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『あたしとノアと』

 小さい頃、あたしはずっと一人だった。


 その日を生きるためにどんなことだってした。どんなにじっとしていてもお腹は空くから、毎日市場の店からパンを盗って逃げた。

 みんなからは「泥棒」って、「最低」って言われたけど、そんなことは全然気にしてない。


 でもね、叶うことならもう一度家族が欲しい。本当はそう思っていたんだ。



 あれは凄まじい雷雨の日。その日もあたしは市場でパンを盗んで逃げていたの。

 大人たちに追われて逃げ込んだ森の中で倒れている小さな少年の天使を見つけた。綺麗な薄紫の髪だった。酷い怪我をしてたから、あたしは彼を自分の寝床へ連れて帰ったの。



 それが、ノアとの出会い。



「僕は死んだのかなー……」


 目覚めた第一声がそれだから、あたしは笑っちゃった。だって普通名前を聞いたりしない?ノアって変わってるよね。


「起きた? 怪我、一応軽く処置しといたから」

「ありがとうー」


 それからノアはフリーズしてた。何を考えているか分からなくて、正直戸惑ったな。


「あたしはジェシカ。アンタは名前、何ていうの?」

「僕はノア、商品番号2101ー」

「は? アンタ何言ってんの」

「僕はノア、商品番号——」

「いや! だから! ちょっと待ってってば!」


 ノアのやつ、キョトンとして首を傾げるのよ。


「商品番号って何? おかしいじゃん、何の商品番号よ!?」

「え? だから僕のー……」


 あたし、その時になって初めて気づいたの。ノアの肩翼に値札がついていたことに。


「アンタ、もしかして売りに出されたの?」


 ……ノアも家族がいないんだ。一瞬はそう思って切なくなったけど。


「うん。ジェシカ、買うー?」


 目の前にいる薄紫の髪の天使があまりに呑気なものだから、切なさは塵になって消えちゃった。


「僕こんな性格だから売れ残ってたんだー。あまり仕事できないしねー」

「……後払いでいいなら。あたし、今お金持ってないし」


 そっけなく言ったけど、ノアはとても嬉しそうな顔をした。


「いいよー。天使一匹、お買い上げありがとうございますー。僕の羽を全部売れば、そのお金で後払いできるよー」


 ノアは本当に馬鹿げたやつ。天使が羽を抜かれる時どんなに痛いと思ってんの。


「ちょっと、止めてよ! 怖いこと言わないで!」


 羽を全部抜くとか、痛すぎて途中で失神するに決まってるじゃん。ホント馬鹿だよ、ノアは。

 でも、無意識に笑ってる自分に気がついた。今まで笑うことなんてなかったのに、ノアと出会ってからは自然に笑ってた。



「ねぇ、ノア。あたし、いつかアンタと家族になりたい」

「うん。いいよー」


 ちょっと待って。何でそんなあっさり!?


「家族になるには確か、結婚するんだよねー。僕はジェシカと結婚していいよー」

「……違う。そうじゃなくて」


 誰かと一緒に暮らしたいんだ。信頼できる仲間が欲しい。笑いあったり、泣いたり、喧嘩したり。


「これからもこんな風に一緒に話したりしたいってこと」


 ただそれだけのこと。


「うん。もちろんいいよー。僕も楽しいしー。これからはずっと一緒にいようねー」



 こうしてあたしとノアの生活が始まったの。


◇終わり◇

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