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11 城塞都市ノザリス

 その後は無事に山道をおりることが出来たが、ロックゴーレムを皮切りにチラホラと魔物の姿を見る事が多くなった。


 岩山を越えたのならば、国の兵士による見回りも期待できないだろう。出くわす人の数もかなり少なくなり、たまにすれ違う商人も皆んな少なからず武装した護衛を連れている。


 オバちゃんは周りの状況を慎重に観察するようになり、魔物の姿を見つけるや否や回り道をして極力接触を避けていた。見つかってから逃げ出す事も何度かあったが、いざ聖剣を抜く状況に追い込まれたのはゴーレムを除けば一回だけだった。

 戦闘といっても、邪魔な所に陣取っていた人喰いガエルを後ろから叩き潰しただけなのだが。


 戦いを避け続けて、精神はどうか分からないが体力的にはいくらかオバちゃんは余裕があるようだった。見通しが良い道なんかを歩いてる時には鼻唄を口ずさんでいたりする。


 それに比べて僕は精神的にかなり疲弊をしていた。


 ロックゴーレムに植え付けられたのか、相手が雑魚の魔物でも戦いそのものに恐怖を感じるようになったのだ。

 その事をオバちゃんに話したら「それが普通だよ」と何てことも無いように笑い飛ばされた。別の世界関係無しに、訓練も受けてない若者が命の奪い合いなんか出来やしないと。

 だからオバちゃんは体力を温存するだけでなく、僕に気遣って戦いを避けてくれているのでないかと思っている。一方的に人喰いカエルを潰した時の感覚ですら気分が悪くなったんだから、優しいオバちゃんには僕の知らないところでも色々助けられているかもしれない。


 でも1番僕の精神的な苦痛の原因になったのは、暇さえあればオバちゃんの夜の武勇伝を聞かされ続けた事だろう。


 こうして僕の精神以外には、大きな痛手も無いまま無事にノザリスまでたどり着く事が出来た。

 ノザリスの街、別名城塞都市ノザリス。名前に偽りのない厚く高い城壁と深い水の堀が街全体をぐるりと取り囲むグラール王国の北の要衝。四方に建てられた跳ね橋以外に中に入る手段は存在せず、北方諸国に睨みを利かせる為に作られた。

 もっとも今は北から押し寄せる魔物達への前線基地としてその堅牢ぶりを発揮している。


 一望できる丘の上、周りの安全を確認しながら観察する。夕方前に着く予想を立てていたが、まだ日は南に登り切ってもいない。非常に良いペースと言える。


 だが問題は街の方にあるようだった。


「アレは、煙?」


 あらためて視界に捉えた街と地図を見比べてみる。周辺の地形との位置関係からして目的地で間違いなさそうだが地図と違うのは全体が黒い煙に覆われている点だ。

 街からは至る所から煙が上がっている。西側から燃え広がっているようだが、幸い炎はまだ確認出来ない。規模からしても火事やボヤ騒ぎであるはずもない。

 FOQ(フォッキュー)でも、そして聖剣ガヴリールにとっても重要なイベントの起こる街だ。僕は嫌な予感しかしなかった。


「走るよ!」


 今は少しでも時間が惜しい。言うが早いか、オバちゃんは駆け出していた。


 近づくに連れて次第に状況がつかめて来る。どうやら戦闘の真っ只中らしい。堀を挟んで街を守る壁を魔物、オークの群れが取り囲んでいる。


 豚の頭と巨体が特徴のオークは、腕力こそ脅威ではあるものの見た目通り知能は豚並みに低い。その証拠に、手近にある武器や石は分かるとして、最悪仲間の死体を投げつけて壁を砕こうと攻撃を仕掛ける。


 その一方で城壁に一定間隔に開けられた穴から、指揮官の掛け声に合わせて矢が放たれて行くのが見える。

 兵士に比べて統率が取れていないオークは弓の斉射の的として処理されていた。しかし相手は人間ではなく魔物、いかんせん生命力が強くてハリネズミみたいな姿になっても倒れないヤツもいた。


 今は持ち堪えているけど、長引けば不利になる事は容易に想像出来る。


「このまま突っ込むよ!」


 剣を抜くとオバちゃんは臆する事なく群れに切りかかった。数こそ多いもの幸いオーク共は目の前の城壁に注目している。手近にいた最初の獲物をカエル同様、後頭部へのクリーンヒット1発で沈める事が出来た。


 何が起きたのか分からないまま、斧を手にしたオーク達が後ろを振り向く。だが群れの隙間を駆け抜けながら、器用に体を回転させて、今度は2体の魔物の首を同時にへし折った。ブモオォと叫ぶ豚の断末魔。


 後方からの突然の奇襲。当然オークの群れは大混乱に陥った。

 オバちゃん目掛けて、斧が振り下ろされる。だが刃が体に届くことは無い。スルリと躱され、仲間の背中を斬り裂いた。


 考え無しに密集していていたのだ。そこで暴れては同士討ちにもなるだろう。

 そして激昂したオークが、また別の仲間に攻撃を仕掛ける。


 血と刃が乱れる戦場を掻き回しながら、オバちゃんは堀を飛び越えた。突き刺さっていた斧の柄にバランス良く足をかける。


 城壁の脆い箇所を目ざとく見つけると、一息で上まで駆け上がっていくのだった。

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