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ラストインプレッション

作者: 音澤 煙管





私は、元写真家です。

こういう場には相応しくはないでしょうが、

ここを見かけ、テーマと合致しておりましたので、ここで写真家としての半生をどう生き、諦めたのかをお話ししましょう…


古い歴史がある写真館に産まれました。

祖父のそのお爺さんからの台を継ぎ、今は私が営んでおりますが、学生の頃には就職も決まっておりましたが謂わゆる若気の至りで、そのまま10代で俗に言うフリーカメラマンとして、本国は元より世界の彼方此方へ活動をしていました。やがて2年の月日が流れ、帰国してもこれまでわざわざ海外へ出掛けて行った意味を考えるようになり、初心から出直そうと都会の汚いアパートへアルバイトをしながら一人暮らしを始め、都内をぶらぶらと散策し撮影をしていました。


その年の師走の頃、例年に無い豪雪となりました。いつも撮影場所は公園や川原、裏通りと決まっていましたが、この日は丁度クリスマスイヴでしたので、たまには駅周辺へ出掛けての撮影を試みました。思い立って出掛けた頃は、もうすぐ日付が変わる時間でした。

さすがクリスマスイヴと感じたのは、カップルやお相手を待っている方が多かった事ですが、ふと改札口より外れた駅の支柱に佇んで居る青年を見つけました。昔で言うヒッピーの様な風貌で、髪はボサボサの長髪。

雪もだいぶ降っていましたので、これは絵になる!と思いシャッターを何度もきりました。


家へ帰ってから早速現像をし終わってフィルムを乾燥させようとクリップに吊り下げていました。私は、夢中でシャッターを切っていましたのでこれから、どんな写真が浮き出てくるかと印画紙と引き伸ばす機器の準備をしていました。相変わらず外の雪も降り続いています、室内は湿気が酷くいつもより数倍時間をかけて乾かしておりました。


乾き切るまでの待って居る時間、降雪にもかかわらず窓を開けタバコで一服しようと火を点けた時に先程の被写体にした青年の姿を二階の窓から見つけました。あッ!と思わず口を開けてしまったのでタバコが一階の地上へ落ちてしまいました。そんな事よりまたあの青年に会えてしまったと言う気持ちで、カメラを用意して新しいフィルムを入れ、また無意識に青年に向かってシャッターを切りました。二階から見かけた被写体は、駅での青年とは違いました…彼女らしき女の子をおんぶして居ました。雪の降りしきる道路で、女の子をおんぶしている青年です。


その青年の手には、女の子の黒いパンプスをぶら下げて持ち、女の子は大きめのスニーカーをブラブラさせながら履いていたのを覚えています、電柱の灯りがある所まで来て立ち止まって背負い直し、頑張って女の子をおぶっておりました。


勿論、その青年の足元は何も履いておりません…靴下だけで雪が積もる道路を女の子をおんぶして歩いておりました。

その当時、この青年の駅前と私の二階からの写真を並べてあるコンテストへ出し見事に最優秀賞を頂戴致しました。


この写真が撮れて、私の写真家としての使命は終わったと感じカメラマンを引退し自宅へ返り写真館を継いでおります。

私の人生での、ラストインプレッションでもあるこの写真は自宅であるお店の額へ納め飾って居ます。

賞を取れたことに満足して写真家を引退したと勘違いされる方が多いと思いますが、そうではありません。


後でわかったことですが、賞を取っ事がきっかけで失踪していた兄が帰って来たからです。


その青年は私の兄だったのです…





終わり


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― 新着の感想 ―
[一言] もの凄く面白かったです。 実際の体験談に対して面白いという表現は大変失礼かもしれませんが、すみません、面白かったです。思わず三度くらい読み返してしまいました。 読ませて頂きありがとうござい…
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