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右手の約束

 昼食(ちゅうしょく)()ませた十人の子供達は、午後の授業(じゅぎょう)を受ける為、勇卵(ゆうらん)の城の中層(ちゅうそう)にある眺めの良い広場(ひろば)(あつ)まっていた。

 そして彼等(かれら)の前にはヴィンセントと、五○体くらいいるパイトさん達が、城の外に向ける形で本を開いた状態(じょうたい)で持って並んでいる。この本は全て魔物に(かん)する図鑑(ずかん)(たぐい)だ。


「――第五四条――子に対する教えの(すべ)――七三(こう)――先人達の既述(きじゅつ)よ、何も知らぬ無垢(むく)なる者の為に、ここに魔なる物の脅威(きょうい)を教えたまえ――」


 ヴィンセントが(とな)えているのは、聖法(せいほう)という魔法(まほう)(つい)として多くの世界で知られるもので、神様(かみさま)などへの信仰心(しんこうしん)に深く関わる形で力を発現するものだ。



「――聖法(せいほう)――仮想(かそう)魔物(まもの)――」



 ――突如パイトさん達の持っていた本が(ひかり)出す、ヴィンセントの聖法(せいほう)発動(はつどう)した。

 全ての光る本はページをバラバラと(めく)られて、そこから、数千、数万と影が次々と飛び出して、城よりも高く(はる)か上空に向かい、そして四方八方(しほうはっぽう)色合界(しきごうかい)・ガークスボッデンの各地(かくち)に飛び()った。その不安定(ふあんてい)な影は少しづつ何かが作り出されるように形を変えて、その姿が明確(めいかく)になっていく。

 その影は、図鑑(ずかん)(しる)された絵や情報(じょうほう)を聖法が形にして作り出した偽物(にせもの)の魔物であり、子供達の訓練(くんれん)の為に用意(ようい)調整(ちょうせい)された仮想敵(かそうてき)である。

 これから行われる――魔討訓練(まとうくんれん)――その準備(じゅんび)が今終わったのだ。

 そしてヴィンセントが口を開き、話を始める



「では(みな)さん! 魔討訓練(まとうくんれん)開始(かいし)します! 二人組になりましたね?」


 子供達は準備の間に二人組になって並んでいた。組み分けは、

 レールとファンタ、

 サシャープとダイグラン、

 クラッカとミハニーツ、

 カイザルとヨルヤ、

 そしてロードとムドウ。

 それをヴィンセントは見て確認(かくにん)した。


「これから四時間、皆さんには色合界(しきごうかい)各地で魔物を討伐(とうばつ)してもらいます。どれだけ多く討伐(とうばつ)出来か最後に成績発表(せいせきはっぴょう)するので他の組に負けないよう頑張(がんば)ってください。一番になった組は、武器の片付けを免除(めんじょ)しましょう」


 子供達は動きやすそうな服装(ふくそう)に軽い装備(そうび)胸当(むねあ)て、肩当(かたあ)て、肘当(ひじあ)て、腰当(こしあ)て、膝当(ひざあ)て、そのどれかを付けている程度(ていど)だった。

 ヴィンセントは着ていたローブの一枚を(めく)ると、そこから(ちょう)が五匹、(はね)を伸ばしたまま(すべ)るように飛んで、子供達のそれぞれの組の近くに行く。


「スーエル達が討伐(とうばつ)数を計測(けいそく)して行くから、確認(かくにん)はそれでしてくれ」


 スーエルというその(ちょう)は、ヴィンセントの召使(しょうし)として働く存在で、いわゆる召使(めしつか)いだが、パイトさんのように色々出来る訳ではなく、ただ羽模様(はねもよう)数字(すうじ)のように出来るだけで何かを数えるときしか仕事はない。しかしスイスイとか羽を動かさず()い、仕事の時間を喜んでるように見える。


「武器は好きなものを選んでいい。必要(ひつよう)なら(いく)つでも持って行って(かま)わない」


 子供達の後ろでは、並べられた立派(りっぱ)な武器達が広場の(ほとん)どを()めている。


(ただ)し、ロードは剣一本だけだ。キミはハンデを付けないと皆と(きそ)い合いにならないからね」


「……はい」


 ()()()のロードは仕方(しかた)がないとは言え、少しガッカリした。


()まないね……窮屈(きゅうくつ)かもしれないけど我慢(がまん)してくれ」


 ヴィンセントが言う内に、子供達は持って行く武器と数を決めていた。


「では、各自(かくじ)城の五つの橋をそれぞれ渡って始めてくれ」


 ヴィンセントが大きな卵型(たまごがた)の時計を見て言った。それは四時間後に、光を天に()ばし、また鳥の形となって()き声が(ひび)くものだった。


 ――はい――と子供達が全員で返事(へんじ)をして、それぞれが五本の橋に向かった。





 色合界(しきごうかい)・ガークスボッデンそこは様々(さまざま)な異世界の環境(かんきょう)違和感(いわかん)を持って並ぶ一つの世界。そこに生命体(せいめいたい)はいない。植物も時が止まったかのように景色に溶け込んでいて、雨が()らないのに()れることがない。植物の形をした背景(はいけい)なのかもしれない、謎の多い世界だ。

 今その世界の各地では数万体の魔物達が徘徊(はいかい)している。しかし、これは偽物(にせもの)だ。本物と見た目も動きも変わらないが、生命体ではない。

 だが、今まさに生命体である十人の子供達がその世界の環境(かんきょう)の中を歩き、しかも偽物とはいえ魔物と戦っている。無論(むろん)危険地帯(きけんちたい)を今わざわざ通る必要はないので場合(ばあい)によっては()けている。





 子供達が勇卵(ゆうらん)の城から出て二時間以上が()ぎた。





「オオオオオオオオォォォォォォォォ‼︎」


 ――剣が一閃(いっせん)‼︎ その断末魔(だんまつま)(さけ)びを上げた魔物を討伐(とうばつ)した。


「……はぁ……はぁ」


 軽く(いき)(みだ)していたのはムドウ。

 魔討訓練(まとうくんれん)が始まってから一切(いっさい)休憩(きゅうけい)を取っていなかったので、つい足を(すべ)らして尻餅(しりもち)を付いていた。その所為(せい)で魔物に攻撃の(すき)(ゆる)してしまったところ、ロードが(あいだ)に割って入って、現在(げんざい)(いた)る。


「大丈夫か?」


 両利きのロードは右手を差し伸べて、座り込んでいた()()()の友人のその剣を持っていない右手を取って、助けて起こした。


「ああ……心配(しんぱい)するな……足を(すべ)らしただけだ……」


 ムドウはその証明(しょうめい)として、余裕(よゆう)()みを()かべた。


「……少し休憩(きゅうけい)にしよう」


 ロードが提案(ていあん)し、ムドウはその心遣(こころづか)いに(うなず)いた。





 色合界(しきごうかい)・ガークスボッデン・積台地帯(せきだいちたい)

 そこはまるで高台(たかだい)都市(とし)。誰かが積木(つみき)をしたように、様々(さまざま)な大きさの高台があって組み立てれ、階段(かいだん)(はし)のようなものがあるお(かげ)で、自由に高台を行ったり来たりできるようになっている。

 ロードとムドウはとある高台の(がけ)部分に座って休憩(きゅうけい)していた。下まで二○メートルはあるだろうが、二人にとっては大したことのない高さだ。そこから見える高台のあちこちに魔物が何十体か確認(かくにん)できる。

 ちなみに高く(そび)え立つ勇卵(ゆうらん)の城の各塔の火は、この訓練時の為のもので城の位置(いち)随時(ずいじ)知らせている。


「……二時間で六九体討伐(とうばつ)かぁ……このままなら(ひゃく)まで行くかな……」


 ロードが召使(しょうし)・スーエルさんの羽模様(はねもよう)を見て言った。


「……すまない……競争(きょうそう)だっていうのに……」


 水を飲んでいたムドウが言った。


「いいよ……競争以前(いぜん)訓練(くんれん)なんだ……一緒(いっしょ)に少しずつ(たお)して行こう」


 ロードは紙で剣の汚れを()きながら、成績のことなど何も気にせず言った。


流石(さすが)、一人で四○以上も魔物を倒した実力者(じつりょくしゃ)……やはり私たちの中ではキミが一番()()に近いな……」


 ムドウは自分のことではないはずなのに、それを(ほこ)るように言った。


「……そうかなー」

「ん?」


 ロードが小さく(つぶや)いたことで、ムドウはその声の主に目を向けた。剣の手入れをしたままだったが、明らかに落ち込んでいて、その顔には(かげ)が見えた。


「ここにいる魔物達は、先生(せんせい)訓練用(くんれんよう)調整(ちょうせい)した偽物(にせもの)の魔物だ。動きや形は一緒(いっしょ)でも、きっとどこか本物とは違う……」


 剣を拭き続ける手はそのままにロードが言う。


「……もし……本物の魔物と実際(じっさい)遭遇(そうぐう)したとき、人と戦うことから()げ出すオレが、本当に魔物と戦えるかどうかわからない。そんなの……先生達の言う勇者から全然(ぜんぜん)遠いだろ?」


 ロードは剣の手入れを続けながら淡々(たんたん)と言う。


「………………ロード……まだ……気にして……いるのか?」


 ムドウは言うか、言わないか、(まよ)いながら言い切った。


「……………………さっき先生に言われたからでも、皆に言われだからでもないぞ……ずっと前から勇者に向いてないってオレも思って……」


 ロードは剣の手入れを終わらせると、ムドウの質問(しつもん)に答えた。



「違う…………()()()の話だ……」



 ムドウは見当違(けんとうちが)いのロードの解答(かいとう)(さえぎ)って、ロードの思い(わずら)うその核心(かくしん)()れた。

 自分の胸に左手を当てながら。


「…………………………」


 その核心(かくしん)()れられたロードは(だま)り込んだ。


「あれからだ……キミが人と戦えなくなったのは、あの事故(じこ)からだ……」



 ロードは自分の両手を見た。剣の手入れを終わらせた後、布で()いた為、汚れが見当たらない綺麗(きれい)な手だ。それが徐々(じょじょ)(ふる)え出すのを感じる。今でも鮮明(せんめい)に覚えているからだろう。あの日のことを。



 それは三年程前のこと。

 木製の武器と武器が打ち合う音が重なって連続して(ひび)く。

 修練場(しゅうれんじょう)にて、ガリョウの指示(しじ)のもと、その日、子供達は五組に分かれて模擬戦(もぎせん)をしていた。

 そしてロードの相手はムドウだった。

 両者、利き手で剣を持って、打ち込んだり、受け止めたりしていた。どの組みよりも(はげ)しく、時折(ときおり)無茶(むちゃ)な戦い方だった。

 そう、そのときは気にしていなかった。まだ皆の実力(じつりょく)にそれ程の差はなかった。ただし自分を(のぞ)いて。

 自分の実力だけは、まだその友人達には遠く(およ)ばなかった。


 だから、自分の攻撃が目の前の友人に当たることはなかった。ただの一度も当たることはなかった。全て受け止め流されていたのだから。

 だから、攻撃がまったく当たらないことに(あせ)った。戦いにおいての自分のあまりの弱さになげいた。自分だけが皆と同じ勇者になれないことが(おそ)ろしかった。だから。

 だから、信じていた。この友人には追いつかない。ならば、今ある自分の全力を受け止めて(もら)おう。だから。

 だから、もしこれが、本物の戦いだったのなら、目の前にいるのが人の形をした魔王だったのなら、倒さなくてはいけない。だから。

 だから、信じて剣を振った。全ての、自分の、生命の限界を(しぼ)り出すくらいの、本気の一撃。だから。


 だから、剣が光ったのだろう。

 だから、大きな刃になったのだろう。

 だから、友人が咄嗟(とっさ)回避(かいひ)しても間に合わなかったのだろう。

 だから、当たってしまったのだろう。


 だから。




 友人の身体(からだ)から赤い生命が()き出した。


 辺り一面の木製(もくせい)の武器が、床が、持っていた剣が、赤い景色に()まった。


 そして感じた、持っていた剣が切り裂いた、今まで感じたことのない感触(かんしょく)が手に()みついたことを。


 そして感じた、辺りの木製の打ち合う(ひび)きが消えて、一人の大人の足音だけが響いた場を。


 そして感じた、()()に両手が(あたた)められていたことを。





 両手が()()()()で真っ赤に染まっていた。





 意識を戻す。

 赤く見えた両手をロードは力強く(にぎ)()め、手の(ふる)えを(おさ)えつけた。


「ロード……気にしなくていい……キミに()がないのは、私はちゃんとわかってる」


 ロードのその姿を見て、ムドウは(おだ)やかに言った。


「何も知らなかったんだ……先生も仕方がないって言ってただろう?」


 被害者(ひがいしゃ)であるはずのムドウは、加害者(かがいしゃ)であるはずのロードを(はげ)ます。


「それにもう三年も前の話だ……キミも昔と違ってあの力、生命の力と、少しずつ向き合っているだろう?」


 ムドウの今までのロードの頑張(がんば)りを認めていた。そのことに(かん)して責めるつもりもなかった。


「………………」


 ロードは何かを口に出そうとした。


「だから……もう苦しむことなんかない……何より……」


 ムドウの話の途中(とちゅう)にそれは聞こえた。


「……でも」


 ロードがポツリと(つぶや)く。


「?」


 小さな声だったがムドウは()(のが)さない。


「……ムドウは痛かっただろ?」


 その言葉(ことば)(はっ)したのはロード自身(じしん)だったが、その表情(ひょうじょう)はとても(いた)そうだった。


「‼︎」


 ムドウはその言葉と表情(ひょうじょう)に心を()さぶらされた。


「オレが本気を出した所為(せい)で、ムドウは血だらけになって……あのときは何が起きたのか……全然分からなったけど……やったのはオレだ……オレの力なんだ」


 ロードの声が(ふる)え始めた。


「……もう少しで……もう少しで……」


 震える声と共に|目に(なみだ)が浮かんでいく。


「……ムドウを…………()()ところだった」


 言葉と共に涙腺(るいせん)崩壊(ほうかい)させた。それはロードが世界で一番、言いたくない言葉だった。


「……………………」


 その痛そうに話すロードの声を、ムドウは受け取っていく。


「もし……もう一度……誰かと……稽古(けいこ)をすることに……なったら……今度は……本当に……誰かが……」


 (むせ)び泣きながらもロードは頑張(がんば)ってムドウに言葉を(つた)えようとする。


「怖い……んだ……それが……ずっと……ずっと……だから……(みんな)に……剣は……向けたくない……」


 涙が(あふ)れて止まらないが、今は言葉を伝える。


「……そんなこと……するくらいなら……勇者(ゆうしゃ)になんて……なれなくてもいい……」


 (ひざ)の上にあった両の手に力が加わっていく。何故、ただ言葉(ことば)を発するだけなのに(なみだ)が出るのだろう。


「……でも……でもさ……」


 言いたくない言葉だった。それを言ってしまえば本当にそうなってしまうのではないかと、もう(すで)にそうなのではないのかと、ロード自身が思ったからだ。それでも。


「人を殺す……魔物にだけはなりたくない‼︎」


 失敗に挫折(ざせつ)しそうになる自分に言い聞かせるように、あるいは何か自分を左右(さゆう)する運命的(うんめいてき)なものに向けて、ロードは言った。


「………………私は勘違(かんちが)いしていたよ……」


 ムドウのロードの(なや)みを理解した。


「キミは逃げていた訳ではなく、誰かが傷付くのが(いや)だったんだね」


 ムドウは(となり)にいた友人の(かた)に手を回した。


「……それがロードの心の傷か」


 ムドウは優しく、その友人の身体(からだ)を寄せて(ささ)える。


「‼︎」


 ロードは自分が今、何故(なぜ)泣いているのか気付かされた。


「キミも私と同じように深い傷を負ったのか」


 ムドウは左手で自分の上半身(じょうはんしん)()で回し、あのときの傷を探す。


(たし)かに……あのときは痛かったよ……(すご)(すご)く痛かった」


 ムドウは自分に与えられた傷の痛みを思い出す。


「でもさ……」


 左手を身体から(はな)す。やはり探す意味はない。何故なら、


「その後……キミはすぐに、私の傷を(いや)しくれたじゃないか」


 ロードの顔のすぐ近くで、ムドウは笑顔(えがお)を向けた。





 ムドウは今でも(おぼ)えている。

 (うす)れゆく意識(いしき)の中、(となり)で大きな声を()けて何処かに行こうとする自分を呼び止める人と、すぐさま駆けつけて必死に自分の左手に(すが)りつくように、何を懇願(こんがん)するように、願っていた少年の(あたた)かい手を。

 ムドウはそういうことがあって、ここに命があるのだと、覚えている。





「それはキミの生命の力だった。だからキミは――」


 ムドウの顔を間近(まぢか)で見るロードは、まだ(なみだ)を流し続けている。


「絶対に私を救ったんだ」


 二人が座る(がけ)の上を優しく風が()き抜ける。


「そのとき私は確信(かくしん)したキミがいずれ……その力で何人も……いや、無限にいる人々を救う勇者になることを」


 目を閉じてムドウはその姿(すがた)想像(そうぞう)する。


「だから私の、あの、もうなくなった身体(からだ)の傷には意味があるんだ」


 ロードが顔を()せる。まだ泣いている。


「そして次は私が、キミの心の傷を(いや)す番だ」


 その言葉を聞いてロードは友人に身体(からだ)(あず)けた。その顔からは涙が止まっていた。


「ムドウ……オレは勇者になれるか?……オマエを傷付けたオレでもなれるか?」


 ロードは(やさ)しい友人が何を言うか知りたかった。


「……そうキミが望めば必ず……」


 その言葉は優しく。まるでムドウの方が何かを決意(けつい)してるかのような強さがあった。


「…………」


 ロードの顔が少しだけ(ほころ)()みを作った。





「そうだ……(ちか)いをたてよう」

「ちかい?」


「昔、絵本で読んだんだ……そういう約束(やくそく)のたてかたが……世界のどこかであるらしい……やってみないか?」

「……よくわからない」


簡単(かんたん)さ。(おし)えるよ」


 ムドウが立ち上がって、ロードも立ち上がった。





 風の(とお)しのいい、その高台(たかだい)でロードとムドウは向かい合って立っていた。

 お(たが)()()に剣を持ち、(むね)の前で突き立ている。左手はその(さや)を持っている。


 二人が手に持った剣を上へ、丁度(ちょうど)切っ先と切っ先を()れ合わせるようにして(かか)げて見せる。二人はその触れ合っている切っ先に目を向けている。


(つるぎ)約束(やくそく)を今ここに――――(われ)ら、剣先(けんさき)()(むす)ばれた者へと宣言(せんげん)する」


 ムドウが高らかに宣言する。


(われ)、ムドウ、右手の剣と共に、その先に()る剣の使(つか)い手に(ちか)う」


 (かか)げた剣を見つめながらムドウが真剣(しんけん)に宣言する。


「――貴公(きこう)は必ず、輝かしい伝説の王道を歩んだ勇しき者になることを――」


 ムドウが目の前にいる友人がそうなる人であることを他でもないロード自身に宣言した。そこには、自分もそれに協力(きょうりょく)するという決意(けつい)()められていた。


「…………………………⁉︎」


 じぃ――――――――――とムドウが見ていることに気がついたロードは、自分の番になったことを知る。


「わ、(われ)……ロード……右手の剣と共に、その先に()る……剣の使い手に(ちか)う……」


 (ちか)いの作法(さほう)(おぼ)えたばかりのロードは歯切(はぎ)れ悪く言う。


「――我は必ず、輝かしい伝説の王道を歩んだ勇しき者になることを――」


 それでもロードは最後まで言い切った。



 キンッ‼︎



 宣誓(せんせい)を終えた二人は触れ合っていた剣先(けんさき)()らした。


 そしてお(たが)い、左手の(さや)を、自分の前で水平すいへい(かま)えて、相手(あいて)に剣先を向けず右手の剣を(おさ)める。

 一連(いちれん)の動きには乱れもなく、流れるような(ひん)のある納め方だった。


「……どうだった?……」

「スゴイことが……起きそうな気がする」


 ロードが(つるぎ)約束(やくそく)感動(かんどう)していた。


「ハハハハハ……起きるさ……だって、伝説になるんだからさ」


 ムドウは満足(まんぞく)そうに笑っていた。





「さてそれじゃ……魔討訓練(まとうくんれん)再開(さいかい)しようか」


 ムドウが高台の(がけ)の方へ歩いて行く。


休憩(きゅうけい)はいいのか?」


 ロードも崖の方に歩いて行き、ムドウの(となり)に立つ。眼下(がんか)は二○メートルほどあるだろう。


「ああ、充分(じゅうぶん)さ…………ロードはここで見ててくれ。私もキミくらい(つよ)くなりたい。(あと)でアドバイスを聞かせて欲しい」


 ムドウは崖から()を向けて、ロードに目だけを向けて言った。

 何かの拍子(ひょうし)で一歩足を()間違(まちが)えれば、下へ真っ逆さまに落ちていく崖があるのにも関わらず。


「わかった見てる」


 対してロードはそれだけ言った。


(たの)んだ」


 そしてムドウは目を閉じ、そのまま後ろへ、まるでベッドに(たお)れるかのように、落ちていく。その顔には()みがある。


 落ちていくムドウの身体は、真っ直ぐに(ひざ)()げない姿勢(しせい)で、数度(すうど)回転(かいてん)した後、(がけ)()綺麗(きれい)両足(りょうあし)(そろ)えて着地(ちゃくち)した。

 そして(さや)から左手で剣を()()け出す。とても素早(すばや)い動きだ。


 ムドウの目の前に獣を人の形にした()むくじゃらの魔物がいた。まずそれを倒す為に走って向かう。





 ロードは魔物と戦い始めた友人を崖の上から見守る。


「……オレも、もっと強くならないと……」


 自分の右手を見る。その手は赤くはない綺麗(きれい)な手だ。その手を強くに(にぎ)()め、ロードはまだ遠い自分の道に思いを()せる。





 色合界(しきごうかい)・ガークスボッデン・積台地帯(せきだいちたい)では、不吉を(もたら)す暗い影が歩いている。

それは、その火が(とも)っている城に向かっていた。

 暗い影は確実(かくじつ)勇卵(ゆうらん)の城を目指(めざ)していた。

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