迫り来る暗い魔物⁉︎ モアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎
色合界・ガークスボッデンの各地では、十人の子供達がそれぞれ武器を持って魔物を倒す訓練をしている。
目霞地帯、そこは辺り一帯が目を掠ませるくらい濃い黄色の霧で覆われて、しかし、その地にいくつかある岩の柱を中心に霧が反発するように離されている。足場も荒れていて歩きにくそうな地である。
今そこではレールとファンタが訓練していた。
レールは岩の柱から少し離れて、黄色の霧に向けて両手で槍を回し、風を起こし、視界を広げる為に霧を吹き散らしている。
すぐ近くで霧の向こうから両側に刃が付いた武器を持ったファンタが飛び出して来て、レールの側まで走り足場の悪い地を平然と行く。続いて霧からスーエルさんも出て来る。
「ファンタ、あいつは見つかったか?」
レールが槍を回していた手を止めて聞いた。
「ダメだレール、途中で見つけて追いかけたけど、逃げられた」
「……三八体目だったが、いつまでもこだわってても仕方ない。……次行くぞ次……」
「わかった」
ファンタが了解すると二人は霧の中に突っ込んで走って行く。足場も視界も悪い中を走って行く。
切森地帯、そこは刃のような草と葉っぱの茂みだけで森を作ったような不思議かつ危険な地だった。
今そこではカイザルとヨルヤが訓練をしている。
二人の身体は刃のような草や葉に少しばかり傷をつけられていた。しかし服の方にその影響は見られない特別な物なのがわかる。
今は僅かな安全地帯で茂みの影から一体の魔物を見張っている。その魔物は崩れるような溶けるような胴体、大きく短い腕、長い首に仮面のような顔を被せた魔物だ。
「……四五体目はあれでいいだろ……カイザル……あれは仮面の顔を割れば終わるんだ」
「スキを見て背後から奇襲なんて暇はない……オレが引きつける、そのスキを突けヨルヤ」
言うとカイザルは走って魔物の前へ飛び出して行く。
「……あっ! 待っ!…………はぁ……この森でよくそんな作戦する気になるなぁ……まぁ……オレは楽だからいいけどさ……」
ヨルヤは魔物に隙が出来るのを、腰を低くくする姿勢で、サーベルを逆手に構えて待つ。
塗変地帯、そこは極彩色の橋のような柱とも見える不安定な物で幾重にも繋がれた巨大な迷路。なかに入ってしまえば、周りの色に惑わされ方向感覚を狂わせられる。しかしその中にいても勇卵の城からの灯し火がそれを迷わせることはない。
今そこではサシャープとダイグランが訓練をしている。
二人は、斜めに架けられていた大きな橋のような柱とも見える物の上に立っていた。そして直下、そこで蠢く魔物の様子を伺っていた。
その魔物は巨大な百足を丸く膨らませたような形をしていた。そして恐らく捕食型だったのだろう。周囲の魔物達を次々と丸呑みにしていた。
更に至る所で身体をぶつけ、迷路を形作る極彩色の橋のような柱を崩していく。
しかし、その程度のことを続けても、ここは決して全壊しないだろう。何故なら崩れゆくそれは、別の橋のような柱と接触すると、それに溶け込むような形で結合され、新たな地形へと変貌したからだ。残骸も破片も、見分けが付かなくなったのだ。
「もう少しだな……サシャープ」
長い柄に大きな鉄球が付いた武器を肩に担ぎながらダイグランが呟く。
「うん……ヤオレインは食べた魔物を自分の一部として繋げるから、倒せれば、食べた魔物も連鎖的に倒せる……もう百は食べてるから、それがまとめて討伐数に加算されるんじゃないかな……」
サシャープが大きな大剣を肩に担いで言う。
「アレを弱らせながら戦っていたせいで……まだ一三体で止まったままだからな……なんとしても――――ふん‼︎――――倒したい……最後が近いと暴れ始めるんだったな?」
ダイグランが話してる途中に襲い掛かって来た虫の魔物を、持っていた武器を勢いよく振って叩き潰した。
「ああ、だからそろそろ頃合いだ……準備はいいね、ダイグラン」
サシャープが冷静に魔物を分析して、知らせた。
「ああ……弱っていても油断はしない」
そうダイグランが言って、二人は共に立っていた場所から下へ飛び降りて行く。その魔物を倒すときが来た。
浮足地帯、そこは様々な大きさの岩盤が宙にいくつも浮いていて、空を歩く為の足場になっていた。
地上から数百メートルまで岩盤の群が浮いているが、それ以外の物は重力の影響を受けている。
今そこではミハニーツとクラッカが訓練をしている。
二人は岩盤の群を上や下へと、右や左へと、縦横無尽に飛び回って、その地にいる魔物達を次々と討伐して行く。
別々の場所にいたミハニーツとクラッカは同時に岩盤から飛び、羽の生えた魔物をその手に持った武器で斬る。そのあと二人は交差するような形になって、別々の岩盤に着地する。
「やった! 三六体目! ミハニーそっちは⁉︎」
ノコギリのような武器を持ったクラッカがはしゃぐような口調でミハニーツに向いて聞く。
「……今ので、四三体目……」
自分の身長の倍はあるだろう薙刀を持っていたミハニーツは、可憐に立ち振る舞いながら静かに言う。
「もう七九体目か! やっぱり手分けすると効率がいいな!」
後から追いついて来たスーエルさんの数字を見てクラッカが喜ぶ。
「単にここが狩場ってだけの気もするけど? クラッカ…………魔物の数も少なくなっているみたいだし」
辺りに目を流しながらミハニーツは言う。
「まだまだいるって」
「……ここの魔物弱いから少し退屈」
「……まぁわかるけど、あたしはここで戦うの好きなんだよ。だからちょっと付き合えって」
「……まぁいいけど」
「じゃあ、あたしあっち行くから」
言ってクラッカが別の岩盤へ飛んで行く。ミハニーツもクラッカとは逆方向の岩盤へ飛んで行く。
そして積台地帯では、ロードが崖の上から、ムドウが魔物と戦っているのを眺めている。
ロードの側にいるスーエルさんの羽の模様の数は七二だった。つまりムドウはあれから三体の魔物を一人でた倒していたのだった。
そして今もムドウは魔物と戦っていた。その魔物は暗い影のようだとロードの目には映っていて、少し押されているようにも見える。
そして、
(あの魔物と戦いだしてから長いなぁ……いつものムドウなら、とっくに倒してる時間だけど……やっぱりまだ疲れてるのかなぁ?)
ロードはそう思って、崖に座っていた状態から立ち上がる。
(手を貸した方がいいかなぁ……余計なお世話かなぁ)
身体を動かすべきか、友人を見守るべきか考えて、立往生していると、
「――ロード! 手を貸してくれ!」
崖の下で戦っていたムドウがかなり退がって来て、ロードを呼んだ。
「――⁉︎」
その声をロードが聞くと、何の躊躇いもなく、立っていた崖から飛び降りた。高さ一○メートル程の崖の下、軽く片足で着地する。
そしてロードはムドウの方に走って行く。
「気をつけろ! コイツ手強いぞ!」
ムドウがその魔物の拳を避けてロードに注意を促した。
「モアアアアァァァァァーーー」
その高い鳴き声を発した魔物をロードは見た。
それは四メートルの大きさに青と紫を混ぜた暗い紺色の魔物。
全体的に、袋に何か柔らかいものを詰め込んで硬くなったかのような質感の身体は、前のめり。
前に飛び出したように長い顔は大きな目が一つと裂けた口。
常に肘や膝を曲げて、四足歩行に近い状態で動いている。
その手の拳はハンマーを連想させ、身体に見合った長さの尻尾がある。
「モアアァァーー」
ムドウはその魔物から距離を取って、ロードの側に駆け寄る。
「……オレは右側から攻撃する。ムドウは左側からだ」
「わかった」
二人がその通りに魔物の左右に分かれた。
その大きな目をした魔物が、ムドウを視線だけで追っているのをロードが確認すると、魔物の手を剣で斬りつけた。
「モアアアァァァーー!」
斬りつけられた魔物は今度はロードを見る。
――すると、ムドウは自分に向けられていた視線がロードに変わったと知ると、今度はムドウが魔物の足を剣で斬りつける。
「モアアー⁉︎」
魔物がムドウに視線を移すが、またもロードがその左足を斬りつける。
「モアア⁉︎」
魔物がロードに視線を移すが、またもムドウがその右手を斬りつける。
それが連続して数回続く。
「モア、モアアア⁉︎ モアッ! モアアアア! モアアア⁉︎ モアァ! モアアアァァァァァ⁉︎」
魔物は翻弄されていた。
(よし、この調子だムドウ)
(うん)
ロードとムドウが目だけを合わせて会話した。
「モアアアアァァァァァ‼︎」
怒ったのか魔物は斬りつけられた後に、その肩から跳んで逃げたロードに、目を向け手を伸ばして追いかける。
(ムドウ今だ! コイツの首を斬れ!)
自分にだけ向かってきた魔物を見て、チャンスと踏んだロードはムドウに目だけで指示を出した。
それに答えようとムドウが魔物の首に狙いを定め跳ぶ――――――が、
魔物が突然ムドウに向き直り、今まさに攻撃を仕掛ける寸前で、その魔物の腕が、振り向きざまに狙い澄ましたかのようにムドウに当たり、そのまま殴り落とされた。それをロードは驚いていた。
「――がはっ!」
地面に叩き落とされたムドウは、声を吐いた。
「モア!」
魔物は完全にムドウに狙いをつけそのハンマーのような拳で追い討ちをかける。
しかしその魔物の頭を、ロードが飛び越えるついでに、思いっきり踏みつけ、
「モッ⁉︎」
魔物が地面に倒れ伏す。
「ムドウ! 大丈夫か……?」
「あ、ああ……」
ムドウのダメージは大したことはなかった。
「モア〜〜〜〜」
各所を斬りつけられた所為か、呻く魔物が伏せたまま起き上がって来ない。
「……ムドウ一旦アレから離れよう」
「すまない。仕留められなくて……」
「いいんだ。それよりオマエの身体の方が心配だ。歩けるか?」
「ああ、大したことはない」
ロードとムドウは一旦、魔物から離れることにして歩く。
「ロード、あの魔物知ってるか?」
「……いや……わからない。図鑑は沢山観てきたけど……その中にはいなかったと思う」
ロードは少し考えたが、結局答えは出なかった。
「最近の先生は、よく知らない魔物出すよな」
「うん、さっきは驚いた。オレを見ていたはずなのに、急にムドウに振り向いて、まるで来ることがわかってたみたいな」
二人はゆっくり話し合いながら歩く。背後の魔物は全く気にしない。魔討訓練の魔物は追撃はしないからだ。
「……学習してフェイントをかけてくる魔物か、どうりでやりにくかった訳だ」
「時間かかってたな……どうするムドウ作戦を立ててからもう一度……」
ロードが話している途中、それは来た。大きな足音を立てて追って来た。
「モアアアアアァァァァァーーーーーー⁉︎」
その大きな目で正確に、ロードとムドウを捉えて間違いなく向かい、その立ち位置にハンマーのような両手を打ち込んでくる。
「「――⁉︎――」」
二人は咄嗟に前に出て、後ろから殴りかかって来た魔物の拳を避けた。その魔物の一撃が少し地面に衝撃を走らせた。
「えっ?」
ロードが驚いた。
「追ってきた?」
ムドウが不審を口にした。
拳を避けられた魔物は構わず二人を追い、立て続けに殴りに行く。
「どういうことだ? 魔討訓練の魔物は、危険過ぎる世界だからいつでも逃げられるようにって安全を考えて、オレ達を追っては来ないはずじゃなかったのか?」
ロードが後ろへ下がりながら魔物の攻撃を避けて隣に居るムドウに聞く。
「先生が調整を変えたんじゃ……いや、間違えたのか?…………どっちか分からないけど、あれだけ斬ったのによく動くな」
ムドウが後ろへ下がりながら魔物の攻撃を避けて隣に居るロードと話す。
「わかった、オレが一気に片付けるよ」
そう言うとロードは、後ろへ大きく飛び下がり、同時に膝を曲げ足に力を溜めて、勢いよく地面を蹴って、向かって来る魔物へと一気に間合いを詰ようと飛び出した。
「モアーーーー!」
一方魔物はその飛び出しに、正確に拳を当てせようとロードの移動速度を考え、最適な位置を拳で狙う。
が、ロードはその一歩前に行く寸前、踵で進行を止め、まるで魔物の攻撃を読んでいたかのように、拳擦れ擦れの位置で回避、ついでに持っていた剣で魔物の腕を斬る。
しかし魔物はその腕を斬られながらも、前に向かってロードに突進する。
それをロードは上に飛んで躱し、魔物はロードの下を通り過ぎる。
そう見えたが、その魔物は尻尾を使って頭上を通るロードを叩きつけようと逃げ場のない空中を狙う。
なのでロードは剣を魔物の頭に突き刺し、それ以上の進行を止めて、ついでに足で思いっきり魔物を踏みつけて、地面に顔から倒れ伏せさせる。
僅か、三秒ほどの出来ごとだった。
頭を刺したロードが勝負を制したはずだった。あとは両手で力を加えるだけ、それだけで魔物の頭や顔を切り裂けるはずだった。
「――⁉︎――」
剣を突き刺したその魔物の傷口から、暗い煙が噴き出したのをロードが見た瞬間、その剣を抜いてその場から飛んで離れた。
「 ! 」
ロードの持っていた剣、その剣先が欠けていた。それは先程、魔物の頭部を突き刺した長さと丁度同じくらいだった。
ムドウもその現象を見て、訝しむ。
「モアーーー!」
魔物がその大きな目でロードを見据えたまま殴りかかって行く。
ロードは左からの拳を下がって、その後から――本命だったのだろう――右から大きく振るわれた拳を上に後転するように飛んで回避、魔物から離れた。
(いくらなんでもやり過ぎじゃないか? あの魔物……戦い方が今までの魔物と全然違う……それに剣が炭化したのか?……ロードの武器は一本だけ、あれがなくなったら戦えないぞ……)
ムドウは、魔物の攻撃を躱し続けるロードを見ながら思考を巡らす。
(それで追撃までしてくるのは、流石に厳しすぎやしないか?)
ムドウが冷静に、ヴィンセントが作り出したであろう、その魔物を放った意図を考える。
すると、魔物の全身から何やら暗い蒸気に似た何かが噴き出すのが見える。
(ん? 煙が傷口から出て……!)
ムドウは気付いて、そこから先は声に出す。
「ロード離れろ! 傷口から煙が来るぞ!」
ムドウがそう言った瞬間、
「モアーーーーーーーーー!」
その煙は一気に魔物の全身の傷口から放出される。
「――⁉︎――」
間近で戦っていたロードが遅れて知るが、放出された煙に包まれた。そしてロードの持っていた剣、その刀身が煙に触れると、剣は炭化するように崩れた。
その剣が崩れていく様に気を取られたロードは、それが隙になった。魔物が一気に間合いを詰めてきて、正面からロードを殴りにかかる。
それに気づいたロードが地面を軽く蹴って後ろへ飛ぼうとするが、間に合わない。
魔物のハンマーのような拳が、ロードに直撃した。
そのまま飛ばされ、数十メートル後ろの小さな高台に背中から激突する。
「ぐっ……!」
ロードはダメージを受け倒れそうになるも、すぐさま魔物の居た方を見る。
案の定、こちらに向かって魔物がハンマーのような両手を振り被りながら、突撃して来るのが見える。
ロードはその位置から動いて魔物の攻撃を避ける。魔物の両手の攻撃はロードの背後にあった高台に直撃し、その一部を砕いた。
対してロードは避けたまでは良かったのだが、
「――!――」
進行方向に高台があった為に、思いっきり頭を――ゴン!――とぶつけた。
「うっ!」
ロードは額の痛みで出血したのが分かった。しかし休む暇はない。すぐ背後で魔物がハンマーのような拳を振り被っていたからだ。
そのとき、ムドウが持ってきていた弓で矢を放ったが、その大きな目にはしっかりと見えていたのだろう、矢に視線を向けず避けた。
(視野も広い、まさかコイツ……!)
ムドウはそれでも矢を放ちながらロードの方に向かうが、
「――ロード!――避け――」
そして魔物のハンマーのような拳が、目の前に居たロードを背後の高台ごと殴りつけた。
「モアアアアアアアアァァァァァ!」
魔物は拳が直撃したことを感じで叫んでいた。
攻撃を受けたロードの方は流石にその場に座り込んだ。そして実感した。
(わかった……ぞ……コイツ……)
息も絶え絶えに、頭から血を流すロードが思う。
そして二人がその魔物を改めて見て、確信する。
((コイツは……本物の魔物だ……))
「モアアアアァァァァァ…………」
魔物が叫ぶ中、その大きな目で ロードを正確に認識した途端叫ぶのをやめた。
その目が間近でロードを見つめる。
その魔物は何度か目を動かして確認する。本当にそれなのか、よく顔を見て、考えるように、思い出すように、
「?」
ロードの方も息を整えながら、その魔物が何をしているのか考えて見るが、その大きな一つ目の魔物はすぐにこう言った。
「………………ミツケタ………………」




