不吉な暗雲の巨人‼︎ 魔王ラジルバフア現る
色合界・ガークスボッデンの各地では、今、十人の子供達が魔討訓練を行っている。
そんな中、金色の湖に聳え立つ勇卵の城は、子供達の目印としての役を果たすべく、各塔のてっぺんに火を灯していた。
そして、その中層の色合界の景色の見える広場の手摺近くには白髪の男ヴィンセントがいる。
彼の前には、今朝、見ていたものと同じく何か文字の書かれた光る球体が浮かんでいる。それは、ヴィンセントがこの世界に来てからずっと調整を繰り返し作り上げた。聖法によって色合界に働きかける魔物除けのシステムだった。
今、彼は手に持った指揮棒のようなもので、その球体に薄れて無けくなってしまった文字を、また新たに書き足したり、不要なものを別の文字に修正したりしている。
「相変わらずやってるのか?」
黙々と作業を続けるヴィンセントにガリョウが近づいて来る。
「勿論だ。この色合界には、魔物こそ居ないが、別世界からの漂流物は多い……そういった中に魔物が混ざる事はある。だからこうして少しでも魔物を遠ざけられるようにこの魔物除けの球体を日々、整備して安定化させておかないと……このどこかが濁らない限り魔物はこの世界には侵入はしていないと見ていい」
言いながらヴィンセントが球体の文字を指揮棒のようなもので流し、綻びを探す。
「まぁ安全を確保出来ているなら、それでいい」
ヴィンセントのやっていることは自分には専門外なので、ガリョウはそれだけ言った。
「もう何年もこの世界に合わせた調整をしてるんだ。ここを直接目指して来ない限り辿りつけはしないだろう…………それよりボクは、この世界の寿命の方が怖いな。予想では後十年その心配ない筈だが、所詮は予測、二年後にこの世界が消滅するなんてこともあるあるからね」
ヴィンセントが球体の文字を修正しながら、怖いと言う割りに一つの可能性を冷静に口に出す。
「そんときは、また別の色合界に行けばいい。一億は有ってもおかしくない世界なんだろ?」
ガリョウが率直な意見を出した。
「その通りだが…………この勇卵の城を捨てて行くのは、少し、いや、かなり心苦しいんだ。ここには、皆で暮らしてきた約十年が詰まっているからね」
ヴィンセントが作業を止め、後ろを振り返って勇卵の城を愛おしそうに見つめる。
「…………そうか、アイツらと過ごして、もうそんなに経つか」
ガリョウは城は見ずに、子供達が訓練しているであろう色合界を眺める為、前に出て手摺に手を掛け乗り出す。
「……そう、そして皆もう十歳になった。ガリョウ、ボクは明日、皆にこれからの指標になるように故郷の話とロードの力についての話をしようと思っているんだが……」
「ダメだ‼︎」
「ロードを気遣っての発言かい?……ボクだってわかっているさ、ロードが深く傷つきいたのは……もっと早くに言えばあんな事故には……それでも」
ヴィンセントが声に後悔を込めて言った。
「そういう意味じゃねー」
「ん?」
ヴィンセントがガリョウを見る。
「アイツは、自分で力を受け入れなくちゃならないからだ」
「それはどういう……」
ヴィンセントにはその一言だけでは理解が及ばなかった。
「つまり ――――――⁉︎―――――― 」
遠くを見ながら話を続けようとしたガリョウはそれに気が付いた。
「……?……どうしたガリョ ――⁉︎―― 」
ヴィンセントは不審を声に、そのガリョウが向いている方を見て、それに気が付いた。
色合界に広がる異質な景色の中に、暗い煙が立ち込めて、天に昇って行くのが見える。
「………………あれは、まさか暗雲の魔物の……」
ヴィンセントの顔に僅かな緊張が現れる。
「ああ、スモルパフアの狼煙だ………………ヤツが来る」
ガリョウが彼方にある一筋の煙を竜のような目で睨みつける。
「……なんてことだ。ヤツは聖法を擦り抜ける。この魔物除けが意味を成さないくらい簡単に」
「しかも狼煙が発動してやがる。誰かがヤツを倒した……この世界でそれが出来そうなのは、オレ達以外では、」
(ロードが危ない……!)
ヴィンセントが事態の深刻さに気付いた。
「――ガリョウ!」
「わかってる、こっちは任せろ! オマエは脱出の準備に取りかかれ!」
ガリョウが手摺に片足を置き、そのまま乗り上げて手摺の上に立つ。
「もう、ここにはいられねー」
ガリョウが城の手摺から飛び降りた。城の塔や壁などを足で蹴って加速し、勇卵の城の下層から城壁を出て暗い狼煙を目指す。
(言ってる側から、これとはね。残念だ……やはり世界は思うようには回らないか……)
ヴィンセントは手に持った指揮棒を振って、調整していた魔物除けの光る球体の形を楽譜のようなものに変えた。それに最早、魔物除けの効果はない。
そして、長年蓄えられた聖法の力を別のことに使う。
(魔王、勇卵の城なら好きにするがいいさ……けど、勇者の卵は一つとして絶対に割らせはしない!)
ヴィンセントが指揮棒を振ると、周囲に光りの線で出来て喇叭のようなものが展開された。それは遠くまで自分の声を届かせるための拡声器のようなものだった。
「――皆! 聞いてるか! ヴィンセントだ!――」
その声は色合界・ガークスボッデンの広範囲に響き渡り、訓練中の子供達に届いた。
「――この声は聖法によるものだ!――緊急事態が発生した! 各自、今行なっている魔討訓練を全面的に中止! 直ちに勇卵の城まで帰還してくれ!――」
ヴィンセントが楽譜に浮かんだ文字列を指揮棒で裂くように振る。
そうすることで、魔討訓練に於ける偽物の魔物達が一斉に消える。
「――いいかい! 繰り返す! 魔討訓練は中止! 直ちに勇卵の城へ帰還してくれ!――」
積台地帯、大きな一つ目の魔物、スモルパフアが出す狼煙を見ながらロードとムドウがその声を耳にする。
「――色合界・ガークスボッデンに魔物の侵入が確認された! これから更に魔物の大軍が押し寄せて来る!――」
目霞地帯、戦っていた偽物の魔物の群れから解放されたレールとファンタがその切迫した声を聞く。
「――正真正銘の魔物だ! もし魔物と遭遇しても交戦は許可しない! 持っている武器を全て捨て、勇卵の城に灯る火だけを辿るんだ!――」
切森地帯、そこから場所を変えようと移動していたカイザルとヨルヤがその声を聞く。
「――全員が集まりしだい、ここ! 色合界から脱出する!――」
塗変地帯、ヤオレインを倒す直前に消えてしまった為、ダイグランとサシャープが固まったまま互いを見て、その声を聞く。
「――これよりボクは聖法の展開に集中し魔物達を迎撃する為、以後の通話はない! 皆を信じて待っている!――」
浮足地帯、岩盤の上で休憩していたクラッカとミハニーツが城の方に顔を向けながらその声を聞く。
「――ヨルヤ、カイザル、ダイグラン、サシャープ、ミハニーツ、クラッカ、ファンタ、レール、ムドウ、ロード、必ず帰えってきなさい――」
子供達全員が、それぞれがいる場所から走り出し勇卵の城を目指す。
「――皆揃って、また楽しく食事をしよう――」
最後にヴィンセントが自分の望みを言うと、聖法による拡声器を解いた。
そしてヴィンセントが手に持っていた指揮棒もまた長い錫杖に形を変え、それを地に打ちつけ始める。
「――第五七条――――五六項――汝らの天命の為に起動せよ、汝らの使命の為に行動せよ――」
ヴィンセントが唱えながら錫杖を打ち続ける。
「――聖法――城族の守兵団――」
勇卵の城の各所で異変が起きる。
城に並べられていた石像が、城に並べられていた台座が、城に並べられていた柱が、その形を兵士の姿に変えていく。
そしてヴィンセントの背後の広場に集まって行く。大きさは様々、その手には剣と盾が構えられている。
「来たか、暗雲の魔王ラジルバフア」
ヴィンセントが敵意を持って呟く。
その遥か前方に立ち込める暗い狼煙は、上空で集まり暗雲となって、広がるように色合界の天空を覆って行く。どこまでもどこまでも広がって覆いつくして行く。
積台地帯、ロードとムドウが走って勇卵の城を目指していた。
「なんなんだアレは……魔物は倒したら霧散するんじゃなかったのか? どうして黒い雲になっているんだ?」
ロードが走りながらムドウに聞く。
「わ、わからない……あの魔物、まだ本で読んだことなかったし……それより先生の言ってた魔物の大軍だ! 何がどうして、いきなりそんなことになっ――――」
ムドウがもう一度、事態の発生源だった魔物を見ようとして、それを見てしまう。
「――⁉︎――」
走っていたムドウが腰を抜かす。その顔は酷く驚いていた。
「――ムドウ!」
「――振り返るなぁ!」
恐怖心を抑え、ムドウが精一杯叫んでみるが、もう遅かった。
ロードもそれを見て腰を抜かした。
それは目だった。天空を覆いつくす程に広がった暗雲から出現し見開かれた、とてつもなく巨大な一つ目。
その目は青く血走っていて、見る者を恐怖させる不吉な瞳。
ロードの顔が恐怖に染まった。
「な、なんだ……アレは……」
ロードの声は恐怖で震えていた。
暗雲に浮かぶ巨大な一つ目は二つの小さな影を見つめていた。それはロードとムドウだったが、ロードの方を凝視して、こう言った。
「……見つけたぞ……」
暗雲の魔王ラジルバフアの重く低い声が色合界に響き始める。
「ゆけ、スモルパフア万兵団! 我が暗雲へアレを引き込め!」
声と同時に、その暗雲から魔物達が何百何千と飛び出してきた。それは全て先程ロードが倒した大きな一つ目のスモルパフアと呼ばれる魔物達だった。その胴体が巨大な目を見開いた暗雲と繋がっていたが、間違いない。
それら全てのスモルパフアがロードとムドウに向かって行く。まるで黒い雨でも降り始めたかのように見える。
「――なんだアレ! さっき倒したのがあんなに」
ロードとムドウに、何千もいるスモルパフアの軍勢が雨のように降り注ぐ。二人にとってはあまりにも現実離れし過ぎていた光景だった。
「モアアアアアアアアアアアアアアア」
ただ呆然と二人はその光景を見ることしか出来なかった。巨大な目に足が竦んで動けないうえ、一体倒すのもやっとだったスモルパフアが、今度は何千といるのだから絶望するしかない。
叫ぶことも忘れた二人に、数百体のスモルパフアが接近する。距離にして一○メートルもないくらいのところで、
――突如、大きな嵐のような斬撃が数百体のスモルパフアを消し飛ばした。
「――ん⁉︎――」
驚愕を露わにした暗雲の魔王ラジルバフアが目を見開いた。
小さな二つの影の前に赤い装束の男が立っていた。
「何座ってやがるんだ、オマエら」
ロードとムドウの前に現れたのはガリョウだった。
「立て……勇卵の城に戻れ……」
ガリョウは背を向けたまま言うが、二人は立たなかった。それはガリョウの声が聞こえなかった訳でも、声に逆らっていた訳でもない。とてつもない巨大な一つ目と目が合って以来、恐怖のあまり声を出すことも動くことも出来なくなっていたのだ。
「あんなもので怖気付いたのか」
ガリョウが背後で腰を抜かしていた二人に厳しい目を向けた。
そして一息吸うと、
「立て‼︎ ロード! ムドウ!」
ガリョウの空気を震わすような大きな声が響き、それを受けたロードとムドウが反射的に立ち上がった。ガリョウは見事その声で魔王の威圧感に支配されていた二人を自由にした。
「勇者とは!」
「「 どんな恐ろしい魔物を前にしても、道を切り開く勇ましき者! 」」
二人がはっきりとガリョウの問いに答えた。
「それでいい! 城に戻れ!」
前から新たにやって来たスモルパフアの軍勢を、ガリョウは赤い剣を振って消し飛ばした。
「戻れ!」
「「 はい! 」」
返事と共に二人は走り去って行った。
「魔王ラジルバフアか……」
「我を知って立ちはだかるか無謀なる者よ。数の力で覆い潰してやろう」
ラジルバフアの暗雲に繋がれたスモルパフア達が天から地表目掛けてガリョウに襲いかかろうとするが、間に割って入った光の矢の群がこれを阻止した。
「――あれは⁉︎」
ラジルバフア達の目の前に白い集団が光の翼を広げ滞空していた。
その集団はヴィンセントの聖法によって起動した、勇卵の城と子供達を常に日頃から見守っていた数千体の兵士、城族の守兵団だった。
「ここに居るのは英雄共か……良かろう、我が名高への供物ごときの存在価値で果てるがいい」
そうラジルバフアが戦線布告すると、暗い雲の軍団と白い集団の戦いが始まった。暗い雲達が殴り噛みつき、白い集団が剣を振り矢を放つ、数万体のスモルパフアは数で、数千体の城族の守兵団は力で戦い、両軍拮抗した戦いを見せる。
「竜麟烈風大斬」
「モアアアアアアアアアアアアアアア」
ガリョウが赤い剣を振り、その斬撃が近づいてくるスモルパフア達を消し飛ばす。
「――聖法――黄金の卵殻――」
遠く勇卵に城でヴィンセントが唱えると金色の湖の水が湖畔から迫り上がる。そして、それは卵のような形になって勇卵の城全体を包み込んでいく。
ロードとムドウが荒い岩場を走っている。
それをラジルバフアはその巨大な一つ目で視線を合わせたまま見失うことはない。
「陣形、一本隊列」
ラジルバフアが指示すると、暗雲の中からスモルパフアがに束になって並ぶ。そして先頭が目に映すのは、走り去って行く二つの小さな影。
「全体進め」
「モアアアアアアアアアアアアアアア」
天を覆う暗雲から、何千体というスモルパフアの隊列がロードとムドウに向かって伸びる。
「「――⁉︎――」」
二人は迫り来る暗雲の突撃に気付く。
「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」
そのときガリョウがスモルパフア達の突撃を止める為、地面から思いっきり高く飛ぶ。空中で赤い剣を連続して振り、その斬撃が迫り来るスモルパフア達を先頭から消し飛ばす。
「モアアアアアアアアアアアアアアア」
しかし後続のスモルパフア達の動きに揺らぎはなく突撃は続き、空中にいるガリョウはやがて落下して行くが、
「オオアアアアアア‼︎」
落下の際、大きく息を吸い、あらん限りの力を声に変えて吐き出す。それはスモルパフアの隊列を吹き散らす程だった。
ロードとムドウが走りながらその驚くべき光景を見ていた。
「す、すごいな、ガリョウ先生」
流石のロードも驚愕せざる得ない。
「ああ、あの単眼の魔物を一気に何百体と倒して、声量だけで散らばらせるなんて……」
今も落下しながらスモルパフアを斬撃で押し留めるガリョウを見てムドウが言う。
「それもだけど……あの大きな目に怖気付いてたとき、先生が、立て、って言っただけですごく安心した。頼もしかった」
ロードの顔に笑みがこぼれる。
「私もだ、普段はあんなに厳しくて怖い人だったのに、あのときあの場面で駆けつけたあの姿はカッコ良かった。やっぱり私達の先生はすごい人だったんだなぁ」
ムドウの顔に笑みがこぼれる。
(……でもオレはあんなに強くなれるのかな)
ロードは嬉しい反面、現状ガリョウに任せることしか出来ない事実に無力感を感じた。
先の尖った岩山の頂上にガリョウが君臨する。スモルパフア達はガリョウに阻まれそれ以上進めず、仕方なく空中で待機する。
――すると、ラジルバフアの暗雲から空気の塊がガリョウに向けて発射された。その勢いは、ガリョウの居る岩山を押し潰すぐらいの迫力がある。
「オオオオオォォォォォォォォォ‼︎」
ガリョウが岩山から空気の塊に向かって飛ぶ、そして手にした赤い剣を振り、斬撃が空気の塊とぶつかり、砕かれて、岩山の地に降り注がれた。
また別の岩山の頂上に降りたったガリョウはその声を耳にする。
「意表はつけないか」
色合界に重くのしかかるラジルバフアの声が響く。
「ならば、我が自ら覆い潰してくれる」
天を覆い尽くす暗雲が蠢く。暗雲の中心部が膨張し、そこから一気に滝が流れるように暗雲が落ち、色合界の地に暗雲の雪崩となって覆い被さって行く。暗雲の滝が天と地を繋ぐ。
そして暗雲は次第にその形を変えていく。山の何倍もある遥かに大きな人のような輪郭が浮かび上がる。その大きく膨らんだ両肩に位置する部分から暗雲が膨れ上がって、それは大きな両腕となって伸びて色合界の各地帯を鷲掴み出来る程大きな手のひらに形を整えた。頭部に位置する部分には冠のように並ぶ暗雲の角が飛び出し、威厳を示す。先程の天からの滝とは打って変わって、今度は地に立った人の形をした暗雲の背中から、マントを逆立てたように暗雲が伸びて、天を覆い尽くす。そして、その顔を半分に裂くような横線が入り、このとき、線が上下に開かれる。その中からは顔全体を埋め尽くす程巨大な、青く血走った目が不吉を持ってに見開かれた。
「制空権は我にあり」
その全体像はまさしく暗雲の巨人。それこそが魔王ラジルバフアの真の姿だった。
「――ヴィンセントォォォォォ‼︎」
岩山の頂上に立つガリョウは大きな声を出して叫ぶが、遥か彼方、勇卵の城にいる彼に聞こえる筈はない。
それでもヴィンセントは山の何倍も大きな魔王ラジルバフアの出現を見ていたので、即座に攻撃準備に取り掛かる。
「――勇ましき城よ、あの悪しき暗雲を払いたまえ――」
勇卵の城を囲んでいた金色の殻が光り出し、その殻の光はヴィンセントの錫杖が向けられた先で一点に集中し、ラジルバフアに向けて狙いを定め――盛大に発射‼︎――長大な光線が魔王を打ち滅ぼさんとばかりに色合界を突き進む。
対してラジルバフアもその光線には直ぐに気付く。その対処方法は強引なもので、色合界のどこかの地帯をその大きな手のひらで地盤ごと鷲掴み引き上げ、自分の前に盾となるように構えて、ヴィンセントが発射した光線を受け止めた。盾となった地盤は木っ端微塵に破壊され、色合界の各地に降り注がれた。
「小賢しい」
ラジルバフアの重い声が色合界にのしかかり、その大きな右手を振り上げ、近くにあった色合界の――宙を流れる川の立体的な芸術――を真横から、勇卵の城に向けて打ち払う。すると川の水は大きな飛沫となって、間で空中戦をしていたスモルパフア達や城族の守兵団、最後に勇卵の城を包み込む金色の殻に降りかかり、水浸しになった。
更にラジルバフアは大きな左手で近くにあった色合界の――稲妻を固体にして作られた蒼い塔がある地――の塔を束にして鷲掴み、勇卵の城に向けて投射する。すると、蒼い塔は稲妻を撒き散らしながら突き進み、その進行ルートに居た水浸しのスモルパフア達や城族の守兵団は、両軍とも何百体か感電し消し炭になって甚大な被害を齎した。そして色合界の各地に槍となって進むいくつかの蒼い塔が突き立ちながらも、勇卵の城を包み込む水浸しになった金色の殻に激突する。
しかし、激突した稲妻の塔は勇卵の城を守る金色の殻に感電するどころか傷一つ付けることは出来なかった。その稲妻の塔は逆に金色の殻の放った光の輝きによって消し去られた。
「…………ならば……」
ラジルバフアが両手でそれぞれ色合界の地を掴む。その暗雲の手は掴んだ地をそのまま握り潰し、手の内側に取り込ませた。
そしてラジルバフアは両腕を勇卵の城に向けて構え、
「入道砲」
暗雲の両腕が大砲の形になって、砕かれた色合界の地が連射される。右手の大砲からは、緑の結晶の塊が、左手の大砲からは、捻られた大地の残骸が、次々と暗雲を引いて発射されていく。
ラジルバフアの砲撃は、スモルパフア達と城族の守兵団も巻き込みながら勇卵の城に、
――激突‼︎
だが、連続した砲撃の嵐を持ってしても、光り輝やく金色の殻が破られることはなく、砲弾となった色合界の地を否定するかのように消し去ってしまった。
(……無駄だ、この金色の湖で出来た黄金の卵殻は、決して色合界の地を通しはしない。そういう攻撃をいくら続けても光がそれを消し去る)
砲撃の嵐にビクともしない金色の殻を見て、ヴィンセントがさも当然のことのように思う。
「……どうせ聖法だ、この手で覆い潰してくれる」
砲撃を無駄と知ったラジルバフアが両腕に残った色合界の地を辺りにばら撒いて捨てる。と、右腕を勇卵の城に向けて膨らませるように伸ばして行く。
しかし、その暗雲の腕は伸びて行く途中で一つの斬撃によって断たれ空中分解した。腕を切り崩す程の豪快な斬撃を放ったのは、やはりガリョウだった。熱風渦巻く山の頂上でラジルバフアをそれ以上進ませない為に君臨する。
「――邪魔をするか‼︎」
ラジルバフアは左の手のひらをガリョウに向けて、山ごと吹き飛ばす空気の塊を放つ。
それに対してガリョウはあえて直撃しようとして山から飛んだ。そうして真っ向から挑むように赤い剣を豪快に振って、斬撃を生み、空気の塊を四方八方に弾き飛ばした。その隙にラジルバフアの左手が元の形を取り戻す。
「ハアァ‼︎ ハアァ‼︎ ハアァ‼︎ ハアァ‼︎」
ラジルバフアは構わず、更なる空気の塊を左手から放つ。しかしガリョウの斬撃で弾かれる。ラジルバフアは構わず、更なる空気の塊を右手から放つ。しかしガリョウに弾かれる。色合界の各地に弾かれた空気の塊が降り注ぐ。
――ダン‼︎ とガリョウが地面を強く蹴って、空気の塊が放たれる中を突き進み、暗雲の手を赤い剣で貫いて穴を開け、ラジルバフアの顔のある上空まで飛んだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎」
ガリョウが赤い剣を豪快に振り下ろし、それによって生まれた斬撃がラジルバフアの巨大な身体を断絶した。
「……ふん」
しかしラジルバフアの身体は暗雲だ。多少の欠損はあるもののそれで倒すことは叶わない。
両断され辺りに散った暗雲が、落下して行くガリョウを逃すまいと包み、更に左手を、右手を、と暗雲を重ね掛けて、最後に両断された本体を無理矢理動かして暗雲の中にあるガリョウを全身で取り込んだ。
ガリョウがラジルバフアの暗雲の身体の中に閉じ込められ、
「暗覆入道」
その暗雲の身体が鈍器となって、全方向からガリョウに襲いかかる。




