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勇者になる道は一つではない

 色合界(しきごうかい)は暗雲の魔王ラジルバフアに覆われていた。

 勇卵(ゆうらん)の城は金色の(から)に守られ、空中では、スモルパフア万兵団(ばんぺいだん)城族(じょうぞく)守兵団(しゅへいだん)の戦いが起きている。

 そしてガリョウはラジルバフアの暗雲の身体に取り込まれ、全方向からの暗雲の鈍器(どんき)によって滅多打ちにされていた。





 色合界(しきごうかい)・ガークスボッデン、長く大きな橋の遥か下に鋼鉄の川が流れる。ロードとムドウは橋の上を走って勇卵の城を目指していた。


「……………………」


 ふと、ロードが立ち止まって振り返り、ガリョウとラジルバフアの戦っている方角(ほうがく)を見た。


「――ロード⁉︎」


 橋を渡り切ったムドウが、橋の上に取り残されていたロードに気付いた。

 ロードが魔王の方を見て立ち止まっている。


「待て! 戻る気か⁉︎」


 ムドウはそう直感(ちょっかん)した。


「……先生が魔王に取り込まれた」


 不安の色を濃くしたロードが言った。


「先生なら大丈夫だ! 負けやしない!」


「オレもそう思うけど……」

「キミが行って何になるんだ‼︎ あんなのと戦えないだろ‼︎ 先生の邪魔(じゃま)になるだけだ、言われた通り城に戻ろう!」


 ムドウがロードを連れ戻そうと橋に行こうとすると、


「――ッ⁉︎」


 その真上からロードとムドウの(あいだ)に割って入るように橋の表面(ひょうめん)を赤い風が焼いた。色合界のどこかの地によっての影響だったが、暗雲の巨人が居る以上何が起きても不思議ではない。(さいわ)い橋は崩れず、ムドウも間一髪(かんいっぱつ)後ろに下がってこれを回避した。


「…………ロ、ロード! ここは危険(きけん)だ早くこっちに!」

「ごめん、ムドウ、オレ行くよ」


 ロードは既に決めていた。


「――なんだって⁉︎」

「あそこにいるのは、オレ達、勇者が戦わなくちゃいけない敵、魔王なんだ……あれから逃げちゃいけないんだ」


 そのとき、空中で戦っていた城族(じょうぞく)守兵(しゅへい)の剣が、その求めてに応じるかのように上から落ちて来てロード目の前に突き刺さった。その剣をロードはもちろん引き抜いて手にした。その目が魔王を見据(みす)える。


「ロード聞いてくれ、私達はまだ勇者じゃない無理に戦う必要(ひつよう)はないんだ。あんなとてつもない魔王を前にしたら道を引き返すのが私達、()()()()なんだ」


「…………ムドウが言うなら、きっとそうなんだろうな……勇者でもないオレがこの道を進んだらいけない。進んだらきっと卵が割れて勇者にはなれないかもしれない……でも、さっきムドウを助けられたとき、わかったんだ……あのときオレはムドウに居なくなって欲しくなくて剣を振った。それは魔物を倒す為じゃなくてムドウを守る為だったんだ……だからオレは誰にも、先生にも居なくなって欲しくないんだ」


「……ロード、でもそれは、」


「うん、それは勇者じゃなくても誰にでも出来る、けど、オレはそれがしたい……先生を助けに行きたい……だから、この道を行くんだ」


 この道を行く、その決意と共にロードは走り出した。魔王を倒す為に来た道を引き返すのではなく、ガリョウを助ける為にその進むべき道を行く。


「――ロード‼︎」


 ムドウは叫んで、魔王の方へ走るロードを連れ戻そうと、急いで橋に引き返して追いかけるが、


「――ッ⁉︎――」


 上から大きな岩が降って来て橋に激突した。


「――ムドウ‼︎」


 後ろに気付いたロードが友人の安否(あんぴ)を気に掛けた。


「ロード、も、戻ってくるんだ、キミならこの距離(きょり)なんてことはないだろ‼︎」


 ムドウは無事だった。しかし、橋はロードとムドウの丁度、中間に位置するところに直撃し、崩れていた。ロードならば飛び越えられない距離ではないらしい。


「………………」


 しかしロードは、ムドウの言うことは聞かずその身体に怪我(けが)が無いことを確認(かくにん)すると、ガリョウを助ける道を進んで行く。


「ロード! ロード! ロッ――⁉︎」


 ムドウが叫ぶ中、足場の橋は脆くなっていた為に崩れて、


「うわぁぁぁっ‼︎」


 崩れる橋と共にムドウが落ちて行く。下まで何百メートルも続いている為、流石に鋼鉄の川に激突すれば死は間逃れられない。しかし、どうすることも出来ずムドウはただ落ちて行くだけだった。


「――うっ⁉︎」


 その落ちて行くムドウを、白い何かが飛ん出来て(さら)って、もとい助けた。

 それは光りの翼を広げて飛んでいた城族(じょうぞく)守兵(しゅへい)の一体だった。ムドウを助けて、迷うことなく勇卵の城に向かう、十人の子供達を安全な場所に帰す役目が最優先(さいゆうせん)だったからだ。


「ま、待ってくれ! まだロードがいるんだ! 戻ってくれ!」


 ムドウがロードの居る方角を指差し、叫ぶが、生憎(あいにく)守兵(しゅへい)には声を聞く器官(きかん)は無いのでムドウの意図は()み取れない。

 ムドウを抱えた守兵が空高く飛ぶ、それに気付いたスモルパフア達が後を追うが、別の守兵達がムドウを抱える守兵を逃す為に前に立ちはだかる。


「ロード‼︎ ロード‼︎ ロードォ‼︎」


 ムドウの声が虚しく暗雲の空に(ひび)く。





 魔王ラジルバフアは自らの体内にガリョウを閉じ込め、身体の内にある暗雲で鈍器(どんき)を形成し全方向から滅多打(めったう)ちにしていた。


「――ぬっ⁉︎ ぬおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 前のめりに身構えてガリョウを閉じ込めていたラジルバフアの巨大な目から()()()()が突き抜けた。

 それは暗雲の鈍器に滅多打ちにされていたはずのガリョウだった。体内に閉じ込められていた彼は鈍器の嵐の中をひたすら突き進んで脱出を試み、成功したのだ。

 空中に(いきお)い良く飛び出したガリョウは落下して行き、――色合界(しきごうかい)鋭利(えいり)な岩山の地――に激突(げきとつ)‼︎ 盛大に土煙(つちけむり)を上げた。


「モアーー」「モアッ!」「モ、モア」「モアー」


 巨大な目の傷口から、血が()き出すように暗雲を天に昇らせるラジルバフアの元にスモルパフア達が心配して(そば)に来る。


「何を取り乱している。行け! 行って奴らをオマエ達の数で(おお)い尽くせ‼︎」


 暗雲の身体を持つラジルバフアには、その程度の傷は問題(もんだい)ではないので直ぐに治った。


「……ふん」


 赤い剣を握り締めたままのガリョウが起き上がって魔王ラジルバフアを睨みつけた。その立ち姿は、暗雲の鈍器に滅多打ちにされようとも、地面に激突しようとも、揺らぐことなくしっかりと大地(だいち)を踏みしめている。


「モアアアアアアアアアアアアアアア」


 スモルパフア達がガリョウを全方向から(かこ)むように押し寄せる。

 一方ガリョウはその場から動かずに大きく息を吸い込み、


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎」


 大きな雄叫(おたけ)びを上げ、全方向から来るスモルパフア達を吹き飛ばし、更に赤い剣を無造作(むぞうさ)に振り回すことで生まれる斬撃の(あらし)が、スモルパフア達を消し飛ばす。そしてガリョウは地面を強く蹴って飛び上がる。


「ウオオオオオオオオオオオオオ‼︎」


 ガリョウが宙を飛ぶスモルパフアに飛び乗って踏み砕き、そこから高く飛び上がって何体か両断(りょうだん)し、落下を防ぐため、スモルパフアを足場にして歩くと同時に連続して踏み砕き、集団で固まっていたところは豪快(ごうかい)な斬撃で消し飛ばした。


「ハア!」


 そこにラジルバフアの暗雲の拳がガリョウに向けて振り下ろされる。宙を飛ぶガリョウはスモルパフアを蹴って回避(かいひ)を試みるが、そのあまりに大きい拳からは逃げられず――直撃‼︎ そのまま殴り飛ばされて勢いよく岩山の谷間を通過し撃墜(げきつい)して行くも、地面に両足を押し付けて飛ばされて行く勢いを殺し踏み止まる。


「くっ、古傷には利きやがるか……」


 暗雲の拳の一撃に流石(さすが)のガリョウも片膝(かたひざ)を突いて(つぶや)いた。


「モアアアアアアアアアアアアアアア‼︎」


 間髪(かんはつ)()れずスモルパフアの一体がガリョウに接近(せっきん)して行く。無駄とわかっていても狙いはもちろんその命。


 ――ズガン‼︎ 何者かが跳躍(ちょうやく)して、迫るスモルパフアの顔面を蹴り飛ばした。ガリョウではない。


「モアッ⁉︎」


 スモルパフアが地面に激突した。何者かは地面に着地(ちゃくち)してガリョウに駆け寄る。


「先生! 大丈夫ですか⁉︎」

「ロード⁉︎ まだこんなところに居たのか⁉︎ さっさと城に戻れ!」


 ロードの姿を見て驚いたガリョウが言った。


「でも、先生一人じゃ……」

「モアアーーーーーーーー」


 ロードに蹴られたスモルパフアが起き上がり暗雲の魔王に繋がれた身体を引いて二人に向かって行く。


「アレはオレが、先生は魔王を倒す為に力を温存(おんぞん)して」


 ロードは両手に剣を(かま)えて、自分の力を、生命力(せいめいりょく)を込める。

 すると、剣から眩しいほどに輝く光りが放たれ、大きな剣の形に伸びる。


「ロード、オマエ……克服したのか」


 ガリョウは向かって来るスモルパフアよりもロードの光の剣に目を奪われていた。その出現した意味を理解してこの状況の打破を任せる。


「モアアアアア!」

「………………」


 スモルパフアがロードの真正面(ましょうめん)から光の剣に構わず突撃して、ロードはそれを静かに剣を振り(かぶ)り、下ろすタイミングを見極める為に集中(しゅうちゅう)する。そしてロードの間合いにスモルパフアが入ると、


 ――ズバン‼︎ 真上から振り下ろされた光の剣がスモルパフアを両断した。


「モッアアアアアアアアアアアアアア‼︎」


 両断されたスモルパフアが断末魔(だんまつま)を上げながら霧散(むさん)した。


「よし、やっ……」


 ――ドサッ! 振り下ろした剣から光が消えた瞬間(しゅんかん)、ロードは全身から力が抜けて前に倒れた。


「あれ? 身体が重い……」


 うつ伏せになったロードは上手く動けなくなっていた。


「バカヤロー! 生命の力を放てば、その分の力が身体(からだ)から無くなると教えたはずだ! 動けなくなってどうする!」

「そ、そうだったっけ……」


 ロードは力を消耗(しょうもう)し動きが(にぶ)くなりながらも、何とか腕を立て自力で起き上がろうとする。



「……生命の力……」



 遥か頭上、魔王ラジルバフアが一連のロードの行動を見て呟いた。

 そのとき、いくつかの光弾(こうだん)光線(こうせん)がラジルバフアの身体に当たった。それは間違いなく空中でスモルパフア達と戦っていた城族(じょうぞく)守兵団(しゅへいだん)の攻撃だった。


「――ん⁉︎」


 ラジルバフアがそちらの戦いに目を向けると、先程の攻撃が自分に直接向けられたものではないと知る。それはスモルパフア達が白い守兵達に押され始めた為に出来た隙間から光線の飛び火だった。

 数万体のスモルパフア達が半分にまで減っていた。


「もうこれ程に消耗(しょうもう)したか、やはり我が――」


 そのとき遥か前方にある勇卵の城から大きな光線がラジルバフアに放たれた。咄嗟(とっさ)色合界(しきごうかい)の地を大きな手で(つか)み盾として構えるが、先程よりも威力(いりょく)が上がっていたことに加え、盾として扱った色合界の地が(もろ)かったことも合わさって、


「ぬううううああああああああああああ‼︎」


 光線が色合界の地を打ち破りラジルバフアの身体の大半(たいはん)を消し飛ばした。





 その隙にガリョウはロードを連れて岩山の影に、ラジルバフアの見えない位置に隠れていた。


「ロード、今のうちにオレの生命力を持って行け、そうすればまた動けるようになる」

「えっ⁉︎」

「出来る(はず)だ……」

「でも、そんなことしたら先生の生命力が無くなるんじゃ……」

「……オマエにオレの生命力を全て持って行くことが出来ると思うか?」

「……多分(たぶん)……出来ない」

「なら問題はない、やれ」


 ガリョウが手に持っていた赤い剣を地面に突き立てロードの前に片膝を突いて目線を出来るだけ合わせようとする。


「先生それで、どうやってやれば……」

「オレの手を取れ」


 ガリョウが手を差し出して、その大きな手をロードは両手で取った。


「基本は朝やっていたことと同じだ。それをオレの身体を通してやるだけでいい」


 ガリョウは大体の説明を(はぶ)いたが、取り敢えずロードはやってみることにする。





 まずは目を閉じて深く深く深呼吸をするところから始め、気を落ち着かせる。これからやる事に集中する為、心を静めていく。


 次に自分の全身に意識を巡らせる。手から腕から(ひじ)から肩にかけ、首から顔から頭へと、戻って胸から背中から腹から腰から太ももから(ひざ)から足からつま先まで意識を巡らせる。

 そうすると身体の重さが伝わって来て、心臓の鼓動(こどう)が聞こえ、(みゃく)の動きを感じ取り、血の流れを感覚で(とら)えることが出来る。そうして自分が今生きていることを、少なからずある生命力が自分を生かしていることを実感する。


 全てが自分の生命力。


 その生命力を感じ取った状態のままを維持し続け、ロードは次に進む。ここから先は今までやってきたこととは違うので、


「次はオレの手に意識を通してみろ」


 そこまで来たと知ったガリョウが口頭(こうとう)で答える。

 ロードは目を閉じて無言のまま、言われた通り自分の手からガリョウの手に意識を向けてみる。

 するとガリョウの手から(みゃく)の動き、血の流れ、心臓の鼓動、身体の重さが伝わって来る。ロードはガリョウの生命力を感じ取ったのだ。


「オレの生命力を感じたのなら、何となくでいい、自分の生命力を使って掴んでみろ」


 ロードが言われたことをしようとして手に生命力を集中させると光が放たれる。その光を使ってガリョウに流れる生命力を捉え掴んだ。


「出来たなら、飲むように持って行け。体力が十分に回復するまでにな」


 ロードがガリョウの生命力を手に通して吸い取ると、


(――ッ⁉︎)


 ロードが身体を一瞬、びくつかせた。


「どうした……」

「先生、なんか身体が熱い」


「ああ、そりゃ他人の生命力だ。普段(ふだん)と違う感覚が流れ込んでいるだろーが、気にするな。その内馴染(なじ)んで自分の生命力になるだろう」

「は、はい」


 ロードは身体が熱くなるのを気にせず、ガリョウの生命力を吸い取るが、代わりに顔が真っ赤になっていく。


(すご)い……これが先生の生命力……体中(からだぢゅう)を何かが(あば)れるように動き回って、自分が大きく強くなっていくような気分だ)


 その何かをロードは竜としてイメージさせた。そうしてガリョウの生命力を吸い取っていく、始めてのことなので時間がかかるみたいだった。


「……ロード、さっきオマエはあの魔物、スモルパフアを倒したな。アレと同じやつをデカイのが出る前に倒したか?」


「――‼︎――ご、ごめんなさい! やっぱりオレが魔物を倒した所為(せい)で、こんなことに」

「もういい、そんなことは気にするな……それよりどうして生命の力を使えた、オマエはあの力を恐れていたはずだ」


「…………あの魔物にムドウがやられそうになったから、他に武器がなくて使うしかなかった」


「なるほど、火事場の馬鹿力か……」

「うん」


「では、ここへ戻って来たのは何故だ? オマエがあの力を使えるようになったからと言って、それだけで魔王を倒せると思うほど馬鹿ではないはずだ……」

「…………先生の助けになりたかったんだ」


「ふっ、なるほど、オレが(なさ)けないところを見せた所為(せい)か」


 ガリョウが鼻で笑って軽く言った。


「……先生」

「なんだ」

「……勇者とは違うのかもしれないけど、これは戦いから逃げているのかもしれないけど……」

「……言ってみろ」


「…………人を助ける為になら剣を振れる。人を傷付ける為に剣は振りたくない」


「だからなんだ?」


「だから、それでも、勇者になってたくさんの人を助けたい」


「…………それは勇者になる以前の話だ。人と戦うことを恐れているだけのただの逃避だと言ったはずだ。それではアイツらと同じような勇者にはなれない」


「…………」


「だが、ロード、勇者になる道は一つだけじゃない」


「えっ⁉︎」


 ロードは驚いた。まさか勇者の心得を教えて来た本人が言うのだから。


「先生、それってどういうこと」


「ロード、勇者とは?」


「どんな恐ろしい魔物を前にしても道を切り開く勇ましき者」


「そうだ。だから魔物を倒したオマエには教えておこう……勇者の心得、その意味を」

「意味?」


「デカイ目の魔物が居ただろ……アレは勇者となったオマエ達が戦う魔物の中の魔物の王」

「魔王」


「そうだ、そして勇者とは、どんな恐ろしい魔物を前にしても道を切り開く勇ましき者のこと。それはアレに対しても例外ではない。だがこの心得は実際はただの建前(たてまえ)だ」

「えっ」


「オレがそれを普段から言い聞かせてきたのは、奴らとの戦いの中でその心得をオマエ達が口にすることで絶望的な状況でも動けようになる原動力とする為だ……オレがさっき声を上げただけで、オマエ達二人を奴の威圧感(いあつかん)から解放したときのように」


「でも勇者は魔物と戦う者に変わりない……」


「戦って倒せるならいいが中には強敵だっている。そういうときは逃げることも必要になるオマエ達が魔王に倒されてしまえば奴らと戦う者が居なくなるんだ」


「そっか」


「だが、それでも魔王達と戦い続ける限り勇者だ。そしてロード、オマエの言う通り勇者は人と戦う為にいる訳ではない。戦えずとも勇者にはなれる」


「それって」


「オマエが進みたい道を行くことで誰かの目に勇ましき者と写ればそれはもう勇者だ……」


「……オレが進みたい道……」


 ロードはここへ迷ず来た。今ここにいるのはそう言う事。誰かを助けるの道を行く。


「ロード、生命力はもういいか?」

「あ、うん!」


「よし、なら見せてやろう……オレが進む道を」





 魔王ラジルバフアの暗雲の身体は天から補充(ほじゅう)する形で再生されていた。

 そして空中でスモルパフア万兵団(ばんぺいだん)城族(じょうぞく)守兵団(しゅへいだん)が戦いが繰り広げている。そして劣勢(れっせい)だったスモルパフア達の間を()って何十体かの守兵(しゅへい)達がラジルバフアに接近(せっきん)する。

 対してラジルバフアは大きな暗雲の腕を振り、接近する守兵(しゅへい)達をその中に取り込むと、内部を暗雲を鈍器(どんき)に変えて全方向から――破砕(はさい)‼︎ 腕の中から残骸(ざんがい)がポロポロと落ちていく。

 そのとき、勇卵(ゆうらん)の城からまたも大きな光線がラジルバフアに向けて放たれた。そして、やはりラジルバフアは両手で色合界(しきごうかい)を掴み、盾とする。


「ハハハハハハハハ」


 色合界に重くのしかかるようなラジルバフアの笑い声が響く。光線は通用しなかった。

 そして、ラジルバフアは光線を放った勇卵の城に両手を向けて、天から暗雲を下ろし金色の(から)を包み込んでいく。



 勇卵の城にはヴィンセントと無事に戻って来た八人の子供達、レール、ファンタ、ヨルヤ、カイザル、サシャープ、ダイグラン、ミハニーツ、クラッカが居た。各々武器を構えていた。

 彼らの周りにある金色の(から)を、今、暗雲が包み込んでいく。


「先生! オレ達に何か出来ることは⁉︎」


 レールが焦りを(あら)わにして言った。


「心配ない、いいから、じっとしていなさい」


 ヴィンセントは自分の後ろに子供達を集めて守るように立っていた。彼は今、暗雲に(おお)われている金色の殻を錫杖(しゃくじょう)(かか)げて聖法(せいほう)による強化をしているようだった。しかし、暗雲が少しずつ()み込むように侵入(しんにゅう)していた。


(この暗雲、やはり聖法(せいほう)を弱める力があるのか……あとはロードとムドウだけだ、それまでは何としても持ち(こた)えないと)


 ヴィンセントの考えも(むな)しく、ラジルバフアが次の行動を取る。

 掴んだ色合界の地を勇卵の城に向かって投げ飛ばし、金色の殻に激突すると(ひび)が入った。色合界を消し去る効果を持つはずの金色の殻の力が暗雲によって弱まっていたのだ。激突の衝撃が振動として勇卵の城にも伝わる。


「ハハハハハ、(おお)い尽くしててやるぞ。我が暗雲がこの地全てを」


 ラジルバフアが高らかに自分の暗雲の力を誇示(こじ)する。そのとき――


「――魔王ラジルバフア‼︎」


 ガリョウが空気を(ふる)わす程の大きな声で叫んでいた。彼は長く(そび)え立つ岩山の(みね)君臨(くんりん)してラジルバフアと対峙(たいじ)する。


「――! そこに居たか英雄め」


「ロード‼︎ そこから絶対に動くな‼︎」


 ガリョウが遥か下にある岩の影に隠れていたロードに指示した。ロードの方はラジルバフアに位置を知らないように無言で(うなず)くだけにした。


「行け‼︎ スモルパフア万兵団(ばんぺいだん)‼︎」


「「「「「モアアアアアアア‼︎」」」」」


 何千体ものスモルパフアが一斉(いっせい)に岩山の(みね)にいるガリョウに襲いかかって行く。


「それだけか、魔王……なら、もう全部()らうぞ」


 ガリョウがその光景を眺めながら竜のような目に殺意を宿し、魔王達との戦いに終止符(しゅうしふ)を付ける宣言をした。

 すると、ガリョウはその場で息を大きく吸い込み腹に力を()め思いっきり身体を()()らせた。赤い剣を握る手にも力が入る。

 そして、

 腹に溜めた力を一気に吐き出した。

 ただし、

 溜め込んだ力は豪快(ごうかい)な炎となって吐き出された。


 ガリョウの口から吐き出された炎は、岩山の峰から噴き出すように上へ上へと燃え上がり、


「モアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎」


 灼熱(しゃくねつ)の炎が、迫り来るスモルパフア達を残らず焼き尽くす。そして、


「――ッ⁉︎ 炎か‼︎ しかし愚かな、これで我を焼き尽くせると?」


 燃え上がる炎は、巨大な魔王に届くくらいの勢いを持っていたが、ふと、ラジルバフアの目の前にまで来ると炎の様子に異変が生じた。上空に到達(とうたつ)した炎が一点に集まり、その形を変えて行く。


 ラジルバフアを前に集まった炎は、対する魔王の巨大な目よりは小さい竜の姿となった。大きな顔を持つ割に身体の小さい竜だった。


「違う、オマエを喰らう竜だ」


 ガリョウが炎を吐き切った口で(うな)るように言った。

 炎の竜は大きな口を(ひら)くと辺りの空気を吸い込み始めた。息をするというよりも飲み干す勢いに近い、そして、その口に吸い込まれて行くのは空気だけではなかった。


「――ッ⁉︎」


 なんと、魔王ラジルバフアの暗雲の身体が吸い込まれ始めた。そうすると炎の竜の身体が(ふく)らみ、次第に顔よりも身体の方が大きくなる。つまり炎の竜は魔王を食べているのだ。


「モ、モアアアアアアアアアアアアアア⁉︎」


 それはラジルバフアの暗雲に(つな)がれていたスモルパフア達も例外ではない、恐るべき吸引力(きゅういんりょく)を前に飲み干されて行く。それに比例(ひれい)して、どんどん炎の竜の身体が膨らんで大きくなる。


「――そうはさせん‼︎」


 事態(じたい)把握(はあく)したラジルバフアが、その対処(たいしょ)に出た。暗雲の両腕を大きく左右に広げ背後まで回し、そこから一気に前に振り、目の前にある自らを飲み干そうとする炎の竜に対して、両手で(はさ)み撃ちにして押し潰す。


 ――瞬間‼︎ 竜を挟み撃ちにした暗雲の両手が爆発した。


「ぬおっ⁉︎」


 その爆発の原因は竜にあった。ラジルバフアが炎の竜を押し潰した為に、その身体を構成(こうせい)していた炎が勢いよく(はじ)けて、暗雲の両手を吹き飛ばしたのだ。更にその爆発はとてつもなく大きく広がり続けていて、ラジルバフアの両手どころかその全身を吹き飛ばすくらい(すさ)まじい爆風(ばくふう)を生んだ。

 暗雲の巨人ラジルバフアの身体は爆発によって吹き飛ばされた。だが、


「こんな爆発で我を倒せると思っているのか?」


 辺りを(ただよ)う暗雲から重くのしかかるような声が響き渡る。爆風によって身体を吹き飛ばされたからと言ってラジルバフアは倒されない。暗雲は多少損失(そんしつ)するも本体が全て消し飛ばされない限り、色合界を覆い尽くす天の暗雲が身体を再生させるのだ。

 だが、ラジルバフアは勘違(かんちが)いをした。


「爆発じゃねー、大口を開いたんだ」


 ガリョウの言う通りその爆発はまさしく大口だった。どこまでも広がる爆発はやがて先程の暗雲の巨人ぐらいにまでに届くと、突然、辺りを漂う暗雲ラジルバフアを包み込むように形を丸め、更に全てを飲み干す勢いを持った吸引力が備わって暗雲の魔王を残さず食べていた。


「おおおおおおおおおおおおおおお」


 辺りを漂う暗雲のラジルバフアが広がる爆発の大口に飲み込まれて行く。


「ばくはつぅぅ‼︎ そのものがああぁぁぁぁぁ‼︎ 竜のぉ口だとおおおおおおおおぉ‼︎」


 爆発の大口に飲み込まれそうになりながらも必死(ひっし)抵抗(ていこう)で逃れようとするラジルバフアが叫ぶ。

 モアー、モアーと叫ぶスモルパフア達は抵抗も許さず飲み込まれて行く。


「ぬああああああああああああああああぁ‼︎」


 天を覆い尽くす暗雲を残して、ラジルバフアの本体だった全ての暗雲が爆発の大口に飲み込まれる。


(おお)い尽くされるだとおおおおおおおお‼︎ この(おお)いなる魔王ラジルバフアがああああああああああぁ‼︎」


 広がり続けた爆発の大口がラジルバフアを完全に閉じ込め丸くなると、徐々(じょじょ)にその大きさを(ちぢ)めて行く。大口の中では炎が暗雲の魔王を焼き尽くしている。


「竜は魔を()らう」


 その光景をただ見ていたガリョウは勝負が決したことを(さと)った。


「ああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」


 爆発の大口がラジルバフアを中で焼き尽くしながら小さくなる。

 丸いままの形を(たも)った炎が小さくなる。

 暗雲の魔王の叫びが止んでも覆い尽くしたまま小さくなる。

 そして、小さくなりすぎて、見えなくなるように燃え尽きた。



 戦いが終わった。

 魔王ラジルバフアとスモルパフア万兵団(ばんぺいだん)は全てガリョウの炎の竜によって飲み込まれ消滅したのだ。

 色合界を覆い尽くす暗雲だけを残して魔物達は消え去った。

 不吉の暗い影は消え去ったのだ。



 勇卵(ゆうらん)の城を守る金色の(から)を覆っていた暗雲は、ラジルバフアの制御(せいぎょ)を失ったので離れて行く。


「ふぅ、まったく……(おそ)いよ、ガリョウ」


 戦いが終わったことでヴィンセントが安堵(あんど)の息を吐いて呟く。


「皆もう大丈夫(だいじょうぶ)だ。ガリョウ先生があの暗雲の魔王を倒してくれた。ひとまず危機(きき)は去ったよ」


 ヴィンセントは後ろに居た八人の子供達に振り返り、笑顔で結果を報告(ほうこく)した。

 その報告を聞いて子供達は緊張(きんちょう)が解けたのかいつもの調子(ちょうし)を取り戻し口を開き始めた。


 まずはクラッカが

「す、すごかったなぁ、今の爆発。あんなおっきい魔王吹き飛んで食べられたぞ」


 ファンタが、

「あ、ああ、夢でも見てるみたいだった。あれホントにガリョウ先生がやったのか?」


 カイザルが、

「お見事です。ガリョウ先生」


 サシャープが、

「なるほど、さっきのがヴィンセント先生の聖法(せいほう)の戦い方か」


 ヨルヤが、

「…………先生達強すぎないか? もしかして英雄だったのか?」


 ミハニーツが、

「間違いなく英雄でしょ……私達こんな凄い人達に教えられていたんだ」


 レールが、

「くっ、最近自分が強くなってきたと思ったら、これか……あんなのどうやって追いつけってんだよ」


 ダイグランが、

「やはりオレ達が勇者になるにはまだまだ遠いか、あの魔王の目、当分は忘れられそうにない」





「先生‼︎ 先生‼︎」


 そのとき、ヴィンセントと八人の子供達の耳に声が聞こえた。その声は勇卵の城の外側、それも空から聞こえて来た。彼らが声のする方向を見ると、


「ヴィンセント先生‼︎」


 ムドウが空を飛ぶ城族(じょうぞく)守兵(しゅへい)に抱えられ運ばれて、無事、勇卵の城の中層(ちゅうそう)の広場に()ろされて帰還(きかん)することが出来た。


「ムドウ! よかった無事だったか……」


 ヴィンセントがムドウの側に駆け寄った。


「ムドウ! ロードは⁉︎」


 後に続いてミハニーツもムドウの側に駆け寄って、まだここに戻って来ていないもう一人を心配して聞いた。


「ロードはガリョウ先生を助けに行くって魔王の方に……私、連れ戻せなくて……」


 空を飛んでいたムドウは地に足をつけた途端、脱力(だつりょく)してその場に倒れ込む。


「ガリョウの方に向かったんだね? それなら心配ない、ロードは無事だよ。キミも見ただろガリョウがその魔王を倒したところを……すぐにロードを()れて戻って来るよ」


 ヴィンセントがムドウを助け起こしながら言う。


「そうか……良かった」


 ムドウは心底(しんそこ)安心しきった表情を浮かべた。


「先生、ムドウだいぶ疲れてるみたいだ……」


 他の子供達も集まって来て、その中の一人ヨルヤが言った。


「そのようだね……だけど、まだ休ませられないかな」


 ヴィンセントは助け起こしたムドウの背中を押して子供達の居る方に(いざな)う。


(じきにこの暗雲も晴れるが、やはりこの世界にはもう居られないな)


 (いま)だ天を覆う暗雲を忌々(いまいま)しく、暮らして来た勇卵の城を名残(なごり)惜しく見てヴィンセントは決断する。


「皆、聞いてくれ魔王は消え去ったが、またいつ、この騒ぎを知った他の魔王達がやって来るかわからないロード達が戻り次第この色合界(しきごうかい)・ガークスボッデンから脱出する」


 それを聞いた九人の子供達は各々の思いを秘めて勇卵の城を見た。



 城で働いていたはずのパイトさん達は既にヴィンセントの(はか)らいでこの世界からは居なくなっていた。



 戦いの終わった城族(じょうぞく)守兵団(しゅへいだん)は空中で待機(たいき)している。



 不吉を呼び込む暗雲は色合界(しきごうかい)・ガークスボッデンを覆い尽くしたまま、まだ晴れる気配はない。





「ロード、見ていたな今オレはどういう道を歩いていた」


「魔王を倒す道?」


「違うオマエ達を守ろうとした道だ」


「…………」


「ロード、オマエがそう見えたのは、人を傷付けた過去を持っているから他の奴らが敵を倒す為だけに戦っているように見えるんだ……自分が人を傷付けたのは敵を倒す為だったから、そう思ったオマエはずっと皆もそうだと思い込んでいたからそう見えたんだ」


「だからこそ見せてやった、これが人を守ろうとする道だ」


「人を傷付けたことを受け止めた今のオマエなら何か(つか)めるはずだ」


「……そうか……人が魔王に傷付けられないように、守る為に剣を振ればいいんだ……そうすれば()()()()()はもう起こらない」


「そうだ、そして忘れるなロード、オマエの力は敵を倒しす力じゃない。誰かを守り助ける力だ」


「⁉︎」


「そう心に刻んで勇者を目指せロード」


「けど先生オレあんなに強くなれるかな」


「その為にオレとヴィンセントがいる。それにオマエはもっと強くなる。何せ人を助ける為に迷うことなくここへ来たからな」


「……」


「よし勇卵の城へ帰るぞ。アイツらも待っているはずだ」


「先生」

「なんだ?」


「勇者みたいだった」

「そう見えるのは勇者を知ってる奴だけだ」



 ロードは今回の件で成長した。

 魔王を倒す為に友人を傷付けてしまい、それからまともに人と戦えなくなった。しかし友人が魔物に殺されそうになったのを自分の力で助けられたことで、力そのものに対する恐怖を克服(こくふく)する。

 そして、人を助ける為なら剣を振れることを知った彼は誰も傷付いて欲しくはない為に師の言うことに背いてまで加勢、勇者とは違う道を歩んでいるのではないかと悩み始めるも、師は道は一つではないと教える。

 ロードは今、自分の進むべき道を見つけた。


 倒す為じゃなく魔王から人を助け守る道を歩いても、勇者になれるそれを師が証明したのだ。



 色合界(しきごうかい)岩山(いわやま)地帯、二つの影が在る。大きな歩幅のガリョウに駆け足気味にロードが付いて行く。


 その世界に居る誰もが魔王が消えてひと段落ついたと思っていた。





 そのときだった。


 天を覆い尽くす不吉の暗雲に一筋の光が差した。そして、暗雲を刺した光は勢いよく広がり円の空間を作る。

 暗雲の中に開いた円、そこから()れた光は色合界の天の光などではない。


 (あか)い光だ。





「「――――⁉︎――――」」


 別々の場所に居たガリョウとヴィンセントが起きた異常事態に同時に気付いて、顔に緊張(きんちょう)を走らせた。


 勇卵の城に居た子供達もその光を不思議そうに見る。


 岩山の地に居たロードも見る。





 不吉を呼び込む暗い暗い暗雲が(あか)い光によって円状に開かれ、中心に小さな人影があった。





 (あか)い少女がそこに居た。





 それは、その世界に呼び込まれた最後の()()だ。

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