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美しい冬物語  作者: 木の葉りす
3/3

第3話 光の剣


外は先が見えないくらいの吹雪です。

暖炉には温かいスープが入った鍋がかけてあります。

おばあちゃんは、糸車を回しながら言いました。

「こんな夜は冬の女王が出て来ているのかもしれないね」

ロティは、おばあさんの横に座りました。

「おばあちゃん、冬の女王って?」

冬の女王はね、何もかも冬の世界にしてしまうんだよ。森も村も町もお城までも冬の世界にしてしまうんだ。人や動物たちまでもね」

「冬の女王って怖いね」

ロティは両手で自分を抱きしめました。

「今夜は、冬の女王に立ち向かった若く美しい勇者の話をしようかね」

おばあさんは、ロティにスープを入れやると、糸車を回しながら話し出しました。


バラの花がたくさん咲く、それはとても綺麗な国がありました。

その国には、ローズ姫と言う7歳になったばかりの小さな愛らしいお姫さまがいました。ローズ姫のお母さんはローズ姫が小さい時に病気で亡くなってしまいました。お父さんである王様は、ローズ姫をそれはそれは、可愛がりました。

バラの庭で遊んでいるローズ姫は、まるで妖精のようです。

金色の長い巻き髪、白い陶器のような肌、桃色のほほ、くちびるはバラ色です。

王様は、ローズ姫に何かあってはいけないと、1人の若い騎士を付けました。

18歳のシャドウと言う青年です。

シャドウは子供の頃に捨てられていたのを騎兵隊隊長のマルゲンに拾われ育てられたのです。厳しい剣の練習にも耐えて

国一番の剣士となっていました。

兄妹のいないローズ姫はとても喜びました。シャドウも、この可愛らしいローズ姫が可愛くて仕方ありませんでした。

命に代えてもお守りしますと王様に誓いました。

とは言っても、シャドウも一日中ローズ姫についているというわけにはいきません。騎兵隊のお仕事もあります。

そんな時、ローズ姫はシャドウにわがままを言ったり、拗ねたりします。

でも、シャドウはいつも笑顔でローズ姫を抱き上げると

「いつも、ローズ姫のそばにいますよ。少しだけ待っていてくださいね」

そう言うのでした。

ローズ姫は、シャドウにそう言われると素直に言うことを聞きました。

シャドウはウソをついたことがありません。いつも、そばにいたからです。

ある日、バラの国に王様の再婚相手である美しい女の人がやってきました。

背が高く、ぬけるような白い肌をしたそれはそれは美しい女の人です。

王様は、いっぺんに好きになりました。

王様は美しい人が来てくれて大喜びです。でも、ローズは好きになれませんでした。その女の人を見ると冷たい感じがするのです。笑顔さえも冷たい感じです。ローズ姫は思い切って、王様にそのことを言ってみました。王様は女の人に心を奪われて、ローズ姫の話を聞いてくれません。王様だけでなく、誰に言っても聞いてくれません。ローズ姫の言葉に耳を貸す人はいませんでした。国中が、新しい妃のとりこになってしまったのです。

そして、池の水が凍ってしまうくらい寒い冬の日のことです。

バラの国に銀の鎧をつけた軍隊がやってきました。何千という軍隊です。

国中の人が逃げようとしましたが、銀の軍隊にすぐに捕まってしまいました。

お城では、騎兵隊が銀の軍隊と戦いましが、銀の鎧は強くビクともしません。

あっという間に騎兵隊までもが捕まってしまいました。王様もお妃を連れて逃げようとしましたが、お妃は動きません。それどころか、銀の軍隊の方へ向かって歩いて行きました。

そして、こう言ったのです。

「私は冬の女王。この国をもらいにきたのだ」

お妃は銀の軍隊の前に立つと真っ白な髪の冬の女王に変わっていました。

その時、王様は気付きました。

ローズ姫が言っていたことは本当だったのです。王様も銀の軍隊に捕まってしまいました。

ローズ姫は、自分の部屋のクローゼットに隠れていました。シャドウがそうするように言ったからです。シャドウも銀の軍隊と戦っています。ローズ姫は怖くてクローゼットの中で震えていました。

すると、ローズ姫の部屋に誰かが入ってくる気配がしました。

「ローズ姫、もう大丈夫です。出て来て下さい」

シャドウの声がします。ローズ姫はシャドウが来たと思ってクローゼットから出ました。

でも、そこにいたのはシャドウではなく、シャドウの声をマネした銀の軍隊だったのです。ローズ姫は逃げようとしましたが捕まってしまいました。

シャドウは最後まで戦っていました。

そして、1人になってしまいました。

他の人はみんな捕まってしまったのです。

ローズ姫も捕まったことをシャドウは知りました。クローゼットに隠れているように言ったことを後悔しました。

でも、後悔しているヒマはありません。

シャドウは、この国で一番高い山に住むと言う賢者の所に向かいました。

険しい山々の頂上に賢者の住むという家がありました。家と言うより小屋です。

シャドウは賢者の家のドアをノックしました。出て来たのは小さなお爺さんです。賢者の家の中には、たくさんの本がありました。見たことのない文字で書かれた本や古い本、とても大きな本までありました。

シャドウは、賢者に国で起きたこと、冬の女王や銀の軍隊の話をしました。

シャドウに話を聞いて賢者は考え込んでいます。それから、いろいろな本を開き、独り言を言っています。

そして、ゆっくりとこう言いました。

「この山を越えたところ、この国の果てじゃが、そこに光の扉と呼ばれているものがある。その光の扉の奥に光の剣があると言う。その光の剣があれば、冬の女王を倒すことができるであろう」

「国のみんなを助けられるでしょうか?」

シャドウは心配になって聞きました。

「光の剣を持って、北の果てにある闇の扉に行くんじゃ。皆は闇の扉の中に閉じ込められているはずじゃ」

それを聞くとシャドウは立ち上がりました。

「若者よ、本当に行くのか?」

今度は賢者が心配になって聞きました。

「私はローズ姫を守ることを約束しました。この命に代えても行かなければいけません」

賢者は、地図とカメオの付いた指輪を渡しました。

「この指輪が扉を開けてくれるじゃろう。それに、君を守ってくれるはずじゃ」

シャドウは、地図と指輪を受け取って、お礼を言って賢者の家を出ました。

シャドウはこの国の果てにある光の扉に向かいました。いくつもの山を超え、森を抜けると真っ白な光が溢れているところに出ました。一面、大理石でできています。そこに光輝く扉が立っています。他には何もありません。扉だけが立っているのです。

シャドウは不思議に思いましたが、扉の前に立つとカメオの指輪を扉の鍵穴にはめてみました。

すると、扉は開きました。

シャドウは扉の中に入って行きました。扉の中は長い長い光の廊下になっています。そこを抜けると大理石でできた大きな広間に出ました。シャドウが前に進むと、光をまとった綺麗な女の人が現れました。

「何をしに来たのですか?」

女の人がシャドウに聞きました。

「光の剣を探しに来ました。光の剣が必要なのです」

シャドウは、冬の女王と銀の軍隊の話をしました。光をまとった女の人は奥の部屋を指差してこう言いました。

「あの部屋に光の剣はあります。石の台に突き刺さっていますから、引き抜くことができたら差し上げましょう」

シャドウは奥の部屋の扉を開けました。部屋の真ん中に石の箱のような台があり、一本の剣が突き刺さっています。

シャドウは抜こうとしましたが、剣はビクともしません。

シャドウは、何度も何度も抜こうとします。指から血が出るくらい剣をにぎり、力いっぱい引っ張りますが抜くことはできません。

それでも、シャドウはあきらめることなんてできません。

ローズ姫や王様、国のみんなのことを思うとあきらめることなんてできないのです。シャドウは目をつぶり深く呼吸を、しました。

そして、育ててくれた騎兵隊隊長のマルゲンや騎兵隊の仲間、いつも明るく楽しい町の人々、優しい王様、それに命に代えても守らなければいけないローズ姫の姿が次々に浮かびました。

シャドウは呼吸を整えると静かに、そして想いを込めて剣を抜きました。

それまで、ビクともしなかった剣が少しずつ上に上がっていきます。

剣が全部抜けた時、まばゆい光に包まれました。

さっきの女の人がシャドウの横に立っていました。

「その光の剣はあなたのものです。その光の剣で皆を助けてあげて下さい」

そう言うと女の人は消えていきました。

シャドウは剣を持って闇の扉に向かいました。

闇の扉は、この国の北の果てにあります。シャドウは、地図を見ながら、またいくつもの山や森や湖を超えていきました。北に行くほど、暗くなっていきます。木々が枯れて岩がゴロゴロとしています。闇に支配されたような森です。暗くて冷たい森です。生き物の気配もしません。それでも、シャドウは前に進んで行きました。暗い森を抜けると今度は赤黒い岩がゴロゴロした広場に出ました。そこに闇の扉はありました。闇の扉は、黒くて古くて錆びています。扉の周りが闇に包まれています。

シャドウは迷うことなく闇の扉の鍵穴にカメオを嵌めました。闇の扉も開きました。中に入ると、真っ暗でゴツゴツとした岩の壁で洞窟のようになっていました。シャドウは手探りで、洞窟を進んで行きました。奥に入って行くと、コウモリやヘビ、クモやムカデが前に進もうとするシャドウの邪魔をします。足をつかむ亡霊まで出てきました。

シャドウは気にすることなく奥へと進んで行きました。洞窟を抜けると岩でできた大きな広間に出ました。

広間には、岩で覆われた大きな男が座っていました。

その岩男はシャドウの方を向くと睨んで立ち上がりました。

そして、こう言いました。

「俺を倒さなければ、この扉は開かぬ」

岩男の向こうに、大きな扉がありました。シャドウは扉を見上げてから岩男を見ました。

「ならば、あなたを倒すしかありません。みんなを助けたいのです」

シャドウは光の剣を抜きました。岩男も剣を抜きました。

シャドウと岩男は剣を交えて戦いました。岩男は打っても、打っても倒れません。本当に岩のように硬く強いのです。

シャドウも負けずに剣を交わします。

シャドウが後ろに一歩下がった時です、岩に足を取られてつまずいてしまいました。岩男は、シャドウの真上に剣を構えました。

すると、奥の大きな扉の向こうから声が聞こえてきました。

1人の声ではなく、大勢の人の声です。その声は「シャドウ!」と呼んでいます。

その声は、だんだん大きくなっていきました。その時です、シャドウの持っている光の剣が光り出しました。岩男は眩しさに後ずさりしました。シャドウはその隙に立ち上がり、今度はシャドウが岩男の真上に剣を構えました。

すると、奥の大きな扉の向こうから、小さな女の子の声が聞こえてきました。

「シャドウ、殺してはダメ!」

ローズ姫の声です。

シャドウは、剣を鞘に収めました。

「殺さないのか?」

岩男が聞きました。

「ああ、私はあなたを殺したいわけではないのです。あの扉を開けて、みんなを助けたいのです」

岩男は、シャドウの優しさに心打たれました。いえ、岩のようになった岩男の心をシャドウの優しさが溶かしたのです。

「その剣を扉に突き立てれば開く」

そう言うと岩男は消えて行きました。

シャドウは、扉に剣を突き立てました。

扉は開き、中から騎兵隊の人達や、町の人達、それに王様とローズ姫が出てきました。皆、抱き合って喜んでいます。

ローズ姫はシャドウに飛びつきました。

「シャドウが来てくれると思っていたわ。いつも、私を探して見つけてくれるもの」そう言ってローズ姫は微笑みました。

「お待たせしました、ローズ姫」

シャドウもニッコリ微笑みました。

シャドウは皆を連れて城へと向かいました。

冬の女王との戦いです。

光の剣を持ったシャドウに銀の軍隊はかないません。次々と銀の軍隊を倒して行きました。冬の女王が1人残りました。

シャドウは光の剣を構えました。

冬の女王はシャドウを氷に変えようとしました。その時、カメオの指輪が光り、シャドウは氷にはなりませんでした。何度も冬の女王はシャドウを氷にしようとしましたが、その度に指輪が光り、氷にはなりません。冬の女王は、突然姿を消して風になって窓から出て行きました。

ローズ姫はシャドウのそばに行きました。

「もう大丈夫なの?」

「もう大丈夫ですよ。冬の女王はいなくなりましたよ。」

それから、バラの国は平和になりました。前のようにバラが咲きほこる国に戻りました。ローズ姫が16歳になると、この国と国民を守ったシャドウと結婚することになりました。シャドウは、カメオの指輪をローズ姫の薬指にはめました。

「この指輪がローズ姫を守ってくれますよ。私もローズ姫をお守りします」

シャドウはそう言って微笑みました。


外を見ると吹雪は止んでいました。

「ロティ、今夜は冷えるからね。早くお休み」

おばあさんは、ロティにショールをかけてあげました。

「おばあちゃん、今日のお話は大好きよ。だって、わたしと同じ年のお姫様が出てくるもの。わたしもシャドウみたいな騎士がいればいいのになぁ」

「きっと、現れるよ。ロティを守ってくれる騎士のような人がね。さぁ、もうお休み」

「また、お話してくれる?」

「あぁ、ロティがいい子にしていたらね」

ロティは眠い目をこすりながらベッドに入って行きました。

おばあさんは、また糸車を回し始めました。

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