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エンジェリカの王女 エピソード集  作者: 四季
エピソード集
6/13

『親睦を深める方法』

以前短編として投稿したものです。

 それはまだ、エリアスが私の護衛隊長になって数日しか経っていなかった、そんなある日のこと。

 私は退屈すぎて、彼を自室へ呼び出した。


「王女、私に何の用ですか?」


 彼はすぐに来てくれた。

 だが、まだ私の護衛という立場に慣れていないエリアスは緊張した面持ちだった。

 それでなくとも喋りかけづらいような整った顔だ。それが緊張のせいか強ばり、余計に接しにくいような雰囲気になってしまっている。

 白い衣装を僅かな乱れもなくきっちりと着こなし、髪もきちんとセットされていて、動作の邪魔になる羽も確かにしまわれている。文句のつけようがない。いちゃもんをつけるとするならば「完璧すぎる」ぐらいのものだろうか。

 そう思うほど隙がない。


「今日は親睦を深めようと思って」


 私は彼の緊張を和らげようといつもより明るめの声で言う。

 しかしエリアスはというと、真剣な固い表情のまま。淡々とした事務的な口調で返してくる。


「そうでしたか。それで、どのようなご用件でしょうか」


 どうして私の周りはこういうタイプばかり集まってくるのだろう。侍女のヴァネッサもかなり愛想ないが、彼は彼で落ち着きすぎている。

 そんなことを考えているうちに私は、彼の表情を崩したくなってきた。私が求めているのはただ人形のように付き従う家来ではない。彼なりに、笑ったり慌てたりするところを、ぜひとも見てみたいものだ。


 関係は距離に現れる。そんな話をどこかで聞いたことがある。確かに今の私とエリアスの距離は遠めだ。

 まずは物理的に距離を縮めることが大切なのかも、と思いつき、私は彼に近づいてみることにした。


「王女?」


 早速エリアスの表情が僅かに動いた。


「傍に寄ってもいい?」

「はい」


 念のため許可を取り、どんどん接近していく。彼の体が硬直するのが見てとれた。

 緊張しているのかな? などと思い、徐々に楽しくなってくる。暇潰しにはぴったりね。それに仲良くなれたら一石二鳥。


 お互いの体が触れる直前で足を止めると、私は彼の片手を掴む。

 なかなか良い触り心地。うん、癖になりそう。


「あの……王女、何を?」


 エリアスは戸惑った顔をして尋ねてくる。隠そうと努めているようだが、動揺しているのが簡単に分かる。

 意外と分かりやすいタイプなのね。親近感が湧いてきたわ。


 調子に乗った私は思いきって彼の上半身に腕を絡め抱き締める。


「あ……あの……」


 エリアスはオロオロする。何だか意外と可愛らしい。


「私はこういう役割では……」


 彼は両腕を広げ、私の体に触れないようにしている。


「どうして触らないの?」

「王女のお体に触れるなど、ばちが当たります」

「ギューってしてちょうだい」

「……すみません。私にはできません」

「案外初々しいのね。いいわ、じゃあ命令。ギューってしてちょうだい」


 母は早くに亡くなった、父は王の仕事で忙しい。だからこんな風に誰かの傍にいる経験はあまりしたことがない。


 エリアスはまだ躊躇っている様子だ。


「触るのが嫌なの?」


 追い討ちをかけるように言ってみる。


「い、いえ。そんなことはありません」

「じゃあギューってして」


「……分かりました」


 ようやく観念したようだ。


「では少々失礼します」


 いやいや、気にしすぎでしょ。そこまでたいしたことじゃないわ。


 彼の腕が体に触れる。とても温かかった。

 普通の家に生まれていれば親に抱き締めてもらえたのかな——なんて一瞬考えた。変よね。こんなに恵まれているのに。


「温かいわ」

「こんなご用件だったとは、さすがに驚きました」

「私、変よね。分かってる」

「いいえ、そんなことはありません。とても魅力的な方です」


 え? 待って、今。


「貴女に仕えられて光栄です」


 ……やっぱり気にしないでおこう。


 それからしばらくして、私とエリアスは体を離した。


「これでちょっとは親睦を深められたかな……」


 言いつつ彼を改めて見ると、背中の羽が顕わになっていた。

 さっきまでなかったのに。


「羽が出てるわ!」


 思わず指を差して言ってしまった。


「えっ!?」


 きっと気が緩んで無意識に出てしまったんだわ。


「折角だし、羽をマッサージしてあげましょうか?」


 私は気紛れで提案するが、エリアスはこれには素早く拒否の意を示した。


「いえ! 結構です!」


 恐ろしいほどの速さで後ろ向けに進んでいくエリアス。


 ……そんなに嫌なもの?


 羽は私たち天使にとってはかなり大切なところ。無闇に曝したくないのは分かるが、何もそんなに嫌がらなくてもいいと思うのだが。

 ちなみに羽マッサージ、私は大好きよ。


「分かった分かった、しないわよ。そんなに怯えた顔をしないでちょうだい」


 今日の中で一番派手な表情がここで出るとは。分からないものね。


「つい……失礼しました」

「いいのよ。気にしないで」


 そう言って二人で笑った。


 これからはずっとこんな風に遊べるのね。なら少しは私の退屈もましになるかも。


◇終わり◇

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