友を助ける! 魔を討つ光の剣
色合界・ガークスボッデン・積台地帯。
今ロードの目の前には、大きな一つ目の魔物がいた。じっとロードを見たまま止まっている。
「オマエ……本物の魔物か……」
ロードがその魔物に対して聞いた。だが返事はない。
「ロードに近づくなぁ!」
ムドウが人間大の長い石を抱えて走って来る。見た目ほど重くはないがその先端は僅かに尖っている。突き刺させるほどではない。
「モアーー」
魔物がその声がする方に目を向けて、ムドウの抱える長い石の先を掴み取る。
そして勢いよく長い石を振って、ムドウを地面に叩きつけようとしたが、その途中、ムドウは長い石から身体を離して空中に投げ出された状態から背負っていた弓を持って矢をつがえて放った。
しかし、魔物には通じなかったようで、ムドウは空中からの着地と同時に魔物が振るった長い石に殴り飛ばされた。数十メートル先の高台に激突していく。
「ムドウ‼︎」
思わずロードが叫ぶ。しかし座り込んだまま立ち上がれなかった。
「モアァーーーー」
「⁉︎」
魔物がムドウの方に向かって歩いて行くのをロードが見て焦る。
「ムドウ! 逃げろ! 立って逃げろ!」
その声を聞いたムドウは倒れた身体を起こし、フラつきながらも魔物から離れる為に歩き始めた。
「うっ……くう……」
ムドウは痛む身体を抑え、引きずりながらも歩く。徐々にその足取りは速くなる。
それを歩いて追っていた魔物は、手に掴んでいた長い石を、逃亡者に向かって投げた。
「――うあっ⁉︎」
石は地面を抉りながら進み、ムドウと接触その身体を弾き飛ばした。ムドウが倒れ伏す。
魔物がムドウに着実に近づいて行く。
「待て! 魔物待て!」
ロードが魔物に追い付こうと無理に立ち上がろうとしたが、また地に両手と膝を付け倒れる。なかなかにダメージは深いらしい。だが、もう一度、気をしっかり持てば、歩けないほどではない。
「⁉︎」
しかし、ロードは倒れた瞬間に気が付いた。その手を見て、正確にはその手が握っている物を見て気が付いた。それは魔物との戦いで炭化した剣。
刀身の無くなった柄のみの剣だった。これでは戦えない。
(武器! 何か武器になりそうな物!)
ロードはそう考えて辺りに目を向けて探して見るが、折れた矢か掴めるほどの大きさの石くらい見当たらない、この積台地帯はそれほどに何もない。ムドウが拾ってきた長い石のような物はなかなか見つからない。
「――‼︎――」
そこでロードは、思い出す。握り締めたままの柄を思い出す。刀身の無いそれを見て、出来ることを思い出す。
(生命の力なら……アレを、あのときみたいに出せたなら……)
ロードは手に持った柄を見て決断する寸前だったが、判断を鈍らせた。
自分の手が赤く見えたのだ。
(いやダメだ!……ムドウに傷を負わせたんだ……アレは人を殺す力だ……オレはもう二度と……)
首を振ってロードは別の方法を考えようとした矢先、
「うああああああっ‼︎」
魔物に追いつかれ、その手に捕らえられたムドウが叫び声を上げていた。
「モアァーーーーーー」
魔物がムドウを握り締めている手に力を入れていく。
「ムドウ!」
ロードは結局武器も見つけられず、ムドウの元へ急行する。
「ゆう……しゃとは……」
魔物の手に顔以外の全身を握り締められながら、ムドウが声をなんとか振り絞って口に出す。
「どんなに恐ろしい魔物を前にしても……道を切り開く……勇ましき者!」
言い聞かせるように勇者の心得を口にし、最後の一文と同時にムドウは魔物に締め上げられながらも、持っていた剣を魔物の腕になんとか突き刺した。まさしく恐ろしい魔物を前に道を切り開かん者の姿だっただろう。
しかし、その魔物の腕からは確かにムドウの持つ剣が突き出しているが、手の力を緩めることはなかった。それどころか、やはり傷口から煙が噴き出し、刀身を炭化させた。
「うああああああああっ‼︎」
「モアアアアアアアアッ!」
魔物の手が更にきつく締まるムドウを潰すと言わんばかりの力を入れていく。
その魔物の手に石が当たる。次に身体に頭に当たる。
「こっちだ! 魔物こっちだ!」
ロードが痛む身体に耐えながらムドウは助ける為、魔物の注意を引こうとする。しかし魔物は大きな目も動かさずムドウを締め続ける。
(くっ! もう使うしかない! アレをもう一度!)
ロードは決断した。過去に何があろうとも使えるものは使うべきだ。
その両手で刀身の無い剣を前に突き出し、目の前の魔物を倒す為、それを今、
「――⁉︎――」
自分の両手が赤く見えた。
そして何故だか涙が溢れた。あの日の光景が、自分の勢いだけの行動から目を覚まさせる。
(バカ……ムドウが近くに居るんだ……巻き込まれるだろ……何を考えて……)
剣を持つ手が震え始めた。
「ああぐううううう!」
ムドウが魔物の締めつけに耐えながらも声を押し殺す。
(いや使うんだ‼︎)
再びロードは刀身の無い剣を魔物に向かって構えるが、気がつくと全身が震えて次の行動を起こせなくなっていた。
「くっ……なんで……」
使おうとしても使えない。ムドウが視界に入ったからだ。
「ああああっ!……ああ……ああ……………………………」
そこでムドウの声が止まってしまった。
「…………………………ムドウ……ムドウ!……ムドウ!」
返事がない。
「いやだ! 待って! 待ってくれ! ムドウ! 声を出してくれ!」
ロードは魔物に向かって走り出し、手にした柄で殴りかかる。
「やめろ魔物! やめろ! ムドウを離せ!」
しかし、ロードの動きに先程のキレはない。痛む身体と混乱した精神がロードの動きを制限している。そして、だから、簡単に魔物に薙ぎ払われた。ロードが数メートル飛ばされる。
「くぅぅぅぅぅぅ! なんで、卑怯だ! 待て、待ってくれ! ムドウを掴んだままなんて、使える訳ないだろぉぉぉ‼︎」
ロードは倒れている暇も我儘を言う暇もないことはわかっていた。しかし、それでも自分の中にあるものが邪魔をした。
それはロードが常に日頃から悩んでいたことだ。
何を間違っても人は殺したくない。
「やめろぉぉぉぉ‼︎ 魔物ぉぉぉぉ‼︎ 殺すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
だから魔物がムドウを人質同然のようにその手に持っている限り、ロードに成す術はない。もう出来る事はただ叫ぶこと以外に無くなっていた。
「誰かぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎――たす――」
――信じる――
「――⁉︎――」
声が聞こえた。誰かが自分に向けた声だとすぐにわかった。その声以外の雑音は聞こえなくなるくらい聞き入っていた。
「勇者になる……キミを……信じる」
それはいつも隣にいた友人の声だった。
「…………ロード……助けて…………」
血反吐流すその友人の口から声が出て、自分に助けを求めていた。
「…………………………ムドウ」
ロードが立ち上がる。
「モアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎」
ムドウにまだ息があったことを知った魔物は緩めていた手にもう一度力を入れてみる。
すると、ある一点から光が放出された。
ムドウを潰そうとした魔物の大きな目を引きつけられるくらい輝かしい光だ。
その光はロードが両手で掲げた柄から放出されていて、その身体の四倍程のとても長く大きい剣の形をしていた。
その光から感じ取れるものは強さ、鋭さ、温かさ、優しさだった。
その光の正体はロードの持つ生命力そのものだった。
「ムドウごめん」
かつて、その光の剣は友人を傷付けその身体を赤く染め上げた。それは魔王というまだ見たこともないものに向けて振るっていたからだ。
「今、助ける」
だが今度は違う。魔物を倒す為ではなく友人を助ける為にこの光の剣を振るのだから、当たる訳はない。
ロードが前に一気に飛び、ムドウを掴む魔物に向かって、一切の乱れもなく逸れることもなく、大きな光の剣が上から下に振り下ろされる。
「モア……?」
大きな一つ目の魔物が光の剣の一撃に両断された。
「モッ! モアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎」
叫ぶ魔物がその手に捕えていたムドウを離す。
すると、ロードは光の刀身が消えた柄をすぐさま捨て、ムドウの元へ走り両腕を広げ、落ちて来る友人を正確に優しく受け止めた。
「――ムドウ!――ムドウ!」
ロードが涙を流しながら友人の安否を確認する。
「あ……ああ、ロード……」
朦朧とした意識の中でムドウが返事をした。
「ごめんごめんごめん」
「何を……ここは私がお礼を言うところだろ?」
「違う、わかったんだあのときムドウにあんなことが起きたのは、オレがムドウを魔王の代わりにしたからだ、だから、全部オレのせいなんだ!」
「じゃあ……今のは?」
「ムドウが助けてって言ったから」
「それなら私が言うことはありがとうだ……キミはやっぱり勇者になれるよ」
「なんでもいい! ムドウが生きててくれるならそれでいい! ごめん傷付けてまたこんなに苦しめて……ごめん」
「やめてくれ……こっちまで泣けて……くる…………そうか……生きてればなんでもいいか……ロード……助けてくれてありがとう」
そのとき、両断された大きな一つ目の魔物から、大量の暗い煙が噴き出し天へと向かっていた。
「また、煙が?」
地面に友人をそっと置いてロードが言った。
「心配……ない……魔物は倒すと……ああやって霧散するらしい」
ムドウがゆっくりと身体を起こしながら言った。
「……そうだったな……ということはアレはやっぱり本物の魔物だったのか……訓練はどうする?」
「城に戻ろう……先生に魔物が出たって伝えないと……痛っ⁉︎」
「ムドウ肩を貸すよ……それと自力で動けるくらいに生命の力で回復させよう」
「ああ、ありがとう……やっぱりその力は凄いな……まだその力の正体は怖いか?」
ロードの肩に手を回し、身体を支えられたムドウが立ち上がる。
「さぁ……けど助けられた。今はそれだけわかれば怖くない…………」
「……そうか」
ゆっくりと二人が歩き出す。
「ところで、生命力送ってるけど来てる?」
「……いや、来てない、まだまだ練習が必要みたいだな……ハハハ」
二人が歩き去るのを、その大きな目の部分が両断されなかった魔物が見ていた。そして両断された身体からは今も暗い煙が出ている。
それはまるで不吉の前触れのように終わることなく噴き出し続けている。
「……オイデクダサイ……」
その大きな目の魔物が呟いた。
そして身体全体から暗い煙が今までの何十倍も、何百倍にも噴き出して、天に昇って行く。
「「――⁉︎――」」
ロードとムドウがたった今それに気がついた。その異様な光景は最早、霧散では説明できなかった。ただ分かるのは、その暗い煙が不吉であることだけだった。
その煙の発生源たる大きな目の魔物は完全に煙になる前にこう言った。
「……オイデクダサイ……魔王ラジルバフア様……」
不吉な暗い煙が天へと昇っていく。




