24 魔王を殺す者
暗闇の中では時間の感覚が分からなくなるという。僕は今まさにそれを実感していた。
わずかな魔法の光が周りを照らしてくてはいる。しかし、大穴の暗闇の中では些細なものだった。
だから眼下に別の明かりを見つけた時は心のそこから安堵した。クラスト達も同じの様で、降りるペースも心なしか早くなる。
明かりの正体は炎だった。人ひとり分はあろう大きさの石製の燭台。
それが一定の間隔で2つづつ通路脇に置かれている。まるで滑走路の様だ。その先に黒光りする玉座の影がうっすらと見えた。
(いきなりラスボスかよ)
僕は息を飲んだ。この場所には覚えがある。ラストダンジョンの最奥、魔王城の玉座の間だ。
「思ったよりも早かったな」
影がゆらりと動き立ち上がる。対するクラスト達も緊張と共に武器を構え直した。
グスタフもスラリとガヴリールを引き抜くとピタリと剣先を影に向ける。完全に聖剣の重さを克服したようだ。
「決着をつけるぞ、魔王!」
気迫溢れるクラストとは対照的に、影は身構えることもなく首を傾げる仕草をした。
「魔王だと。魔王なら既に貴様達の足の下ではないか」
クックックッと小刻みに影が揺れる。
驚いて下を見ると、何かが飛び散ったような跡と不揃いな塊が転がっている。
目を凝らして見てもイマイチよく分からない。此処が暗いのもあるが、原形を留めていないくらいバラバラにされていたからだ。
辛うじて理解出来たとすれば、ソレが黒い布を纏っていた事と僕の予想が当たってしまった事くらいだ。
「コレが魔王だと言うなら、貴様は何者だ?」
「何者か、か。よもやこの顔を忘れたわけではあるまい」
影が歩みを進めた事により、炎に照らされてその顔が露わになる。
激しい気性の如き逆立った髪。獣の様な鋭い眼光。彫りの深い武人のような顔立ち。
確かに僕たちはその男を知っていた。
「お前は、魔人の騎士?」
ノザリスで戦った魔人の騎士、サンダースがそこに居た。
「なぜ驚いた顔をする。配下である俺が城にいるのはごく普通の事だと思うが?」
「ふざけるな!何故その配下が王に手をかけた?」
僕たちの戸惑いを嘲笑うかの様に、サンダースは唇端を釣り上げた。
「なぁに、この前の戦いで気づかせてもらったのさ」
「どういう意味だ?」
クラストが怪訝な顔をする。僕も同じ気持ちだ。サンダースは深く息を吐いた。
「俺は長い間、強者と闘う事のみに生きてきた。魔王の手下になれば強者共と戦えると。しかし、どうやらそれは勘違いだったようだ。そして気がついたのだ」
そして散らばった肉片をチラリと見ると言葉を続ける。
「最強の相手ならすぐ側に居た事にな」
僕は全身がゾクリとした。サンダースは野心からではなく、単純に強者と戦う目的で魔王を殺したのか?
だとしたら狂っている。何をしでかすか分からない分、魔王よりも危険かもしれない。
だが、僕はその後のクラストの行動を見て更に驚かされた。
彼は数前に進むと、サンダースの前であろうことか国王様にするのと同じ様に跪いてみせたのだ。
「貴様、何のつもりだ?」
この行動には僕もグスタフもマリアンヌも、そしてサンダース本人もア然としてしまう。
「理由はどうあれ、貴方は魔王を倒した。世界を救った英雄に敬意を表するのは普通の事だと思うが?」
その発想は無かった。と同時にこの意趣返しには正直舌を巻いた。
人の良い好青年とは思っていたが、伊達に勇者の肩書きを拝しているわけではないのだ。
「フフフッ勘違いするなよ」
サンダースは玉座に立て掛けてあった大剣を掴んで振り回した。
ゴウンッと突風がその場を渦巻く。衝撃は凄まじく燭台の炎を吹き飛ばした。
幸い大穴からは淡い光が差し込んでいる。日が昇ってからかなり時間が経っていたようだ。
「俺は英雄になりたいワケじゃねぇ。それにお前らも魔王を倒す気で来たんだろ?」
サンダースの身体から殺気が膨れ上がるのが分かる。クラストもこうなるとわかっていたのだろう。立ち上がってサンダースをキッと見つめた。
「だったらその力、この俺に見せてみろっ!」




