25 魔剣バルログ
(やっぱりこうなるのかよ)
再び対峙したサンダースの気迫に、僕は身震いした。
何せこっちは一度殺されかけているのだ、怖くないわけがない。それはクラスト達も同じ気持ちだと思う。
しかも魔王を倒したとなるとその強さは計り知れない。
ノザリスでの戦いを思い起こし、息を飲む。オバちゃんが居ない今、全滅させられても不思議じゃない。
しかし強敵相手にビビっていたのはどうやら僕だけのようだった。
苦戦は必至だと思われた。だけど3人は今も必至に喰らいついている。トラウマを感じさせるどころか、寧ろ優勢ですらあった。
サンダースの渾身の振り下ろしをガヴリールで受ける。わずかに足が地面にめり込んだ。だがマリアンヌの守護魔法を受けたグスタフは、怯むことなく鉄塊を払いのける。
すかさず背後からフランベルジュの斬撃がサンダースに襲いかかった。
「コイツら、ウロチョロしおって」
サンダースが苛立ちの声を上げる。鋼鉄の鎧は厚くて硬い。致命傷こそ無いものの、勇者達の攻撃は確実に敵の体力を奪っていった。
あの時は街に入り込んだ魔物の対処で、3人はバラバラに行動していた。だからサンダースに各個撃破された。
だが今回は違う。勇者達の息の合った連携こそが、本来の戦い方であり最大の強みなのだ。
1本では容易く折れるが、3本重なれば折れにくい。日本史は詳しくないが、どこかの戦国武将が言ったのはこういう事なのかと納得する。
このまま行けば勝てる。
グスタフの重い一撃が、サンダースを捉える。強者を斬り伏せてきた大剣が斬撃を防ぐ。何度も繰り返されてきた攻防。
しかし、鉄塊が僅かに軋む音を、僕は聞き逃さなかった。
敗戦からの善戦を経て、勝利は今確信に変わる。
「オラアッ!」
鍔迫り合いからのグスタフの更なる押し込み。
背後からの攻撃を警戒していたのだろう。サンダースは一瞬反応が遅れ、ついに押し負けた。大きく体をぐらつかせる。
何とか体勢を整えようと大剣を突き立てる。その瞬間、ビキリと剣身が悲鳴をあげた。
激戦に次ぐ激戦。大剣はサンダース自身の重さに耐えられず、ついに刃こぼれをおこした。
あれだけの大きさだ、ヒビの入った剣身ではいつ折れても不思議じゃない。それでも折れた剣を持って襲ってきそうな相手ではあるが。
「フッ。まさか不死鳥以外で、俺をここまで追い詰める奴がいるとはな」
サンダースは立ち上がると大きく息を吐いた。そして片手で大剣を放り投げた。
地面に落ちた衝撃でアッサリと2つに折れる。長年の相棒であったろうにそこに未練は無いようだった。
(まさかこれで終わりってワケじゃないよな)
クラストとグスタフはサンダースを挟み込む様に立ちながらも、決して武器を持つ手を緩めない。
負けを認めていない事は相手の目を見れば明らかだ。
「早速コイツの出番がやってくるとはな。せいぜい役に立ってくれよ魔王サマ」
腰に手を回すとサンダースは何かを取り出した。やはりまだ切り札があったかと一同身構える。だが、それが剣だと咄嗟には気づけなかった。
形状としては細剣の一種に見える。見た感じ女性でも片手で扱えるほどの細さではないだろうか。先程まで振り回していた巨大な大剣と比べれば余りにも貧弱な装備。サンダースの巨体も相まってオモチャの様ですらある。
柄の先に髑髏を模した装飾が施されており、剣身も骨を意識した模様が刻まれている。
予感があったとは言え、形状を目にして僕は驚愕した。
その名を「魔剣バルログ」という。
魔王の魔力が体内で結晶化して剣の姿をかたどったものだ。そしてガヴリールと対をなす恐るべき魔剣だった。




