二話
執筆進まねぇ!
昨晩は眠れなかった。
現実ではないと頭の中で分かっていつつも頭にこびりついたあの光景は離れて行ってくれなかった。だが日常というものはそう簡単に崩れるようにはできていない。今日も今日とて学校に行かなくてはならない。
鉛のようになった体を起こし、学校に行く支度をする。
家を出て、玄関先でお隣さんと挨拶を交わし、学校に向かう。
教室に入ると美月が声をかけてきた。
「おはよう」
「ん」
軽く返事だけ返す。
「そのすごい隈どうしたの?」
美月は、心配そうにこちらをうかがってくる。
「寝れなかっただけだ。」
素直にそう答えると
「えっ、なにそれw、もしかして楽しみで眠れなかったとか?」
美月は、少し小馬鹿にしたようにからかってきた。
楽しみ?何のことだ、楽しいことなんて.....あっ
そうだ、昨日については、白昼夢の事ばかりに考えがいってしまいがちだが昼ごろに隆とコスプレ少女捜索の話をしていたんだった。
危ない危ない、危うく金目の話を忘れるところだった。
キーンコーンカーンコーンと授業の予鈴が鳴る。
白昼夢のことはいったん忘れよう、こういうときは楽しいことを考えるべきだ。
そう考え、人心地ついたからか、忘れ去られていた眠気が大きな波となって襲ってきた。
思っていたよりも切り詰めていたらしい、心地の良いそれに抵抗せず身をゆだね意識を手放した。
「おーい、起きろ!」
激しく肩をゆすられ、バランスを崩し椅子からずり落ちると同時に、目が覚める。
「うわっ、よだれ垂れてやがる、汚ったな!」
自分は急いでティッシュを二、三枚取り出し、机をごしごしと拭く。
ふき取ったのを確認してから隆が「昼めし食いに行こうぜと」切り出してきたので、うなづいて、購買に向かった。
購買で焼きそばパン三つとコーヒー牛乳を購入し、四人席の隆の向かい側に座る。隣には美月が来た。
周りは騒がしく、隆の声は、身を乗り出してやっと話が聞こえるぐらいだった。
「早速で悪いんだが、コスプレ美少女の件で目撃者とコンタクトが取れた」
「仕事が早いな」
「まあな」
「目撃者の記憶は消えるんだろ?その子は特別とか?」
「わからん、俺の知っていることはその目撃者が写真部の娘だということだけだ」
「名前は?」
「七海紗耶香というらしい」
なるほど、会ってみないと何もわからんか。そうとわかれば写真部に乗り込むだけだ。
隆が、続けて
「放課後に写真部に聞き込みに行こうと思う。一応確認するが二人とも何か予定は?」
「ない」
「私も特にないかな~」
「じゃあ決定だな」
キーンコーンカーンコーンと放課後を知らせるチャイムの音とともに隆が小走りに駆け寄ってきた。
「それじゃあ行こうぜ」
「ん、了解」
「わかったー、写真部ってどこだっけ?」
「確か、旧館の二階だったはず」
「じゃあすぐだね」
自分の高校は新館が三階建てで一学年ごとに階数で区切られていて、旧館が二階建てで部活の部室や資料室に今では使われている。そして、それらがL字のようにつながっているので二学年の自分らは階段を下りずに写真部の部室に行けることになる。
隆が先導する形で写真部の部室に向かう、といっても距離が近いのでものの五分足らずでついたが。
写真部の部室の前につくと、ぱっと見部室には人がいる気配がなかった。当然といえば当然だろう、授業終わってすぐに来たのだから。とりあえずこのまま部室の前で待っているのか目線で隆に尋ねる。
「すぐに写真部の人たちが来るだろうからこのまま待ってよう」
「待つ必要もないみたい」
美月の視線の先に目を向けると女子三人組がこちらに向かって来る。
「あれ、うちらに何か用?」
「はい、七海紗耶香さんに聞きたいことがあって」
「紗耶香知り合い?」
「ううん、知らない人」
「あー、聞きたいことって何?」
「ええっと、コスプレをした女の子を目撃したと聞いたんですが..」
「あのそういうのやめてもらえます、紗耶香のことを何も知らない奴がこっちのプライベートに..」
「綾香ちゃん、いいってそんな深刻な話でもないし大げさだって」
「でも..」
「綾香ちゃんの気持ちはうれしいよ」
「うん」
「ええっと」
いきなり女子二人で自分たちの世界を作ってしまい隆も困惑顔だ。
「ああ、ごめんなさい。私が七海紗耶香です」
と三人並んでるうち右端のショートボブせでクリっとした目が特徴の物腰が柔らかそうな少女が名乗り出た。真ん中にいるロングストレートでツリ目の気の強そうな子が,綾香とかいうやからだろう。
「それで私の隣の彼女が草壁綾香ちゃんで端のおとなしい子は斎藤美香ちゃん」
「ああ、よろしく七海さん、草壁さん、斎藤さん」
「とりあえず、廊下で話すのもなですから部室に入って下さい」
七海はそう言うと部室のカギを開け、自分らを中に通した。
部室の中はこざっぱりとしていてぱっと見、かたづいている印象だ。よく見渡せば部屋の隅に三脚などの機材が置かれており、部活動の影がみられる。部屋の中央には長机が一つあり、それを囲むようにして椅子が置いてある。
草壁がおもむろに窓際の席に座り、足を組む。
「適当に座って、特に席は決まってないから」
「じゃあお言葉に甘えて」
「あたしもー」
「...」
七海、斎藤が座り、その向かい側に座る形で隆、美月、自分という形で座る。
「いきなりで悪いんだが本題に入らせてもらう」
「俺たちは深夜に見かけるというコスプレ少女について調べてるんだが」
「俺のつての話によると、七海さんあなたが目撃したらしいといううわさを聞きつけてね」
「実際に来てみた次第というわけなんだ」
「そうですか、私が一時的な記憶消失の症状があるのはご存知ですか?」
「いいえ、目撃したという話しか聞いてません」
ですが、と続けて
「コスプレ少女に出会うと記憶喪失になるという話は聞いたことがあります」
「それを踏まえて詳しい話を聞きたいのです」
「そうですか、わかりました」
「綾香ちゃん、部活動の事話していいよね」
「紗耶香のことなんだから紗耶香の好きにして、」
「うん。私たち三人で写真部をしていて、部長の綾香ちゃんのグループで話題に上がった謎の多いコスプレ少女の正体を突き止めようという話になったらしいんです」
「それで写真部で写真を撮るということになりまして、一昨日の十時に学校前で集まったんです」
「それから三人それぞれ手分けして探そうということになって、別れたんです」
「私は、学校から真っすぐ駅の方面に向かったんです」
「そしたら踏切の近くにゴスロリの女の子が空から降ってきて..」
「ごめん七海さん、空から降ってきたって聞こえたんだけど?」
「ごめんなさい、何言ってるかわかりませんよね」
「でもほんとなんです!」
「みんな信じてもらえなくて...」
「オーケー、オーケー、信じるから、続けて」
「はい..そこからは、覚えてないんです」
「え、覚えてないとは?」
「そのまんまの意味です、気がついたら学校の校門前で倒れてました」
「あたしらが、収穫がなくて学校に戻った時紗耶香が倒れてたんだよ」
「警察に届け出たけど取り合ってくんなかった。実質的な被害は?だってさ」
「これ以上あたしらから言えることはないよ」
草壁はそう言うとこれ以上は取り合わないとばかりに目線で退出を促してくる。
「ええっと、ごめん最後に、斎藤さんは、その時何か気付いたこととかあった?」
「ない、特には」
やばい、草壁の目線が険しい、これ以上は無理だろう。
「隆そろそろ..」
「ああ、そうだな」
そう言うと隆はおもむろに立ち上がり、それに自分と美月も続く。
「じゃあ俺たちはこれで、七海さん話してくれてありがとう」
「いえ、そんな..役に立てたのなら幸いです」
かくして自分たちは部室を後にする。余り進展はなかったがどうやら記憶がなくなるというのは少し信憑性が増した。が自分から言わせてもらえばそれでも記憶喪失の話は疑わしい、女子高生が一人で深夜に無防備に出歩いているのだ。例えばだが、無意識に思い出すことを拒絶するようなことがあり、結果的に気を食喪失の様に見えるだけかもしれない。あの草壁とやらの自分らへの反応もそれ故だろう。
「どうやら、例の娘に会ったら記憶喪失になるって話は本当らしいな」
「そうとも限らないだろ」
「どうしてだ?」
「七海が言っていることが真実とは限らないからだ」
「それはまぁ、随分と卑屈なことで」
「それで、これからどうする?」
「現場に行くしかないんじゃないか」
「じゃあ写真部の再現ってわけじゃないけど十時に校門前で待ち合わせでどうだ?」
「ん、了解」
「私もそれでいいよ」
話はまとまった。現状判断材料が少ない今、行動あるのみだな。
午後十時、自分ら三人は、約束の校門前で集まった。家に一度帰った自分らは、それぞれ思い思いのものを持ってきているようだった。美月は手提げバック、隆は一レフのカメラ、自分はケータイ..
ケータイで十分だよね。美月の手提げバック何に入ってるかわかんねーし、一レフとかケータイで十分じゃん。てかなんでそんなに意気込んでるの?まさかあの噂を本気にしてるんじゃあるまいし..まさか、本気にしてる?本気で記憶が消えるとでも?
「じゃあ行こうか」
「どこに?」
「犯人は現場に戻るんだよ」
「まあ、ほかに当てもないしね」
自分ら三人は、七海紗耶香がコスプレ少女を目撃したと言う駅の方面へと向かう。都心から少し離れていることもあり、午後十時ともなるとあたりは静まり返っていた。
踏切が見えたあたりでそれはいた。
黒いフードを被った男がいきなり目の前に現れたのだ。
一瞬、あの白昼夢の男が頭を過るがそいつとは違うことがすぐに分かった、あの男は何というか、もっととんでもない感じだった。見ただけで体の芯が震えるそんな男だった。いうなれば目の前の男はあいつに比べれば小物だ。
「おい、貴様らあの女の関係者か?」
あの女って誰だ。なんだこいついきなり目の前に現れやがった。どうやったんだ?
「おい!てめえレキから離れやがれ」
隆が男に殴りかかる。
「おっと..危ないじゃないか」
がしかし、男は華麗にバックステップし、隆のこぶしは空振りに終わる。
「美月、レキ、逃げるぞ」
「了解」
「え~何々、すごーい、どうなってるの?」
「おい、それどころじゃないだろ」
「自分も隆に賛成だ」
一瞬美月がごねったが、自分ら三人は、学校方面へ駆け出す。
がしかし、すぐ目の前に男がいきなり現れた。
これってもしかしなくても、瞬間移動とかそういうやつだよな。なにそれマジあり得ねー
何でこんな奴が存在するんだ!自分の常識を返せ!
「まあ、関係者であろうとなかろうと関係ないか..接触してしまった以上見逃すことは出来んな」
はぁ?見逃すとか見逃さないとかマジ意味わからん、いや、見逃してくださいお願いします!
「くそっ、レキ先に行け!」
「言われなくてもいくわ!」
そう言うなり、男に向かって隆は駆け出したが
「無駄だ..」
男がそう言うなり、隆は前のめりにいきなり倒れこんだ。更にそれは隆にとどまらず美月もまるで糸が切れたように倒れ込んだ。
「おい、嘘だろ..隆!美月!」
くそっ、どうするこいつの動機もわからなければ、何をしたかもわからねえぞ。
関係者がどうとか言ってたな、それと関係あるのか?
「む、、なぜ効かない?」
効かない?何のことだ。美月や隆が倒れているのと関係があるのか?
「そこまでよ!」
「一般人に手を出すなんて、さすがは卑劣な魔術師様といったところかしら」
「誰だ!」
声は、自分の後ろから聞こえた。
振り向くとそこには、ふざけた格好の少女がいた。
見た目は、大体中学生くらいに見える。フリフリの白いドレスに身を包み、童顔の見た目にとてもマッチしている。手には端にハート型の飾りがついたステッキを持っている。この娘が噂の子であろう。
だが悲しいかな、噂の子を発見できた事に素直に喜べる状況ではない。
「ここからは私が相手よ!」
「あなた達には聞きたいことがたくさんあるんだから!」
「なるほど、探し物は案外早く見つかったな。」
「確認するが、貴様が例の魔法少女か?」
「知らないわよそんなこと」
もう何が何だかわからない、こいつらは何を言っているんだ?誰か教えてくれ
「仕事はちゃっちゃと片付けるに限るわね」
「funf!」
少女がそう叫ぶと同時にステッキのハートが取れ、宙に舞う、そして、ハートがあったところには、直径一メートルくらいの光の柱が。
何にあれ!ライ○セー○バーじゃん!
「いっくよー!」
そう言うと少女は、一瞬で男の前まで移動した。
そして、手に持ったステッキを振り落とす。
逃げる自分。
「ふっ、その程度か?」
男はどこから取り出したのか、棒状のものを取り出し、少女と切り結ぶ。
よく見るとそれはハンドガードの付いたグリップから薄い半透明刃が出たものだった。
「そんなことないよ~♪」
「vier!」
そう言うや否や少女の姿は搔き消え、いきなり男の背後に一瞬で移動していた。
そしてまさに、少女が男に切りかかろうとしたその瞬間、男の姿が消えていた。
少女は、男の姿を目視しようと視線を左右に動かすが見つけられない、それもそうだろう。男が現れたのは、少女の頭上だったのだから。
「面倒ね」
少女の頭に、刃が当たる寸前の所でまたしても少女の姿は掻き消える。
「ここよ!」
男の背後に現れた少女は、男が振り返る前に再び姿を消す。
「sechs!」
男が振り返ると同時に男は光に包み込まれた。
そして、光が止む頃には、男の姿は無く、男の腕だったものと、握られたグリップのみがぽつんと置いてあった。
「zwei」
「drei」
何が起こったんだ、そもそも何だこれは!人が...人がこんな簡単に...
そうだ、逃げなければ!こんなアホみたいな現実に馬鹿正直に向き合う必要なんかない!
早く帰って、布団をかぶって目が覚めればまたいつもの日常に戻れる!
回れ右するや否や、駆け出そうとするがどうやら遅かったらしい。
目の前には、さっきまで男と超次元的な戦闘を繰り広げていた少女がいた。
「あー、悪いけど見られるといろいろと不味いんだよね~」
「だから忘れて♪drei!」
自分が光に包まれる..ような錯覚に襲われる。しかし、何も変わったことは起こらなかった。
依然として少女は、目の前にいるし、自分の体に変わったところはない。
釈然としないまま目の前の少女を見返す。
「drei!」
またしても、自分が光に包まれる..ような錯覚に襲われる。が、何も起こらない。
「あ、あっれぇ~?故障かな?そんなことってあるの?」
「おっかしいな~、さっきの人には効いたのに..」
なんだ?このトンデモ少女は何がしたいんだ?今のうちに逃げるか?
そもそも逃げられるのか?
「ま、いっか、しょうがない!」
「ねぇあんた!名前は!」
なんだこいつ、失礼な物言いだな。見たところ多く見積もっても中三がせいぜいだろう。これが目上に対する態度かね。
「な・ま・え・は!!」
「...吉川暦」
「聞こえてんじゃん!さっさと返事しなさい!」
「言っとくけどこの場の主導権握ってるの私なんだからね!」
何だろう、この少女は途轍もなく面倒な気がする。いや、気がするではない!絶対面倒な女だ!
「ねぇ、わかってんの?返事しなさいよ!」
「....」
「返事!」
「...はい」
「しまらない返事ねぇ、何というかあんた、そこはかとなくキモイわね」
ガーーーンという擬音があったなら今盛大に聞こえたであろうショックだった。まさか初対面の女の子にキモイと言われるとは...立ち直れないかも
「まあいいわ、何で効かないのかわかんないけど、見られたからには、はい、さよならってわけには行かないから」
「ちょっと一緒に来てもらうわよ」
そう言って少女は自分を担ぎ上げる。
そして、フィーエルと呟く少女の声を最後に自分の意識は暗闇に包まれた。




