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不吉な暗雲の巨人‼︎ 魔王ラジルバフア現る

 色合界(しきごうかい)・ガークスボッデンの各地(かくち)では、今、十人の子供達が魔討訓練(まとうくんれん)(おこな)っている。

 そんな中、金色(こんじき)(みずうみ)(そび)え立つ勇卵(ゆうらん)の城は、子供達の目印(めじるし)としての(やく)()たすべく、各塔(かくとう)のてっぺんに火を(とも)していた。

 そして、その中層(ちゅうそう)の色合界の景色の見える広場(ひろば)手摺(てすり)近くには白髪(はくはつ)の男ヴィンセントがいる。

 彼の前には、今朝(けさ)、見ていたものと同じく何か文字の書かれた光る球体(きゅうたい)が浮かんでいる。それは、ヴィンセントがこの世界に来てからずっと調整(ちょうせい)()り返し作り上げた。聖法(せいほう)によって色合界(しきごうかい)(はたら)きかける魔物(まもの)()けのシステムだった。

 今、彼は手に持った指揮棒(しきぼう)のようなもので、その球体に(うす)れて無けくなってしまった文字を、また新たに書き足したり、不要(ふよう)なものを別の文字に修正(しゅうせい)したりしている。


相変(あいか)わらずやってるのか?」


 黙々(もくもく)作業(さぎょう)を続けるヴィンセントにガリョウが近づいて来る。


勿論(もちろん)だ。この色合界(しきごうかい)には、魔物(まもの)こそ()ないが、別世界(べつせかい)からの漂流物(ひょうりゅうぶつ)は多い……そういった中に魔物が()ざる事はある。だからこうして少しでも魔物を遠ざけられるようにこの魔物除(まものよ)けの球体(きゅうたい)を日々、整備(せいび)して安定化(あんていか)させておかないと……このどこかが(にご)らない限り魔物はこの世界には侵入(しんにゅう)はしていないと見ていい」


 言いながらヴィンセントが球体の文字を指揮棒(しきぼう)のようなもので流し、(ほころ)びを探す。


「まぁ安全(あんぜん)確保(かくほ)出来ているなら、それでいい」


 ヴィンセントのやっていることは自分には専門外(せんもんがい)なので、ガリョウはそれだけ言った。


「もう何年もこの世界に合わせた調整(ちょうせい)をしてるんだ。ここを直接(ちょくせつ)目指して来ない限り辿(たど)りつけはしないだろう…………それよりボクは、この世界の寿命(じゅみょう)の方が(こわ)いな。予想(よそう)では後十年(じゅうねん)その心配(しんぱい)ない(はず)だが、所詮(しょせん)予測(よそく)、二年後にこの世界が消滅(しょうめつ)するなんてこともあるあるからね」


 ヴィンセントが球体の文字を修正しながら、怖いと言う()りに一つの可能性(かのうせい)を冷静に口に出す。


「そんときは、また別の色合界(しきごうかい)に行けばいい。一億(いちおく)は有ってもおかしくない世界なんだろ?」


 ガリョウが率直(そっちょく)意見(いけん)を出した。


「その通りだが…………この勇卵(ゆうらん)(しろ)()てて行くのは、少し、いや、かなり心苦(こころぐる)しいんだ。ここには、皆で()らしてきた約十年が()まっているからね」


 ヴィンセントが作業(さぎょう)を止め、(うし)ろを振り返って勇卵の城を(いと)おしそうに見つめる。


「…………そうか、アイツらと過ごして、もうそんなに()つか」


 ガリョウは城は見ずに、子供達が訓練しているであろう色合界(しきごうかい)を眺める為、前に出て手摺(てすり)に手を掛け乗り出す。


「……そう、そして(みんな)もう十歳(じゅっさい)になった。ガリョウ、ボクは明日(あした)、皆にこれからの指標(しひょう)になるように故郷(こきょう)の話とロードの力についての話をしようと思っているんだが……」


「ダメだ‼︎」


「ロードを気遣っての発言かい?……ボクだってわかっているさ、ロードが深く傷つきいたのは……もっと早くに言えばあんな事故には……それでも」


 ヴィンセントが声に後悔(こうかい)を込めて言った。


「そういう意味(いみ)じゃねー」

「ん?」


 ヴィンセントがガリョウを見る。


「アイツは、自分で力を受け入れなくちゃならないからだ」

「それはどういう……」


 ヴィンセントにはその一言だけでは理解が(およ)ばなかった。


「つまり ――――――⁉︎―――――― 」


 遠くを見ながら話を続けようとしたガリョウは()()に気が付いた。


「……?……どうしたガリョ ――⁉︎―― 」


 ヴィンセントは不審(ふしん)を声に、そのガリョウが向いている方を見て、()()に気が付いた。


 色合界(しきごうかい)(ひろ)がる異質(いしつ)景色(けしき)の中に、暗い(けむり)が立ち込めて、天に(のぼ)って行くのが見える。


「………………あれは、まさか暗雲(あんうん)魔物(まもの)の……」


 ヴィンセントの顔に(わず)かな緊張(きんちょう)(あらわ)れる。


「ああ、スモルパフアの狼煙(のろし)だ………………()()が来る」


 ガリョウが彼方(かなた)にある一筋(ひとすじ)(けむり)を竜のような目で(にら)みつける。



「……なんてことだ。ヤツは聖法(せいほう)()()ける。この魔物除(まものよ)けが意味を成さないくらい簡単(かんたん)に」


「しかも狼煙(のろし)発動(はつどう)してやがる。(だれ)かがヤツを倒した……この世界でそれが出来そうなのは、オレ達以外では、」


(ロードが(あぶ)ない……!)


 ヴィンセントが事態(じたい)深刻(しんこく)さに気付いた。


「――ガリョウ!」

「わかってる、こっちは(まか)せろ! オマエは脱出(だっしゅつ)準備(じゅんび)に取りかかれ!」


 ガリョウが手摺(てすり)片足(かたあし)()き、そのまま()()げて手摺(てすり)の上に立つ。


「もう、()()にはいられねー」


 ガリョウが城の手摺(てすり)から飛び()りた。城の(とう)(かべ)などを足で()って加速(かそく)し、勇卵の城の下層から城壁を出て暗い狼煙(のろし)を目指す。


(言ってる(そば)から、これとはね。残念(ざんねん)だ……やはり世界は思うようには(まわ)らないか……)


 ヴィンセントは手に持った指揮棒を振って、調整(ちょうせい)していた魔物(まもの)()けの光る球体(きゅうたい)の形を楽譜(がくふ)のようなものに変えた。それに最早(もはや)、魔物除けの効果(こうか)はない。

 そして、長年(たくわ)えられた聖法(せいほう)の力を別のことに使う。



(魔王、勇卵(ゆうらん)の城なら好きにするがいいさ……けど、勇者(ゆうしゃ)(たまご)は一つとして絶対(ぜったい)()らせはしない!)



 ヴィンセントが指揮棒(しきぼう)を振ると、周囲(しゅうい)に光りの(せん)出来(でき)喇叭(らっぱ)のようなものが展開(てんかい)された。それは(とお)くまで自分の声を(とど)かせるための拡声器(かくせいき)のようなものだった。


「――(みんな)! 聞いてるか! ヴィンセントだ!――」


 その声は色合界(しきごうかい)・ガークスボッデンの広範囲(こうはんい)(ひび)(わた)り、訓練中(くんれんちゅう)の子供達に届いた。


「――この(こえ)聖法(せいほう)によるものだ!――緊急事態(きんきゅうじたい)発生(はっせい)した! 各自(かくじ)、今(おこ)なっている魔討訓練(まとうくんれん)全面的(ぜんめんてき)中止(ちゅうし)! (ただ)ちに勇卵(ゆうらん)の城まで帰還(きかん)してくれ!――」


 ヴィンセントが楽譜(がくふ)に浮かんだ文字列(もじれつ)指揮棒(しきぼう)()くように振る。

 そうすることで、魔討訓練(まとうくんれん)()ける偽物(にせもの)の魔物達が一斉(いっせい)に消える。


「――いいかい! ()り返す! 魔討訓練(まとうくんれん)中止(ちゅうし)! (ただ)ちに勇卵(ゆうらん)の城へ帰還(きかん)してくれ!――」


 積台(せきだい)地帯、大きな一つ目の魔物、スモルパフアが出す狼煙(のろし)を見ながらロードとムドウがその声を耳にする。


「――色合界(しきごうかい)・ガークスボッデンに魔物の侵入(しんにゅう)確認(かくにん)された! これから(さら)に魔物の大軍(たいぐん)()し寄せて来る!――」


 目霞(めがすみ)地帯、戦っていた偽物の魔物の()れから解放(かいほう)されたレールとファンタがその切迫(せっぱく)した声を聞く。


「――正真正銘(しょうしんしょうめい)の魔物だ! もし魔物と遭遇(そうぐう)しても交戦(こうせん)許可(きょか)しない! 持っている武器(ぶき)(すべ)()て、勇卵の城に(とも)る火だけを辿(たど)るんだ!――」


 切森(きりもり)地帯、そこから場所(ばしょ)を変えようと移動(いどう)していたカイザルとヨルヤがその声を聞く。


「――全員(ぜんいん)(あつ)まりしだい、ここ! 色合界(しきごうかい)から脱出(だっしゅつ)する!――」


 塗変(ぬりかえ)地帯、ヤオレインを倒す直前(ちょくぜん)に消えてしまった為、ダイグランとサシャープが(かた)まったまま互いを見て、その声を聞く。


「――これよりボクは聖法(せいほう)展開(てんかい)集中(しゅうちゅう)し魔物達を迎撃(げいげき)する為、以後(いご)通話(つうわ)はない! (みんな)(しん)じて()っている!――」


 浮足(うきあし)地帯、岩盤(がんばん)の上で休憩(きゅうけい)していたクラッカとミハニーツが城の方に顔を向けながらその声を聞く。


「――ヨルヤ、カイザル、ダイグラン、サシャープ、ミハニーツ、クラッカ、ファンタ、レール、ムドウ、ロード、必ず帰えってきなさい――」


 子供達全員(ぜんいん)が、それぞれがいる場所から走り出し勇卵(ゆうらん)の城を目指す。


「――皆(そろ)って、また楽しく食事(しょくじ)をしよう――」


 最後にヴィンセントが自分の(のぞ)みを言うと、聖法(せいほう)による拡声器(かくせいき)()いた。

 そしてヴィンセントが手に持っていた指揮棒(しきぼう)もまた長い錫杖(しゃくじょう)に形を変え、それを地に打ちつけ始める。


「――第五七(じょう)――――五六(こう)――(なんじ)らの天命(てんめい)の為に起動(きどう)せよ、(なんじ)らの使命(しめい)の為に行動(こうどう)せよ――」


 ヴィンセントが(とな)えながら錫杖(しゃくじょう)を打ち続ける。


「――聖法(せいほう)――城族(じょうぞく)守兵団(しゅへいだん)――」


 勇卵(ゆうらん)の城の各所(かくしょ)異変(いへん)が起きる。

 城に並べられていた石像(せきぞう)が、城に並べられていた台座(だいざ)が、城に並べられていた(はしら)が、その形を兵士(へいし)姿(すがた)に変えていく。

 そしてヴィンセントの背後の広場(ひろば)に集まって行く。大きさは様々、その手には(けん)(たて)(かま)えられている。


「来たか、暗雲(あんうん)の魔王ラジルバフア」


 ヴィンセントが敵意(てきい)を持って(つぶや)く。

 その(はる)前方(ぜんぽう)に立ち込める暗い狼煙(のろし)は、上空(じょうくう)で集まり暗雲(あんうん)となって、広がるように色合界(しきごうかい)の天空を(おお)って行く。どこまでもどこまでも広がって(おお)いつくして行く。





 積台(せきだい)地帯、ロードとムドウが走って勇卵(ゆうらん)の城を目指していた。


「なんなんだアレは……魔物は倒したら霧散(むさん)するんじゃなかったのか? どうして(くろ)(くも)になっているんだ?」


 ロードが走りながらムドウに聞く。


「わ、わからない……あの魔物、まだ本で読んだことなかったし……それより先生の言ってた魔物の大軍だ! 何がどうして、いきなりそんなことになっ――――」


 ムドウがもう一度、事態(じたい)発生源(はっせいげん)だった魔物を見ようとして、()()を見てしまう。


「――⁉︎――」


 走っていたムドウが(こし)()かす。その顔は(ひど)(おどろ)いていた。


「――ムドウ!」

「――振り返るなぁ!」


 恐怖心(きょうふしん)を抑え、ムドウが精一杯(せいいっぱい)(さけ)んでみるが、もう(おそ)かった。

 ロードも()()を見て腰を抜かした。


 それは目だった。天空(てんくう)(おお)いつくす程に広がった暗雲(あんうん)から出現(しゅつげん)し見開かれた、とてつもなく巨大(きょだい)な一つ目。

 その目は青く血走(ちばし)っていて、見る者を恐怖(きょうふ)させる不吉な(ひとみ)


 ロードの顔が恐怖(きょうふ)()まった。


「な、なんだ……アレは……」


 ロードの声は恐怖(きょうふ)(ふる)えていた。


 暗雲に浮かぶ巨大(きょだい)な一つ目は二つの小さな(かげ)を見つめていた。それはロードとムドウだったが、ロードの方を凝視(ぎょうし)して、こう言った。


「……見つけたぞ……」


 暗雲(あんうん)魔王(まおう)ラジルバフアの重く低い声が色合界(しきごうかい)(ひび)き始める。


「ゆけ、スモルパフア万兵団(ばんぺいだん)! 我が暗雲へ()()を引き込め!」


 声と同時に、その暗雲から魔物達が何百何千と飛び出してきた。それは(すべ)先程(さきほど)ロードが倒した大きな一つ目のスモルパフアと呼ばれる魔物達だった。その胴体(どうたい)が巨大な目を見開いた暗雲と繋がっていたが、間違いない。

 それら全てのスモルパフアがロードとムドウに向かって行く。まるで黒い雨でも降り始めたかのように見える。


「――なんだアレ! さっき倒したのがあんなに」


 ロードとムドウに、何千もいるスモルパフアの軍勢(ぐんぜい)が雨のように降り注ぐ。二人にとってはあまりにも現実(げんじつ)(ばな)れし過ぎていた光景(こうけい)だった。


「モアアアアアアアアアアアアアアア」


 ただ呆然(ぼうぜん)と二人はその光景を見ることしか出来なかった。巨大な目に足が(すく)んで動けないうえ、一体倒すのもやっとだったスモルパフアが、今度(こんど)は何千といるのだから絶望(ぜつぼう)するしかない。

 叫ぶことも(わす)れた二人に、数百体のスモルパフアが接近(せっきん)する。距離にして一○メートルもないくらいのところで、


 ――突如(とつじょ)、大きな嵐のような斬撃(ざんげき)が数百体のスモルパフアを消し飛ばした。


「――ん⁉︎――」


 驚愕(きょうがく)(あら)わにした暗雲の魔王ラジルバフアが目を見開いた。

 小さな二つの影の前に赤い装束(しょうぞく)の男が立っていた。


「何(すわ)ってやがるんだ、オマエら」


 ロードとムドウの前に現れたのはガリョウだった。


「立て……勇卵の城に戻れ……」


 ガリョウは背を向けたまま言うが、二人は立たなかった。それはガリョウの声が聞こえなかった訳でも、声に(さか)らっていた訳でもない。とてつもない巨大な一つ目と目が合って以来(いらい)恐怖(きょうふ)のあまり声を出すことも動くことも出来なくなっていたのだ。


「あんなもので怖気(おじけ)付いたのか」


 ガリョウが背後で腰を抜かしていた二人に(きび)しい目を向けた。

 そして一息(ひといき)吸うと、


「立て‼︎ ロード! ムドウ!」


 ガリョウの空気を(ふる)わすような大きな声が響き、それを受けたロードとムドウが反射的(はんしゃてき)に立ち上がった。ガリョウは見事(みごと)その声で魔王の威圧感(いあつかん)支配(しはい)されていた二人を自由にした。


「勇者とは!」

「「 どんな恐ろしい魔物を前にしても、道を切り開く勇ましき者! 」」


 二人がはっきりとガリョウの問いに答えた。


「それでいい! 城に戻れ!」


 前から(あら)たにやって来たスモルパフアの軍勢を、ガリョウは赤い剣を振って消し飛ばした。


「戻れ!」

「「 はい! 」」


 返事と共に二人は走り去って行った。


「魔王ラジルバフアか……」

「我を知って立ちはだかるか無謀(むぼう)なる者よ。数の力で(おお)い潰してやろう」


 ラジルバフアの暗雲に(つな)がれたスモルパフア達が天から地表(ちひょう)目掛けてガリョウに(おそ)いかかろうとするが、間に割って入った光の矢の(ぐん)がこれを阻止(そし)した。


「――あれは⁉︎」


 ラジルバフア達の目の前に白い集団が光の翼を広げ滞空(たいくう)していた。

 その集団はヴィンセントの聖法(せいほう)によって起動した、勇卵の城と子供達を常に日頃から見守っていた数千体の兵士、城族(じょうぞく)守兵団(しゅへいだん)だった。


「ここに居るのは英雄(えいゆう)共か……良かろう、我が名高(めいこう)への供物(くもつ)ごときの存在価値で()てるがいい」


 そうラジルバフアが戦線布告(せんせんふこく)すると、暗い雲の軍団と白い集団の戦いが始まった。暗い雲達が(なぐ)()みつき、白い集団が剣を振り矢を放つ、数万体のスモルパフアは数で、数千体の城族(じょうぞく)守兵団(しゅへいだん)は力で戦い、両軍拮抗(きっこう)した戦いを見せる。


竜麟烈風(りゅうりんれっぷう)大斬(だいざん)

「モアアアアアアアアアアアアアアア」


 ガリョウが赤い剣を振り、その斬撃(ざんげき)が近づいてくるスモルパフア達を消し飛ばす。





「――聖法――黄金(おうごん)卵殻(らんかく)――」


 遠く勇卵に城でヴィンセントが(とな)えると金色の湖の水が湖畔(こはん)から迫り上がる。そして、それは卵のような形になって勇卵の城全体(ぜんたい)(つつ)み込んでいく。





 ロードとムドウが荒い岩場を走っている。

 それをラジルバフアはその巨大な一つ目で視線(しせん)を合わせたまま見失うことはない。


陣形(じんけい)一本隊列(いっぽんたいれつ)


 ラジルバフアが指示すると、暗雲の中からスモルパフアがに(たば)になって並ぶ。そして先頭(せんとう)が目に映すのは、走り去って行く二つの小さな影。


「全体進め」

「モアアアアアアアアアアアアアアア」


 天を(おお)う暗雲から、何千体というスモルパフアの隊列がロードとムドウに向かって伸びる。


「「――⁉︎――」」


 二人は迫り来る暗雲の突撃に気付く。





「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」


 そのときガリョウがスモルパフア達の突撃を止める為、地面から思いっきり高く飛ぶ。空中で赤い剣を連続して振り、その斬撃が迫り来るスモルパフア達を先頭から消し飛ばす。


「モアアアアアアアアアアアアアアア」


 しかし後続のスモルパフア達の動きに揺らぎはなく突撃は続き、空中にいるガリョウはやがて落下して行くが、


「オオアアアアアア‼︎」


 落下の際、大きく息を吸い、あらん限りの力を声に変えて吐き出す。それはスモルパフアの隊列を吹き散らす程だった。

 ロードとムドウが走りながらその驚くべき光景を見ていた。


「す、すごいな、ガリョウ先生」


 流石のロードも驚愕せざる得ない。


「ああ、あの単眼(たんがん)の魔物を一気に何百体と倒して、声量だけで散らばらせるなんて……」


 今も落下しながらスモルパフアを斬撃で押し留めるガリョウを見てムドウが言う。


「それもだけど……あの大きな目に怖気(おじけ)付いてたとき、先生が、立て、って言っただけですごく安心した。頼もしかった」


 ロードの顔に笑みがこぼれる。


「私もだ、普段はあんなに厳しくて怖い人だったのに、あのときあの場面で駆けつけたあの姿はカッコ良かった。やっぱり私達の先生はすごい人だったんだなぁ」


 ムドウの顔に笑みがこぼれる。


(……でもオレはあんなに強くなれるのかな)


 ロードは嬉しい反面、現状ガリョウに任せることしか出来ない事実に無力感を感じた。





 先の(とが)った岩山の頂上にガリョウが君臨する。スモルパフア達はガリョウに(はば)まれそれ以上進めず、仕方なく空中で待機する。


 ――すると、ラジルバフアの暗雲から空気の(かたまり)がガリョウに向けて発射された。その勢いは、ガリョウの居る岩山を押し潰すぐらいの迫力がある。


「オオオオオォォォォォォォォォ‼︎」


 ガリョウが岩山から空気の塊に向かって飛ぶ、そして手にした赤い剣を振り、斬撃が空気の塊とぶつかり、砕かれて、岩山の地に降り注がれた。

 また別の岩山の頂上に降りたったガリョウはその声を耳にする。


「意表はつけないか」


 色合界(しきごうかい)に重くのしかかるラジルバフアの声が響く。


「ならば、我が自ら覆い潰してくれる」


 天を覆い尽くす暗雲が(うごめ)く。暗雲の中心部が膨張(ぼうちょう)し、そこから一気に滝が流れるように暗雲が落ち、色合界の地に暗雲の雪崩となって覆い(かぶ)さって行く。暗雲の滝が天と地を繋ぐ。

 そして暗雲は次第にその形を変えていく。山の何倍もある遥かに大きな人のような輪郭(りんかく)が浮かび上がる。その大きく膨らんだ両肩に位置する部分から暗雲が膨れ上がって、それは大きな両腕となって伸びて色合界の各地帯を鷲掴(わしづか)み出来る程大きな手のひらに形を整えた。頭部に位置する部分には(かんむり)のように並ぶ暗雲の角が飛び出し、威厳(いげん)を示す。先程の天からの滝とは打って変わって、今度は地に立った人の形をした暗雲の背中から、マントを逆立てたように暗雲が伸びて、天を覆い尽くす。そして、その顔を半分に裂くような横線が入り、このとき、線が上下に開かれる。その中からは顔全体を埋め尽くす程巨大な、青く血走った目が不吉を持ってに見開かれた。


制空権(せいくうけん)は我にあり」


 その全体像はまさしく暗雲の巨人。それこそが魔王ラジルバフアの真の姿だった。


「――ヴィンセントォォォォォ‼︎」


 岩山の頂上に立つガリョウは大きな声を出して叫ぶが、遥か彼方、勇卵の城にいる彼に聞こえる筈はない。





 それでもヴィンセントは山の何倍も大きな魔王ラジルバフアの出現を見ていたので、即座に攻撃準備(こうげきじゅんび)に取り掛かる。


「――勇ましき城よ、あの悪しき暗雲を払いたまえ――」


 勇卵(ゆうらん)の城を囲んでいた金色(こんじき)(から)が光り出し、その殻の光はヴィンセントの錫杖(しゃくじょう)が向けられた先で一点に集中し、ラジルバフアに向けて狙いを定め――盛大に発射‼︎――長大な光線が魔王を打ち滅ぼさんとばかりに色合界(しきごうかい)を突き進む。


 対してラジルバフアもその光線には直ぐに気付く。その対処方法は強引(ごういん)なもので、色合界のどこかの地帯をその大きな手のひらで地盤(じばん)ごと鷲掴(わしづか)み引き上げ、自分の前に盾となるように構えて、ヴィンセントが発射した光線を受け止めた。盾となった地盤は木っ()微塵(みじん)に破壊され、色合界の各地に降り注がれた。


小賢(こざか)しい」


 ラジルバフアの重い声が色合界にのしかかり、その大きな右手を振り上げ、近くにあった色合界の――宙を流れる川の立体的な芸術――を真横から、勇卵の城に向けて打ち払う。すると川の水は大きな飛沫(しぶき)となって、間で空中戦をしていたスモルパフア達や城族(じょうぞく)守兵団(しゅへいだん)、最後に勇卵の城を包み込む金色の殻に降りかかり、水浸(みずびた)しになった。

 (さら)にラジルバフアは大きな左手で近くにあった色合界の――稲妻(いなづま)固体(こたい)にして作られた(あお)い塔がある地――の塔を(たば)にして鷲掴(わしづか)み、勇卵の城に向けて投射する。すると、蒼い塔は稲妻(いなづま)を撒き散らしながら突き進み、その進行ルートに居た水浸しのスモルパフア達や城族(じょうぞく)守兵団(しゅへいだん)は、両軍とも何百体か感電(かんでん)し消し(ずみ)になって甚大(じんだい)被害(ひがい)(もたら)した。そして色合界の各地に槍となって進むいくつかの蒼い塔が突き立ちながらも、勇卵の城を包み込む水浸しになった金色の殻に激突する。

 しかし、激突した稲妻の塔は勇卵の城を守る金色の殻に感電するどころか傷一つ付けることは出来なかった。その稲妻の塔は逆に金色の殻の放った光の輝きによって消し去られた。


「…………ならば……」


 ラジルバフアが両手でそれぞれ色合界の地を(つか)む。その暗雲の手は掴んだ地をそのまま(にぎ)り潰し、手の内側に取り込ませた。

 そしてラジルバフアは両腕を勇卵の城に向けて構え、


入道砲(にゅうどうほう)


 暗雲の両腕が大砲の形になって、(くだ)かれた色合界(しきごうかい)の地が連射される。右手の大砲からは、緑の結晶の(かたまり)が、左手の大砲からは、(ねじ)られた大地の残骸(ざんがい)が、次々と暗雲を引いて発射されていく。

 ラジルバフアの砲撃は、スモルパフア達と城族(じょうぞく)守兵団(しゅへいだん)も巻き込みながら勇卵(ゆうらん)の城に、

 ――激突(げきとつ)‼︎ 

 だが、連続した砲撃の(あらし)を持ってしても、光り輝やく金色の殻が(やぶ)られることはなく、砲弾(ほうだん)となった色合界の地を否定(ひてい)するかのように消し去ってしまった。



(……無駄(むだ)だ、この金色の湖で出来た黄金(おうごん)卵殻(らんかく)は、決して色合界の地を通しはしない。そういう攻撃をいくら続けても光がそれを消し去る)


 砲撃の嵐にビクともしない金色の殻を見て、ヴィンセントがさも当然のことのように思う。



「……どうせ聖法(せいほう)だ、この手で覆い潰してくれる」


 砲撃を無駄と知ったラジルバフアが両腕に残った色合界(しきごうかい)の地を辺りにばら()いて捨てる。と、右腕を勇卵の城に向けて膨らませるように伸ばして行く。


 しかし、その暗雲の腕は伸びて行く途中(とちゅう)で一つの斬撃によって断たれ空中分解(くうちゅうぶんかい)した。腕を切り崩す程の豪快(ごうかい)な斬撃を放ったのは、やはりガリョウだった。熱風(ねっぷう)渦巻(うずま)く山の頂上でラジルバフアをそれ以上進ませない為に君臨(くんりん)する。


「――邪魔をするか‼︎」


 ラジルバフアは左の手のひらをガリョウに向けて、山ごと吹き飛ばす空気の(かたまり)を放つ。

 それに対してガリョウはあえて直撃しようとして山から飛んだ。そうして真っ向から挑むように赤い剣を豪快に振って、斬撃を生み、空気の塊を四方八方(しほうはっぽう)(はじ)き飛ばした。その隙にラジルバフアの左手が元の形を取り戻す。


「ハアァ‼︎ ハアァ‼︎ ハアァ‼︎ ハアァ‼︎」


 ラジルバフアは構わず、更なる空気の塊を左手から放つ。しかしガリョウの斬撃で弾かれる。ラジルバフアは構わず、更なる空気の塊を右手から放つ。しかしガリョウに弾かれる。色合界(しきごうかい)の各地に弾かれた空気の塊が降り注ぐ。


 ――ダン‼︎ とガリョウが地面を強く蹴って、空気の塊が放たれる中を突き進み、暗雲の手を赤い剣で貫いて穴を開け、ラジルバフアの顔のある上空まで飛んだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎」


 ガリョウが赤い剣を豪快(ごうかい)に振り下ろし、それによって生まれた斬撃がラジルバフアの巨大な身体を断絶(だんぜつ)した。


「……ふん」


 しかしラジルバフアの身体は暗雲だ。多少の欠損(けっそん)はあるもののそれで倒すことは叶わない。

 両断され辺りに散った暗雲が、落下して行くガリョウを逃すまいと包み、更に左手を、右手を、と暗雲を重ね掛けて、最後に両断された本体を無理矢理(むりやり)動かして暗雲の中にあるガリョウを全身で取り込んだ。

 ガリョウがラジルバフアの暗雲の身体の中に閉じ込められ、

 

暗覆入道(あんぷくにゅうどう)


 その暗雲の身体が鈍器(どんき)となって、全方向からガリョウに(おそ)いかかる。

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