く」
「せ、先生、異なる世界って皆の居るところ?」
「違う……アイツらがどこへ行ったかもわからんし、わかっていたとしてもそこへは行けないだろう……もう二度と会えんかもしれんが、誰一人、奴らには触れさせん。十人の勇者の卵は一つも割らせはしない……このオレの手で守り通す」
ガリョウが自分に残された左手を見て力を込める。左手を振る為に構えると腕が赤く変色し、熱気を発して竜の爪のような形になる。ガリョウはその赤い竜の爪を、前に、歪空地帯の空間を切り裂くように左から右に振る。すると、
歪空地帯に異空間への道が開いた。
まるで空間そのものに傷が出来たように広がった穴の奥には、景色と景色が渦巻いて荒波が蠢く。
「これを持て、ロード」
そう言ってガリョウは背負っていた赤い剣を鞘ごとロードに放る。
「⁉︎」
ロードは赤い剣を受け取ったが、ガリョウがいつも肌身離さず背負っていたその剣を持たされたことに意外そうな顔をした。
「この先はあらゆる異世界が波打つように鬩ぎ合い、ぶつかり合っている。人が何の準備もせず中に入れば、世界に引き裂かれるか、潰されるか、どんな事故が起きるかはわからん……だが、その剣を持っていれば、この中に入っても生き残ることが出来る」
ガリョウが真剣な眼差しで異空間の穴を見つめて言う。
「だから、その剣を絶対に手離すな……どこかに辿り着くまで、何があろうとその剣を絶対に手離すな……それがオマエの命綱だ」
「…………じゃあ、先生は? 先生はどうやってここから脱出を……」
異空間の穴の中を見て、ロードが聞く。
「オレの心配はいらん。剣の必要もないくらい身体は頑丈だ」
ガリョウが言うと異空間から背を向けて離れて行く。
「先生は一緒に来ないの」
その背にロードが問いかける。
「オレは異空間への道を開けても、閉じる事は出来ん。オマエが飛び込んだ後、世界が空間を自然修復するまで魔王の足を止める……だからオマエは一人で行くんだ」
ある程度の距離まで離れたガリョウが背中越しに答えた。
「……ま、待って先生、オレ一人じゃどうすればいいのかわからないよ。別の世界に行ったって何をすればいいかわからないよ。一人じゃきっと生きて行けない」
「ロード、オマエはさっき何がしたいと言った」
ガリョウは近いて来るロードを、振り返り目を合わせることで動きを止めた。
「…………オレは、」
「――発声‼︎」
ガリョウの大きな声が重苦しい歪空地帯の空気を震わす。
「オレは沢山の人を助けたい‼︎」
負けずロードがはっきりと大きな声で答えた。
「ならば迷うな! オマエの後ろにあるその荒波の向こうでは、未だ人々が、魔王達の力によって脅されている」
ガリョウは厳しい口調でロードを突き離す。
「自分の進むべき道があるのなら勇ましく突き進め‼︎ それを忘れなければ例えどんな道を歩んでもオマエは必ず勇者になれる‼︎」
「はい‼︎」
ロードがはっきりとした声で返事をした。
そのとき、魔王の少女が歪空地帯に飛んできてガリョウとロードを発見し、一直線に降下する。
それに対するようにガリョウは地面を蹴り、その場の空気の重さを感じさせない程、勢い良く飛ぶと、魔王の少女に接近‼︎ 左腕を右から左に振って黒光りする結晶の塔の群れに向けて叩き落した。
ガリョウが地面に着地すると、ロードの方に向かって身体を返し走って戻る。
叩き落とされた魔王の少女は黒光りする結晶の塔を破壊しながら真っ直ぐロードに向かって行く。その前にガリョウが立ちはだかり魔王の少女を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた魔王の少女が宙で体勢を整えて、右腕をガリョウに向けて、朱色の衣の袖口から細く鋭い剣のような尾羽を数本、勢い良く飛び出させガリョウを貫こうとするが、
「ふん!」
ガリョウが迫り来る尾羽を左手で全て掴み取り、振り回すと、
「――⁉︎――」
尾羽に繋がれた魔王の少女もそれに引かれて円を描くように振り回され、黒光りする結晶の塔に激突させられた。
「ロード行け、行ってオレにオマエの歩む道を見せてみろ」
「はい‼︎」
目の前で起きた激しい戦いに驚いて、尻餅をついたロードが起き上がる。
「ロード最後に教えておく、オマエ達が勇者になる本当の目的は魔王達を世に蔓延らせた真の敵を倒すことだ」
「えっ先生、それって?」
ロードが異空間に向かおうとしたときだった、突然、今までに聞いたこともないことがガリョウの口から出た。
「オマエならいつか魔の元凶に辿り着ける」
「魔の元凶?」
始めて聞いた言葉をロードは記憶した。
「今はそれだけ覚えていればいい、行け‼︎」
「はい‼︎」
ロードは走って、異空間の穴の前に着くとガリョウに振り返って、
「先生お世話になりました」
言い忘れそうになったことを早口気味に言った。
「……ああ」
素っ気なくガリョウは返した。
ロードはしっかりと赤い剣を両手で抱え込んで、深く深呼吸、覚悟を決めて、異空間の穴に飛び込み、歪空地帯の重い空気から解放されたロードの身体が浮き上がり、ゆっくりと穴の奥へと引き寄せられる。
「ロード‼︎」
異空間に入り込んだ途端、ガリョウが声を掛ける。
「――先生‼︎」
ロードが声のした方に振り返るが、もう戻ることは出来ない。異空間に身体を捉えられてしまった為に自力で色合界には戻れない。
「……いい発声だった‼︎」
背中越しにその大男が褒めた。その言葉には多くの意味が詰まっていただろう。別れの言葉でもあったのだろう。
「っ⁉︎」
ロードは驚いた。始めてその大男に褒められたのだから。その目にガリョウの後ろ姿を焼き付けていると異空間の奥へと一気に引き寄せられ、ガリョウの背中が遠くなり見えなくなって、異空間に開いた色合界の地も見えなくなって、下に落ちる。
ロードが渦巻く異空間の中に深く深く落ちて行く。
ロードが色合界・ガークスボッデンから脱出した。
「行ったか……」
背後の異空間の穴を見ずにガリョウが呟いた。
すると、黒光りする五メートル程の結晶がガリョウに向かって飛んで来るが、彼は左腕を振って破壊‼︎ そして眼前に浮いた結晶を飛ばして来た魔王の少女を睨み付けた。
魔王の少女もガリョウを睨み付けている。少女の身体はやはり無傷で汚れ一つない。少女が両手の袖口から細い剣を突き出している。
「……アイツにはもう会えんぞ」
ガリョウが魔王の少女に言い放った瞬間、
魔王の少女が殺意を持って、目の前の邪魔者を始末する為に勢い良く飛び出した。
ガリョウは魔王の少女を迎え撃つ為に構える。
あらゆる世界から来る現象が波打つ、異空間の中をロードが深く深く物凄い速さで落ちて行く。
「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
異空間の中では、ロードの絶叫が歪んで聞こえる。
「うぁぁっ⁉︎ がっ⁉︎ ごほっ⁉︎」
熱い何かがロードを襲う。硬い何かがロードを襲う。流れる何かがロードを襲う。しかし、これくらいならばロードは耐えられないこともない。
しかし、真横からの振動が風のように扇がれて、ロードの身体が飛ばされる。
「あっ⁉︎」
今の衝撃で、ロードは抱えていた赤い剣を手離してしまった。
その瞬間、
「う、うぶっ⁉︎」
激しい酔い、いわゆる異空間酔いを引き起こした。
更に異空間がさっきよりも激しくロードを襲う。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
身体全体から悲鳴が上がる。
(あぁぁ、あ、頭が千切れ、く、口から肺が、飛び出そう)
目が眩む中、手離してしまった赤い剣を視界に捉えるも、異空間が激しくロードを襲う。
(ダ、ダメだ、死んじゃ、こんな所で死んじゃダメだ、人を助けるんだ、苦しむ人を沢山、沢山助けるんだ、これから道に進むんだ)
がむしゃらに前へ、異空間に溺れながらも、ひたすら赤い剣の方へ、苦しみと痛みで踠きながらも、手を伸ばす。
「勇者とは!」
ロードが叫ぶ、それを口にするだけで自分にありったけの力が、勇気が、生命力が湧いて来る。必死になって赤い剣に手を伸ばす。手を伸ばす。手を伸ばす。
「どんな恐ろしい魔物を前にしても、道を切り開く勇ましき者!」
ロードの手が、赤い剣に、
「とどい――」
――――ゴン‼︎ ロードの頭に物凄い硬い何かがぶつかった。その勢いで身体は反れて赤い剣を掴み損ねた。更に異空間は容赦なくロードに襲い掛かる。
「うぅっ⁉︎」
ロードの頭から血が吹き出していた。スモルパフアとの戦いの最中に頭をぶつけたときよりも更に強く打っていた。手で頭を押さえ付けながらもう片方の手が再び赤い剣に伸びて行く。
(……皆)
そのとき、何故だかわからないがロードの脳裏に九人の友達の姿が過った。その姿が次第に薄くなるように消えて行く。
構わず赤い剣に手を伸ばす。
(……先生)
そのとき、何故だかわからないがロードの脳裏に二人の大人の姿が過った。その姿が次第に遠く薄くなるように消えて行く。
構わず赤い剣に手を伸ばす。
薄れゆく意識の中、眩む視界の中、それでもロードは手を伸ばし、
――パシッ! 赤い剣に手が届いた。
「……取った」
ロードが再び赤い剣を両手で抱え込む。もう何があっても離すことがないようにしっかりと。そうすると身体に掛かっていた異空間の影響が軽くなる。
「…………………………」
しかし、頭を強く打った為に意識が朦朧としていたロードは、
「……あれ?……なんだここ……」
何かを失った。
「あれ?……オレは……誰だっけ……」
色合界・ガークスボッデンに、もう勇者の卵たる子供達は居ない。しかし、まだ残っていたガリョウと魔王の少女はその地で戦っていた。
あれから何時間、あるいは何日か経ったのだろう。既に二人の雌雄は決していたようで、各地に戦いの傷跡や黒煙が立ち込めて、静寂が支配している。
魔王の少女が宙を浮いて、風に髪と衣をはためかせる。何時間、何日も戦っていた筈なのに、彼女は無傷を貫いて、やはり汚れ一つない、加えて息切れさえしていない。
そんな恐ろしい彼女が、眼下にある歪空地帯の一点を見下ろしている。歪空地帯は戦いの所為で地盤が割れ、黒光りする結晶の塔が倒れている。
少女の見る一点に大男のガリョウが仰向けで倒れて気絶している。瀕死の重傷だが辛うじて息はある。
魔王の少女が左手をガリョウに向けると、その袖口から朱色の光が漏れ出して、光線となって放たれた。
止めの一撃。
朱色の光線が確実にガリョウに向かって、その命を狙う。
ガリョウは気絶したままその一撃を知るよしもなく、向かって来る朱色の光線の輝きに身体が照らされて、
そして、ガリョウの命は、
真っ暗な景色だった。
自分の周りが暗いからじゃない目蓋が重くて閉じられていた所為だからだ。
(ここは……誰か……オレは……どこか……)
まだ意識がはっきりとしない。自分でも今、何を考えているのかわからない
ロード‼︎
誰かわからないが聞き覚えのあるような大きな声がそう言うと、自分が誰かを思い出した。
(そうだ……オレは……ロード……ロードだ
…………何か……しないと……確か……何だっけ)
辿り着け‼︎
(そうだ……オレは辿り着かなくちゃ……いけない……そう言われて…………けど……何を……誰に……わからない……何も……思い出せない)
朦朧とした意識の中、身体を動かそうとしたが力が入らない。
「おい、だいじょぶチュウ?」
「だ、誰かー、来てチュウ来てチュウ」
そのとき、耳に小さな声が聞こえてきて、身体に小さな何かが登って来る感覚があった。
「だ、れ?」
重い目蓋を薄っすらと開いて見ると眩しい光が差し込んで来て、視界がはっきりしない。
「どうした⁉︎」
「こいつ、怪我してるチュウ」
「――⁉︎――これはいけないぞ‼︎ 重傷だ!」「直ぐに手当てしないと」
小さな何かが身体にいくつか乗っかって、二人の男が騒いでる姿が、ぼやけて見えて、また目が閉じた。
(誰か、わからないけど……教えてくれ……)
声にならない。力が出ない。目が開かない。
「オ、レは、何すれば、いいん、だっけ……」
それだけ言って意識が途切れた。
「キミ! しっかり!」
「死んだチュウ⁉︎」
「待ってろ! 今、医者を呼んで来るから!」
「早くチュウ早くチュウ」
怪我をした少年を前に、誰かと小さな何かが騒ぐ。
色合界から脱出したロードだったが異空間の道を行く中で、一時的に赤い剣を手離した為に、頭に強いショックを受けたことで、名前以外の殆どの記憶を失ってしまった。勇者の使命も、自分に秘められた力も、辿り着かなくてはならないものも、過ごしてきた世界と共に暮らした人達も、そして、
自分の進みたかった人を助けて行く道も。
それでもきっと、彼はいつの日か動き出す。
無限大に広がる世界に歩み出て、無限大に存在する人々を助けて、彼は伝説となり輝かしい王道を歩んだ勇ましき者となるだろう。
いつの日か必ず。彼は羽ばたく。
お付き合いくださった方がいたのなら感謝します。
面白くなかったのなら、お時間取らせてしまってすみません。
小説は書き始めたばかりなので読みにくかったかもしれません。
まだ二カ月の初心者です。
完結までは無理です。
とてつもなく長いので、
それでも、またいつか書けることを夢みてます。




