模擬戦
勇卵の城の中層に位置する塔の一つには修練場がある。
長い橋を渡ってのみ到達でき、その入り口の左右には松明が置かれている。内部は、直径一○○メートル程の円状の空間に、外見と違って一階だけしか無い塔は天井がとても高い。周囲の壁には松明が並べられ、長い龍の彫像がいくつも這うように飾る。隅には、大人用の大きな椅子と子供用の椅子が置かれていた。
そこは、城で暮らす十人の子供達を鍛える為の授業で使う――ガリョウの修練場――という場所だった。
今その場所の床には、木製の武器が何百と辺りに散らばっていた。
刀、剣、槍、弓と矢、斧、鎌、鎖鎌、鉈、短剣、棍棒、長い棒、多節棍、鉤爪、手裏剣、盾、鞭、扇子、ハルバード、モーニングスター、トマホーク、ハンマー、トンファー、その全てが木製で辺りに散らばっていた。
木で作られた武器と武器の打ち合う音がいくつも重なって、連続して聞こえる。
今そこでは、ヴィンセントの授業を終えた十人の子供達が、ガリョウの指示の元、二人組にされ、辺りに散らばった武器を手に持ち、各々打ち込み合う――模擬戦――をしている。
組み合わせは、
オレンジ髪のカイザルと背の高いダイグラン。
黒髪に黄色いリボンのミハニーツと紫に白を被せた髪のレール。
夜中のように深い青髪のヨルヤと桃色の髪のクラッカ。
黄緑の髪のサシャープと茶髪のファンタ。
そして、銀髪のムドウと金髪のロードだ。
木製の武器同士の打ち合う音が、修練場全体に響き続ける。
二人組になる彼等は、激しく対戦しながらも、足元に散らばる何百という武器の中で動きを乱さず、他の組の邪魔になることなく、目の前の相手との戦いに集中している。
そんな彼等、五組の戦いの中央を歩く大柄な男がいた。掠れた色の赤髪に鍛え抜かれた肉体、その全身には古傷がある。服装は朝とは違い、肩から先の袖のない角張った装束を身に纏っていた。その背中には赤い剣がある。
授業を受け持つときの、これがガリョウの正装だった。
ちなみに彼が袖のない服を着るのは、腕の古傷や無くなってしまった右腕を子供達に常に意識させておくことで、――油断すればオマエ達もこうなる!――という無言の教えだ。
掛け声や木の打ち合う音の中、ガリョウは歩きながら子供達に教えを説く。
「いいか! 敵は魔物だけじゃねー、ときには人間ともぶつかることもある! それは何故だ⁉︎ ヨルヤ!」
修練場全体に、ガリョウの力強い低い声が響き渡る。
「ま、魔物よりもタチの悪い人間が……たまにいるから……です!」
ヨルヤは長い梯子を二つ、左右の手に持って、身体をぐるぐると回し続けながら、クラッカに攻撃を当てようとしつつ、ガリョウの質問に答える。
「そうだ!」
ガリョウは大きな声で言うが、正解を出したヨルヤには喜ぶ余裕はない。
「ゲスな人間は多くの世界にいくらでもいる! オマエらはそういう奴らに負けることは、絶対に許されねー! それは何故だ⁉︎ カイザル!」
ガリョウは言いながら、どこからか飛んで来た矢の群を見ずに、大きく一歩、足を運んで避ける。
「ハイ! 勇者の敵は魔物だからです!」
カイザルは自分の身長くらいもある大剣を両手に持って、同じく大剣を持っていたダイグランに真っ向うから挑み、打ち合いながらガリョウの質問に答える。
「そうだ!」
ガリョウは大きな声で言うが、正解を出したカイザルに喜ぶ暇はない。
「人間と戦う場合、奴らは様々な武器を振りかざしてくる! ときに、策を巡らせ、オマエ達の所持している武器を取りあげることもあるだろう!」
ガリョウの話に耳を傾けながら、ファンタが長い鉤爪を両手に持って、サシャープに打ち込んでいる。
「そんなとき! 剣がないから人間に負けましたじゃぁ、話にならねー!」
ガリョウの話に耳を傾けながら、サシャープは大きな鎌を縦横自在に振り回し、ファンタの鉤爪と打ち合っている。
「だからこそ、使いこなせ! 足元にあるものを! あらゆる武器を! 武器に振り回されるな、自分の手で武器を振り回せ!」
ガリョウの話に耳を傾けながら、クラッカは走り回って足元にある武器を、次々とヨルヤに投げて行く。
「十分に武器の性能を、長所も短所も理解しろ! そうすれば、状況に応じて、相手の得物に対し、有利に立ち回ることが出来る!」
ガリョウの話に耳を傾けながら、ヨルヤは長い梯子を棒高跳びの要領で床に突き立て、クラッカの武器の投射を避ける。
「戦いに於いて、スタミナの維持に気を配れ! そのために、より早く相手を無力化するためのスピードを持て! 相手もそれを持っていたら、テクニックで上回れ! それでも勝てないのなら、フェイントで翻弄しろ!」
ガリョウの話に耳を傾けながら、レールはいくつか置いてあった木の玉を、ミハニーツに向けて蹴り、その手に長い槍を掴んで走る。
「相手の動きから一瞬たりとも目を離すな! 攻撃を仕掛てくるときの視線、仕草、足捌きを注意深く見ろ! そして、即座に見切り看破する目を持て!」
ガリョウの話に耳を傾けながら、ミハニーツは左右の両手に持っていた扇子で向かって来た木の玉を弾く。その弾いた体勢から扇子を飛ばし、走って来るレールを少しばかり足の速度を落とすための障害物とする。その隙にミハニーツは自分は足元にあった薙刀を持ってレールに挑みに行く。
薙刀と槍の激しい突き合いが始まる。
「本物の真剣勝負に待ったもルールもない! 決して油断するな! 相手がどれだけ卑怯や姑息な手を使ってこようが、一つの失敗が自分の死に繋がると心得ろ!」
ガリョウの話に耳を傾けながら、カイザルはダイグランと大剣同士で打ち合うが、そのパワーに押され始めたことで、それを打ち切って、ダイグランの大剣の猛攻を躱しながら、近くにあった鎖を取り、ダイグランの大剣に巻き付けるように投げると、そのまま引き合う勝負をする。
「打たれても怯むな! そんな暇があるのなら、声を上げて攻撃を続けろ! 相手を気迫で押し切れ! 気合で負ければ、どんな強い武器を持っていたとしても、決して勝利はないと知れ!」
ガリョウの話に耳を傾けながら、ダイグランは引き合っている鎖に巻かれた大剣を、大きな雄叫びを上げることで、カイザルごと引き込むことに成功するが、カイザルがその勢いのまま殴り掛かって来るのを知ると、自分もそれに対抗して、拳を飛んで来るカイザルに合わせて振る。
二人の拳はすれ違って、それぞれ顔に直撃し、クロスカウンターとなる。それでも二人は倒れなかった。
ガリョウの話が終わると、それを一切聞き漏らさなかった子供達は、目の前の相手と戦いながら――はい‼︎――と、大きくしっかりと返事をした。
五組に分かれて戦っていた子供達の中を、ガリョウはひたすら歩き、その内の一組へと近づいて行く。
その先にロードとムドウがいた。
ロードは両手で剣を持って、左手で剣を振り回すムドウの攻撃を受け止め、あるいは受け流す。
一見、しっかりと戦っているように見えるが、他の組と違ってその戦いには激しさがない。それもロードが受けるだけの防戦一方な戦いだった。彼等の実力に大きな差があったわけではない。二人が結託して、休み休み戦っているわけでもない。ただロードに僅か悪い汗が見える。
やがて二人は鍔迫り合いのような形になって、その状態のまま数秒過ぎる。
「オイ! ロード! ムドウ! いつまで睨み合っている! 本気でかかれ!」
近づいて来たガリョウが、鍔迫り合いの状態のまま止まっている二人を叱る。
「「――‼︎――」」
ロードとムドウはその声を聞き焦る。
「ロード来い! 今は模擬戦の時間だ! 受け身の時間じゃない! 打ち込んで来るんだ!」
「…………………………」
鍔迫り合いのままムドウが要求するが、ロードは黙ったまま目線を下にする。
「ムドウ! 相手がオマエから目を離したぞ! 容赦するな!」
ガリョウがムドウの背後まで歩いて来ると次の行動を指示した。
やむなくムドウは鍔迫り合いのまま、ロードを突き飛ばすように押し込んで体勢を崩させ、
「――ハァア!」
ムドウが右脇腹に剣を回し、ロードに向かって素早く振る。
「――ッ⁉︎」
振るわれた剣が左脇腹に直撃したロードは、五メートル|程横に吹っ飛び、床に倒れ伏す。
「ムドウ! 相手が倒れたぞ! 追い打ちをかけろ!」
「……はい! ガリョウ先生!」
ガリョウの指示に従うか、一瞬ムドウは迷ったが、ロードに追い打ちをかけるため走り、その伏せていた身体と床の隙間に剣を差し込み、下から掬うように振り上げる。
「――うっ!……うあっ!」
振り上げられた剣によって、ロードの身体が宙を飛んで、落下。床に激突する衝撃で声と息が吐き出された。
「立て! ロード!」
ガリョウがロードに近づきながら指示する。それを見たムドウは構えを解いて、ただその場でガリョウが離れるまで待機する。
ロードは倒れた状態から、片膝を着いた姿勢になって立ち上がる。一瞬だけフラついたが大したことはない。
「ロード! 勇者とは⁉︎」
立ち上がったロードにガリョウは竜のように低く大きな声を響かせ問いかける。
「……どんなに恐ろしい魔物を前にしても、道を切り開く勇ましき者……」
武器を両手に構え直したロードが、息を整えながら呟く。
「勇者とは……⁉︎」
まるで、目の前にいるロードの声が聞こえなかったように、ガリョウがもう一度問いかける。
「……どんなにおそろ――」
ロードは先程よりも声量を上げて解答をしようとするが、
「――発声しろぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」
ガリョウの竜の咆哮のような声が修練場全体の空気を震わし、ロードの声を吹き飛ばした。
激しく戦っていた他の子供達の動きまでも中断させる程の叱咤だ。
皆がロードとガリョウに注目して、その場に静寂が訪れる。
ロードが深呼吸して、
「どんなに恐ろしい魔物を前にしても、道を切り開く勇ましき者‼︎」
力の許す限り、大きな声でロードは解答した。
「なら、オマエはなんだ⁉︎」
ロードの声の響きを受け、さらにガリョウが大きな低い声で問う。
「勇者のたま――」
ロードが答える最中、
「――発声しろぉぉぉぉぉ‼︎」
ガリョウがロードの小さな声を遮るように、竜の咆哮のような声が空気が震わせた。
「勇者の卵です‼︎」
深呼吸してから、ロードは勢い任せな大きな声で言った。
「その勇者の卵がいつになったら剣を振る⁉︎」
「……けど先生! ムドウは人で、勇者は人と戦うためにいるわけじゃ……」
ガリョウの言いたいことが何かを、ロードは理解して大きな声で話をしようとしたが、
「勘違いしてんじゃねーぞ! ロード! 勇者だろうがなんだろうが人と戦うことはある! しかも避けることの出来ない戦いが外の世界に行けばいくらでも起きる!……ムドウはその時のためにオマエの練習相手になってんだ!……他の奴もそうだ! 本気で立ち向かい、互いを高め合う! それが練習相手に対しての礼儀にもなる!」
ガリョウは厳しく叱咤するも言葉は選んで理解させる為の努力をする。
「だがオマエのは、相手への気遣いでも優しさでもなんでもない! 人間が恐ろしいだけの、傷付けることが恐ろしいだけの、ただの逃避だ! むしろ相手に怪我を負わせるくらいやらなければ意味がない、実戦はこんなものではない! 魔物は得体のしれない戦法を使って来る! その為にここで準備しろ! 攻撃に手応えを覚え、怪我をしないように防御を覚えろ! 人間にも魔物にも通用する戦い方を編み出せ!……それがこの模擬戦の意味だ!」
「………………」
ロードは悔しいとも辛そうとも見える表情を浮かべた。それはガリョウに叱咤されたからではない。どうしても受け身以外の行動が取れないからだ。
それでも剣をしっかりと握り締めたままだったのは、自分なりの応え方だった。
「魔王が人の形をしていたら、そうやって戦うことから逃げるのか⁉︎」
その言葉はロードの逃避の核心となっているものを掠めた。しかしそれよりも、
「逃げません!」
ロードはその言葉だけは、即否定した。魔王という言葉に反応した為だ。
「ならばムドウに向かって見せろ! オマエのその意気込みに応える為、怪我をする覚悟は出来ている‼︎」
ガリョウに言われ、ロードはムドウの方を見てみると、真剣な顔つきで覚悟を決めている友人が、自分に向かって頷いた。ロードが来るのを剣を構えて待っている。
「………………」
ロードがムドウを見つること数秒、剣を構えてみるも、しかし、思わずその友人から顔を背けてしまった。
「ばかやろぉーーーー‼︎」
相手から目を背けたロードに対し、ガリョウは足元にあった木刀を掴むと、それを素早く振り、ロードが構えていた剣に当て、その身体ごとぶっ飛ばした。
相手、即ち敵から目を背けるという行為は――こういうことになる‼︎――とその身体に教えたのだ。
数十メートル飛んで、ロードの身体が修練場の隅にあった武器の山に突っ込んだ。いくつかの武器が辺りに飛散する。ロードに怪我はない。そんなに柔な鍛え方はしていない。
「ロード! そんなことで勇者になれると思うな!……そこでコイツらの戦いを見て考えろ!」
ガリョウがそう言う間に、ロードが武器の山から起き上がり顔を上げた。
「オマエ達! 何をしている! 続けろ!」
ガリョウが、模擬戦を中断し、ただ呆然とそのやり取りを見ていた子供達に向かって叱咤する。
その声で、我に返った子供達は、今自分のやるべき事を思い出し――はい‼︎――と思う大きな声で返事をして模擬戦を再開した。
「ムドウ……オマエの相手はオレがする……来い!」
ガリョウが木製の武器を左手に持って、特に構えるわけでもなくムドウの前に立ち、厳しい表情で言った。
「は、はい……よろしくお願いします」
ロードの方を見て心配そうな顔を浮かべていたムドウは、ガリョウの声を聞き返事をして、そちらに向いて律儀にお辞儀をした。
左手に剣を持って真剣に覚悟を決めた表情でガリョウに向かって剣を打ち込む。
「勇者とは⁉︎」
ガリョウが大きな声で問うと、
――どんな恐ろしい魔物を前にしても道を切り開く勇ましき者‼︎――
子供達が一斉に大きな声で答えた。
木製の武器と武器が打ち合う音が重なって、連続して修練場に響き渡る。
「逃げている……」
武器の山で膝を抱えていたロードがポツリと呟いた。
「オレは勇者の道から……逃げているのか?」
友人達の激しく戦う姿を見ながら呟く。
「でも……もう、あんなことは、起きてほしくないんだ……先生」
その後、ロードは複雑な気持ちで、ただ黙って、その模擬戦を見続けた。
そのロードの様子にガリョウは、一瞬だけ目を移し、ムドウの相手を続ける。
ガリョウの授業が終わると、子供達の昼食の時間だ。
勇卵の城の中層、屋外に面した眺めのいい場所に机と椅子が並べられ、辺りでは色とりどりの花が咲いていた。
そこにある机の上にパイトさん達が準備した豪華絢爛な食事が置いてある。
今そこでは、十人全員が椅子に着いて食事をしている。
周りではパイトさん達が様々な楽器で癒しの音楽を弾いていたり、花に水をやっていたり、追加の食事を持っていたりする。
席の並び順は、
ヨルヤ、レール、ファンタ、ロード、ムドウ。
その対面には、ミハニーツ、クラッカ、カイザル、ダイグラン、サシャープがいる。
「あーー、しんどかったぁ」
心底疲れた声を上げるのは、ヨルヤ。
「二時間ずっと動き続けるからなー、効率悪いような気がする」
ファンタがスープを口に運びながら呟く。
「オマエ達の鍛え方が足りないだけだ……ガリョウ先生の考えに従っていれば間違いはない」
カイザルが断言した。
「まぁ厳しいが、オレ達の為になっているのは、よくわかる」
ダイグランが同意した。
「ロード、オマエまた怒られてたな……いい加減打ち込めないのか?」
「………………」
レールの問いかけに、ロードは何も言わなかった。
「そうそう、昔はフツーに、あたしらとやり合えただろ?」
クラッカも何気なく問いかける。
「人と戦いたくないだっけ? ボクらに遠慮は無用だよ」
サシャープも淡々と言う。
「ロードォ……ちゃんと戦った方がいいぞ……ガリョウ先生、怖すぎだし」
ヨルヤが先程のことを思い出して、震えながら言う。
「……ねぇ、皆……人と戦えないからって、何かいけないことでもある?…………私達の敵は結局、魔物と魔王でしょ? 先生はああ言うけど、私はロードが人と戦えなくてもいいと思う……」
ミハニーツが自分の考えを述べた。
「ミハニー、敵は魔物だけではないとガリョウ先生も仰っていただろう!」
カイザルが声を張り上げて言った。
「食事中に大声はやめてくれカイザル」
溜め息混じりにダイグランが言う。
「カイザルが正しいな、ミハニー……人は敵じゃないけど、バカなヤツはケンカ売ってくる……だったら、そういう時の為に戦い方は身につけた方がいいだろ」
クラッカがミハニーに補足説明した。
「ロードがやりたくないって言ってるの! そんな人達が現れたら、私が一人残らず追い払えばいい! 私がロードをずっと守ればいい!」
ミハニーツが堂々と宣言した。
「オマエが一番ロードのこと考えてねーなぁ」
レールがボソッと言ったことに対し、
「……今なんて言った?……レール」
ミハニーツが声の主を鋭く睨みつけた。
「そんな顔しても怖くねーぞ、ミハニー」
冷めているレールは気にせず食事を続ける。
「ケンカするな!……食事中だぞ」
ダイグランが注意した。
ムドウとロードはその場に、少し気まずさを感じる。
「け、けどロードって魔討訓練だと、いつも一番成績いいだろ! 人って言っても、その辺のヤツだったらロードの相手にもならないだろ」
ファンタが何とか場の雰囲気を変えようとする。
「たしかに、ロードはボクらの誰よりも強いかもね」
サシャープが淡々と食事をしながら言う。
「魔物と人は違うだろ……それにロードが人と戦えたとしても、どれくらいが手加減かも覚えなきゃ相手が死んじまうだろ……やっぱ練習はいるって」
クラッカが自分達が普通の人間より強いことを自覚したうえで言う。
「いっそ、勇者の道を今からでも考え直したらどうだ?……正直そんな心構えでは向いてるとは思えん」
カイザルは助言のつもりだが、とてもそう聞こえるようなセリフではなかった。
「言い過ぎだぞ……カイザル……」
案の定、食事をしていたダイグランが注意した。
「まぁ、人型の魔物にまで手が出せないとなったら、ジョーダンじゃ済まないしなー」
レールが冷めた声で言う。
「そうだ! ロードは生命力を他人に分けて傷を治せるんだろ!? だったらいっそ医者みたいなの目指したらどーよ!」
クラッカが明るく、閃いた‼︎ と言わんばかりの答えを出した。
「確かに、ロードには向いてそうだ」
ダイグランが食事をしながら同意した。
「だったらオレ、怪我したらロードのところ行こー」
軽い調子でファンタが言う。
「神様なんて崇められて、ロードの村が出来たりして……」
珍しく場を和ませようとサシャープが話に乗ってきた。
「なんか平和そうだぁ、ロードがいれば魔物も近寄れないだろーしねぇ」
ヨルヤが果汁水を飲みながら柔らかく言う。
「………………」
話の中心たるロードは浮かない顔のまま食事を続けている。
「ちょっと、貴方た……」
その様子を見たミハニーツが黙り込んだロードに変わって口を出そうとすると、
「――いい加減にしてくれ!――」
席を立ったムドウが、はっきりした声を出して言った。
普段の彼からは考えにくい立ち振る舞いだった為、子供達は少し驚いた。
パイトさん達もびっくりして、あわあわしたり、固まったり、何も無いところでひっくり返ったりした。
「ロードは勇者になるんだ!――その為にここにいるだ!……皆知ってるだろ!――ロードが人と戦えなくなった理由を!」
その言葉を受けた子供達は静まり返り、ロードの立場になって思い改めた。
ファンタが、
「ごめんロード……」
レールが、
「言い過ぎた……」
ヨルヤが、
「オレも……」
ミハニーツが、
「ロードごめんなさい、嫌な気分にさせて……」
クラッカが、
「悪い……」
カイザルが、
「失言だった……」
ダイグランが、
「すまん……」
サシャープが、
「謝るよ……」
「……いいよ……」
ロードは皆に優しい笑顔を向けた。
その一連のやりとりを聞いて、ムドウも座り直した。
パイトさん達も仕事を再開する。
「早く食べよう……午後はまだ、魔討訓練がある」
ロードがそう言うと、皆が、――だね――おう――ああ――うん――とそれぞれ相槌を打つ。
ロードは気にしていなかった訳ではなかったが、今は暗くはならない。皆がいれば何も怖くわない。
「ロード! このケーキどうだ! おいしいぞー」
「またお菓子系、っおい! 砂糖乗せるのはなしだ! クラッカさん!」
「言ってやれファンタ……ロードにはこの見たこともない黒い肉を食す許可を……」
「カイザル……ここはロードの好きな物をあげるところだ」
「ダイグラン、ロードの好きな物って?」
「健康食品、だからヨルヤこれ回してあげて……」
「さすがミハニー用意が……うげっ! スゲー色の葉っぱ、これ食い物か?」
「レール、パイトさんが食べられない物持って来る訳ないだろ……」
「と言いつつ、サシャープその残りの軟体生物も食べ物だろ?」
とムドウが言うと隣のロードのところに物凄い健康食品が回って来た。
「苦業打勝薬葉……いただこう」
そのどこの世界の葉っぱか知らないが、ロードは臆することなく、むしろ歓迎するように頬張って食べた。本当なら口に入れた瞬間不味さが何日も残るが、ロードだけは平気なのだ。もっと凄い物を入れ日頃から食べていることもあって。
健康になること、生命力が上がること間違いない。
「これ食べやすくて好きなんだ……ミハニー覚えててくれてありがとう」
子供達はあり得ない物を見るような顔になるも、ミハニーツだけ照れたように顔を背けた。それでも、皆はロードが笑顔で食べる姿に満足した。
そして、また楽しく会話をしながら食事を続ける。ロードを元気づけようと明るい話に切り替えてだ。
ロードにとって、その心遣いが何よりの励みだった。
彼等の居る、色合界・ガークスボッデンの何処かに、その暗い影が忍び寄る。
不吉をもたらす暗い影が。




