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27 血濡れの不死鳥

 土埃が落ち着いて視界が戻る。


 クラスト達は無事だった。皆んなかなりの重症だが、まだ息はある。そして彼らとサンダースとの間に、割って入った影が1つ。


 小ジワの目立つ顔にだらし無く出た下っ腹。ロングスカートに巻いた青い前掛けは体型に合わせて伸びてヨレヨレになっている。チリチリの癖っ毛は土埃で白髪の様になっていた。

 一見するとそんじょそこらのオバちゃんだ。実際都で宿屋をしている彼女だが、今の僕にはこの上なく頼もしく見えた。


(オッおゔぁぢゃんんん……)


「情けない声出すんじゃないよ。

 ごめんねぇ。父ちゃんの腰が治ってからすぐ来たんだけど。だいぶ遅刻しちゃったみたいだねぇ」


 ペロリと舌を出してオバちゃんはウインクした。まさか都から魔王城までワザワザ来たというのだろうか。何が何やら凄すぎて言葉が出ない。

 涙や鼻水の代わりに、ヒビ割れた欠片がポロポロとこぼれる。


「その剣筋、ノザリスでも思ったが少しも昔と変わらんなぁ。むしろキレが増してるんじゃないか。嬉しく思うぞ」


「そう言うアンタは本当に変わっちまったねぇ。そんな見るからに危なそうなモン振り回してさ」


 サンダースは歯を剥き出しにするとこの上なく邪悪な笑みを浮かべる。


「俺こそ何も変わってはいない。今も昔もただ力を追い求めるだけだ、不死鳥よ」


「その名で呼ぶんじゃないよ!」


 不死鳥、確かに今オバちゃんの事をそう呼んだ。その単語には覚えがあった。何だったかな。ノザリスで聞いたような。


(……血濡れの不死鳥)


 ボソリと呟いた僕の言葉に、アラヤダッとオバちゃんは驚いた顔をした。鍔の辺りに顔を近づけると小声で話し始める。


「ボウヤ知ってたのかい?」


(確か凄腕の傭兵だったって)


「昔の話なんだけどねぇ」


 そう言うと指で頭をポリポリとかいた。


「よそ様にはとても言えない悪い事もいっぱいしてきたんだよ。隠しててゴメンねぇ」


 なるほどそう言う事だったのか。それならこれまでの戦いでのオバちゃんの強さにも説明がつく。

 魔物と始めて出くわしても終始冷静だったのは、戦いの場数の多さゆえだろう。

 魔人の騎士サンダースが認める程の剣の腕前なら、ガヴリールが引き抜けたのにも納得できる。


「隠す事など何もないだろう。むしろお前はその剣の強さを誇るべきだ」


「まったく、まだそんな馬鹿な事言って。その感じだと魔王はアンタが倒したんだろう。もう十分力は示した。いい加減に剣を置いて、後は若者に道を譲ってやったらどうなんだい」


「これはまた異な事を言う。その若者が不甲斐ないだけの事だ。

 それに道を譲ったと言うのなら、なぜお前はまた剣を取り俺の前に立ちはだかる?

 結局はお互いに、戦いの興奮が忘れられんだけだ」


 鬼気迫る眼光で見つめるサンダースから、オバちゃんはそっと足元に視線を逸らした。


 それは図星を突かれたわけでも、ましてや気圧されたわけでもなかった。何故ならオバちゃんは笑っていたからだ。


 片目だけを細めて唇を歪に曲げた苦笑い。馬鹿やってる幼馴染みを見て、呆れる様な懐かしむ様な、そんな笑みだった。


「いいかいよくお聞き!

 若者に道を譲ってやるのが大人なら、若者の為に道を切り開くのもまた大人の仕事さ。私が剣を握る理由はそれだけだよ」


 オバちゃんが僕を握る手に力を込める。


「血濡れの不死鳥キャロライン=フェニックス。ここまで言って引かないなら相手になるよ! 」


「それこそ願ったり叶ったりだ! さぁどちらが上か決着をつけよう」


 俄然闘気を滾らせるサンダース。決戦を前にオバちゃんは小声で僕に謝った。


「ゴメンねボウヤ。そんなボロボロなのに、さらに無理させちゃうけど」


(構わないよオバちゃん。笑っても泣いてもこれで最後。さぁ僕達で決着をつけよう!)


「フッ、言うようになったじゃないか。なら本気のオバちゃんの剣さばき、ついてこれるかな?」


(そっちこそ。伝説の聖剣の力、ちゃんと使いこなしてよ?)


「ゆくぞおおおおおおっ!!」


 サンダースが咆哮を上げて魔剣を振りかざす。それに合わせて周囲の炎がバルログに引き寄せられた。

 魔力を圧縮した2撃目が飛んでくる。先ほどのが焔なら今度はマグマといったところだ。

 サンダースも本気を出したという事だろう。


 だがオバちゃんは僕を見てニヤァと意地悪な顔をすると、そのマグマの塊を突っ立ったまま片手で軽く薙いでみせた。

 無駄な動きはないがそれだけだ。当たればオバちゃんもだが背後のクラスト達も助からないだろう。


 現にマグマに触れた瞬間、僕の身体は溶け出し始めた。さっき以上の重い痛みが身体を駆け抜ける。まったくオバちゃんも人が悪い。


(エクスゥ……ガブバアアアアァ!!)


 気合いで痛みを誤魔化す、これが意外と馬鹿にできない。

 叫びに呼応するように僕の身体が輝き出した。光の強さに反比例しながら剣の長さも太さもどんどん縮んでいく。

 オバちゃんが薙ぎ払った時にはすっかり片手剣の大きさになっていた。


 光がマグマを中和したのか、周囲の被害は皆無だ。このガヴリール改め、真聖剣エクスガブバーが本気を出せばこれくらい朝飯前だ。


「どうやら口だけじゃ無いみたいだね、安心したよ」


(大見得切ったからにはこのくらい何ともないぜ)


 そうは言ってみたものの、実際はかなり肝を冷やした。それでもオバちゃんが側に居るだけで安心感は全然違った。無事に変身出来たのもその辺が関係してると思う。もう自分には限界が無いとまで思えてくる程だ。


(さぁ、ここから反撃開始だ)

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