一話
目を覚ますと、いつものボロアパートの天井が見える。体を起こし、歯を磨き、家を出る。
玄関先でお隣さんと挨拶を交わし。学校に向かう。
ボロアパートから学校までの道のりは一本道で歩いて十五分位で比較的に近い方だと思う。
季節は7月下旬。まだ暑くなり始めたばかりで、時折吹く風が心地よく今日は午前授業なので、正直に学校で授業を受けるのも馬鹿馬鹿しいなと感じてしまう。これは自分の不真面目さ故だろうか。
ともあれ陽気な天気の中、ボーっと歩いていると自然と学校についた。
「おはよう!」
教室に入ると天宮美月が声をかけてきた。
「おはよう」
と返事を返す。
そうすると美月は驚いた様子でこっちをまじまじと見てきて、
「えっ、キモ」
ショックである。さっきまでの陽気な気分がすべて吹き飛んだ。これだから女は
挨拶をされたらあいさつし返すというのは常識であろう。挨拶を返すことの何がいけないというのか
なにか、もしかするとこの女は俺に口を開くなと言いたいのか。
最悪である。まさか朝からいじめられることになろうとは。かくなる上はいじめの無意味さを
小一時間かけてこの女にプレゼンテーションしたい所存だ。
「うそうそ、まともに返されると話思ってなかったから。いつも私から話しかけたら、「ん」とか「あ」とかしか言わないじゃない。なんかあったの?」
ふざけんな!こちらとは生粋のシャイボーイなのである。勇気を出して挨拶を返したら「え、キモ」だぞ。
心折れるわ、もうちょっとで立ち直れなくなるところだったわー。
「べつに」
「ふーん」
「じゃあ、今日の私見て気付くことない?」
美月を観察してみる。中学校の頃から変わらない黒髪のストレートヘアからは柑橘系の香りがうっすらと漂い、少し釣り目気味の目や形の良い唇はピンク色のリップクリームを塗ったのであろうか、いつもよりつややかさを増しており、スタイリッシュなボディラインと合わさって色気を引き立たせている様に感じる。
「シャンプーとリップクリームか?」
間違っていないはずだ、シャンプーの香りはいつもバニラエッセンスであったし、
いつもはリップクリームさえしていなかったはずだ。
「え、キモ」
ショックである。なにがいけなかったのか言われたとうりに答えただけなのに......
「ドンピシャで当ててくるとか何それキモイ」
美月はにやにやしながら
「えー、普段あたしの事どんだけ見てんのキモイわーないわー」
は?じゃあどう答えればよかったんですか?わざとわかんないとか言っとけばよかったんですか?
俺は知っている。こいつが前にカチューシャをしてきた時のことだ。今日の私は一味違うとか言って
どこが違うでしょう?とかドヤ顔で言ってきたとき適当にわかんねーと答えたら、
「は?カチューシャに決まってんじゃん。見たら一目瞭然じゃんマジないわー」
とか言ってきたことを覚えている。ならばと今回答えてやったらこれだ。
間違えてもダメ、当たってもダメ、どちらに転んでも絶望しかない。もしかしたらこいつはニャルラトホテプかなんかかもしれない。
キーンコーンカーンコーン
教室のスピーカーから予鈴の音が鳴った。よかったこれ以上立て続けに精神を削られたら
授業ほっぽり出して帰るところだったいや既に帰ろうとカバンに手を掛けていたチャイムのおかげで思いとどまれた。
授業は退屈だ特にわからない問題があるわけじゃないが、これといった好きな教科だあるわけでもない。
だから退屈なのかと問われればそういうわけでもないと答える。確かに好きでも嫌いでもないから退屈という気持ちも何割かあるかもしれない。
しかしそれが主だった理由ではない。ではなんだというと学校で勉強させられているから退屈なのだ。
つまりは学校という場所で決まった時間に決まった教科を決まっている分だけさせられるというのが退屈なのだ。
興味のある事柄を熱心に研究し時間を費やし自分なりの答えを出す。元来勉強とはそういうものではないのか、
この場合での勉強へ取り組む動機づけは好奇心だが、学校での勉強の動機づけは社会的立場である。自分のような高校生は高校生だからという理由で高校で勉強をする。これが高校三年生となるとさらに悲惨だ、
大学受験という名目で勉強させられる。「じゃあ勉強しなければええやん」と思うだろうが甘い、少なからずとも、日本での自分の生きる時代は学歴社会の面があるのだ。勉強したくないからと安易に勉強を投げだすと、大学に行けない。ならば生きるためにはお金が必要、であれば働かなくてはいけない。そうなると高卒で資格なしであればまず大企業は無理だ。中小でも怪しい
となればしがないフリーターがせいぜいだろう、そうなればなかなかに生きていくのは大変だ。
そうならないために世の中の高校生は勉強していくのだ。ゆえに社会的立場に脅されて勉強する我ら生徒ないし学生に勉強での大きな自由はない。
つまり、何が言いたいかというと勉強したくない。
何ということだ、いかに世の中の高校生たる自分が理不尽な社会的脅威にさらされていることに絶望していたら授業が終わってしまった。何にも聞いてなかったどうしよう...
まあいいか、なるようになるだろう、うん多分。
「おい、聞いてんのか」
気付けば、見た目からしてチャラそうな男、藤堂隆が話しかけてきた。
ちなみに自分のチャラ男の基準は髪を染めていて、女子と親しげに交流していたらチャラ男である。
髪を染めるだけでなく女子と会話できるなととても同じ人間だと思えない、それはもう別種の人間だ、つまりチャラ男である。
そして一番不思議なことはこいつは俺の友人だということだ。いつからの知り合いだっけ?
「おーい、もしもーし、帰ってこーい」
「なんだよ隆」
「おう、今日も相変わらずボーとしてたな」
「そんなにボーとしてたか」
「見るからにボーとしてたぜ、間抜けな顔でな」
「いや、間抜けな顔はしてないはず..だ」
「いやーしてたよー間抜けな顔」
美月が横から会話に割り込んでくる
「それよりさー帰ろうよ、みんな帰り始めているよ」
「あーそうだな帰ろうぜ。ついでにバーガーズに行こうぜ、オープンセールやってるらしいじゃん」
「えー、あそこオープンしたんだー、ヨミも来るっしょ」
「ん」
美月と隆についていく形で学校を出る。
学校から駅沿いに歩いて5分ぐらいのところにバーガーズはあった。
バーガーズはその名の通りハンバーガーショップで、大規模チェーン店特有の価格の安さを売りにしている。
そのため、学生からの指示は厚い自分もよくお世話になっている。
店に入るとオープンセールだけあって混雑していた。
「さすがに混んでいるな先に席取ろうぜ」
「あっ、だったら私並んどいてあげる」
「オーケー、じゃあレキ席取りに行こうぜ」
隆の後ろについていく。
幸いに席はすぐに見つかった。
「おっあったあった、じゃ荷物おいて美月と合流しようぜ」
「ん」
美月の元まで戻るとすぐに注文できた、すかさず一番安いチキンセットを注文する。
反対に二人は一番高いビックアボガドセットを注文したらしい。このブルジョアジー共が
「なんというか、お前は相変わらずだな」
「そうよ、せっかくセールしてるのにもったいないじゃん」
くそ、俺だってなお金があったらアボガドセット買ってるわ!
「金がないんだよ」
「バイトすればいいだろ」
「嫌だ」
「えーなんで?しようよ、隆君もファミレスでバイトしてるし、私もここでバイトしようと思っているからあとはヨミみだけだよ」
「「えっ!」」
「いや、働くの?ここで?」
「そうだよ!ここオープンしたばかりで人手が足りないんだって、求人広告貼ってあったよ」
ほらあそこと美月がカウンターの隅に貼ってあるチラシを指さす。
「いや、そういうことじゃなくて」
こいつ正気か?バーガーズはブラックで有名なんだぞ。
曰く、シフトが入ってない日でも人手が足りなければ、平然とバイトすら呼び出すらしい。
それでいて給料は最低賃金。
「まあ、美月が働きたいなら止めないが、その労働意欲はレキも見習ってほしいな」
「嫌だ」
働くということは、労働力を提供するかわりに給料をもらうということだ。
つまり、給料分の責任が伴うということだ。
一介のバイト風情に求められる責任なんてそんな大それたものなわけないが、給料分は期待されるだろう。
その期待は自分にとって釣り合わない。
つまり何が言いたいかというと、働きたくないでござる。
「かたくなだな....お金に窮屈してるんだから稼ごうとか思わんの?」
「いや」
稼ぎたいとは思う、だが働きたいとは思わない。
「稼ぎたい」
「じゃあさ..]
「働きたくは、ない」
「うわぁぁ、クズだ、クズがここにいる」
美月が笑いながらクズクズ連呼してくる。こいつ...
「何とでも言え」
「そんなクズに実は朗報がある」
今度は隆が話しかけてくる。
「最近夜中にコスプレ美少女が徘徊しているらしい」
「それがなに」
それがどうしたというのだコスプレ徘徊している変態がいるだけだろ。
話をさっさと打ち切ろうとするが。
「まあまて、話はこれだけじゃない。何とその娘を見たやつは記憶消失になるらしい」
はぁ?
「じゃあなんでそんな噂が出回るんだ」
記憶喪失になるんだったらそんな噂広まらないだろ。
「それが、その娘を目撃した以降の記憶だけがすっぽり抜けるらしい」
なるほど。
「写真とかないのか」
「ないらしい、だからその娘についての情報に一部で奴らの間で懸賞金がかけられているらしい」
「へー、幾ら位」
金額によってはさもありなん。
「確か写真で1万、プロフィールで10万払うってやつもいたな」
「分かった。いつ捜索する」
「すがすがしいまでに現金だな...」
「うるさい、行こう」
「おっ、おう。じゅあ明日10時にお前んちの前な」
「了解」
写真を撮るだけで1万とは、なんとも太っ腹な話である。
これは是が非でも探し出さなくては、だが噂は気になる。
発見したら殴られるとか?記憶喪失になるまで?
うーん、わからない。現状では判断材料がなさすぎる。
まぁ、行ってみるに越したことはないだろう。なに、最悪、美月にコスプレさせればいいのだ。
「あー、そろそろシフトの時間だから俺帰るわ」
「わかった。じゃあ私達も帰ろヨミ」
「ん」
バーガーズを出てすぐのところで隆と別れる。
美月と並んで歩く。
すぐに自分と美月の家への分かれ道である交差点に差し掛かった。
「ん、じゃあな」
「え、送って行ってくれないの?」
いや、二人きりとか気まずすぎる。自分には無理だ。
「無理」
「うわー、冷た。普通か弱い女の子を一人で返さないっしょ」
はぁ?じゃあこいつはいつも誰か男と一緒じゃないと帰らないのか。
そんなわけないだろ、こいつが一人で帰ってるのを見たことがあるぞ。
「しらん」
「はぁー、マジあり得ない。いいから送れ!」
そう言って美月は、自分の腕をとり強引に歩き始める。
美月に引きずられていった。
何故こいつは平然と異性と手を握れるのか、いや正確には肘のあたりだが。
パニックに陥っていたらいつの間にか美月の家の前まで来ていた。
交差点から美月の家まで5分くらいのはずだから、5分くらいパニックなっていたということか。
自分はどんだけ女子に免疫がないのか。なんとも情けない話である。
「やればできんじゃん。じゃあまた明日ね」
そう言って、美月はさっさと家に入っていった。
「帰るか...」
とぼとぼと、美月の手やわらかったなとか、いい匂いだったとか考えながら家にまっすぐ帰る。
近道の細道に差し掛かった時、微かに人の声が聞こえたような気がしたが気にせず細道に入る。
細道は薄暗く、大通りからは見えづらい。だから近づくまで気が付かなかった。
黒ずくめの怪しい男が、小学生くらいの男の子を担いでいた。
黒ずくめの男は、黒いローブにチェーンのついた黒いズボンを穿き、2メートルほどの大きな棒のようなものを背負っていた。
どうしよう。厄介ごとの臭いしかしない
気づかれないようにそっと逃げようと試みるもどうやら遅かったようだ。
こちらに気付いた黒ずくめの男は、視線をこっちに向けそして視線をそらした。
助かった?
ほっとした瞬間胸に鋭い痛みが走る。
恐る恐る、胸元を見てみると穴が開いていた。
深淵をのぞき込むかのようなその穴はとめどなく血があふれている。
その瞬間悟った。し.....
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
そうだこれは夢だ、これは夢だ。現実じゃない、理解できない、ありえない、だから夢これは不幸な夢だ
気味の悪い白昼夢に違いない。そうだ白昼夢だ。こんなことが現実に起こるはずがない。これは夢。自分は夢を見てるそう信じるそう信じこませる。
そしてついに、意識が薄れていき完全に意識を手放した。
気がついたら細道に差し掛かったところにいた。どうやら本当に白昼夢だったらしい。
そんなことはありえないと理解しつつも、その日は遠回りをして帰った。
美月が主人公をヨミと呼ぶのは、暦からもじってあだ名をつけたからです。
5/20 誤字修正




