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模擬戦

 勇卵(ゆうらん)の城の中層(ちゅうそう)位置(いち)する(とう)の一つには修練場(しゅうれんじょう)がある。

 長い(はし)(わた)ってのみ到達(とうたつ)でき、その入り口の左右(さゆう)には松明(たいまつ)が置かれている。内部(ないぶ)は、直径(ちょっけい)一○○メートル程の円状(えんじょう)の空間に、外見(がいけん)と違って一階だけしか無い塔は天井(てんじょう)がとても高い。周囲(しゅうい)の壁には松明(たいまつ)(なら)べられ、長い(りゅう)彫像(ちょうぞう)がいくつも()うように(かざ)る。(すみ)には、大人用の大きな椅子(いす)と子供用の椅子が置かれていた。



 そこは、城で暮らす十人の子供達を(きた)える為の授業(じゅぎょう)で使う――ガリョウの修練場(しゅうれんじょう)――という場所だった。



 今その場所の(ゆか)には、木製(もくせい)武器(ぶき)何百(なんびゃく)と辺りに()らばっていた。


 (かたな)(けん)(やり)(ゆみ)()(おの)(かま)鎖鎌(くさりがま)(なた)短剣(たんけん)棍棒(こんぼう)、長い(ぼう)多節棍(たせつこん)鉤爪(かぎづめ)手裏剣(しゅりけん)(たて)(むち)扇子(せんす)、ハルバード、モーニングスター、トマホーク、ハンマー、トンファー、その全てが木製(もくせい)で辺りに()らばっていた。



 木で作られた武器(ぶき)と武器の()ち合う音がいくつも(かさ)なって、連続(れんぞく)して聞こえる。



 今そこでは、ヴィンセントの授業(じゅぎょう)を終えた十人の子供達が、ガリョウの指示(しじ)(もと)、二人組にされ、辺りに散らばった武器を手に持ち、各々(おのおの)打ち込み合う――模擬戦(もぎせん)――をしている。


 組み合わせは、

 オレンジ髪のカイザルと背の高いダイグラン。

 黒髪に黄色いリボンのミハニーツと(むらさき)(しろ)(かぶ)せた髪のレール。

 夜中のように深い青髪(あおがみ)のヨルヤと桃色(ももいろ)の髪のクラッカ。

 黄緑(きみどり)の髪のサシャープと茶髪(ちゃぱつ)のファンタ。

 そして、銀髪(ぎんぱつ)のムドウと金髪(きんぱつ)のロードだ。



 木製(もくせい)武器(ぶき)同士(どうし)の打ち合う音が、修練場(しゅうれんじょう)全体に(ひび)き続ける。



 二人組になる彼等(かれら)は、(はげ)しく対戦(たいせん)しながらも、足元(あしもと)に散らばる何百という武器の中で(うご)きを(みだ)さず、他の組の邪魔(じゃま)になることなく、目の前の相手との戦いに集中(しゅうちゅう)している。


 そんな彼等、五組の戦いの中央(ちゅうおう)を歩く大柄(おおがら)な男がいた。(かす)れた色の赤髪に(きた)()かれた肉体、その全身には古傷(ふるきず)がある。服装(ふくそう)は朝とは違い、肩から先の(そで)のない角張(かくば)った装束(しょうぞく)を身に(まと)っていた。その背中には赤い剣がある。

 授業を受け持つときの、これがガリョウの正装(せいそう)だった。

 ちなみに彼が(そで)のない服を着るのは、(うで)の古傷や無くなってしまった右腕を子供達に(つね)意識(いしき)させておくことで、――油断(ゆだん)すればオマエ達もこうなる!――という無言(むごん)の教えだ。



 ()(ごえ)や木の打ち合う音の中、ガリョウは歩きながら子供達に教えを()く。



「いいか! (てき)魔物(まもの)だけじゃねー、ときには人間ともぶつかることもある! それは何故(なぜ)だ⁉︎ ヨルヤ!」


 修練場(しゅうれんじょう)全体(ぜんたい)に、ガリョウの力強(ちからづよ)(ひく)い声が(ひび)(わた)る。


「ま、魔物よりもタチの悪い人間(にんげん)が……たまにいるから……です!」


 ヨルヤは長い梯子(はしご)を二つ、左右(さゆう)の手に持って、身体(からだ)をぐるぐると回し続けながら、クラッカに攻撃(こうげき)を当てようとしつつ、ガリョウの質問に答える。


「そうだ!」


 ガリョウは大きな声で言うが、正解(せいかい)を出したヨルヤには喜ぶ余裕(よゆう)はない。


「ゲスな人間は多くの世界にいくらでもいる! オマエらはそういう(やつ)らに負けることは、絶対(ぜったい)(ゆる)されねー! それは何故だ⁉︎ カイザル!」


 ガリョウは言いながら、どこからか飛んで来た()(ぐん)を見ずに、大きく一歩、足を運んで()ける。


「ハイ! 勇者の敵は魔物だからです!」


 カイザルは自分の身長(しんちょう)くらいもある大剣(たいけん)を両手に持って、同じく大剣(たいけん)を持っていたダイグランに()()うから(いど)み、()ち合いながらガリョウの質問に答える。


「そうだ!」


 ガリョウは大きな声で言うが、正解を出したカイザルに(よろこ)(ひま)はない。


人間(にんげん)と戦う場合(ばあい)(やつ)らは様々な武器(ぶき)()りかざしてくる! ときに、(さく)(めぐ)らせ、オマエ達の所持(しょじ)している武器を取りあげることもあるだろう!」


 ガリョウの話に耳を(かたむ)けながら、ファンタが長い鉤爪(かぎづめ)を両手に持って、サシャープに打ち込んでいる。


「そんなとき! 剣がないから人間に負けましたじゃぁ、話にならねー!」


 ガリョウの話に耳を(かたむ)けながら、サシャープは大きな(かま)縦横(たてよこ)自在(じざい)に振り回し、ファンタの鉤爪(かぎづめ)と打ち合っている。


「だからこそ、使いこなせ! 足元(あしもと)にあるものを! あらゆる武器(ぶき)を! 武器に振り回されるな、自分の手で武器を振り回せ!」


 ガリョウの話に耳を(かたむ)けながら、クラッカは走り回って足元にある武器(ぶき)を、次々(つぎつぎ)とヨルヤに投げて行く。


十分(じゅうぶん)武器(ぶき)性能(せいのう)を、長所(ちょうしょ)短所(たんしょ)理解(りかい)しろ! そうすれば、状況(じょうきょう)(おう)じて、相手(あいて)得物(えもの)(たい)し、有利(ゆうり)()(まわ)ることが出来る!」


 ガリョウの話に耳を(かたむ)けながら、ヨルヤは長い梯子(はしご)を棒高跳びの要領(ようりょう)(ゆか)に突き立て、クラッカの武器の投射(とうしゃ)()ける。


「戦いに()いて、スタミナの維持(いじ)に気を(くば)れ! そのために、より早く相手(あいて)無力化(むりょくか)するためのスピードを()て! 相手もそれを持っていたら、テクニックで上回(うわまわ)れ! それでも()てないのなら、フェイントで翻弄(ほんろう)しろ!」


 ガリョウの話に耳を傾けながら、レールはいくつか()いてあった木の玉を、ミハニーツに向けて()り、その手に長い(やり)(つか)んで走る。


相手(あいて)の動きから一瞬(いっしゅん)たりとも目を(はな)すな! 攻撃(こうげき)仕掛(しかけ)てくるときの視線(しせん)仕草(しぐさ)足捌(あしさば)きを注意(ちゅうい)(ぶか)く見ろ! そして、即座(そくざ)見切(みき)看破(かんぱ)する目を持て!」


 ガリョウの話に耳を傾けながら、ミハニーツは左右(さゆう)の両手に持っていた扇子(せんす)で向かって来た木の玉を(はじ)く。その弾いた体勢(たいせい)から扇子を飛ばし、走って来るレールを少しばかり足の速度(そくど)を落とすための障害物(しょうがいぶつ)とする。その(すき)にミハニーツは自分は足元(あしもと)にあった薙刀(なぎなた)を持ってレールに(いど)みに行く。

 薙刀(なぎなた)(やり)(はげ)しい()き合いが始まる。


本物(ほんもの)真剣(しんけん)勝負(しょうぶ)()ったもルールもない! ()して油断(ゆだん)するな! 相手(あいて)がどれだけ卑怯(ひきょう)姑息(こそく)な手を使ってこようが、一つの失敗(しっぱい)が自分の()(つな)がると心得(こころえ)ろ!」


 ガリョウの話に耳を傾けながら、カイザルはダイグランと大剣同士で打ち合うが、そのパワーに押され始めたことで、それを打ち切って、ダイグランの大剣の猛攻(もうこう)(かわ)しながら、近くにあった(くさり)を取り、ダイグランの大剣に巻き付けるように投げると、そのまま引き合う勝負をする。


()たれても(ひる)むな! そんな(ひま)があるのなら、声を上げて攻撃(こうげき)を続けろ! 相手を気迫(きはく)()し切れ! 気合(きあい)で負ければ、どんな強い武器を持っていたとしても、決して勝利(しょうり)はないと知れ!」


 ガリョウの話に耳を傾けながら、ダイグランは引き合っている鎖に巻かれた大剣を、大きな雄叫(おたけ)びを上げることで、カイザルごと引き込むことに成功するが、カイザルがその勢いのまま殴り掛かって来るのを知ると、自分もそれに対抗(たいこう)して、(こぶし)を飛んで来るカイザルに合わせて振る。

 二人の拳はすれ違って、それぞれ顔に直撃(ちょくげき)し、クロスカウンターとなる。それでも二人は倒れなかった。


 ガリョウの話が終わると、それを一切(いっさい)聞き()らさなかった子供達は、目の前の相手と戦いながら――はい‼︎――と、大きくしっかりと返事をした。



 五組に分かれて戦っていた子供達の中を、ガリョウはひたすら歩き、その内の一組へと近づいて行く。


 その先にロードとムドウがいた。


 ロードは両手で剣を持って、左手で剣を振り回すムドウの攻撃(こうげき)()け止め、あるいは受け流す。

 一見、しっかりと戦っているように見えるが、他の組と違ってその戦いには(はげ)しさがない。それもロードが受けるだけの防戦一方(ぼうせんいっぽう)な戦いだった。彼等(かれら)実力(じつりょく)に大きな差があったわけではない。二人が結託(けったく)して、休み休み戦っているわけでもない。ただロードに(わず)か悪い(あせ)が見える。

 やがて二人は鍔迫(つばぜ)り合いのような形になって、その状態(じょうたい)のまま数秒()ぎる。


「オイ! ロード! ムドウ! いつまで(にら)み合っている! 本気でかかれ!」


 近づいて来たガリョウが、鍔迫(つばぜ)り合いの状態のまま止まっている二人を(しか)る。


「「――‼︎――」」


 ロードとムドウはその声を聞き(あせ)る。


「ロード来い! 今は模擬戦(もぎせん)時間(じかん)だ! ()()時間(じかん)じゃない! 打ち込んで来るんだ!」

「…………………………」


 鍔迫(つばぜ)り合いのままムドウが要求(ようきゅう)するが、ロードは(だま)ったまま目線(めせん)を下にする。


「ムドウ! 相手がオマエから目を離したぞ! 容赦(ようしゃ)するな!」


 ガリョウがムドウの背後(はいご)まで歩いて来ると次の行動(こうどう)指示(しじ)した。


 やむなくムドウは鍔迫(つばぜ)り合いのまま、ロードを突き飛ばすように()し込んで体勢(たいせい)(くず)させ、


「――ハァア!」


 ムドウが右脇腹(みぎわきばら)に剣を回し、ロードに向かって素早く振る。


「――ッ⁉︎」


 振るわれた剣が左脇腹(ひだりわきばら)直撃(ちょくげき)したロードは、五メートル|程(よこ)()っ飛び、(ゆか)(たお)()す。


「ムドウ! 相手が(たお)れたぞ! ()い打ちをかけろ!」

「……はい! ガリョウ先生!」


 ガリョウの指示(しじ)(したが)うか、一瞬(いっしゅん)ムドウは(まよ)ったが、ロードに追い打ちをかけるため走り、その()せていた身体(からだ)と床の隙間(すきま)に剣を差し込み、下から(すく)うように()り上げる。


「――うっ!……うあっ!」


 振り上げられた剣によって、ロードの身体が(ちゅう)を飛んで、落下。床に激突(げきとつ)する衝撃(しょうげき)で声と息が()き出された。


「立て! ロード!」


 ガリョウがロードに近づきながら指示(しじ)する。それを見たムドウは(かま)えを()いて、ただその場でガリョウが離れるまで待機(たいき)する。

 ロードは倒れた状態(じょうたい)から、片膝(かたひざ)を着いた姿勢(しせい)になって立ち上がる。一瞬だけフラついたが大したことはない。


「ロード! 勇者とは⁉︎」


 立ち上がったロードにガリョウは竜のように低く大きな声を(ひび)かせ()いかける。


「……どんなに(おそ)ろしい魔物(まもの)を前にしても、(みち)()(ひら)(いさ)ましき(もの)……」


 武器(ぶき)を両手に(かま)え直したロードが、(いき)(ととの)えながら(つぶや)く。


「勇者とは……⁉︎」


 まるで、目の前にいるロードの声が聞こえなかったように、ガリョウがもう一度(いちど)()いかける。



「……どんなにおそろ――」


 ロードは先程(さきほど)よりも声量(せいりょう)を上げて解答(かいとう)をしようとするが、



「――発声(はっせい)しろぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」



 ガリョウの竜の咆哮(ほうこう)のような声が修練場(しゅうれんじょう)全体の空気(くうき)(ふる)わし、ロードの声を吹き飛ばした。

 激しく戦っていた他の子供達の動きまでも中断(ちゅうだん)させる程の叱咤(しった)だ。

 皆がロードとガリョウに注目(ちゅうもく)して、その場に静寂(せいじゃく)(おとず)れる。

 ロードが深呼吸(しんこきゅう)して、


「どんなに恐ろしい魔物を前にしても、道を切り開く勇ましき者‼︎」


 力の(ゆる)す限り、大きな声でロードは解答(かいとう)した。


「なら、オマエはなんだ⁉︎」


 ロードの声の(ひび)きを受け、さらにガリョウが大きな低い声で問う。


「勇者のたま――」


 ロードが答える最中(さいちゅう)



「――発声(はっせい)しろぉぉぉぉぉ‼︎」



 ガリョウがロードの小さな声を(さえぎ)るように、竜の咆哮(ほうこう)のような声が空気が(ふる)わせた。


「勇者の(たまご)です‼︎」


 深呼吸してから、ロードは勢い任せな大きな声で言った。


「その勇者の卵がいつになったら剣を振る⁉︎」

「……けど先生! ムドウは人で、勇者は人と戦うためにいるわけじゃ……」


 ガリョウの言いたいことが何かを、ロードは理解して大きな声で話をしようとしたが、


勘違(かんちが)いしてんじゃねーぞ! ロード! 勇者だろうがなんだろうが人と戦うことはある! しかも()けることの出来ない戦いが外の世界に行けばいくらでも起きる!……ムドウはその時のためにオマエの練習(れんしゅう)相手(あいて)になってんだ!……他の(やつ)もそうだ! 本気(ほんき)で立ち向かい、(たが)いを(たか)め合う! それが練習(れんしゅう)相手(あいて)に対しての礼儀(れいぎ)にもなる!」


 ガリョウは(きび)しく叱咤(しった)するも言葉は(えら)んで理解(りかい)させる為の努力(どりょく)をする。


「だがオマエのは、相手への気遣(きづか)いでも(やさ)しさでもなんでもない! 人間が恐ろしいだけの、傷付けることが恐ろしいだけの、ただの逃避(とうひ)だ! むしろ相手に怪我(けが)()わせるくらいやらなければ意味(いみ)がない、実戦(じっせん)はこんなものではない! 魔物は得体(えたい)のしれない戦法(せんぽう)を使って来る! その為にここで準備(じゅんび)しろ! 攻撃(こうげき)手応(てごた)えを(おぼ)え、怪我(けが)をしないように防御(ぼうぎょ)(おぼ)えろ! 人間にも魔物にも通用(つうよう)する戦い方を()み出せ!……それがこの模擬戦(もぎせん)意味(いみ)だ!」


「………………」


 ロードは(くや)しいとも(つら)そうとも見える表情(ひょうじょう)()かべた。それはガリョウに叱咤(しった)されたからではない。どうしても受け身以外の行動が取れないからだ。

 それでも剣をしっかりと(にぎ)()めたままだったのは、自分なりの(こた)え方だった。


「魔王が人の形をしていたら、そうやって戦うことから()げるのか⁉︎」


 その言葉はロードの逃避(とうひ)核心(かくしん)となっているものを(かす)めた。しかしそれよりも、


「逃げません!」


 ロードはその言葉だけは、(そく)否定(ひてい)した。魔王という言葉に反応(はんのう)した為だ。


「ならばムドウに向かって見せろ! オマエのその意気込(いきご)みに(こた)える(ため)怪我(けが)をする覚悟(かくご)は出来ている‼︎」


 ガリョウに言われ、ロードはムドウの方を見てみると、真剣(しんけん)な顔つきで覚悟(かくご)を決めている友人が、自分に向かって(うなず)いた。ロードが来るのを剣を(かま)えて()っている。


「………………」


 ロードがムドウを見つること数秒、剣を(かま)えてみるも、しかし、思わずその友人から顔を(そむ)けてしまった。


「ばかやろぉーーーー‼︎」


 相手から目を(そむ)けたロードに対し、ガリョウは足元にあった木刀(ぼくとう)(つか)むと、それを素早(すばや)く振り、ロードが(かま)えていた剣に当て、その身体(からだ)ごとぶっ飛ばした。

 相手、(すなわ)ち敵から目を(そむ)けるという行為(こうい)は――こういうことになる‼︎――とその身体(からだ)に教えたのだ。

 数十メートル飛んで、ロードの身体が修練場(しゅうれんじょう)(すみ)にあった武器の山に突っ込んだ。いくつかの武器が辺りに飛散(ひさん)する。ロードに怪我(けが)はない。そんなに(やわ)(きた)え方はしていない。


「ロード! そんなことで勇者になれると思うな!……そこでコイツらの戦いを見て考えろ!」


 ガリョウがそう言う(あいだ)に、ロードが武器の山から起き上がり顔を上げた。


「オマエ達! 何をしている! 続けろ!」


 ガリョウが、模擬戦(もぎせん)中断(ちゅうだん)し、ただ呆然(ぼうぜん)とそのやり取りを見ていた子供達に向かって叱咤(しった)する。

 その声で、(われ)に返った子供達は、今自分のやるべき事を思い出し――はい‼︎――と思う大きな声で返事をして模擬戦(もぎせん)再開(さいかい)した。


「ムドウ……オマエの相手はオレがする……来い!」


 ガリョウが木製(もくせい)の武器を左手に持って、特に(かま)えるわけでもなくムドウの前に立ち、(きび)しい表情(ひょうじょう)で言った。


「は、はい……よろしくお願いします」


 ロードの方を見て心配(しんぱい)そうな顔を浮かべていたムドウは、ガリョウの声を聞き返事をして、そちらに向いて律儀(りちぎ)にお辞儀(じぎ)をした。

 左手に剣を持って真剣(しんけん)覚悟(かくご)を決めた表情(ひょうじょう)でガリョウに向かって剣を打ち込む。


「勇者とは⁉︎」


 ガリョウが大きな声で問うと、


 ――どんな恐ろしい魔物を前にしても道を切り開く勇ましき者‼︎――


 子供達が一斉(いっせい)に大きな声で答えた。



 木製の武器と武器が打ち合う音が重なって、連続して修練場に響き渡る。



「逃げている……」


 武器の山で(ひざ)(かか)えていたロードがポツリと(つぶや)いた。


「オレは勇者の道から……逃げているのか?」


 友人達の激しく戦う姿(すがた)を見ながら(つぶや)く。


「でも……もう、()()()()()は、起きてほしくないんだ……先生」



 その後、ロードは複雑(ふくざつ)な気持ちで、ただ(だま)って、その模擬戦(もぎせん)を見続けた。

 そのロードの様子(ようす)にガリョウは、一瞬だけ目を(うつ)し、ムドウの相手を続ける。





 ガリョウの授業(じゅぎょう)が終わると、子供達の昼食(ちゅうしょく)の時間だ。

 勇卵(ゆうらん)の城の中層(ちゅうそう)屋外(おくがい)に面した(なが)めのいい場所に机と椅子が並べられ、辺りでは色とりどりの花が咲いていた。

 そこにある机の上にパイトさん達が準備(じゅんび)した豪華絢爛(ごうかけんらん)食事(しょくじ)が置いてある。


 今そこでは、十人全員が椅子(いす)に着いて食事をしている。


 周りではパイトさん達が様々な楽器で(いや)しの音楽を()いていたり、花に水をやっていたり、追加の食事を持っていたりする。


 席の(なら)(じゅん)は、

 ヨルヤ、レール、ファンタ、ロード、ムドウ。

 その対面(たいめん)には、ミハニーツ、クラッカ、カイザル、ダイグラン、サシャープがいる。


「あーー、しんどかったぁ」


 心底(しんそこ)(つか)れた声を上げるのは、ヨルヤ。


「二時間ずっと(うご)き続けるからなー、効率(こうりつ)悪いような気がする」


 ファンタがスープを口に運びながら(つぶや)く。


「オマエ達の(きた)え方が()りないだけだ……ガリョウ先生の考えに(したが)っていれば間違(まちが)いはない」


 カイザルが断言(だんげん)した。


「まぁ(きび)しいが、オレ達の為になっているのは、よくわかる」


 ダイグランが同意(どうい)した。


「ロード、オマエまた(おこ)られてたな……いい加減(かげん)打ち込めないのか?」

「………………」


 レールの問いかけに、ロードは何も言わなかった。


「そうそう、昔はフツーに、あたしらとやり合えただろ?」


 クラッカも何気なく問いかける。


「人と戦いたくないだっけ? ボクらに遠慮(えんりょ)無用(むよう)だよ」


 サシャープも淡々(たんたん)と言う。


「ロードォ……ちゃんと戦った方がいいぞ……ガリョウ先生、怖すぎだし」


 ヨルヤが先程のことを思い出して、(ふる)えながら言う。



「……ねぇ、(みんな)……人と戦えないからって、何かいけないことでもある?…………私達の(てき)結局(けっきょく)魔物(まもの)魔王(まおう)でしょ? 先生はああ言うけど、私はロードが人と戦えなくてもいいと思う……」



 ミハニーツが自分の(かんが)えを()べた。


「ミハニー、敵は魔物だけではないとガリョウ先生も(おっしゃ)っていただろう!」


 カイザルが声を()り上げて言った。


食事中(しょくじちゅう)大声(おおごえ)はやめてくれカイザル」


 ()め息()じりにダイグランが言う。


「カイザルが正しいな、ミハニー……人は敵じゃないけど、バカなヤツはケンカ売ってくる……だったら、そういう(とき)の為に戦い方は身につけた方がいいだろ」


 クラッカがミハニーに補足(ほそく)説明(せつめい)した。


「ロードがやりたくないって言ってるの! そんな人達が(あらわ)れたら、私が一人(のこ)らず追い(はら)えばいい! 私がロードをずっと守ればいい!」


 ミハニーツが堂々(どうどう)宣言(せんげん)した。


「オマエが一番(いちばん)ロードのこと考えてねーなぁ」


 レールがボソッと言ったことに対し、


「……今なんて言った?……レール」


 ミハニーツが声の主を(するど)(にら)みつけた。


「そんな顔しても怖くねーぞ、ミハニー」


 ()めているレールは気にせず食事(しょくじ)を続ける。


「ケンカするな!……食事中(しょくじちゅう)だぞ」


 ダイグランが注意した。

 ムドウとロードはその場に、少し気まずさを感じる。


「け、けどロードって魔討訓練(まとうくんれん)だと、いつも一番(いちばん)成績(せいせき)いいだろ! 人って言っても、その辺のヤツだったらロードの相手にもならないだろ」


 ファンタが何とか場の雰囲気(ふいんき)を変えようとする。


「たしかに、ロードはボクらの誰よりも強いかもね」


 サシャープが淡々と食事をしながら言う。


「魔物と人は違うだろ……それにロードが人と戦えたとしても、どれくらいが手加減(てかげん)かも覚えなきゃ相手が死んじまうだろ……やっぱ練習(れんしゅう)はいるって」


 クラッカが自分達が普通の人間より強いことを自覚(じかく)したうえで言う。


「いっそ、勇者の道を今からでも考え(なお)したらどうだ?……正直(しょうじき)そんな心構(こころがま)えでは向いてるとは思えん」


 カイザルは助言(じょげん)のつもりだが、とてもそう聞こえるようなセリフではなかった。


「言い過ぎだぞ……カイザル……」


 (あん)(じょう)、食事をしていたダイグランが注意した。


「まぁ、人型の魔物にまで手が出せないとなったら、ジョーダンじゃ()まないしなー」


 レールが冷めた声で言う。


「そうだ! ロードは生命力(せいめいりょく)他人(たにん)()けて(きず)(なお)せるんだろ!? だったらいっそ医者(いしゃ)みたいなの目指(めざ)したらどーよ!」


 クラッカが明るく、(ひらめ)いた‼︎ と言わんばかりの答えを出した。


(たし)かに、ロードには向いてそうだ」


 ダイグランが食事(しょくじ)をしながら同意(どうい)した。


「だったらオレ、怪我(けが)したらロードのところ行こー」


 軽い調子(ちょうし)でファンタが言う。


神様(かみさま)なんて(あが)められて、ロードの村が出来たりして……」


 (めずら)しく()(なご)ませようとサシャープが話に乗ってきた。


「なんか平和そうだぁ、ロードがいれば魔物も近寄(ちかよ)れないだろーしねぇ」


 ヨルヤが果汁水(ジュース)を飲みながら(やわ)らかく言う。


「………………」


 話の中心(ちゅうしん)たるロードは()かない顔のまま食事を(つづ)けている。


「ちょっと、貴方(あなた)た……」


 その様子を見たミハニーツが(だま)り込んだロードに()わって口を出そうとすると、


「――いい加減(かげん)にしてくれ!――」


 席を立ったムドウが、はっきりした声を出して言った。

 普段(ふだん)の彼からは考えにくい立ち振る舞いだった為、子供達は少し(おどろ)いた。

パイトさん達もびっくりして、あわあわしたり、固まったり、何も無いところでひっくり返ったりした。


「ロードは勇者になるんだ!――その為にここにいるだ!……(みんな)知ってるだろ!――ロードが()()()()()()()()()()()を!」


 その言葉を受けた子供(こども)達は(しず)まり返り、ロードの立場(たちば)になって思い(あらた)めた。


 ファンタが、

「ごめんロード……」

 レールが、

「言い()ぎた……」

 ヨルヤが、

「オレも……」

 ミハニーツが、

「ロードごめんなさい、(いや)気分(きぶん)にさせて……」

 クラッカが、

(わる)い……」

 カイザルが、

失言(しつげん)だった……」

 ダイグランが、

「すまん……」

 サシャープが、

(あやま)るよ……」





「……いいよ……」


 ロードは(みんな)(やさ)しい笑顔(えがお)()けた。


 その一連のやりとりを聞いて、ムドウも(すわ)り直した。

パイトさん達も仕事を再開する。



「早く食べよう……午後(こご)はまだ、魔討訓練(まとうくんれん)がある」


 ロードがそう言うと、皆が、――だね――おう――ああ――うん――とそれぞれ相槌(あいづち)を打つ。

 ロードは気にしていなかった(わけ)ではなかったが、今は暗くはならない。皆がいれば何も怖くわない。


「ロード! このケーキどうだ! おいしいぞー」

「またお菓子(かし)系、っおい! 砂糖(さとう)乗せるのはなしだ! クラッカさん!」

「言ってやれファンタ……ロードにはこの見たこともない黒い肉を(しょく)許可(きょか)を……」

「カイザル……ここはロードの好きな物をあげるところだ」

「ダイグラン、ロードの好きな物って?」

健康食品(けんこうしょくひん)、だからヨルヤこれ回してあげて……」

「さすがミハニー用意が……うげっ! スゲー色の葉っぱ、これ食い物か?」

「レール、パイトさんが食べられない物持って来る訳ないだろ……」

「と言いつつ、サシャープその残りの軟体生物(なんたいせいぶつ)も食べ物だろ?」


 とムドウが言うと(となり)のロードのところに物凄い()()()()が回って来た。


苦業打勝薬葉(くぎょうだがちやくば)……いただこう」


 そのどこの世界の葉っぱか知らないが、ロードは(おく)することなく、むしろ歓迎(かんげい)するように頬張(ほおば)って食べた。本当なら口に入れた瞬間(しゅんかん)不味(まず)さが何日も残るが、ロードだけは平気なのだ。もっと凄い物を入れ日頃から食べていることもあって。

健康になること、生命力が上がること間違いない。


「これ食べやすくて好きなんだ……ミハニー覚えててくれてありがとう」


 子供達はあり得ない物を見るような顔になるも、ミハニーツだけ照れたように顔を背けた。それでも、皆はロードが笑顔で食べる姿に満足(まんぞく)した。

 そして、また楽しく会話をしながら食事を続ける。ロードを元気づけようと明るい話に切り替えてだ。


 ロードにとって、その心遣(こころづか)いが何よりの(はげ)みだった。





 彼等の居る、色合界(しきごうかい)・ガークスボッデンの何処(いずこ)かに、その暗い影が忍び寄る。

 不吉をもたらす暗い影が。

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