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2 怖気付いた聖剣 恥をかいた剣聖

(おお落ち着くんだ。まだそうと決まったわけじゃ……イヤ、諦めよう)


 期待と興奮はどこへやら。もう僕の中にはこの先の人生、もとい剣生への不安しかない。


(だが待てよ)


 ここで一転、ポジティブに考えてみる。

 かつてはドット絵でしか表現出来なかった初代FOQ。しかしこの世界では、超ハイスペVRとして体験出来るのではないか?

 これはまたと無いチャンス。しかも聖剣視点とか迫力ヤバ過ぎじゃん!


 クラストが剣の柄を握る。痛みはない。だが頭を締め上げられている様な変な感覚だ。彼は目を閉じて意識を集中している。


 僕もこれから始まる冒険に想いを馳せて視界を閉じる。まぶたの裏には数々のイベントシーンが思い起こされる。


 樹海のダンジョン探索。

 エルフとの異種族問題。

 火山のドラゴンとの対決。

 魔人の騎士との決闘と敗北。


 そこまで来て思考がピタリと停止した。


(確かガヴリールって負けイベで折られるんじゃなかったっけ?)


「聖剣よ、俺に力を!」


(いや、待て待て待て! やばっヤバイヤバイ)


 僕は念じた、願った。引き抜かれてくれるなと。死ぬのが決まってる旅なんか冗談じゃない。


 かくして、クラストの叫びと共に聖剣は輝きと共に台座から引き抜かれ……無かった。


 沈黙。


 何かがおかしいとクラストの方も気付いたようだ。剣の鍔を両手で掴み、全力で引き抜こうとする。


「どうしたのだ、剣聖よ?」


「アレ、いや、そのですね」


 ここは王の御前だ。流石に恥ずかしかったのか、色白の顔は真っ赤に染まっている。力を入れるとその顔は益々紅潮した。だが僕も負けるわけにはいかない。


「まさか抜けないのですか?」


 2人の若者がクラストの側に駆け寄った。一人は背の高い筋肉質な男で、もう一人は白いローブを纏った金髪の女性だった。

 勇者の仲間、豪傑グスタフに聖女マリアンヌだ。


「どれ、今度は俺が」


 今度はグスタフが鍔に手をかける。クラストの兄貴分でもあるグスタフは、鉄壁の豪傑とも呼ばれる熊のような男だ。

 ゲームではパーティの壁として頼もしい存在だが、今の僕にはその極太マッチョな腕は恐怖でしかない。


「もう良い、勇者たちよ」


 止めに入ったのは王様だった。その顔には諦めの色が浮かんでいる。周りのモブ達もつまらなそうな顔をしていた。中には帰る者の姿も見える。


「ガヴリールは、天性の剣才ある者が聖剣に認められてこそ手にする事が出来る。

 おいそれと力で引き抜いて良いものでは無い」

「国王陛下。申し訳ございません」


 クラストに続いて残りの2人も王様の前にかしずいた。


「気にするな。例え聖剣に選ばれずともお前たちの力はこの国1番だ。それはワシが認める。なぁ皆の者?」


「そうだそうだ!」

「聖剣がなんだー!」

「そんなのに頼らなくてもアンタ達ならやってくれるだろー!」

「俺は信じてるぞー!」


 次々と沸き起こる声援を背に、王様はニカッと笑いかけた。


「だからそう暗い顔をするでない。お前たちはまだ若い。旅の途中で腕を磨き、またこの国に立ち寄ることが有ったらその時に挑めば良い」

「しからば、我ら3名聖剣なくとも必ずや魔王を倒して参ります」


 意を決してクラストは立ち上がる。


 民衆の声援を受けながら、今勇者の冒険が幕を上げたのだ。


 パパパパーッーチャラッラララララ!


 本来ならばここでテーマソングが流れる。勇者の旅立ちを壮大に演出するのだが、今の僕にはどうでも良かった。


(ハァハァハァハァ……助かった)


 なんとか無事に済んだようだ。

 負けイベで折られたら僕はどうなってしまうのだろう? もしかしたらまた死んでしまうのだろうか?

 それだけを考えていた。


 一応、ゲーム終盤に打ち直されるし、他にも何か裏ワザがあった気もする。とは言え、一度でも折られたらどうなるかわかったもんじゃない。


 取り敢えずは助かったようだ。命の危険が去ったと分かると思考にも余裕が出てくる。

 ホントにこれで良かったのだろうか。少し冷静になると、今度はまた別の疑問が湧き上がってくる。


 僕は助かった。

 でも、聖剣の無い勇者達はこの先どうなるのだろう? 旅の途中で殺されてしまうんじゃないだろうか? そうなったらこの国の人はどうなるんだ?


 次から次に恐ろしい考えが頭をよぎる。ゲームではこんな始まりにはならない、これではまるで僕が見殺しにしたみたいじゃないか。


(待って! 待ってくれ! )


 僕は必死に呼びかけたが誰も応えてはくれない。みんなが旅立つ勇者に手を振る。僕も一緒になってその小さくなる背中を眺めることしか出来なかった。


 後悔の念に駆られながら。

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