『Aisia 〜散りゆく花〜』
アイーシア。
花言葉は——「有限」。
それは私がまだ小さかった頃。母を亡くした幼い私を気遣い、侍女のヴァネッサが王宮の中庭へ連れていってくれたことがある。
私が『アイーシア』という花の名を知ったのはその時だった。
エンジェリカ原産のその花は三日ほどしか咲かないという。
長い時間を蕾のまま過ごし、やっと幻想的な青白い花を咲かせたと思えば、すぐに散る。ほとんどが三日以内に茎だけになるらしい。
風に煽られ、すべての花弁がばらばらになって飛んでいく。一斉に空へ舞い上がる光景は、まるで雪のようだと言われる。
それは、見る者に儚さと美しさを感じさせるからにかもしれない。
——儚いから美しい。
「アイーシアの花言葉は有限。どんなものにも終わりがあるということです」
ヴァネッサはまだ小さかった私に、分かりやすいよう噛み砕いて、その意味を教えてくれた。
「どんなに愛していても、大切でも、いつか別れは訪れるのです」
説明する彼女の表情は少し曇っていた。だが、その瞳が哀愁を帯びている意味を、当時の私には察することができなかった。
風に乗って散る時、アイーシアの花弁は悲しむだろうか。ずっと共にあったものたちと、離れ離れになることを。別々の場所へ飛んでゆき、もう二度と巡り会えないことを。
私に彼らの心は分からない。けれども私は、彼らは悲しまないと思う。
新しい土地へ行き、そこでまた花を咲かせる。その土地に生きる様々な生物に出会い、愛され、美しいと言われるのだから、きっと悲しくはないだろう。
共に過ごしてきた花弁たちはおらずとも、また新しい場所で多くのものに巡り会うのだから、寂しくはないはずだ。
私たちにもいつかは別れが訪れる。
愛している、大切に思っている、そんなちっぽけな感情は考慮されない。それが運命なら、別れは必ず訪れるのだ。
人生なんてそんな儚いもので、けれど、だからこそ美しいと感じられるのだろう。
私は大切なものとの別離を悲しまずに乗り越えられるのだろうか。……恐らく無理だ。
たくさん泣くだろう。悲しみ塞ぎ込みたくなると思う。
でも私は、いつか立ち直って未来へ進める、そんな心を忘れずにいたい。
——別れは終わりではない。新たな出会いの始まりだ。
アイーシアの花言葉は「有限」。
花はいつか必ず散る。けれど花弁たちはそれが単なる悲しい別れでないことを知っている。その先に希望、そして出会いが待つことを知っている。
だから悲しまない。
私にもいつか別れはやって来る。あることが当たり前だった存在を失う日が来るだろう。
でも、もしいつかその日が来ても、ただひたすらに悲しんでいたくはない。
私はその先の未来に希望があることを知っているから。
アイーシアの花弁たちと同じように——。