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1 気がつけばFOQ

 何やら周りが騒がしい。


(どこだここは?)


 意識を取り戻して、まず目に入ったのは灰色だった。空全体にかかった雨雲だ。次に周りを見れば、大勢の人が遠巻で僕を眺めていた。

 川に落ちた後、救助されたらしい。


 不思議な事に寒さも濡れた感触も無い。身体も上手く動かせない。まさか首を打っての全身麻痺か?

 打ち所が悪かった事を嘆けばいいのか、命があった事を喜べばいいのか。


 とりあえず救急車が来るまで大人しくしていよう。


 10分程経ってから変な事に気が付いた。野次馬達は離れて見てるだけなのだ。時折子供が僕の方に駆け寄ろうとするが、すぐに親に止められていた。

 はたして救急車を呼んでくれたのかも怪しい。


 大人に子供に老人と野次馬の年齢層は様々だ。しかし、みんながみんな同じような無地のシャツを着ている。色が違うだけで他は同じ、少し不気味だ。


(そういえばガヴリールはどうなったんだ? )


 なんせ重さが重さだ。僕ですら引き揚げられたばかりなら、まだ川底にあるのが普通だろう。

 でも、運良く川辺に落ちたかもしれない。


 僅かな期待を胸に、僕は周りに視線を飛ばす。そして声を失った。

 山の上にお城が建っているのが見えたからだ。


 ここには僕がいた橋も川も無い。人だかりに目が行っていて、今気が付いた。


 僕の住む町はそれなりに歴史があった。お城ならいつも教室の窓から見ているが、そういう事では無い。西()()()城だ。某夢の国なテーマパークっぽい景色が僕の前に広がっている。


 街並みもどこか彩りがある。煉瓦造りの建物が目立つし、足元の道も石畳だ。


(どうなってるんだ?)


 どうやら橋から落ちただけでは無いらしい。夢を見ているのか、ここが天国なのかは分からない。ただここは僕の知っている町じゃないのは確かだ。


 頭の混乱が酷くなる中、人だかりから男の人が出てきた。ゆったりとした足取りで近づいてくると、僕の前に立った。


 赤いマントに輝く王冠。顔には白くて長い髭を生やしている。手には短い杖の様なモノ……ってこの人はまさか王様!?

 この後に及んでコスプレとか勘弁してくれ。


「我がグラール王国の民よ」


 王様らしき人は天に向かって両手を広げる。そしてクルリと民衆の方へ振り返った。


「諸君らも知っての通りだ。地の底より魔王が復活した。そして世界を手中に収めんと魔物を生み出していると聞く」


 なんだこの人。魔王とか魔物とか、いきなりゲームみたいな事言いだしたぞ。

 でも、グラール王国、どこかで聞いたことがある気がする。それにこの町の雰囲気も懐かしいような。


「だが我々は黙って滅ぼされる訳にはいかない。今こそ我が国の伝説が真実だと証明する時だ!」


 うおおおおおおおぉぉ!!


 王様の演説が終わるや民衆達が歓声を上げる。

 その鼓膜が破れかねない叫びが、僕の記憶を揺さぶり起こした。


 グラール王国は確かFOQ(フォッキュー)の舞台だ。そして先程の王様のセリフ。

 間違いない、ここはFOQ (フォッキュー)の世界だ。

 それなら、周りの市民の服が似たり寄ったりなのも納得がいく。だって元はドット絵だし。


 ゲームの世界にきてしまったのか、よく似ているだけで別の場所なのか。

 真実は不明だが、目の前に繰り広げられているのは紛れも無い現実。初代FOQ(フォッキュー)のオープニングそのままだった。


 これが漫画とかでよく見る異世界転生というやつだろうか。水に落ちる時まで一緒だったガヴリール(レプリカ)の導きに違いない。


 しかも今は勇者の旅立ちにシーンだ。

 目の前には王様がいて、みんなが僕に注目している。ということは僕が転生したのはまさか……


「剣聖の勇者、クラストよ」


 僕の方に振り返った王様は確かにそう口にした。


 キッキキキキターーーー!


 クソ重い思いして、轢かれそうなって、でも結局死んで、散々だったけどまさか主人公のクラストに転生してしまうなんて。

 聖剣の加護ってホントにあるんだ。大金叩いた甲斐があったよコレ、これから勇者として第2の人生が始まるんだ。

 しかも、もしかしたら一緒に旅するヒロインの高飛車聖女のマリアンヌとあんなことやこんなことも出来たり……


「ハイッ!国王陛下」


 威勢のいい、それでいて春の風の様に爽やかな声が響いた。僕の気持ち悪い心の声も一瞬で吹き飛ばされてしまった。


 そして悟った。僕は勇者じゃないと。


 誰からでもなく、自然と民衆達は左右に分かれ道を作った。その爽やかな男の為だ。華麗な所作で道を歩くと、王様の前で膝を曲げた。

 真ん中で分けた不揃いな金髪。蒼い瞳、銀の胸当てをつけた男を僕はよく知っている。

 彼こそ剣聖の勇者クラストだ。ゲームのパッケージそのままの姿だ。


 まぁそんな都合の良いこと無いか。僕は冷静さを取り戻す。それじゃあ僕は一体誰に転生したのだろうか。

 目の前には王様と勇者が居る。これだけ注目を浴びてるのだ、ただのモブなワケが無い。

 残る候補となると、パーティの仲間であるグスタフとマリアンヌが挙げられる。


 僕は無意識に首を傾げようとして、改めて身体が動かない事を思い出す。同時に周りが見えるという違和感にも気がついた。

 首が回らないにも関わらず、視界は上下左右見渡せるのだ。高さも地面に寝そべってるにしては妙に高い。


 もちろんこの場所から動けないし自分の体を確認する事も出来ない。例えるならば機器着けずにVRゲームをしてる感覚だ。


「聖剣ガヴリールとそしてこの世界の未来。お前に託すぞ」


 クラストが僕の方に近づいてきた。ズンズンと僕の視界を埋め尽くしていく。密着し過ぎてもう股間しか見えない。


(まさか……)


 信じられない予想が頭をよぎる。


(僕が聖剣ガヴリールなのかあぁ!? )

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